リモート死刑

たかぎりょう

2人目(脚本)

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〇駅前広場
高木勇馬(ちょっと早く着き過ぎたな)
高木勇馬(昨夜は緊張でほとんど眠れなかった)
高木勇馬(ご両親に気に入ってもらえるか不安だけど)
高木勇馬(先週、渚沙があれだけ頑張ってくれたんだ)
高木勇馬(今日は僕がしっかりしないと)

〇昔ながらの一軒家
  一週間前

〇シックなリビング
村上渚沙「お父様、お母様、はじめまして」
村上渚沙「勇馬さんとお付き合いさせていただいている村上渚沙と申します」
村上渚沙「本日はお休みのところ、お時間をいただき誠にありがとうございます」
高木光彦「あなたが渚沙さんか」
高木光彦「勇馬からあなたの話は良く聞いてるよ」
高木光彦「交際してどのくらいになるんだっけ?」
村上渚沙「もうすぐ2年になります」
高木優美「渚沙さん、あなた手話は?」
村上渚沙「まだまだ勉強中ですが、日常会話に困らない程度にはできるようになりました」
高木優美「それじゃ、勇馬にもわかるように手話をつけてお話しましょう」
村上渚沙「(手話付)わかりました」
高木光彦「(手話付)勇馬は、あなたの人柄などは良く話してくれるんですが」
高木光彦「(手話付)二人が出会った時の事は、恥ずかしいのか話してくれません」
高木光彦「(手話付)今日はぜひ、あなたから当時の話をお聞きしたい」
村上渚沙「(手話付)わかりました」
村上渚沙「(手話付)私から話してもいい?」
高木勇馬「(手話)うん・・・」
村上渚沙「(手話付)勇馬さんに出会う少し前から、」
村上渚沙「(手話付)私は勤めていた会社の上司のパワハラに悩んでいました」
村上渚沙「(手話付)あの日も日比谷公園のベンチに座って、会社を辞めようかと考えていました」

〇公園のベンチ
村上渚沙(もう限界かも・・・)
村上渚沙「え?」
  渚沙が目の前に差し出されたメモから顔を上げると、ひとりの青年が立っていた
村上渚沙「何ですか?」
  青年は、質問には答えずにメモ帳を渚沙の方にぐいぐいと差し出してくる
  渚沙は仕方なくメモを見る
村上渚沙「『ZIGGY』(ゼットアイジージーワイ)知ってる・・・?」
高木勇馬「・・・」
村上渚沙「これ何て読むんですか?」
高木勇馬「・・・」
  青年は、メモ帳に何かを書いて渚沙に見せる
村上渚沙「ああ、ジギーって読むんだ」
村上渚沙「これが何か?」
  青年は渚沙の質問に答えるようにメモ帳に文章を書いては渚沙に見せる
  渚沙はそのメモを声に出して読む
村上渚沙「僕は生まれつき耳が聴こえません」
村上渚沙「そんな僕でも、ZIGGYのライブに行くと生きる元気をもらえます」
村上渚沙「なんと、ここにすぐそこの公会堂で今夜やるライブのチケットが1枚あります」
村上渚沙「あなたはとてもラッキーです」
村上渚沙「なぜなら、僕が同行者にドタキャンされたからです」
村上渚沙「さあ、一緒に夢の世界に行きましょう」

〇シックなリビング
高木優美「(手話付)嘘でしょ・・・」
高木優美「(手話付)勇馬、いま渚沙さんが言ったことは本当なの?」
高木勇馬「(手話)うん、本当」
高木優美「(手話付)引っ込み思案のあなたが、そんなナンパみたいなことするなんてお母さん信じられない」
高木勇馬「(手話)だって、あの時の渚沙、今にも池に飛び込んで死んでしまいそうな顔してたから」
高木光彦「(手話付)日比谷公園の池は飛び込んでも死なないぞ」
高木勇馬「(手話)うるさいなー」
高木勇馬「(手話)とにかく、すごく落ち込んでる感じだったから元気づけたくなったんだよ」
高木光彦「(手話付)そもそも、私を差し置いてZIGGYのライブにこっそり行ったのは許せないな」
村上渚沙「(手話付)え、どういうことですか?」
高木光彦「(手話付)渚沙さん、こいつがZIGGY好きなのは私の影響なんですよ」
村上渚沙「(手話付)そうなんですか!?」
高木光彦「(手話付)はい、もともと彼らは80年代にデビューしたバンドなんですが」
高木光彦「(手話付)最初に彼らのヴィジュアルを見た時は驚きました」
高木光彦「(手話付)アメリカのLAメタルみたいなバンドが日本にもいるんだと」
高木光彦「(手話付)曲を聴いてみたら、ハードロックなのに歌謡曲のようにメロディアスで、一瞬で好きになりました」
高木光彦「(手話付)当時、役所勤めという堅い仕事をしていた反動からか、どんどんはまっていって、ライブにもずいぶん行きました」
村上渚沙「(手話付)そうだったんですね」
高木光彦「(手話付)ええ、だから私に隠れてライブに行こうとしたこいつが許せんのですよ」
高木勇馬「(手話)いや、最初は父さんを誘おうと思ってチケットを2枚買ったんだよ?」
高木光彦「(手話付)嘘をつけ」
高木勇馬「(手話)本当だって。でも、あの頃、ちょうど父さんと母さんが第三次大戦に入ってて誘えなかったんだよ!」
村上渚沙「(手話付)第三次大戦?」
高木勇馬「(手話)結婚してから3回目の大喧嘩の最中だったんだ」
高木光彦「(手話付)そうか、その頃か・・・」
高木光彦「(手話付)それは無理だな」
高木勇馬「(手話)ほらー」
高木光彦「(手話付)まあ、とにかく、そんなわけで私が好きで曲を聴いたり映像を見たりしていた影響で勇馬も好きになったというわけです」
村上渚沙「(手話付)なるほど、良くわかりました」
高木光彦「(手話付)それで渚沙さん、その時、あなたは勇馬の誘いに応じたのかな?」
村上渚沙「(手話付)はい、応じました」
村上渚沙「(手話付)もうどうにでもなれっていうくらい落ち込んでいたので」
村上渚沙「(手話付)もし、勇馬さんの言うようにそのライブで元気になれればっていう思いと」
村上渚沙「(手話付)正直に言いますが、耳の聞こえない勇馬さんがどう楽しむんだろうという興味もありました」
村上渚沙「(手話付)そしたら、ライブ始まる前に勇馬さんが筆談で私に言ったんです」

