トレードオフ 何かを得れば、何かを失う

鷹志

トレードオフ 何かを得れば、何かを失う(脚本)

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〇占いの館
  何かを得れば、何かを失う
レイコ「トレードオフ・オーナーのレイコです」
レイコ「当店では、人生がうまくいっていないと感じている人を幸せにするお手伝いをしております」
レイコ「「どうせたちの悪いぼったくりか何かだろ」ですって?」
レイコ「そんなことはありません。 当店であることをすれば、間違いなくお客様に幸せなことが起こります」
レイコ「「料金が高いんだろ」ですって?」
レイコ「いいえ。当店では料金は一切いただきません」
レイコ「ただし、お金とは別のものをいただきますが・・・」
レイコ「トレードオフ・・・」
  何かを得れば、何かを失う
  何かを達成するためには、何かを犠牲にしなければならない
レイコ「さて、今日はどんなお客様がやって来るでしょうか・・・」

〇商業ビル
中島「今日も嫌な一日だったな」
中島「上司や得意先に散々怒られた」
中島「上司や得意先の担当者は自分より年下。自分は40歳近くになっていまだに平社員・・・」
中島「年下の社員にもバカにされ、女子社員には相手にされず」
中島「もちろん彼女もいない」
中島「これからずっと、こんなダメ人生を送っていくのか・・・」
  そのとき、中島がふとビルの入口である広告を見つける。
中島「「トレードオフ あなたの人生に必ず幸せなことが起こります」?」
中島「くだらない。こんな詐欺商法みたいのに引っかかる奴なんて・・・」
  その言葉とは裏腹に、中島の足はその店のほうに向かっていく。
中島「まあ、今日もろくでもない一日だったからな。気分転換にのぞいてみるか」

〇占いの館
レイコ「いらっしゃいませ。 トレードオフへようこそ」
中島「えっと、「人生に必ず幸せなことが起こる」っていう広告を見て来たのですが・・・」
レイコ「ありがとうございます」
中島「ここは、占いをやったり、開運グッズを販売してるようなお店なんですか?」
レイコ「いえ、広告にあった通りです」
レイコ「ここであることをすれば、あなたの人生に必ず幸せなことが起こります」
中島「はあ・・・」
中島(まずい店に来ちゃったかなあ)
レイコ「失礼ですが、見た感じ、お客様はあまり幸せでない人生を送っておられるようですね」
中島「ええ、まあ・・・」
中島(やっぱりそう見えるのか・・・)
レイコ「当店ならお客様に幸せなことが起こるようにすることもできます」
中島「えっと、あの・・・」
レイコ「ただし、条件があります」
中島(どんどん話を進める人だな。有無を言わさず高額商品でも売りつけるつもりか?)
レイコ「お金は一切いただきません」
中島「は?」
中島(お金はいらないだと? ・・・まさか、ここはお金の代わりに臓器をもらうとかいったかなりやばい店なのか?)
中島(早めに逃げたほうが・・・)
レイコ「いただくのは、お客様の寿命です」
中島「・・・寿命?」
レイコ「あなたに幸せなことがひとつ起こる代わりに、あなたの寿命を1年いただきます」
中島(この女、何を言っているんだ?)
レイコ「私の言うことに嘘はありません。幸せなことは必ず起こります」
  レイコが中島をじっと見つめる。中島はその目に吸い込まれそうになり、目をそらすことができなかった。
レイコ「もちろん、やるかどうかはあなた次第です」
中島(この女は、ただの占い師や詐欺師とは違う)
中島(1年の寿命か。例えば、80歳までの寿命が79歳になる・・・)
中島(でも、79歳と80歳なんてたいして変わらないんじゃないのか?)
中島(どうせこのままダメな人生を送り続けるくらいなら、一度だけでも、少しの間でも、幸せなことが起こったほうが・・・)
中島「・・・わかりました。やります」
レイコ「あなたに幸せなことが起こる代わりに、あなたの寿命を1年差し出すと誓いますか?」
中島「・・・誓います」
レイコ「契約成立ね」
  何かを得れば、何かを失う
  何を達成するためには、何かを犠牲にしなければならない
レイコ「終了です。これであなたに幸せなことが起こるはずです」
中島「え、これだけ?」
レイコ「ありがとうございました」
中島「は、はい」

