MAD・AGE

山本律磨

霧を払うとき(1)(脚本)

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〇岩山の崖
  連なる山々、緑の狭間から剥き出しになった白い石灰の岩肌が見える。
  霧の中、ばらばらと無秩序に歩く隊士達。
  武器も持たず旗も掲げないその烏合は、最早軍隊でもなく、一揆の様相すら呈さず、まるで瓦壊寸前の敗残兵のようだった。
  魁を往く武人が傍らの隊士に問う。
武人「狂介・・・」
武人「いや、山県軍監はどこだ?」
  『殿(しんがり)を守っておいでです』
  隊士は力無く嘲笑した。
武人「そうか」
  武人、立ち止まること無く歩き続ける。
  前へ・・・前へ・・・
  隊士達の最後尾を一人歩く狂介。
  狂介を横目に、ひそひそと愚痴をこぼす隊士たち。
  『あの人、逃げるつもりじゃないやろか?』
  『まあ、侍言うても足軽の倅やけの。勘弁しちゃれ』
  『あーあ。何が新しき侍じゃ。もうどうでもええわ』
善蔵「そう諦めんなっちゃ。赤根さんが大将やっちょるうちは犬死にって事にだけにゃあならん」
善蔵「ここを見限るのは、高杉さんと戦う羽目になってからでも遅うない」
善蔵「あわよくば高杉側について革命の再開じゃ」
  善蔵、そういいつつ舌打ちして狂介を見据え小さく呟く。
善蔵「何が軍監じゃ。とっとと消えろや棒切れ」
  とぼとぼと、虚空を見つめ歩く狂介。
  持っている槍が少しずつ下がり、やがて地面を引きずりはじめる。
狂介「え・・・?」
  狂介の目に映る槍が、ただの棒切れに変わる。

〇草原の道
  棒を引きずり、歩くコスケ。
「泣くな!」
タケト「僕がついちょる!だから泣くな!」
コスケ「タケト・・・」

〇岩山の崖
狂介「武人・・・」
  手に握られたそれは、確かに十文字槍だった。
  狂介は顔を上げ、隊列の先頭に向かって走りだす。

〇草原の道
コスケ「ワシはもうコスケやない・・・ワシは・・・」

〇岩山の崖
狂介「ワシは狂介・・・」
狂介「山県狂介じゃ!」
武人「・・・・・・」
狂介「萩を攻めるぞ」
狂介「絵堂砦を落とすぞ」
武人「狂介・・・」
狂介「足軽。百姓。商人。有象無象。害虫。一族皆殺しにしてやる。だとよ」
狂介「俺はあんな奴らが俺の人生を決めている事に、もう我慢ならん」
狂介「一生あいつらに見下され施されて生きる事が、我慢ならん」
  狂介、隊士達に叫ぶ。
狂介「よく聞けお前ら!」
狂介「生きる場所も死ぬ場所も、自分で決めるんじゃ!」
狂介「出世するんじゃ!出世して奴らに何も言わせん一生を送るんじゃ!」
狂介「その為には今しかない!今、戦うしかないやろうが!」
武人「隊列へ戻れ」
狂介「武人!」
武人「総督命令だ。隊列へ戻れ、山県」
狂介「・・・・・・」
  狂介、武人に向かって静かに槍の穂先を向ける。
狂介「生きるべき時は恥辱に塗れても生き、死ぬべき時は果敢に死ぬ。先生の教えじゃ」
武人「死ぬべき時は果敢に死に、生きるべき時は恥辱に塗れても生きる。先生の教えだ」
狂介「共に死のう」
武人「共に生きよう」

次のエピソード:霧を払うとき(2)

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