〇球場の観客席
  以下、筆談
高木勇馬「耳の聞こえない奴がどうしてライブなんかに行くんだって思ってるでしょ?」
村上渚沙「ごめんなさい、思ってました」
高木勇馬「確かに僕には耳から聴く音楽を楽しむことはできない」
高木勇馬「僕がライブで楽しむのは、演奏者とお客さんが作る空気の振動なんだ」
村上渚沙「空気の振動?」
高木勇馬「たぶん耳が聴こえない僕の方が、君たちよりもそれを強く感じていると思う」
高木勇馬「ドラムのリズムある振動とか、お客さんが腹の底から一斉に出したときの爆発した地響きのような衝撃とか」
高木勇馬「そういうのを体で感じると、ああ、生きてるんだなぁて実感して嬉しくなる」
村上渚沙「なんかすごいね」
高木勇馬「そう?」
村上渚沙「うん、すごいよ」
村上渚沙「私も、今日は悩みなんかすっ飛んじゃうくらい楽しませてもらうね!」

〇シックなリビング
村上渚沙「(手話付)そのライブが本当に楽しくて」
村上渚沙「(手話付)また、ライブを楽しんでる勇馬さんが本当に生き生きしてて」
村上渚沙「(手話付)この人の事をもっと知りたいって思って、私の方から交際をお願いしました」
高木勇馬「(手話)最初は友達からって感じでね」
高木光彦「(手話付)なるほど、きっかけは良くわかりました」
高木光彦「(手話付)それで、今日は何か話があるんだろう?」
高木勇馬「(手話)うん」
高木勇馬「(手話)それから、僕は渚沙と付き合って、彼女の優しい性格と思ったことを正直に話してくれるところがどんどん好きになりました」
高木勇馬「(手話)2年付き合って、もし僕が結婚するとしたら、その相手は渚沙しかいないと思っています」
高木勇馬「(手話)渚沙には僕の障がいで迷惑をかけることも多いと思う」
高木勇馬「(手話)でも渚沙は言ってくれました」
高木勇馬「(手話)それを迷惑だと感じない魅力があるから結婚する気持ちになったんだと」
高木勇馬「(手話)僕は、そんなふうに言ってくれた彼女を、精一杯幸せにできるようにこれから生きて行きたいと思います」
高木勇馬「(手話)どうか僕たちの結婚を許してください」
村上渚沙「(手話付)お願いします」
高木優美「(手話付)渚沙さん」
村上渚沙「(手話付)はい」
高木優美「(手話付)いま勇馬があなたのことを、思ったことを正直に話してくれると言いました」
高木優美「(手話付)そのあなたに聞きますが、勇馬と会話するのは大変ではないですか?」
村上渚沙「(手話付)正直に言うと、面倒くさいです」
村上渚沙「(手話付)特に何かをしている最中だと、いちいち手を止めなければなりませんから」
村上渚沙「(手話付)勇馬さんの耳が聞こえれば、口で答えて済むのにって思います」
高木優美「(手話付)面倒臭いって、あなた!」
村上渚沙「(手話付)でも、それは悪い事ばかりじゃなくて」
村上渚沙「(手話付)手話で会話するということは、お互いが相手の目を見てきちんと会話できるってことなんですよね」
高木優美「(手話付)勇馬は、ろう者だってことで今までたくさん辛い目に遭ってきました」
高木優美「(手話付)あなたも少しは聞いているでしょう?」
村上渚沙「(手話付)はい、あまり嫌な思い出は話してくれませんが」
村上渚沙「(手話付)私もあえて聞こうとはしませんので」
高木優美「(手話付)子供の頃、仲の良かった友達が」

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コメント

  • 2人目があった。日常は連鎖する、いやでも関係する可能性があります。一方で、不条理を描くヒントになりそうと思っている自分もいます。

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