第玖拾陸話 心、動く(脚本)
〇入り組んだ路地裏
野上「それで、私に話というのは?」
路地裏。
賑やかな表通りとは逆の、薄暗く静かな所に、彼はいた。
魔族「私の素性が分かるのなら、分かっているはずだ」
御高祖頭巾に丸眼鏡、着流しの上に袖無し羽織。
頼子に話しかけた易者だ。
彼と一緒にいるのは、壮年の男性。
どこにでもいそうな、すぐに忘れてしまいそうなほどに目立つ特徴のない風貌。
野上「ふうむ、」
易者は袂から筮竹を取り出し、両手に分け持つ。
魔族(随分とわざとらしいことだ)
些か勿体ぶった様子で暫し筮竹と睨み合いをしていたが、
野上「要は、君等に協力しろということだな?」
魔族「その通り」
壮年の男は頷いた。
野上「しかしなあ、」
易者は渋い顔をする。
野上「現状、私は何の不満も不足も感じてはいない」
野上「君等に合力する利点も理由も無いよ」
そう言って人通りの盛んな表通りへと目をやり、
野上「それに、今のままでも、人を唆し外道に堕とすのは充分楽しめているからね」
目を細めて楽しそうに笑う。
その瞳は、心底楽しそうに輝いていた。
魔族「どうせなら、もっと大きな獲物を使って遊んでみたいと思わないかね?」
野上「と、いうと?」
魔族「龍を、堕としてみないか?」
野上「龍を?」
易者の目が見開かれる。
魔族「龍は我ら魔族に敵対し、人の味方をしているのだ」
野上「・・・へえ」
壮年の男の言葉に、
野上「それはまた面白いことになっているのだな」
魔族「我らにとっては頭痛の種だがね」
壮年の男は眉間に皺を寄せる。
魔族「奴らの目を逸らすのに、どれだけ苦労していることか・・・」
はあ、とため息をつく。
野上「正義を為すべく悪を名乗る君達の事も、実に興味深いな」
易者の興味は壮年の男、魔族の方にも向けられていた。
野上「いつかどこかで、真の悪に堕ちかねないぞ?」
魔族「そうならぬように常々気を付けてはいるさ」
野上「ならば良いがね」
易者は筮竹を一束にまとめて再び袂に仕舞い込み、
野上「神獣を惑わし堕とすのも面白そうだね」
ニイ、と口の端を歪める。
魔族「協力してくれるか!?」
魔族の言葉に易者は頷き、
一陣の風と共に姿を消した。
魔族「窮奇は風を操ると聞いたが、本当だったか・・・」
薄暗い路地裏に一人残された魔族は、ポツリと呟いた。
魔族「だが、これで今しばらく時が稼げるな」
安心したように呟くと、フッとその姿を消した。
〇教室
辰宮玲奈「うわー、それ、あからさまに怪しすぎるね」
梶間頼子「やっぱそう思う?」
頼子の出した名刺を眺めながら、玲奈は素直に感想を口にした。
頼子が親友に見せたのは、先日易者に渡された名刺。
辰宮玲奈「キャッチセールスじゃん、それ」
梶間頼子「だよね〜」
頼子も親友の言葉に頷く。
梶間頼子「悪い人では無さそうだったけどね」
辰宮玲奈「ダメダメ、ああいうのは無害を装って近づくんだから」
梶間頼子「・・・そんなもんかねぇ」
辰宮玲奈「そんなもんだよ、頼ちゃん」
数ある詐欺の典型的な手口。
それを玲奈は力説したが、
梶間頼子「・・・」
頼子は今一つ親友に同意しきれなかった。
というのも、
梶間頼子(嘘には、思えなかったな・・・)
彼女を呼び止めた野上なる易者。
その言動に虚偽性や悪意が感じられなかったのだ。
龍使いの鍛錬の一環として、頼子は常に能力を使っている。
常に感覚を解放し、できるだけ広い範囲の『雷気』を感じ取るようにしている。
特に注力しているのは人間の生体電流の感知。
微弱であるが故に感覚を磨くにはうってつけだった。
これのおかげで、感情や思考、動きの先読みができるようになった。
そんな頼子の感覚であの易者の言動を測った時、
梶間頼子(嘘や悪意はなかったんだよね・・・)
電流信号に変なパターンが見られず、素直な言動の時に見られるものだった。
梶間頼子(ちょっと、行ってみようかな)
龍の宿主となり、常人とは異なる感覚を持つことになった頼子。
彼女の思考も、少しばかり普通とは異なり始めていた。
梶間頼子(占いの仕組みでも聞いてみようかな)


