50 幻惑の少女(脚本)
〇魔界
「う~ん」
ミムレット「イテテ・・・ここは?」
立ち上がり、辺りを見渡したミムレット。
ミムレット「いつもの・・・荒野か?」
振り向けば、遠くに街の影がある。
ミムレット「なんだったんだ・・・あの場所」
ミムレットは、胸元の組み紐を辿って、父の形見の指輪を握りしめた。
ミムレット「アイツも追ってこないみたいだし・・・ん?」
ミムレットはガサゴソと胸元を探った。
ミムレット「あれ?」
『球』の壁を壊すために必要な、一粒の宝石。
それが、見当たらない。
ミムレット「え、嘘だろ・・・無い?」
???「何が無いって?」
人の気配が無かったはずなのに。
ミムレットは飛び上がって声の方を向いた。
立っていたのは、スラリとした体躯に、長い黒髪の女性──シャラだった。
ミムレット「シャ、シャラ!?」
ミムレットは転げるようにシャラへ駆け寄った。
ミムレット「無事だったのか!」
ミムレット「良かった」
ミムレット「良かったよぅ・・・」
シャラ「なんだ、泣く程嬉しかったか?」
目元を乱暴に手で拭うミムレット。
シャラ「で?小娘」
シャラ「なぜ、街の中で待機しなかった?」
ミムレット「そうだ!街!」
ミムレットは、街での出来事を話した。
花びらの舞い散る庭で、鳥を見つけたこと。
鳥を追いかけていたら、見知らぬ少女と遭遇したこと。
見知らぬ少女に斬りかかられたこと。
ミムレット「死ぬかと思った!!」
ミムレット「なんか、刀を振り回す女の子がいてさ」
ミムレット「すっごい追いかけられたんだぞ?」
三角の耳を後ろに倒して唸るミムレット。
シャラ「鳥・・・ねえ?」
シャラは顎に手を当てて、それからニッと笑った。
シャラ「招かれざるものが、入り込んだみたいだな」
ミムレット「はあ?まねかれ?」
言い終わるや、街へと歩き出したシャラ。
ミムレットが慌てて後を追った。
ミムレット「お、おい!街に入るのか? 刀のヤツがいるんだぞ?」
シャラ「・・・お前、宝石を落としただろう?」
ミムレット「え・・・えぇと・・・うん」
ミムレット「多分・・・街の中で落とした。 街の中まではあったから」
シャラ「なら、街に入る一択だな」
ミムレット「戦うのか?刀のヤツと」
シャラ「もちろん」
ミムレット「・・・殺すのか?」
ミムレットはじっとシャラを見た。
シャラ「もちろん」
淀みなく答えるシャラは、どこか上機嫌だった。
ミムレット「でも!もしアイツを殺しちゃったら・・・」
ミムレット「アタシ達は・・・モンスターになる」
シャラ「ふーん?」
シャラ「モンスターになりたくないから、殺さないのか?」
ミムレット「なっ・・・ち、違う!」
ミムレット「生かすとか殺すとか! それ以外になんか無いかなって」
シャラ「じゃあどうする?」
シャラ「殺しに来たヤツと、話し合いでもしたいのか?」
ミムレット「それは・・・でも、捕まえるとか」
シャラ「捕まえてどうする。 荒野に転がしておくか?尋問するか?」
ミムレットはしばらく沈黙して、答えた。
ミムレット「そりゃあ、アタシだってさ、自分の命を守るためなら」
ミムレット「攻撃してきたヤツがどうなってもいい。 そう思ってるよ。でも・・・」
ミムレット「・・・相手を殺すって・・・ それ一択にはしたくない」
シャラ「──ご立派なことだが」
シャラ「したかろうが、したくなかろうが」
シャラ「決める時は一瞬だ」
シャラ「まあ、今のうちに悩んでおけ」
街を眺めながら、シャラは目を細めた。
シャラ「自分は選べる立場にある、と思うな小娘」
シャラ「圧倒的な実力と、時の運だけだ。 選ぶ贅沢が許されるのは」
シャラ「お前はどちらかを持っているのか?」
ミムレット「うぅ」
ミムレット「なんだよもう!」
ミムレット「ああ!そうだな、アタシは弱いし 運なんてわからない!!」
ミムレット「でも、考えるくらいいいだろ!?」
唸りながら言い捨てたミムレット。
シャラは横目で見るだけだった。
シャラ「・・・その威勢で付いてこい」
ミムレット「はぁ!?」
シャラ「狩りの時間だ」
〇桜並木
鳥「チチチ」
ミムレット「くそっ!また逃した」
再び街に入ったミムレットと、シャラ。
シャラ「それより、アレか? お前の言っていた少女とやらは」
面影の少女「ん?」
面影の少女「性懲りもなく来おったか」
シャラ「ふっ」
シャラ「ふははっ」
シャラが笑った。
牙を剥くような笑いだ。
ミムレットは、シャラの笑い声に我知らず後ずさった。
シャラ「そうか!そう来るか!」
少女の方は、にこりと笑って刀を抜いた。
ミムレット「おい、知り合いか?」
シャラ「うん?ああ・・・」
シャラ「見知ってはいる」
少女に向き直ると、シャラは刀の柄に手をかけた。
シャラ「さて」
シャラ「『お姉さま』に逆らう気か?」
シャラ「──シュロ」
ミムレット「えっ」
ミムレット(シュロ?確か『もういない』って・・・)
少女はシャラに微笑みかけた。
面影の少女「お久しゅう」
面影の少女「お姉さま」


