エピソード7 久里嶋英明篇①(脚本)
〇制作会社のオフィス
八代壬継「奥根さん、あの声、どういうことなんですか!」
奥根久志「え? なに、なんの話!?」
如月から送られてきた、「サチサカ」という男に仕掛けたホラーの映像。
そこで使われていた女の声について、俺は奥根さんを問い質していた。
あの声を、俺が聞き間違えるはずがない。
問題は、どうして幽々舎の映像にあの声が使われているのか、だった。
奥根久志「・・・ああ、あれか」
奥根久志「初めは礼香さんとか華さんの声を加工して使おうと思ってたんだけど、緊迫感が出なくてさぁ」
奥根久志「だから、僕の持ってる秘蔵のライブラリから、一番キテるやつを使ったんだ。 元々は、ネットで拾った音声データだったかな」
八代壬継「どこで手に入れたんです!?」
奥根久志「どこだったかな・・・。あ、あれだ。 コアなホラーマニアのコミュニティサイトだ。アングラ系の」
奥根久志「一瞬だけアップされてたんだけど、マッハで削除されちゃってさ。 動画もあったらしいんだけどねぇ」
八代壬継「その動画、持ってませんか?」
奥根久志「いやあ、僕は気づくの遅れてねぇ。 持ってるのは、一部の音声データだけだね」
奥根久志「あ、でも、もしかしたら鏡也氏なら持ってるかもね」
奥根久志「あのサイトについては、鏡也氏の方が詳しいから。だよね、鏡也氏?」
筑紫鏡也「あ、いや、ええと・・・」
筑紫鏡也「そ、それより八代くん、そろそろ調査に行かなくていいんすか? 礼香さんと現地で合流するんすよね?」
八代壬継「え? まあそうですけど。 今はそれどころじゃ──」
筑紫鏡也「ダメっすよ、バイトとはいえ仕事なんすから。 責任感を持ってくんなきゃ」
八代壬継「でも・・・」
奥根久志「あー、礼香さん、遅刻とかにはうるさいから、早く行った方がいいよ」
奥根久志「元データがないか、僕の方で探しといてあげるからさ」
八代壬継「・・・わかりました。 よろしくお願いします、奥根さん」
筑紫鏡也「・・・・・・」
〇街中の道路
志摩礼香「──ちょっと壬継くん、聞いてる?」
八代壬継「え? あ、すみません」
志摩礼香「もう、さっきっからボーっとして・・・頼むわよホントに」
八代壬継「はい。久里嶋の調査ですよね」
〇黒
久里嶋英明。
大学ミスコンに出るような女の子を会員として登録し、イベントや芸能事務所に斡旋するという会社を経営しているらしい。
この久里嶋を追い詰めるにあたり、礼香さんが目をつけたのが「手計莉子(てばか りこ)」という女子大生だった。
彼女も久里嶋の会社に会員登録していたらしいが、ある日突然、大学を休学。
しばらくのち、電車のホームに飛び込んで自殺を図った・・・らしい。
〇街中の道路
志摩礼香「問題は、どうして莉子さんが自殺をしたのか、よ」
八代壬継「久里嶋のやつ、相当女癖が悪かったですからね。やっぱそのあたりが原因なんでしょうか?」
俺が前にバイトしていた居酒屋には、久里嶋がよく顔を出していた。
女性店員にセクハラまがいの絡み方をするのもいつものこと。
俺がバイトをクビになったのも、セクハラを俺に咎められた久里嶋が逆切れし、店長にクレームを入れたからだった。
そうしてクビになったその日の帰り道、俺は久里嶋に間違えられて、幽々舎にホラーを仕掛けられたわけだが。
志摩礼香「確かに、久里嶋が取引先との接待のときに、会員の女の子に『その手の営業』をさせてたって噂はあるわ」
志摩礼香「前の仕掛けでは、それが原因で自殺した、という線でお話を構築したしね」
志摩礼香「ただ・・・本当にそれが原因だったのか、確証が持ててないのよ」
志摩礼香「なんというのかな。 莉子さんの人となりと自殺とが・・・『馴染まない』の」
八代壬継「だから、それを確かめるところからやり直す、ということですか」
志摩礼香「ええ。彼女のことをよく知っているであろう人たちから話を聞いてね」
〇レトロ喫茶
それから数日ほど、俺と礼香さんは、手計莉子さん周辺の人物に接触を取り、ひたすら彼女の話を聞いて回った。
だが──
八代壬継「なんか・・・逆にわかんなくなっちゃいましたね」
「莉子が自殺したなんて、未だに信じられない」友人も、遺族も、口をそろえてそう言ったのだ。
八代壬継「自分も、莉子さんが自殺するような状況にあったとは思えないです」
八代壬継「だって莉子さんは・・・自分のやりたかったことが、叶うところだったんですから」
彼女が休学した理由。
それは、『海外ボランティアに行くため』だった。
八代壬継「東南アジアで農業支援をする。 そのために語学学校に行って、現地の言葉を学ぶほどの徹底っぷりです」
八代壬継「そこまでして待ち望んでいた出発日が、目前に迫っていた」
八代壬継「そんなときに自殺するとは、やっぱり考えにくいです」
志摩礼香「ええ、そうね。それは私も同感」
志摩礼香「莉子さんは目的意識のしっかりした、芯の強い人だった──」
志摩礼香「そんな彼女に、やっぱり自殺は『馴染まない』わ」
八代壬継「まあ、そんな彼女すら、久里嶋のせいで心が折れるような目に遭ってしまった・・・という可能性はありますが」
志摩礼香「どうかしらね。莉子さんと久里嶋の接点は相当薄かったようだし」
そう、それも問題だった。
莉子さんは確かに久里嶋の会社に会員登録していたようだが、それは友だちに付き合ってのことだったようだ。
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良い引き。続き期待してます!