#11 盤上の舞闘会(脚本)
〇お嬢様学校
中庭のテラス席のひとつにチェス盤が置いてある。夜留と真桜の対面には善哉寺が座っていた。
夜留と善哉寺の、真桜を賭けたチェス対決が行われようとしていた。
佐倉真桜「お言葉ですが、先攻後攻は公平な手段を用いて決定されるべきではありませんか」
善哉寺鏡日「お言葉ですわね。 真桜さん、そろそろ黙っていただけます?」
北園夜留「どうぞ、夜留、後攻でいいです」
善哉寺鏡日「あら・・・存外、簡単に譲りますのね。 よっぽど自信があるのかしら」
北園夜留「・・・・・・」
善哉寺鏡日「よろしい、それでは準備させますわね」
夜留と善哉寺のチェス対決の噂を聞きつけた野次馬達が続々と集まってきていた。
佐倉真桜「お嬢様・・・! あのようなお約束をされては困ります!」
北園夜留「大丈夫」
佐倉真桜「お嬢様以外の誰かに仕えるなど、私にはできません。一日たりともです!」
北園夜留「負けないもん」
佐倉真桜「ですが──」
北園夜留「真桜」
佐倉真桜「は、はい」
北園夜留「信じて」
佐倉真桜「・・・!」
佐倉真桜「かしこまりました」
〇お嬢様学校
善哉寺鏡日「駒の動かし方はわかりますわよね?」
野次馬達がクスクスと笑う。
北園夜留「わ、わかります」
善哉寺鏡日「そう、では私からまいりますわね」
〇お嬢様学校
対決が始まって十分、ポーンとポーンの睨み合いが続いている。
北園夜留「・・・・・・」
善哉寺鏡日「真桜さん、紅茶の入れ方はご存じ?」
佐倉真桜「・・・紅茶? もちろん、淹れることはできます」
善哉寺鏡日「そう、よかったですわ」
善哉寺鏡日「北園家のメイドですし、少々心配になってしまったの」
善哉寺鏡日「ああでも私、貴女の紅茶は飲めませんわ」
善哉寺鏡日「不味い紅茶は飲めないものですから、ごめんなさいね」
野次馬の笑い声が場を賑やかにする。
北園夜留「あ、あの! 次、善哉寺さんの番・・・」
善哉寺鏡日「ええ、わかっていますわ」
オープニングが終了し、着々と善哉寺が夜留の駒を取っていく。
善哉寺は余裕の笑みを浮かべていた。
善哉寺鏡日「いつも、真桜さんとゲームをしてらしたの?」
北園夜留「え? えっと・・・いつもはお姉ちゃんと、やってました」
善哉寺鏡日「あら! そうでしたの」
善哉寺鏡日「それじゃあ、朝咲さんは、貴女にチェスを教えなかったのですわね」
北園夜留「え・・・?」
善哉寺鏡日「こんな幼稚なプレイング、見たことありませんわ」
北園夜留「っ・・・!」
夜留が自らのナイトを盤上に叩き落とすように置いた。
それほど大きな音量ではなかったが、騒いでいた野次馬に静寂を与えるには十分だった。
北園夜留「次、善哉寺さんの番です」
善哉寺鏡日「ふふふ・・・怒らせてしまいましたわ」
善哉寺鏡日「そうですわね、次はビショ──」
北園夜留「ビショップを、f4に、ですよね」
善哉寺鏡日「なんですの・・・?」
北園夜留「善哉寺さん、さっきから、定石の戦い方しかしてない、です」
善哉寺鏡日「・・・・・・」
北園夜留「それだと、お姉ちゃんには勝てなかったと思います」
北園夜留「お姉ちゃんは周りの大人を負かすぐらいには強かったので・・・」
北園夜留「夜留の、悪手を誘うブラフには毎回、引っ掛かってましたけど・・・」
善哉寺鏡日「・・・違いますわ」
善哉寺鏡日「ビショップをg5、ですわ・・・!」
北園夜留「それなら、クイーンでチェックです」
北園夜留「その・・・g5は悪手です。善哉寺さん」
善哉寺鏡日「・・・いえ、キャス──」
北園夜留「キャスリング、したかったんですよね・・・?」
北園夜留「だから、ナイトやビショップを動かしたかった」
北園夜留「そして、今はキャスリングしか、逃げ場はないです」
北園夜留「次の夜留の手、ルークで端のポーンを取ります」
善哉寺鏡日「・・・・・・」
北園夜留「そうなると、善哉寺さんのキングが逃げる道は、またひとつだけ・・・になります」
夜留の手によって、盤上が塗り替えられていく。
いつの間にか、 寺の顔からは余裕の笑みが消えていた。
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