ホラーコーディネーター

赤井景

エピソード10 久里嶋英明篇④(脚本)

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〇制作会社のオフィス
八代壬継「・・・じゃあ本当に、あの声って仕込みじゃなかったんですか?」
奥根久志「仕込んでないって。 てか、こっちはロッカーの扉叩く装置のリモートコントロールで手いっぱいだったし」
筑紫鏡也「うわー、ってことは、マジモンの幽霊の声だったことっすか? いいなー」
  先日、久里嶋英明に仕掛けた折、俺が最後に聞いた女性の声。
  それが幽々舎の人たちによる仕込みだったのではないかと聞いてみたが、誰も心当たりはないようだった。
釈池駿夫「ま、この手の現場じゃよくある話だ。 ホラーをやってるとな、そういう現象を引き寄せるんだよ」
筑紫鏡也「ホラーものをやるときは、まずお祓いに行くって言いますもんね」
志摩礼香「どうする? 壬継くんも、お祓いにいっておく?」
由宇勇「バカ言え。本物が来てくれるってんなら願ったりかなったりじゃねぇか」
由宇勇「てかその音声、録れてねぇのか? 現場にマイクは仕込んであったたよな?」
奥根久志「いやぁ、残念ながら声までは。 でも、妙なノイズは入ってたんですよ。 いやこれ、本当に心霊現象かも」
筑紫鏡也「くっそー、羨ましい! 自分も聞きたかったっす!」
八代壬継「俺は聞きたくなかったです・・・」
由宇勇「くくっ、まあいいじゃねぇか。 怪奇現象も起きたし、久里嶋もとっつかまった」
由宇勇「如月さんもこれには満足してくれるだろうよ」
  あのあと、久里嶋英明は警察に逮捕されていた。ホラーを仕掛けたあと、通報しておいたのだ。
八代壬継「でもまさか、久里嶋が麻薬取引に手を出してたなんて思いませんでした」
釈池駿夫「しかも、ミャンマーとのルートときたからな。ちょっと前までは黄金の三角地帯って呼ばれてた、そっち系の『本場』だ」
釈池駿夫「ありゃお遊びレベルじゃねぇな」
八代壬継「そのことを知ってしまったから、莉子さんは殺された・・・」
志摩礼香「ええ。彼女は海外ボランティアにそなえて、ミャンマー語を学んでた。 それが仇になってしまったわけね」
  久里嶋は、ミャンマー語で取引を行っていた。日本国内でミャンマー語を不自由なく話せる人間は少ない。
  だから、オープンな場所でも、さほど気を配らず取引相手と連絡を取っていたようだ。
筑紫鏡也「アングラ系サイトでも大っぴらに取引してたっすからねぇ。隠語にはしてましたけど、警戒心薄すぎだったっす」
筑紫鏡也「ま、そのログはぜーんぶ、警察に送っておいたんで、もう逃れようはないと思うっすよ」
  イベント会場でも久里嶋は東南アジア系の外国人(おそらく取引相手)と話していたようだ。
  その光景を、何人ものイベント参加者が目撃している。おそらく莉子さんも、その場面を目撃したのだ。
  運の悪いことに・・・彼女には、その会話の内容がわかってしまった。
志摩礼香「莉子さんは、犯罪の動かぬ証拠を、自分で押さえようとしたのね」
志摩礼香「だから、自分が普段使わないあの駅まで出向いて、実際にコインロッカーを調べてみたのよ」
釈池駿夫「それで、ヤクのことを知っちまった、か。 そりゃあ消される」
釈池駿夫「ヤバイことを知っても、知らぬ存ぜぬができりゃあ、嬢ちゃんも長生きできたんだろうけどな」
志摩礼香「それをするには、莉子さんは『しっかりしすぎていた』の」
出水華「ムカツクわ。そんな子が、あんなクズ野郎の犠牲になるだなんて」
出水華「もっと酷い目に遭わせてやればよかったわ」
釈池駿夫「ああ、それについちゃあ問題ねぇさ。 ヤツはこれから『もっと酷い目』に遭うだろうからな」
出水華「裁判ってこと? でも、どうせ死刑にはならないでしょ」
釈池駿夫「裁判じゃあな。だが、ことクスリ関係でヤンチャしたとあっちゃ、『そっちが本業の連中』が黙っちゃいないさ」
釈池駿夫「というか、俺の古馴染みに教えてやったら、そりゃあ張り切ってたぞ」
釈池駿夫「塀の中でいつまで無事でいられるかねぇ。 くくく・・・」
由宇勇「おやっさん・・・その話、聞かなかったことにさせてもらうぞ・・・」
出水華「いいじゃない。因果応報よ因果応報。 私、クソ野郎はクソみたいな目に遭ってしかるべきって常々思ってるのよね!」
由宇勇「やれやれ、おっかねぇ。 それで今回は妙に気合入ってたのか」
筑紫鏡也「華さん、大活躍だったっすもんね」
  そう。今回の仕掛けでは、華さんの働きが大きかった。
  あのとき久里嶋の足首を掴んだのは、実のところコインロッカーの中に入っていた華さんだった。
  大型荷物用のコインロッカーだったとはいえ、その中に入るだなんて、小柄な華さんでなければできない芸当だ。
  それに、「いきなり怪奇現象が痕跡も残さず消えた」のにも、華さんがかかわっている。
  あれは、「なにも起こっていない状況の光景を看板に描いておき、それを立てかけることで汚れた現場を隠す」ことで作り出したもの。
  その看板を用意したのは華さんだったのだ。
出水華「私なんて大したことしてないわ。 美術の出来で言ったら、当麻さんの方がすごかったし」
八代壬継「ああ、あのちぎれた足。 現地で見ましたけど、本当にリアルでした・・・」

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