第玖拾肆話 得物談義(脚本)
〇学校の裏門
姫野晃大「でやああっ!!」
姫野晃大「ふう・・・」
光の剣の一閃を受けた魔族は無数の光の粒子となって消え去った。
完全に霧散したのを見届けると、晃大は手にしていた剣を消して素手に戻る。
穂村瑠美「お疲れ様」
瑠美が晃大に歩み寄り声をかけた。
少し離れていた所で戦っていた彼女も、決着がついたらしい。
姫野晃大「瑠美も怪我してないか?」
穂村瑠美「あたしは大丈夫」
穂村瑠美「この通りよ」
瑠美は笑顔でガッツポーズをしてみせた。
その二の腕が何となく逞しくなったように見えるのは、晃大の気のせいだろうか。
姫野晃大(うーん・・・)
炎を操る赤龍の宿主、穂村瑠美。
晃大とは幼馴染の間柄である。
彼女が得物としているのは、斧槍。
槍の穂先と斧の刃を持つ長柄武器だ。
その全長は晃大の身長よりも長く、当然のことながら重量もある。
そんな長柄武器に炎を纏わせて振り回す様は、実に派手で豪快。
普段の大人しい彼女からは想像もつかない激しさだ。
姫野晃大(瑠美にも、そんな一面があったんだな・・・)
彼女が龍使いとなっていた事も、晃大は全く気付かなかった。
龍使いになる前も後も、晃大には何も変わらないように見えた。
姫野晃大「なあ、瑠美、」
穂村瑠美「なに?」
晃大は思い切って聞いてみた。
姫野晃大「筋トレ、してる?」
〇住宅街
姫野晃大「日和ってしまった・・・」
足早に前を歩く瑠美を追いかけながら、晃大は悔やんでいた。
その頬には見事な紅葉型の痣が貼り付けられている。
姫野晃大「なあ瑠美、悪かったって」
穂村瑠美「・・・」
瑠美は一言も発することはなく、振り返りもしない。
しかし、機嫌を大いに損ねているのは明らかに分かる。
姫野晃大「ごめんって」
晃大が瑠美に聞きたかったのは、あんな事ではない。
本当に聞いてみたいことを聞くのが、何となく怖くなってしまった。
それで、つい冗談めいた軽口を叩いてしまった。
その結果がこれである。
ある意味、普段の光景ではあった。
だが、この普段のやり取りが、大きな不和に繋がるとは思いもよらなかった。
〇綺麗な一人部屋
穂村瑠美「まったく、コウったらデリカシーが無いんだから・・・」
口では不満げに言いつつも、その表情に怒りや苛立ちは見られない。
幼馴染の彼のしょうもない発言には、もう慣れっこになっている。
穂村瑠美「そりゃ、あたしだって多少のトレーニングはするけどね」
それは得物の取り回しに習熟するためのものだ。
基礎的な身体能力の向上を目指したものではない。
穂村瑠美「それに、長さの割に軽いのよね、アレ」
瑠美の得物は、その形や大きさに見合わぬほどに軽い。
ほぼ平均的な女子の体格である瑠美であっても軽々と扱えるほどに。
だから、瑠美の体つきは一般的な十代女子の範疇だ。
少しばかり抜きん出ているものと言えば、持久力くらい。
体格・体型に何ら影響するものではない。
赤龍「あいつは時々面白いことを言うな」
穂村瑠美「でしょ?」
顔を出した赤龍の言葉に相槌を打つ瑠美。
穂村瑠美「その御蔭で、余計な緊張が解れるんだから大したものよね」
妙に抜けていると言うか、能天気。
そんな晃大の性分に救われた事は何度もあるし、
穂村瑠美「それがアイツの良い所よ」
赤龍「ふむ、光龍と相性が良いわけだ」
赤龍も納得した様子。
穂村瑠美「だからこそ、守らなきゃ」
〇本棚のある部屋
光龍「まったく、お前はアホか」
そんな晃大は、相棒に呆れられていた。
光龍「お前の武器のことを考えれば、答えは簡単だろうに」
姫野晃大「そうだよなぁ・・・」
晃大の武器は剣。
しかし、その重量はといえば無きに等しい。
手に持っている感覚はあるが、振り回すのを苦に感じることは全くない。
それほどに軽く、正に羽毛の如き軽さだ。
