龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第玖拾捌話 悩み相談 序(脚本)

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〇応接スペース
野上「・・・ふう」
  来客が退出したのを見届けると、野上は大きく一息ついた。
野上「良い助言になっていれば、いいのだが」
  占いやカウンセリングなど、助言を求める人間の心理状態は、大別して二種。
  一つは、進みたいが方向性が定まっていない状態。
  現状を変えたいという意識はあるが、どのようにしたら良いか分からないという状態。
  もう一つは、悩んでいるようで実は既に答えが決まっているという状態。
  前者に対しては、いくつかのキーワードを提示して選択肢を明確にする。
  そうする事で、自身の性格や資質に見合った方向性を見出せる事が多い。
  後者に対しては、迷いを吹っ切らせる事が大事になってくる。
  変化をもたらす第一歩を踏み出す勇気。
  その決断・選択が間違いでは無いのだという自信や確信を持たせる。
野上「その決断が、良いものであると祈らせてもらおう」
  そう言って微かに笑みを浮かべる野上だが、
野上「・・・私にとっても、ね」
  目を細めて口の端を歪める彼の顔は、
魔族「随分と悪い笑みをするものだな」
  来客用のお茶と茶菓子を片付けにやってきた男の言う通り。
野上「・・・そうかい?」
  野上は、その邪悪とも言える微笑みを崩さずに言葉を返す。
野上「投じた一石がどのような波紋を生み出すか」
野上「それを考えると、楽しみでつい、ね」
魔族「良い趣味をしているな」
  皮肉交じりに男が返すと、
野上「それにしても、八人の龍使い、か」
  野上は応接スペースを立ち、

〇個別オフィス
  窓際に置かれた事務机の方へと足を進めた。
  そして机の引き出しを開け、
  複数枚の写真を取り出す。
野上「姿も居場所も名前も知れているのなら、仕掛けるのは簡単だろうに」
  一枚一枚を順番に見る。
  それらの写真に収められていたのは、
魔族「知れているからこそ、慎重にならざるを得ないのだ」
魔族「龍使いの連中も、次第に腕を上げているのでな」
  八人の龍使いの姿だった。
魔族「安曇様のおかげで、動向の監視は非常に容易になっている」
魔族「それに、無理に打ち果たさずとも、我らの邪魔とならなければ問題はない」
魔族「そういう話になっているのでな」
野上「・・・つまり、勝手に自滅するのは都合が良い、と?」
魔族「まあ、そうだな」
魔族「その過程が、貴方にとっても利となるはずだ」
魔族「結果さえも」
野上「力持つものが、その使い道を誤る」
野上「剰え混乱を引き起こし、悲嘆に暮れる羽目になる」
野上「確かに、私の非常に好むところのものだ」
魔族「だろう?」
  野上は心底楽しそうに頷く。
  と、その時。
野上「おや、来客のようだ」
  事務所のインターホンが鳴った。

〇応接スペース
野上「さあ、こちらへ」
穂村瑠美「はい」
  野上に促され、パーテーションで仕切られた相談スペースへと向かう瑠美。
  事務所の中は、瑠美が思っていたよりも清潔だった。
  余計な物もなく簡素な分、広く感じる。
野上「それで、御相談は?」
穂村瑠美「ええっと、」
  にこやかに問い掛ける野上に対して、瑠美は少し言い淀んだ。
穂村瑠美(どうしよう・・・)

〇応接スペース
穂村瑠美(何て言ったらいいのかな・・・)
  事実をそのまま伝えるわけにはいかない。
  相談相手の野上は一般人だ。
  龍使いや魔族の事など知る由もない。
  話した所で空想の与太話だと一笑に付されるのがオチだ。
  そして、自分の相談など取り合ってくれる事も無く追い返されてしまうだろう。
穂村瑠美「その、ですね、」
  瑠美は慎重に言葉を選び、紡ぎ出した。

