第2話 『痛み』 (脚本)
〇教室の外
班馬宙斗「もう、それくらいにしませんか」
班馬宙斗は『改造途中人間』である。
ある日、突然、悪の組織に連れ去られ、改造されたが、人違いだったために、手術は中断。
これは、中途半端に改造を施されたまま、元の生活へ戻ることになった、不幸な高校生の物語だ。
不良「だれだ、てめェ? 正義の味方きどりかァ!?」
班馬宙斗「いえ・・・ただの通りすがりです」
宙斗は、不良たちの前に立っていた。
校舎裏で気弱な男子学生を囲む不良グループと、それを止めに来た1人の男。
学園ドラマにありがちな、燃えるシチュエーション。主人公の見せ場だ。
だが、宙斗は決してヒーローになりたいわけではなかった。
不良「勝手に通りすがってんじゃねェよ! 見て見ぬフリして、そのまま通り過ぎてろ」
班馬宙斗「そうするつもりだったんですけど、無理みたいです・・・」
班馬宙斗(実際には、聞いて聞かぬフリをするつもりだった)
班馬宙斗(「君子危うきに近寄らず」というやつだ)
班馬宙斗(でも、中途半端に改造された聴覚が、僕の意に反して、不快な音を拾いつづける)
殴られる音、不良の嘲笑、いじめられっ子の嗚咽、最悪なプレイリストの強制リピート
僕にアシスタントAIが搭載されてるなら、「ヘイ○○、この音を止めて」とお願いしただろう
でも、そんな便利な機能はない。
なぜなら、僕は『改造途中人間』だからだ
班馬宙斗「誰かを殴りたいなら、 僕を殴るんじゃダメですか?」
僕は「無抵抗で殴られる」という選択肢を選んだ
不良と戦うのが怖いからじゃない。
・・・いや、本音を言えば、かなり怖い
でも、それより何より、コントロールが効かない自分の体が、一番怖い
もし、予想以上の力が出て、目覚まし時計のようにバラバラにしてしまったら?
そこで人生終了だ
改造された時点で、もう人としての人生は終わってるという人もいるだろう
それでも僕は、少しでも人間らしさにすがりついていたかった
これで人まで殺めてしまったら、僕は完全に、人でなくなってしまう気がしたんだ・・・
男子生徒「ひぃっ!!」
いじめられていた生徒は、礼も言わずに、一目散に逃げていった。
不良「てめェのせいで逃げられちまったじゃねェか」
不良「責任取れよ、ヒーロー」
不良「殴ってくれって言ったよな?」
不良「顔面はやめとけよ。 センコーに見つかるとやっかいだからな」
不良「わかってるって・・・いくぞ、おらァ!!」
不良の拳が宙斗の腹にめり込んだ。
不良「・・・? なんだ、こいつの体、ちょっと固ェぞ?」
不良「いっちょ前にきたえてんのか? 俺にも殴らせろよ! うるァ!!」
別の不良が、全力の拳を腹部に突き入れる。
不良「おおっ! 固ェ~!! マジかよ!?」
不良「おい、替われ! 今度は俺の番だ!!」
ガスッ! ガスッ! ガスッ!
そのまま宙斗は一方的に殴られ続けた。
班馬宙斗「・・・・・・」
宙斗の目から涙がこぼれた。
不良「おい、こいつ泣いてんぞ!」
不良「今まで、なんでもないような顔しやがって」
不良「やせガマンしてたんでちゅかぁ?」
不良「泣いたのは俺のパンチの後だよな? 俺の勝ちィ!!」
不良「いや、俺んだって! 俺の拳が、後から効いてきたんだよなぁ?」
班馬宙斗「・・・・・・」
不良の拳が涙腺のスイッチを押したわけではない。
目の中に入った砂埃を洗浄したわけでもない。
宙斗は、ただ悲しくて、泣いていた。
恥ずかしくないのか、お前たち!