光龍「いくら何でも失言が過ぎたな、あれは」
姫野晃大「おっしゃる通りです、ハイ・・・」
呆れてため息をつく光龍と、項垂れる晃大。
姫野晃大(俺が本当に聞きたかったのは、)
〇綺麗な一人部屋
穂村瑠美「それにしても、コウも慣れてきたわよね・・・」
慌てず、騒がず、躊躇わず。
龍使いの中では一番最後に覚醒した晃大も、場数を踏んで成長している。
穂村瑠美「・・・」
仲間の足を引っ張ることが無いのは、素直に喜ばしい。
しかし、
穂村瑠美「コウが、ね・・・」
荒事には縁の無さそうな少年だった。
そんな彼が、命懸けの戦いに身を投じなければならないとは。
しかも、瑠美にとっては最も親しい人間の一人。
心中は複雑だった。
〇高い屋上
姫野晃大「瑠美はさ、何で斧槍にしたんだ?」
翌日。
晃大は前日に聞けなかった疑問の一つを瑠美に漸くぶつけることができた。
穂村瑠美「何よ、藪から棒に」
姫野晃大「だってさ、扱い難しそうじゃん」
長いし、多機能だし。
習熟の難しそうな武器を瑠美が選んだのは何故なのか。
穂村瑠美「そうね・・・」
穂村瑠美「ま、隠すことでもないし話してあげる」
〇センター街
穂村瑠美「・・・」
龍使いに覚醒してしばらく経ったある日。
瑠美は悩み事を抱えていた。
穂村瑠美「なんだか、しっくりこないな・・・」
赤龍に『武器を』と言われて即座にイメージしたのは日本刀。
その日本刀を得物として何度か魔族を撃退してきたが、
穂村瑠美「何か、違うような気がする・・・」
どうにも違和感が拭えずにいた。
赤龍「どうした、瑠美?」
浮かない顔の宿主を案じてか、赤龍が語りかけてきた。
穂村瑠美「それがね、」
瑠美は素直に話し始めた。
穂村瑠美「炎と刀が、うまく結び付かなくて」
赤龍の属性である炎。
現在使用している武器の日本刀。
穂村瑠美「その二つのイメージが、ズレてるような気がするのよね・・・」
赤龍「ふむ、そうか」
瑠美の言葉を赤龍は否定しなかった。
赤龍「そういう『時期』が来たようだな」
龍の力にも戦いにもある程度慣れて、精神的な余裕が出てきた証拠。
赤龍「もう一度、イメージしてみろ」
瑠美の思い。
炎のイメージ。
その二つを強く念じ、武器という形に。
穂村瑠美「私の思いと、炎のイメージ・・・」
瑠美は目を閉じ、意識を集中する。
穂村瑠美(私は・・・)
戦いに際して、どんな思いで臨んでいるのか。
そして、
穂村瑠美(炎・・・)
赤龍「そうだ」
赤龍「私は、お前を助けるためにお前に宿ったのだ」
赤龍「私を使え」
赤龍「お前自身の、思いを果たすために」
穂村瑠美「私は、」
何のために戦うのか。
穂村瑠美「私は、みんなを守りたい」
穂村瑠美「魔族という脅威から、私の周りの人達を、守りたい」
魔族という障害を、瑠美が、
穂村瑠美「私が、払い除けて見せる」
穂村瑠美「これが、私の!!」
赤龍を宿した右手から炎が迸り、形を成していく。
まっすぐ伸びた炎の中から現れ、瑠美の右手に握られていたのは、
〇高い屋上
穂村瑠美「それが、私の武器が斧槍になった経緯よ」
姫野晃大「へえ〜」
姫野晃大「お前も悩んだ時期があったのか」
穂村瑠美「当然よ」
魔族との戦いは命懸け。
生死を賭けた戦いに、妥協は許されない。
あらゆる手を尽くして万全の状態を作っておかなければ、勝てるものも勝てない。
穂村瑠美「それはそれとして」
瑠美はズイッと晃大に詰め寄り、
穂村瑠美「あんたの言い方、まるであたしが能天気なようにも聞こえたんだけど?」
姫野晃大「ち、違うって」
断じて違う。
穂村瑠美「そう?なら宜しい」
笑顔を見せる瑠美。
穂村瑠美「ま、あんたも大分戦い慣れてきてるし、先輩としては一安心ね」
姫野晃大「へいへい」
穂村瑠美「これからは、頼りにさせてもらうからね」
姫野晃大「おう、任せとけ」


