霧を払うとき(2)(脚本)
〇草原の道
道の向こうから塾生達を率いて、雄叫びと共に駆けてくる晋作。
シンサク「松下村塾へ戻るぞ!幕府から先生を取り戻す計画を練るんじゃ!」
コスケ「晋作・・・」
シンサク「コスケ!タケト!お前らもついて来い!」
スギゾウ「戦じゃ!幕府と戦うぞ!」
コスケ「大公儀と戦う・・・?」
タケト「僕達は歩いて行こう」
〇岩山の崖
狂介「俺は間違うちょった」
狂介の十字槍が虚空を斬り裂く
狂介「あの時、晋作と一緒に走るべきじゃった」
狂介「やけどまだ間に合う。まだ追いつける」
狂介「長州の、日本の英雄、高杉晋作に」
武人「そりゃあ過ぎ去った日の中の高杉か?それとも巷に流れる噂の中の高杉か?」
武人「お前にはその幻の声が、目の前にいる者の声よりもよう届いとるんか?」
狂介「幻・・・」
狂介「幻ではない!」
狂介「武人、奇兵隊をくれ」
狂介「今の俺にゃあ、奇兵隊がいるんじゃ」
武人「断る」
武人「誰も死なせん」
武人「お前も守る」
武人「それが、僕と松陰先生との・・・」
と、隊列の遥か後方、霧の向こうから規則正しく響いてくる甲冑とヒズメの音。
青ざめる隊士達。
奇兵隊を追いたてるように、おびただしい数の鎧武者が後方から進んで来る。
それは毛利の旗を掲げ、火縄銃を手にした絵堂砦の侍達。
最前列、馬上の鎧武者財満が歪んだ笑みを浮かべている。
狂介「見たか武人。あれが今の長州の侍じゃ」
狂介「俺らを威嚇し、追いたて、挙兵軍の下まで盾にして進み、恐らくは問答無用で晋作もろとも蜂の巣にする腹じゃろう」
地を鳴らし恫喝の唸りを上げる撰鋒隊。
うおおおおおおおおおおお!
隊士の一人が錯乱して逃げだす
『もう嫌じゃ。わしゃあ村へ帰る!』
その隊士に呼応して、次々と堰を切ったように逃亡し始める奇兵隊士達。
武人「お、お退きくだされ!」
武人「高杉の、挙兵軍のことは我ら奇兵隊にお任せ下され!」
財満、毛利の旗を背にして叫ぶ。
財満「控えおろう!御旗の前ぞ!」
財満「仕置きされたくなければ黙って進めい!」
槍、刀、火縄銃を構える撰鋒隊。
「ふふふ・・・くくくく・・・」
狂介「盾はものなど言うな・・・か」
槍を手に、撰鋒隊へと向かってゆく狂介。
狂介「言、行を顧みず志に突き進む」
狂介「すなわち狂」
武人「やめろ狂介!」
善蔵「いけません総督!山県は、もう狂っちょります!」
〇炎
狂介「奇兵隊士諸友に告ぐ」
狂介「吉田松陰の狂気とは、理(ことわり)に裏付けされしものである」
狂介「今、ここに天地人の理あらば俺は死なん」
狂介「見よ!この狂気はきっと成就する!」
〇岩山の崖
財満、鉄砲隊に指示する。
財満「まだじゃ。よう引きつけい」
槍を構え、進み続ける狂介。
黙って狂介を見つめる隊士達。
鉄砲隊、狂介に狙いを定める。
財満「お前もあの小僧と同じよ」
財満「見せしめじゃ」
財満、鞭を掲げ、叫ぶ。
財満「鉄砲隊!」
「奇兵隊!伏せろ!」
訳も分らず、しかし反射的に伏せる隊士達と善蔵。武人。
狂介、己の狂気が理を得ていたと実感し、財満を睨んだまま伏せる。
財満「な、何ィ!?」
俊輔「放て!」
〇岩山の崖
奇兵隊の遥か後方から銃声が響き、火花が炸裂する。
銃弾が財満の鎧を貫く。
財満「ぐが・・・っ!」
撰鋒隊前列が全員、銃弾に倒れてゆく。
霧が晴れ、現れる100名ほどの雑兵。
だがその全員が揃いの筒袖股引きを纏い、新式の銃を手にしている。
采配を振り上げる俊輔。
俊輔「動くな!エネミール新式銃の射程は火縄銃の比ではないぞ!」
『遊撃隊』『力士隊』そして・・・
『維新大総督高杉晋作』の旗差物が蒼天に掲げられる。
奇兵隊士達の前に、大八車に乗せられた沢山の新式銃が運ばれてくる。
善蔵「ひゃははは!こいつは凄えや!」
善蔵、玩具を手にしたように歓喜する。
善蔵「動くな侍ども。新式だとよ」
狂介「撰鋒隊諸君。これが狂である」
狂介「奇兵隊諸友。これこそが狂である」
狂介「今、天地人の理は我らにあり」
狂介「遠慮はいらんぞお前達!思う存分、狂え!」
隊士達、雄叫びをあげて銃を手に取ると維新の旗を掲げる雑兵たちと共に、撰鋒隊に対し銃口を向ける。
『ざ、財満様がやられたぞ!』
『退け!退け!』
撰鋒隊、霧の向こうに撤退してゆく。
財満「見せしめ・・・」
財満「ぐふッ・・・」
狂介「鯨波を上げよ!我らの勝利だ!」
奇兵隊と諸隊一同、鬨の声を上げる。
狂介「霧は晴れたぞ・・・武人」
武人「狂介・・・」
狂介「さあ、戦さだ。俺達の・・・いや」
コスケ「ワシの戦さじゃ」