〇オフィスのフロア
  翌日
中島(昨日はどうかしてたな。あんな怪しい店に入ってしまうなんて)
部長「中島君、ちょっと」
中島「は、はい」
中島(朝から呼び出しとは・・・また何か怒られるのか。何が幸せなことが起こるだ)
部長「君は今日から主任になった」
中島「えっ?」
部長「君の真面目な仕事ぶりを人事部のほうも評価したらしい」
中島「えっと、あの・・・」
部長「俺も社長に褒められたよ。いい部下を持ったなって」
部長「中島君、これからも頼むよ」
中島「は、はい!」
中島(俺が主任に? どういうことだ?)
中島(・・・まさか! 昨日のあの店の・・・)
  中島は主任に昇進した。
  周りの同僚も以前のように中島のことをバカにしなくなった。
中島(これが幸せというやつか。よし、がんばるぞ!)
  しかし・・・

〇商業ビル
中島「はあ・・・」
中島(主任に昇進して1ヶ月後、会社が倒産するなんて・・・)
中島(この年、このご時世に、無職になってしまった)
中島(そりゃあ、この先ずっと順調に行くなんては思ってなかったけど、こんなに早く元のダメ人生に戻るなんて・・・)
中島(いや、職を失ってむしろ前より悪くなってしまった)
中島(でも、もうダメ人生はまっぴらだ。きっかけさえあれば、俺はまた幸せになれるはずだ)

〇占いの館
中島「・・・ということで、もう一度トレードオフしたいのですが」
レイコ「別に私はいいけど、それでいいの?」
中島「お願いします」
レイコ「そう、わかったわ。それじゃあ・・・」
中島「私の寿命を1年差し出します」
レイコ「契約成立ね」
中島「ありがとうございました!」
レイコ「・・・・・・」

〇大企業のオフィスビル
  中島は有名な大企業に就職することができた。
  給料も前の会社の2倍になった。
中島「自分がこんな大企業で働けるなんて・・・」
  中島に再び幸せが訪れた。
  はずだったが・・・
  1ヶ月後
中島「ダメだ。仕事が終わらない」
中島「求められる仕事の質も量も、前の会社とは全然違う」
中島「毎日遅くまで残業。それでも他の社員について行けない」
中島「大企業に就職して、給料も上がって、幸せな気持ちにはなれた」
中島「でも、今のここには自分の居場所はない。別の場所を探すしかない」
中島「またあそこに行くか・・・」

〇占いの館
中島「お願いします!」
レイコ「わかったわ」
  その1ヶ月後
中島「お願いします!」
レイコ「わかったわ」
  さらにその1ヶ月後
中島「お願いします!」
レイコ「わかったわ」
レイコ「彼は結局、計5回ここにやって来た」
レイコ「彼はその都度幸せを得ることができた」
レイコ「彼はそのことにとても満足していたはず」
レイコ「そして、彼が失ったものは彼の寿命5年分・・・」

〇病室
  数ヶ月後
  中島は病院にいた。
中島「あの後、もっといい会社に就職できた」
中島「その会社で出世もした」
中島「その会社にいた美人社員と付き合うこともできた」
中島「でも、上司に疎まれ、俺が不正をしたとでっち上げられて会社をクビになった。 付き合っていた女性とも別れた」
中島「やけになって酒を飲み続けて、今は病院で入院中・・・」
中島「ははは・・・あまりにも情けなさ過ぎて笑うしかない」
中島「でも、あの店に行って少しでも夢を見ることができた」
中島「退院したらまた行ってみるか。 あと1回だけでいい。また夢を見たい。幸せになった夢を・・・」
アヤ「中島さん、体調はどうですか?」
中島「だ、大丈夫です」
中島(担当の看護師のアヤちゃん)
中島(なぜか、こんなダメ人間の俺にもやさしくしてくれる)
アヤ「あの、その、中島さん」
中島「はい?」
アヤ「私のこと、覚えていませんか?」
中島「は?」
アヤ「私小さい頃、中島さんの家の近くに住んでいたんです」
アヤ「私が小さい頃、家族は帰りが遅くて、内気で友だちもいなくて、いつもひとりぼっちだったんです」
中島(何の話だ?)
アヤ「そのとき、一人で公園にいた私に声をかけてくれて遊んでくれたのが、中島さんだったんです」
アヤ「私、すごくうれしかった。将来はこんなやさしい人と一緒になりたいって、子どもながらに思いました」
中島「は?」
中島(そんなことがあったのか。正直よく覚えていない)
アヤ「だから、中島さんは入院されて辛いでしょうけど、私はここで中島さんに会えてすごくうれしかったです」
アヤ「失礼します!」
中島「・・・・・・」
中島「昔のことはよく覚えてないが・・・アヤちゃん、かわいいなあ」