〇応接スペース
野上(ほう、これはこれは)
  野上は内心驚いていた。
野上(まさか、)
  龍使いの一人が自ら足を運んでくるとは。
  予期せぬ僥倖、というべきだろう。
  こちらから接触をする手間が省けたのだ。
野上(おそらく、)
  大方の予想はつく。
野上(紫龍使いの梶間頼子に話を聞いたのだろうな)
  数日前、偶然にも街中で声を掛けた少女。
  その少女が、紫龍使いの梶間頼子だと後で知った。
  魔族の男から渡された龍使いの写真の一枚が、彼女だったのだ。
  彼女には名刺を渡してある。
  それを見て、此処にやって来たのだろう。
野上(一体、どういう悩みを抱えているのやら・・・)
  思春期というのは、心と体が変化する時期だ。
  心身が大人に向かって成熟していく。
  その一番の根本にあるのは、生殖だ。
  生物としての最も基礎的かつ最大の役割である、子孫を残す事。
  そのために肉体も精神も変容していく。
  子供の頃には無かった新たな状態に、自覚的か無自覚化は兎も角、揺れ動く。
  それが思春期というものだ。
  そこに、使命と戦いを付与された龍使いの少年少女。
  どのような悩みが彼ら彼女らを苛んでいるのかといえば。

〇応接スペース
穂村瑠美「その、幼馴染の事で悩んでいて」
野上「その幼馴染は、異性ですね?」
穂村瑠美「!!」

〇学校の裏門
橘一哉「・・・おろ?」
  一哉は少し珍しいものを目にした。
  その視線の先には、

〇学校の裏門
  クラスメイトで龍使い仲間の姫野晃大。
「おーい!」
姫野晃大「ん?」
  後ろから聞こえてきた、誰かを呼ぶ声。
  よく通る、大きな声だ。
  そして、晃大には馴染みのある声。
  振り向くと、
橘一哉「やっほ」
姫野晃大「やっぱりお前か」
  一哉だった。
姫野晃大「お前、部活はどうしたんだ?」
  武道場からは掛け声が聞こえてくる。
姫野晃大「サボりか?」
橘一哉「いや、違うよ」
  一哉は首を横に振り、
橘一哉「今日は剣道部は休み」
橘一哉「だから、板の間は薙刀部の貸し切り」
「めえええええええええーーーーーーんん!!」
  武道場から聞こえてきた、一際大きな掛け声。
  二人は思わず足を止めてビクリと体を震わせる。
姫野晃大「竹村か・・・」
橘一哉「だね・・・」
  晃大の口から出てきた名前に、一哉は頷く。
橘一哉「あんなデカい声だせるの、シゲちゃんしかおらんですわ・・・」
  白虎の咆哮、健在なり。
橘一哉「ところでさ、コウちゃんが一人なんて珍しいじゃん」
姫野晃大「ん、まあね」
  一哉が声をかけた理由はそこにあった。
  二人は並んで歩きながら裏門へと向かっていく。
  こっちの方が、晃大にとっては家への近道。
  だが、
姫野晃大「カズはこっちでいいのか?」
  晃大は一哉に訊ねる。
  一哉にとっては、正門から出た方が家には近いはずだ。
橘一哉「穂村さんとは一緒じゃないの?」
姫野晃大「行く所があるから先に帰っててくれってさ」
橘一哉「やりとりが夫婦みたいだね」
姫野晃大「何言ってんだよ、カズ」
  夫婦、という言葉に晃大は思わず顔を赤らめる。
姫野晃大「あいつは、どっちかっつうと姉貴かオカンだよ」
  面倒見が良くて積極的。
  何の遠慮もなく晃大に物を言う。
  仲の良い幼馴染ならではの間柄だ。
  その距離感は家族に近い。
  そんな瑠美が、
橘一哉「一人でも大丈夫?」
姫野晃大「どっちが?」
橘一哉「両方」
姫野晃大「・・・魔族対策か?」
橘一哉「まあね」
  魔族は強い。
  いくら龍が強力な神獣でも、龍使いは普通の人間だ。
  龍の加護によって魔族との戦闘時に一時的に強化されるとはいっても限界がある。
橘一哉「ましてやコウちゃんは初心者なんだからさ」
  そう。
  龍使いの中で最も日が浅いのは晃大だ。
  まだ数ヶ月しか経っていない。
  幼馴染の瑠美と一緒なら、連携は比較的楽なはず。
橘一哉「今日は、俺がフォローしよっか?」
姫野晃大「いや、いいよ」
  一哉の申し出を晃大は断った。
姫野晃大「俺も戦いには慣れてきたし、いつまでも初心者って訳じゃないから」
橘一哉「そっか」
橘一哉「じゃあ、」
橘一哉「背中は任せる」
姫野晃大「!!」
  その一言で晃大は全てを察した。

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