1人の人間を大勢でよってたかって
突然、凛と通る声が、校舎裏に響いた。
宙斗は思わず顔を上げた。
そこには、ついさっきまで中庭から見上げていた、あの憧れの先輩、来明電奈が立っていた。
来明電奈「弱い者いじめは『悪(あく)』だ。 私は『悪』を許さない」
不良「てめェは・・・探偵部のカミナリ女!!」
来明電奈「カミナリじゃない。 電気の『電』に奈良の『奈』でエレナだ」
不良「るせェ! 女は引っこんでろ!!」
半身をひねり、最低限の動きで不良の拳をかわす電奈。
と同時にその腕を取り、不良の勢いを借りてそのまま、激しく地面に叩きつけた。
不良「いでェ~~~~~~~!! 腕が・・・腕がァーーー!!」
不良の腕はあらぬ方向へと曲がっていた。
来明電奈「安心しろ。関節を外しただけだ」
来明電奈「昨今の日本の教育現場は、体面ばかりを気にして痛みを教えないそうだな」
来明電奈「君たちは、もっと痛みを知るべきだ」
来明電奈「痛みを知らないから、平気で人を傷つけられるんだ」
あまりの出来事に動きを止める不良たち。
その隙を彼女は見逃さなかった。
音もなく別の不良の背後に回り、関節をねじりあげる。
不良「うぎぃぃぃ~~~~!! 痛痛痛ァ~~~ギギギギブ! ギブブブ!!」
来明電奈「痛みを知れ。敗北を知れ。恥を知れ。 それらはすべて人生の糧となる経験だ!」
そう言って、彼女は容赦なくその不良の関節を外した。
不良「やめてくれ・・・! 謝る! 謝るから!!」
完全に戦意を喪失していた。
だが、彼女は歩みを止めない。
来明電奈「不要だ。 反省のない謝罪など、何の価値もない」
電奈は、仲間を置いて逃げようとする不良の手を取ると、そのまま全体重をかけて組み伏せた。
その瞬間に、すでに関節は外れていた。
不良「いぎぃ~~~~~~~~~!! あうあうあうあ~~~~~~~~!!」
膝の砂を払いながら立ち上がる電奈。
不良たちが地面でのたうち回っている。
わずか1分足らずの出来事だった。
来明電奈「大人になるとは、経験を積むことだ」
来明電奈「経験も積まずに歳を重ねただけで大人になれると思うな」
来明電奈「以上」
不良たちに向かってそう言い放つと、彼女は振り返り、宙斗に歩み寄ってきた。
宙斗は、自分がまだ泣いていることに気づき慌てて涙を拭おうとした。
来明電奈「体裁を取り繕う必要はない」
来明電奈「君がそれを恥だと思うのなら、それも君にとっての大きな糧だ」
そう言って、彼女は宙斗の頭に優しく掌を乗せた。
来明電奈「・・・ずいぶん痛めつけられたようだな」
来明電奈「すまない・・・もう少し早く駆けつけられたら良かったのだが」
宙斗は慌てて否定した。
班馬宙斗「いえ・・・泣いてるのは、痛いからじゃありません・・・」
班馬宙斗「痛くないから、泣いてるんです」
強がりじゃなかった。
本当に不良たちの拳は少しも痛くなかった
痛みを感じられないことが、悲しくて、やりきれなくて、気づいたら涙があふれていた
「お前は既に人間じゃない」
そんな事実を突きつけられた気がしたんだ
来明電奈「痛くないから泣いている、か。 面白いことをいうんだな、君は」
彼女はやさしく微笑んだ。
僕の人生が一変したのは、ただ単に改造されたのが原因じゃない
来明電奈先輩。
彼女との出会いが、僕の人生を変えたんだ
ネタバレを恐れずにいうと、僕はこの後、彼女が部長を務める探偵部に入ることになる
そして、あの恐ろしい組織『ZOD』と、再び相まみえることになるんだ
〇血まみれの部屋
???「えー、『迷惑野郎CチームのクレイジーTV』をご覧の皆様、はじめまして」
???「生配信を予定していた『Cチーム』のメンバーは全員、たった今、お亡くなりになったので」
???「代わりに私がお届けしています」
???「申し遅れました。 私、『ZOD』の改造人間──」
???「十二獣神の一柱、 鶏獣神ルースターと申します」
鶏獣神ルースター「この人類の支配する暗黒世界の夜明けを告げる一番鶏として!」
鶏獣神ルースター「他人の迷惑を顧みない皆さま方を、1人1人、血祭りにあげていく所存でございます」
鶏獣神ルースター「次に殺害するのは・・・」
鶏獣神ルースター「この番組をご覧になっている、そこの君ぃ!!」
鶏獣神ルースター「貴方かもしれませんよ?」
鶏獣神ルースター「クケーーーーーーーーーーーッケケケケ!!」
鶏獣神ルースター「・・・では、お会いするその日まで、 ごきげんよう」
良い(≧∇≦)b