ホラーコーディネーター

赤井景

エピソード5 折野口啓二篇③(脚本)

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〇制作会社のオフィス
  「・・・にて折野口美和さんの白骨死体が発見された事件で」
  「警察は夫の折野口啓二容疑者を、殺人および死体遺棄の容疑で逮捕したと発表いたしました」
  「折野口啓二容疑者は、舞台演出家『檻口ケイジ』として知られており──」
奥根久志「ひひひっ、やってるやってる。 アイツ、まんまと逮捕されやがった」
由宇勇「ま、実際に死体が出たとあっちゃあな。 あとは警察が逃がしやしねぇよ」
八代壬継「でも、檻口は遺体を床下に埋めてたんですよね?」
八代壬継「なんだって自分で掘り返したりしたんでしょう?」
志摩礼香「美和さんが『本当に死んだかどうか』、確認せざるを得なかったからよ」
志摩礼香「あいつの本質は、『自己評価ばかりが肥大化した小心者』なんだから」
八代壬継「そこまで見抜いてたんですか・・・」
  あの日、俺は幽々舎の人たちと、折野口啓二に「ホラー」を仕掛けた。
  もちろん、すべてが作りモノだ。
  美和さんの幽霊は、当麻さんにメイクを施された礼香さんだし、手に持っていた赤ん坊も、当麻さんが造形したものだ。
若者「あいつがドライブレコーダーの映像を見たときの顔なんて、傑作だったッスよ」
  この人は、筑紫鏡也(つくし きょうや)さん。
  一応、演出班所属ということになっているが
  (バイトの俺を除けば)幽々舎で一番の若手ということもあって、いろんな雑用をやらされている。
  あの日も、鏡也さんはタクシードライバーに扮し、「ドライブレコーダーに映った、折野口美和を見せる」という役目を負っていた。
  当然、その映像も怪奇現象などではなく、前もって撮影しておいた動画を再生しただけである。
筑紫鏡也「それにしても、よくわかったっすよね。 檻口が奥さんを殺してたなんて」
志摩礼香「ああ、あれね」
志摩礼香「だって、観に行った檻口の舞台が、死ぬほどつまらなかったんだもの」
志摩礼香「檻口の出世作だった『凍ルルサクラ』は本当に傑作だったし、そのあと彼が発表した作品も概ね上質なものだった」
志摩礼香「じゃあ、檻口ケイジの作品がつまらなくなったのはいつからだったかな、って考えただけのことよ」
筑紫鏡也「でも、それでわかったんすよね?」
筑紫鏡也「美和さんが檻口のゴーストライターだった、って」
志摩礼香「美和さんが行方不明になったのと、檻口の作品が凡作になったのとが、同じ時期じゃあね」
志摩礼香「誰でも気づくでしょ」
  美和さんは、高校生のころから脚本の執筆をしていたのだそうだ。
  そのころの筆名が「三輪恵子」。
  檻口が俺の誘いに乗ってきたのは、「三輪恵子の脚本を見てほしい」と言ったからにほかならない。
志摩礼香「徹底的に、美和さんのことを調べたわ」
志摩礼香「彼女が高校時代に書いていたっていう、文芸同人誌も手に入れてね」
志摩礼香「それで、確信した」
志摩礼香「『凍ルルサクラ』の本当の作者は、美和さんだって」
志摩礼香「美和さんにとって不幸だったのは、美和さんの才能を一番初めに見出したのが、あの檻口だったってこと」
志摩礼香「そして、その檻口に美和さんが熱を上げてしまったってこと」
出水華「うわぁ、男運、悪すぎ・・・」
志摩礼香「でも、熱情もいつかは冷める」
志摩礼香「失踪の直前、美和さんは周囲に離婚のことを相談していたそうよ」
志摩礼香「『もし離婚に応じないようなら、檻口ケイジを終わらせる』」
志摩礼香「そんなことも口にしていたみたい」
由宇勇「ゴーストライターだってことをばらすってことか? だがそりゃ悪手だ」
由宇勇「檻口みたいな男が、みすみす金の卵を逃すはずがない」
由宇勇「無理やりにでも言うことを聞かせようとするだろうし、もしそれでも言うことを聞かないようなら・・・」
志摩礼香「ええ、だから殺された」
八代壬継「・・・やりきれないですね」
  美和の命も、彼女が生み出した作品も、檻口は奪った。
  それだけじゃない。
  美和さんが殺されたとき、そのお腹の中には新しい生命すら宿っていたのだ。
志摩礼香「美和さん、『この子のために、しっかりしなきゃ』って、言っていたそうよ」
志摩礼香「きっと、檻口なんかの従属者ではなく、一人の自立した人間として、お腹の子と向き合いたかったんだと思う」
志摩礼香「たぶん、だけど」
当麻朱人「礼香がそう思うんだったら、間違いないんじゃないかな」
出水華「ですよね。プロファイリングっていうか、心理トレース?」
出水華「洋ドラマのFBI捜査官も顔負けって感じだし」
志摩礼香「そんな大それたものじゃないわ」
八代壬継「でも、今回用意したダミーの脚本も、礼香さんが書いたんですよね」
八代壬継「檻口、本物だって信じてましたよ」
志摩礼香「あれだって、元ネタは美和さんの同人誌からの拝借よ」
志摩礼香「あとは文体を真似ただけ。分析すればできる」
志摩礼香「ただ・・・作品を通じて、彼女の気持ちが見えたような気はしたかな」
志摩礼香「もちろん、そんなのは私が勝手に勘違いしてるだけかもしれないけどね」

〇レトロ喫茶
  仕事のあと、今後の話をしたい、と俺は礼香さんに呼び出された。
志摩礼香「それで、どうだった?  実際にホラーコーディネーターをやってみて」
八代壬継「そうですね・・・正直、もっとイタズラっぽいというか」
八代壬継「『気に入らないヤツを酷い目に遭わせて悦に浸る』みたいな悪趣味なものだと思ってました」

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コメント

  • 面白かった。次も楽しみにしてるので頑張ってください!

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