エピソード8 久里嶋英明篇②(脚本)
〇駅のホーム
八代壬継「礼香さん、教えてくださいよ」
八代壬継「どうして、『莉子さんは自殺じゃない』って思ったんですか?」
喫茶店でのあの会話のあと。
俺と礼香さんは、手計莉子が飛び込み自殺をしたという駅にやってきていた。
真新しいホームドアが設置されているのは、莉子さんの飛び込みが切っ掛けになったからだろう。
志摩礼香「そもそも、どうして莉子さんはこの駅に来たのかしら」
八代壬継「え?」
志摩礼香「この駅を莉子さんが利用すること自体、不自然なのよ」
実家、下宿先、大学、そして語学学校。
そうした莉子さんの生活圏のいずれからも、この駅は外れていた。
利用駅から別の利用駅への経路上にすら、この駅は存在していない。
だから『不自然』なのだという。
志摩礼香「考えられる理由は1つ。 莉子さんは、『この駅に来るために』『この駅に来た』」
八代壬継「えっと・・・つまり、『この駅に来ること自体が目的だった』ってことですか?」
志摩礼香「そういうこと。 なんとか裏付けが取れればいいんだけど・・・」
八代壬継「駅員に聞いてみましょう。 運が良ければ、莉子さんのことを覚えているかもしれない」
〇駅のコインロッカー
飛び込み自殺を図ったこともあってか、駅員は手計莉子のことを覚えていた。
彼女は生前、駅のすぐ外にあるこのコインロッカーコーナーについて、駅員に質問してきたことがあるそうだ。
八代壬継「なんだって莉子さんは、コインロッカーについて調べてたんでしょうね」
八代壬継「しかも、自分の生活圏内にない駅のコインロッカーを、です。 自分で利用するためではないでしょうし・・・」
志摩礼香「ええ、明らかに『不自然』。 であるならば──」
志摩礼香「このコインロッカーにはなにかある。 なにかないとおかしい」
八代壬継「その『なにか』が、莉子さんの死に関わりがある、と?」
志摩礼香「たぶんね」
コインロッカーは、電子キー式のものだった。
荷物を預け、料金を入れたのちに開錠番号を発行。取り出すときは操作パネルで開錠番号を打ち込むというものだ。
志摩礼香「ここ、監視カメラはないのね」
八代壬継「みたいですね。もしあれば、莉子さんがここで何をしてたか、わかったんでしょうけど」
志摩礼香「・・・だから、なのかしら」
コインロッカーコーナーの中を、礼香さんがゆっくりと歩いて回る。
現場を観察するためというよりは、歩きながら考えをまとめているのだろう。
志摩礼香「そうね・・・きっとそう」
八代壬継「なにかわかったんですか?」
志摩礼香「おおよそのところがね」
そういうと、礼香さんはスマホを取り出す。
どこかに電話をかけているようだ。
志摩礼香「ああ、そうだ。壬継くん、このコインロッカーコーナーの様子を、一通り動画に収めておいてくれる?」
志摩礼香「あとで資料として使うと思うから、漏れのないようにお願い」
八代壬継「あ、はい。了解です」
八代壬継「でも、資料に使うってことは・・・」
志摩礼香「ええ。あくまで私の予測が当たっていればの話だけど──」
志摩礼香「たぶん、ここで仕掛けることになるわ」
八代壬継「それって──」
どういうことなのか聞こうとしたところで、礼香さんが手で「待って」と合図を送ってきた。
どうやら通話相手が出たようだ。
志摩礼香「もしもし、鏡也くん? ちょっと調べてほしいことがあるの。 それと釈池さんにも言伝てをお願い」
志摩礼香「コインロッカーについてなんだけど・・・ええ、そっち方面の話。じゃあ頼んだわよ」
〇制作会社のオフィス
筑紫鏡也「礼香さん、例のロッカー、ビンゴだったっす」
志摩礼香「そう、裏は取れたのね」
筑紫鏡也「ログまでばっちりっすよ~。 というか、隠してなさ過ぎて逆に心配になったくらいっすからね」
筑紫鏡也「いやまあ、一応、隠語で取引してはいましたけど」
釈池駿夫「こっちも言われた通り、そのスジに当たってみたぞ」
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ワクワク