改造途中人間チュート

栗山勝行

第1話 『改造途中人間』(脚本)

改造途中人間チュート

栗山勝行

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〇白
  第一話『改造途中人間』

〇黒
  僕は班馬宙斗(はんま ちゅうと)、16歳。
  この4月で高校2年生になったばかり
  将来の夢、特になし。
  何をやっても中途半端な、どこにでもいる普通の高校生
  ・・・だったんだ。つい、この間までは──

〇教室
班馬宙斗(うっ・・・! ダメだ、もう耐えられない・・・)
班馬宙斗「先生! トイレに行ってきていいですか!?」
教師「どうした、班馬? どこかでひろい食いでもしたのか?」
教師「いいぞ、行って来い」
  くすくすと笑い声が起きる中、宙斗は慌てて教室を出た。

〇学校の廊下
班馬宙斗(僕が慌てて教室を出た理由、それは・・・)
班馬宙斗(すかしっ屁の臭いに耐えられなかったからだ!)
班馬宙斗(他の生徒が気づかない程の臭気でも、僕にとっては地獄だった)
班馬宙斗(ちなみに放ったのは、僕の席から数えて右に3列、前に6列に座っている前田さん)
班馬宙斗(クラスのマドンナと呼ばれる彼女が、消しゴムをひろうどさくさに紛れて放出した)
班馬宙斗(常人には聴きとれない程の音。 僕がいなければ完全犯罪に終わっただろう)
班馬宙斗(いや、こんなの犯罪でもなんでもない。 だれでもやってることだ)
班馬宙斗(彼女も気づかれたくなかっただろうし、僕もできることなら、知りたくなかった)
班馬宙斗「これも全て、あの『ZOD』とかいう組織の中途半端な『改造手術』のせいだ!」
  怒りのままにトイレに駆けこみ、即、悶絶する。

〇個室のトイレ
班馬宙斗「げぼぶはあああああああああああ!!」
班馬宙斗(ここの方が地獄だ!!)
  突き刺すような強烈な臭気。
  刺激臭とは、まさにこのことだ。

〇学校の廊下
  急いでトイレから退避する。
班馬宙斗「理不尽だ・・・」
  普通の改造人間なら、こんなに苦労することはないのかもしれない
  だけど、僕は違う。
  なぜなら僕は『改造途中人間』だからだ

〇手術室
  あの日、僕は頭脳明晰、スポーツ万能のどこぞの大学生とまちがえられて誘拐された
  改造手術の途中で人ちがいに気づいた科学者たちは、上層部への発覚を恐れ、これを隠蔽
  軽い応急処置だけして、そのまま僕の腹を閉じ、近所の公園へ置き去りにしたのだ
  きっと誰も信じてくれないだろう。
  僕もできることなら、信じたくはない
  夢なら覚めてほしい。だけど現実は・・・

〇学校の廊下
班馬宙斗(現実は、無慈悲だ)
  あの日以来、僕は、ままならない自分の体に振り回されている
  嗅覚や聴覚だけじゃない。
  筋力もおかしくなっている
  改造された次の日、目覚ましの音量に驚いて思わず叩き潰してしまった
  ちなみに脳改造はされていないから、成績は中の下のままだ
班馬宙斗「理不尽すぎる・・・」
班馬宙斗(どうせなら、最後まで完璧に改造してくれたらよかったのに・・・)
  宙斗が大きなため息をついたのと同時に昼休みを告げるチャイムが鳴った。
班馬宙斗(教室に戻るのはやめよう)
班馬宙斗(どうせ今帰っても、「長かったな」 「ウンコしただろ」とはやし立てられるだけだ)
  僕はその嘲笑を聞き流せる耳を持っていなかった

〇大きな木のある校舎
  そのまま中庭に出て、ベンチに腰かけた。
班馬宙斗「これからの身の振り方を考えなきゃな・・・」
班馬宙斗(警察にでも駆けこむか? 「怪しい組織に誘拐されて、体を改造されました」と)
班馬宙斗(いや、騒ぎになったら、あの組織が僕の口をふさぎに来るかもしれない・・・)
班馬宙斗「やっぱり泣き寝入りするしかないのか・・・」
  キャーッ!!
  頭上から女子生徒たちの黄色い声が聞こえてきた。
  当然のことながら、宙斗に向けられたものではない。
  3階の廊下を颯爽と通り過ぎていく
  1人の金髪の美少女へ向けられた歓声だった。

〇まっすぐの廊下
  校内一の有名人、3年生の帰国子女、来明電奈(らいめい えれな)先輩だ。
  容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、誰にも媚びない無敵の才女。