〇病室
  その後もアヤは中島の世話を一生懸命に行った。
  それは、通常の患者と看護師の関係を越えていた。
  中島もそんなアヤに惹かれていった。
中島「アヤちゃん、いつもありがとう」
アヤ「そんな、看護師として当然のことです」
中島「僕もがんばって早く病気を治すよ」
中島「そして、今度は真面目に一生懸命働くよ」
中島(もうあの店に行って他人の力で幸せになろうとかは考えない。そして・・・)
中島「アヤちゃんにふさわしい男になれるようがんばるよ」
中島「だから、アヤちゃん、僕と・・・」
アヤ「中島さん・・・」
アヤ「うれしい・・・ あっ、次の患者さんのところに行かなくちゃ。失礼します!」
中島「これからは、がんばって自分の力で幸せをつかむんだ」
  その後、中島は治療とリハビリに懸命に取り組んだ。
中島「早く復帰して働いて、アヤちゃんといっしょになるんだ」
  その数日後
  中島は担当医師から呼び出された。

〇病院の診察室
中島「先生、話とは何ですか?」
医師「実は、その・・・」
医師「・・・・・・」
中島「先生?」
医師「中島さん、あなたはある病気にかかっています」
中島「それは酒を飲み過ぎて肝臓とかを悪くして・・・」
医師「それとは別の病気です」
中島「別の病気?」
医師「しかも、それは治すことができない病気です」
中島「先生、それはどういうことで・・・」
医師「はっきり言わせていただくと、あなたは1年以内に亡くなる可能性が極めて高い」
中島「えっ・・・」
アヤ「そんな・・・」
医師「残念ですが間違いありません。あなたはもう長くない」
アヤ「そんなことって・・・」
  アヤがその場で倒れてしまう。
  医師が看護師を呼んでアヤを連れて行かせる。
中島「・・・そうですか」
中島(そういうことか。俺の人生はやっぱりそんなもんなんだな)
医師「実に残念です。せめてあと5年生きられたら・・・」
中島「えっ!」
中島(5年!?)
医師「実はこの病気、治療薬の開発が進んでいまして、あと5年もすれば必ず治る治療薬ができる予定なんです」
中島「5年・・・」
医師「そもそもこの病気は本来あまり進行が早くないものなんです」
中島「・・・・・・」
医師「だから通常であれば、あと5年くらいはもつはずなんです」
中島「・・・・・・」
医師「しかし、中島さんの場合はなぜか急速に悪化が進んでいる」
医師「そう、ちょうど5年くらい早いスピードで」
中島「ちょうど5年・・・」
医師「それは今の医学では説明がつかない現象なんです」
医師「中島さんには何と言っていいか・・・」
中島「・・・いえ、先生、話してくれてありがとうございました」

〇病室
中島「あと5年生きられたら、治療薬ができる・・・か」
中島「トレードオフをして縮めた寿命はちょうど5年・・・」
中島「ははは・・・」
中島「トレードオフをして、昇進したり大企業に就職できたときはうれしかったなあ」
中島「でも、アヤちゃんと出会えたのはトレードオフの力ではない」
中島「俺の人生は幸せだったのか、そうじゃなかったのか・・・」

〇占いの館
レイコ「彼にとって、ここに来てトレードオフをしたことは幸せだったのか、そうじゃなかったのか、それは彼にしかわかりません」
レイコ「いや、彼自身もわからないのかもしれません」
レイコ「興味のある方、幸せになりたい方はトレードオフに来てみませんか?」
  何かを得れば、何かを失う
  何かを達成するためには、
  何かを犠牲にしなければならない

コメント

  • 面白かったです!ラストの展開に幸せって何なのだろう、と色々と考えさせられました。
    たとえ心を満たせるのが一瞬でも、目の前に絶望があって、代償を払ってでも幸せになれると言われたら、私は飛び付いてしまうかもしれません。
    トレードオフのオーナーは、なぜお店(?)をやっているのか、気になります……。

  • 外欲のために命を差し出した中島が、アヤという内なる幸せを得ようとしたとき、その寿命が尽きてしまうと言う凄く皮肉が効いたお話しでとても面白かったです。
    真の幸せとはなにか? を凄く考えさせられました。

  • おもしろかったです。せっかく自分の力を信じる気になったのに……なんというアイロニー!

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