ホラーコーディネーター

赤井景

エピソード6 幽々舎の日常(脚本)

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〇綺麗な会議室
八代壬継「失礼します。粗茶ですが、どうぞ」
喪服姿の男「ああ、すまないね」
喪服姿の男「・・・ふむ。初めて見る顔だ。 由宇さん、彼が例の──」
由宇勇「ええ、さっき話した新しいバイトです。 おい、壬継。ご挨拶しろ」
八代壬継「あ、八代壬継です。よろしくお願いします」
喪服姿の男「これはご丁寧に。私は如月(きさらぎ)です」
由宇勇「いいか、くれぐれも粗相するんじゃないぞ。 この方は大事なクライアント様だ」
由宇勇「うちが今こうしてやっていけてるのは、みんな如月さんのおかげだからな」
如月「いえいえ。 無茶をお願いしているのはこちらの方です」
如月「快く引き受けて下さっている幽々舎の皆さんには、感謝しかありませんよ」
  要するに、この男の依頼によって、幽々舎は「他人に怪奇現象を仕掛ける」なんてことをやっているわけだ。
  しかも、違法行為まで犯して。
  もっとも、その代わりにギャランティーも破格だという話だ。
  由宇さんが低姿勢なのも、そのためだろう。
如月「しかし、こんな特殊な仕事なのに、よく新しい人が見つかりましたね」
由宇勇「なに、礼香がひっかけてきたんですよ。 気に入りでもしたんじゃないですか」
如月「ふむ、礼香さんが、ですか」
  如月に、じっと見つめられた。
  なぜだかわからないが、背筋に冷たいものが走る。
如月「なるほど。そういうことですか」
由宇勇「ま、雇ったからにはきちっと働いてもらってますよ」
由宇勇「今回の納品物には、頭からばっちり出てますしね」
  そう言いながら、由宇さんが如月の前にUSBメモリを差し出す。
八代壬継「なんです、それ」
由宇勇「そりゃ決まってる。 『折野口啓二の恐怖体験映像』のデータだ」
八代壬継「え? あれ、撮ってたんですか?」
由宇勇「当たり前だ」
由宇勇「そうでなきゃ、我々がちゃんと仕掛けたってことを、どう如月さんに確認してもらうんだ」
由宇勇「それに、せっかくの傑作を映像に残さないのはもったいないだろう?」
  他人を陥れたにも関わらず、由宇さんには悪びれたところがまったくなかった。
  「面白い映像さえ撮れれば、ほかのことなどどうでもいい」という態度は、クリエイターとしては立派なのかもしれないが・・・
  ・・・正直、良識を疑う。
如月「そういえば、八代くん」
如月「キミは、これまでのターゲットの映像を見たことはありますか?」
八代壬継「いえ、見てないです」
如月「それはもったいない。 今度、お勧めの動画をお送りいたしましょう」
如月「きっと、気に入ると思いますよ」
八代壬継「は、はあ・・・」
  あまり見たいとは思わないが、断って機嫌を損ねるわけにもいかない。
  俺はSNSアプリのIDを如月に教え、そこに動画を送ってもらうことにしたのだった。

〇制作会社のオフィス
奥根久志「へえ、いいなぁ。 動画の元データ、うちにはないからねぇ」
八代壬継「え、そうなんですか?」
筑紫鏡也「そうなんすよ」
筑紫鏡也「うちの手元にも残さずデータは全部納品する、というのが条件らしくて」
ワルっぽい中年「くくっ。そりゃ、前にどこぞの誰かが、納品物の流出騒ぎを起こしたからじゃねぇか?」
ワルっぽい中年「なあ鏡也」
筑紫鏡也「いやいや釈池さん。 あれは流出を装ったプロモーションですって」
ワルっぽい中年「なあに、如月の旦那は内情を知らねぇんだ」
ワルっぽい中年「うちのことを『流出をやらかしたダメプロダクション』って思ってても不思議はねぇだろう」
  ちょいワル風味のこの人は、釈池駿夫(しゃくち はやお)さん。
  幽々舎撮影班のトップで、この道30年というベテランカメラマンらしい。
  もっとも『ホラーを仕掛ける』仕事ではあまり出番がないとかで(撮影のほとんどは隠しカメラによるものなんだとか)
  最近はもっぱら幽々舎の外で請負仕事をしているとのことだった。
ワルっぽい中年「そのあたり、礼香はなんか聞いてないか? お前、如月さんとデキてんだろ?」
志摩礼香「ちょっと待って。 そんな関係になった覚えないんだけど」
釈池駿夫「そうなのか?」
釈池駿夫「いや、お前をここで使ってくれってねじ込んだのは如月の旦那だったから、てっきりそういうことかと」
志摩礼香「下衆な勘繰りはやめてちょうだい。 たまたまコネがあっただけよ」
釈池駿夫「そいつは失敬失敬」
釈池駿夫「よかったな、坊主」
釈池駿夫「礼香が如月の旦那のツレじゃねえんだったら、お前にもチャンスはあるぞ」
八代壬継「え? 俺?」
釈池駿夫「お前がこんな変なバイトをしようって思ったのは、礼香目当てなんだろ?」
八代壬継「はい!? ち、違いますって!」
釈池駿夫「照れるな照れるな」
釈池駿夫「若造なんてのは、下半身の導くままに動くもんだろ」
八代壬継「だから違いますってば!」
志摩礼香「はあ・・・」
志摩礼香「セクハラ爺さんは放っておいて、次の仕事の話をしましょう」
由宇勇「よし、みんな聞け。 次はいよいよ、『久里嶋英明』に仕掛ける」
  久里嶋英明。
  俺にとっては、ある意味因縁深い相手だ。
  なにせ、俺はこの男と間違えられた結果、ホラーを仕掛けれられて、幽々舎の面々と知り合うことになったのだから。
筑紫鏡也「筋書きは前と一緒っすか?」
志摩礼香「それなんだけど、正直、久里嶋の調査については、まだ納得がいってないの」
志摩礼香「何か見落としてる気がする。 だからもうちょっと調査の時間が欲しい」

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