〇大きな木のある校舎
班馬宙斗「どうせ改造するなら、あの人みたいに完璧な存在にしてくれたらよかったのに・・・」
班馬宙斗(思わず願望が口をついて出てしまった・・・)
  その時、突然、彼女が振り向いて中庭に立つ宙斗のほうを見た。

〇まっすぐの廊下
来明電奈「・・・・・・」

〇大きな木のある校舎
班馬宙斗(僕のことを・・・見てる?)
班馬宙斗(いやいや、そんなことあるはずがない!)
  慌てて首を振って、都合のいい妄想を否定する。
班馬宙斗(でも、もしかしたら・・・)
  淡い期待を抱きながら、
  宙斗はもう一度、3階の窓を見た。

〇まっすぐの廊下
  当然のように、そこには既に彼女の姿はなかった。

〇大きな木のある校舎
  不幸なことがあれば、必ず良いことが訪れる・・・。僕もかつては、そんな戯言を信じていた
  だけど、そんな都合のいい話あるわけがない。人生は失望の連続だ・・・
  そんな宙斗の言葉を肯定するかのように、また新たな不幸がやってきた。
???「ごめんなさい。もう許してください・・・」
  校舎裏のほうから、蚊の羽音のようなか細い声が聞こえてきた。
  ガスッ・・・!
  誰かが何かを殴ったような鈍い音──
  それと同時にうめき声。
班馬宙斗「かわいそうに・・・」
班馬宙斗(まちがいない。誰かが、いじめられている)
  宙斗は、音が聞こえた方向に背を向けた。
班馬宙斗(気の毒だとは思うけど、助けに行こうとは思わない)
班馬宙斗(人ちがいで改造されるよりはマシだろう? これ以上、僕に不幸を背負わせないでくれ)
  薄情だという人もいるだろうが、世の中は残酷で、理不尽なものだ
  こんな僕でもヒーローに憧れたことはある。
  小学校に上がる前の話だ
  でも、小学校で現実を叩きつけられた。
  上級生のいじめっ子に立ち向かい、ボコボコにされた
  「正義が勝つ」なんて、フィクションだと
  その時、思い知った
班馬宙斗(現に、僕が理不尽に改造手術を受けてる時も、誰も助けてくれなかったじゃないか・・・)

〇手術室
  宙斗は、あの悪夢のような光景を思い出した。
  不気味な中世時代の鳥のマスクを着けた3人の男が手術道具を手にして、こちらを見下ろしていた。
  あまりの恐怖で、ずっと体が硬直していた。
  四肢は鉄の輪で手術台に固定されていた。
  動けたとしても、逃げることはできなかっただろう。

〇大きな木のある校舎
班馬宙斗(そう。 人生は残酷で、理不尽なのだ)
  ボゴッ! ガスッ!!
  鈍い音は鳴り止まない。
???「うぅ・・・おでがいじます・・・。 もう、やべでぐださい・・・」
???「おい、鼻水たらしてんぞ、こいつ! うひゃひゃひゃひゃ!!」
班馬宙斗「勘弁してくれ・・・」
  宙斗は思わず耳をふさいだ。
  だが、それくらいで音が消えないことはわかっていた。
  強化された耳が、それを許してくれないのだ。
  悲鳴と嘲笑と打撃音の不快な三重奏。
  拷問に近い不協和音が、延々と頭蓋骨に響き渡る。
班馬宙斗「世の中は理不尽だ・・・」
  やりきれない思いで、宙斗は立ち上がった。

〇教室の外
不良「あぁン? あんだ、てめェ!?」
不良「何、見てんだよ!!」
班馬宙斗「もう、それくらいにしませんか」

〇教室の外
  移動しても、不快な音は消えない。
  どこにも逃げ場はなかった。
  逃げられないのなら、自分の手で止めるしかない。宙斗は覚悟を決め、グッと拳を握りしめた。
  僕は班馬宙斗(はんま ちゅうと)、16歳。
  この4月で高校2年生になったばかり
  将来の夢、特になし。
  何をやっても中途半端な、どこにでもいる普通の高校生だった
  でも、ある組織に人ちがいで改造されたことで、僕の人生は一変した
  『改造途中人間チュート』
  これは格好のいいヒーローものなんかじゃない
  中途半端に改造された僕が、
  理不尽な現実の中で、あがき続ける物語だ

次のエピソード:第2話 『痛み』

コメント

  • チュート最高~!(^^)!
    あっという間に読み終えちゃいましたw

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