ホラーコーディネーター

赤井景

エピソード4 折野口啓二篇②(脚本)

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〇大衆居酒屋(物無し)
折野口啓二「ふん。天下の檻口ケイジをこんな安居酒屋に呼びつけるとは、いい御身分だなぁ、おい」
  目の前のこの若造から連絡があったのは、つい先日のことだった。
若造「いやあ、わざわざすいません、檻口さん。 自分も断れなくって」
  知り合いの子が出来の良い舞台脚本を書いたので、アドバイスをもらえないか。
  そんなことを言ってきたのだ。
  そもそも前に一度だけ舞台で使ったことのある程度の相手だ。
  普段なら当然、相手などしない。
  だが──
若造「で、これが例の脚本っす」
  プリントアウトされた紙束を受け取る。
  タイトルは『春コラジ雪ノ舞ウ』。
  書いたのは・・・『三輪恵子』。
  確かにそうあった。
折野口啓二「・・・ふん」
  パラパラと流し読みをしていく。
  くどい、鼻に着くセリフ回し。
  酔いそうなまでににじむ情念と、むせかえるほどの感傷。
  悪い癖が出ている・・・美和の。
  だが、これがあいつの新作だということは絶対にありえない。
  そのことは誰より俺が一番よく知っている。
  トゥルルルル、トゥルルル──
若造「あ、檻口さん、鳴ってますよ」
  着信番号を見る。この番号・・・。
折野口啓二「誰だ」
  ・・・最後の場所で、待ってる
  それだけ言って、電話は切れた。
折野口啓二「クソが」
若造「・・・行ったか」
若造「あ、もしもし? 今、出ていきました。 はい、予定通りです」
若造「ええ、じゃあ、鏡夜さんもお気をつけて」

〇タクシーの後部座席
折野口啓二「おい、もっと飛ばせ」
運転手「いやでも、法定速度ってのが・・・」
折野口啓二「うるせぇ、他に車もいねぇんだ、さっさと飛ばせ!」
  イライラしながら、携帯を見る。
  先ほどの着信。うちの事務所からだった。
  あいつの、最期の場所。
  そこで、俺はたしかに・・・。
  キキィィィィィィィィィィ!
折野口啓二「おい、なんだ、どうした!」
運転手「いや、その、誰か飛び出してきて!」
折野口啓二「轢いたのか? このバカ!」
運転手「そうだと思ったんですけど・・・今見たら居ないんです。誰も」
折野口啓二「なんだ、気のせいだったんじゃねぇか。 ふざけやがって」
運転手「でも、確かに見たんです!」
運転手「そ、そうだ。 ドライブレコーダーになにか移ってるかも」
  運転手が機器をいじる。
  カーナビの画面にドライブレコーダーの映像を映すつもりのようだ。

〇繁華街の大通り
  ほら、や、やっぱり!
  ・・・出せ
  で、でも、確かに女のヒトが──
  いいから出せっつってんだ!

〇タクシーの後部座席
  あいつだ。あの女が立っていた。
  くそっ、化けて出たとでもいうのか。
折野口啓二「くそが」
  ありえない。美和は死んだんだ。
  俺が・・・この手で殺したんだ。

〇事務所
  ようやく事務所に着いた。
  入った瞬間、ゾクっとする。
  空気が妙に冷たい。
  吸った息が肺に刺さるかのようだ。
折野口啓二「ち、暗いな。電気は・・・」
  パチン、とスイッチを入れる。
  が、点かない。
  何度か入り切りしても、反応はない。
  不意に、パソコンが点いた。
  勝手に動画が再生され始める。
  画面の中では、後ろ向きの女が、なにやらか細い声で歌っていた。
  「とー、りゃん、せー、とーりゃん、せー」
  誰もが知っている、あの童謡。
  その歌声が、冷え冷えとした事務所にただ響く。
  女に、見覚えがある気がした。
  その声に、聞き覚えがある気がした。

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コメント

  • 僕はお化け屋敷を制作する仕事をしている者です。ホラークリエイターをテーマにした作品は珍しいので、とても楽しく読ませてもらっています!頑張って下さい!

  • 頑張ってください!

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