MAD・AGE

山本律磨

もののふ四郎(3)(脚本)

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〇基地の倉庫
  十文字槍を手に武器庫から出て来る四郎。
四郎「あれ?」
四郎「こんなに暗かったっけ?」
  雲は再び、月も星も覆い隠している。
  と、無数の松明の灯と熱が四郎を襲う。
  10人ほどの侍達が、四郎に松明を突きつけている。
  怯える四郎。
  しかし、震えながらも槍だけは守るようにその胸に抱く。
  炎の向こうで、侍達がいびつに笑っている。

〇山の中
  早暁。
  朝から興奮して前かがみの隊士が、眠たげな飯盛女の手を引いて歩く。
  『もう・・・どこいくん』
  『すぐ終わるけ。すぐ終わるけ』
  飯盛女、ふと木の上を見上げて、悲鳴を上げる。
  隊士もまた木の上を見て驚く。

〇木の上
  狂介と武人、そして全ての隊士達が木の下へ集まって来る。
  縄で縛られた血まみれの四郎が吊るされている。
武人「これは一体・・・」
狂介「何じゃ・・・何があった?」
  茫然と見上げる狂介。
  紫色に顔を腫らし微動だにしない四郎の口元からは、血の糸が細く垂れ続けている。
「言うたではないか。身の程をわきまえ大人しゅうしておれば、民百姓は国の宝」
  霧の中から侍達を引き連れ現れる財満。
  財満、武人の前に十字槍を放り投げる。
財満「じゃが身勝手に振舞えば、害虫も同じじゃ」
狂介「まだ生きちょります!早う降ろしてやってつかーさい!」
帯刀「何か勘違いしとりはせんか?」
武人「粟屋様・・・」
帯刀「盗人とてあやつも長州の民、少し懲らしめておるだけじゃ」
狂介「じゃけど、このままでは」
帯刀「鍛え上げられし奇兵なのだろう」
帯刀「百姓だてらに槍刀を振り回す剛の者共が、これしきの事で命落とすはずはなかろう」
狂介「粟屋様!」
帯刀「死んだら死んだで自業自得じゃあ!」
狂介「・・・・・・!」
帯刀「よいか水呑!よいか商人!あの者のように死にとうなければ、二度と我らもののふの真似事をするでない!」
帯刀「うぬらが日本のために出来る事は、身の程をわきまえ一心に奉公することだけじゃ」
帯刀「土をいじり舟を漕ぎ金勘定に身を捧げよ!」
帯刀「抗うならば逆賊として大公儀に変わり九族まで誅罰いたす!」
  口々に同意の怒号をあげる侍達。
  怯える奇兵隊士達。
財満「武士の情けじゃ。その棒切れは恵んでやる」
  地面に落ちている十字槍。
狂介「棒切れ・・・」
  狂介、震える手で槍を掴むと財満を睨みつける。
  武人、狂介を制して財満に頭を垂れる。
武人「奇兵隊。これより高杉を説得すべく馬関に出陣いたしまする」
帯刀「命を賭けてあやつを止めよ」
武人「はっ!」
狂介「・・・・・・」

〇砂漠の基地
  武器も馬もない奇兵隊が、門の中からとぼとぼと現れて砦を後にする。
  他の隊士に隊旗を押し付ける善蔵。
「ほらよ!」
  隊士達の一番前に進み出て、振り返ることなく真っすぐに歩き続ける武人。
  立ち止まり、砦を見返す狂介。
  他の隊士達が狂介を追い抜いてゆく。
  一人の隊士が、愚痴るように呟く。
  『長州の事は、もうお侍さんに任せちょりゃええんじゃ』
狂介「・・・・・・」

〇城下町
  目賀籠の中、荒縄で縛られている松陰。
  『ばかたれが。日本の事は華のお江戸に任せちょりゃあええそいや』
  『あの男のせいで、ますます長州は幕府に睨まれよるわい』
  葵の紋の掲げられた旗の下、江戸へと護送されてゆく松陰。
  それを見ている野次馬達。
  松陰を見送る塾生達。
  松陰の口元が動く。
松陰先生「君達は今どこにいる?」
松陰先生「萩か?山口か?長州か?」
松陰先生「否、日本だ!」
松陰先生「君達は日本にいる!侍も商人も百姓もみんな日本にいるのだ!」
松陰先生「長州が世を憂いて何が悪い!田舎者が事を起こして何が悪い!」
松陰先生「日本は江戸だけのものではない!世の才は江戸だけに集まっておるのではない!」
松陰先生「諸君!ここから学べ!ここから叫べ!ここから歌え!ここから踊れ!ここから戦え!」
松陰先生「今、僕達はここにおる!日本におるのだ!」
  松陰の前に駆けだしてゆく塾生達。
  晋作、杉蔵、タケト、そしてコスケ。
  侍達に阻まれる塾生達。
  ただ一人、コスケだけが籠の前まで到達する。
コスケ「せ、先生!」
松陰先生「なるほど・・・君が辿り着きましたか」
コスケ「す、すんません。ワシで・・・」
松陰先生「ははっ、そういう意味ではありません」
松陰先生「出世しなさい」
コスケ「え?」
松陰先生「出世して幸せになりなさい」
松陰先生「それが終わったらもっと出世して親兄弟を幸せにしなさい」
松陰先生「それが終わればもっと出世して妻と子を幸せに。それが終わればもっと出世して友を幸せに」
松陰先生「そして、もっともっと、もっともっともっともっと出世して、いつか日本中の人を幸せにしてあげなさい」
コスケ「ええんですか?出世してええんですか?」
コスケ「こんな卑しいワシが出世してええんですか?」
松陰先生「一途に。真っ直ぐに」
松陰先生「言、行を顧みず志に突き進む。即ち狂」
コスケ「狂・・・」
松陰先生「さあ狂え。山県狂介」
  侍に掴まれ、籠から引き離されるコスケ。
  新緑の木々と白壁の街並みを貫く道に、小さくなってゆく松陰の籠。
  ぼんやりと師の影を見つめるコスケ。

〇砂漠の基地
狂介「狂・・・」
  狂介、砦に向かって十文字槍を掲げる。
狂介「四郎!今はお前だけが、お前こそが真の奇兵隊士じゃ!」

〇木の上
  四郎の腫れた瞼から涙がこぼれる。
四郎「まことの・・・奇兵隊士・・・」
四郎「ワシが・・・ワシだけが・・・」

次のエピソード:霧を払うとき(1)

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