龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第陸拾弐話 刀供養(脚本)

龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

今すぐ読む

龍使い〜無間流退魔録外伝〜
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇普通の部屋
  橘家、一哉の部屋。
橘一哉「で、どーすんの、コレ」
黒龍「うむ、どうしたものかな」
  目の前には刀の残骸。
  玄伍から貰い受けてきたはいいが、
黒龍「これでは私にもどうしようもないな・・・」
橘一哉「黒龍の力でも無理なのかよ」
  完全修復は無理らしい。
黒龍「ミンチを復元して元の生物にできると思うか?」
橘一哉「あー、そりゃ無理だわ」
  一度壊れたものを元通りにするのは、古今東西例を見ない。
黒龍「接着がギリギリできる程度だな」
黒龍「元々私の力を凝縮させて作った物だ、私の力で繋ぐ事自体は可能だ」
橘一哉「くっつけたらまた使えるようになる?」
黒龍「無理だな」
  即答。
黒龍「一打ちか、最悪振ってる最中にバラバラになる」
橘一哉「完全にアウトですやん」
  それはつまり、修復したところで形を保つのが精一杯、ということだ。
  実用に耐える強度は獲得不可能、ということになる。
黒龍「逆にそれを応用するという手もある」
橘一哉「どんな?」
黒龍「一塊で使うのではなく、その壊れやすさを利用する」
橘一哉「つまり?」
黒龍「至近距離や突き刺した状態でバラバラに弾けさせる」
黒龍「魔槍ゲイ・ボルグのようにな」
  ケルトの神話に登場する槍、ゲイ・ボルグ。
  投げれば三十の鏃となって降り注ぎ、突けば三十の棘となって破裂するという。
橘一哉「それ、形は刀でも使い方は全く別物の武器だよな?」
黒龍「嫌か?」
橘一哉「気乗りはしない」
  そんな面倒な武器を今更新しく手に入れたところで、使いこなせる気がしない。
黒龍「そうか・・・」
  黒龍はしばし考え込んでいたが、
黒龍「供養に出すしかないな、これは」
橘一哉「供養って、どうするのさ」
  古くなったり駄目になったりした道具を供養と称して寺社に納めたりするのは聞いたことはある。
  こんなボロボロの刀を、しかも由来が尋常ではない物を受け入れてくれる所があるのだろうか。
黒龍「ちょうど良い場所があるぞ」
橘一哉「まじで?」

〇古びた神社
橘一哉「なんでここなのさ」
  開口一番、一哉は疑問の言葉を口にした。
  修復不可能な愛刀の供養に最適な場所。
  黒龍の道案内に従い、その場所にやって来た。
  その場所とは。
橘一哉「毎度おなじみ八十矛神社で何をどうしろってのさ」
  八十矛神社であった。
  しかも時刻は夜。
  参拝には最も不適切な時間帯だ。
  管理人の美鈴がいるはずもなく、施設は施錠されて無人。
黒龍「ここだからさ」
  黒龍は自信ありげに答える。
  何らかの確信があるのだろう。
橘一哉「訳わからん」
  だが、それを一哉に説明してはくれなかった。
黒龍「それはともかく、急ぐぞ」
  今回ばかりは、黒龍の思惑が一哉にも読めなかった。
  しかし、今まで黒龍の言うことに従って間違ったことはない。
  黒龍に促されるまま、一哉は足を進めた。

〇山の中
橘一哉「本当にいいのかよ?」
  幼時から人外の存在と接してきた一哉は、年齢の割に信心がある方である。
橘一哉「仮にも神域の真っ只中なんだけど?」
  八十矛神社の奥に広がる森。
  いわゆる『鎮守の森』は、神域であり立ち入りは特別な場合を除いて原則的に禁止されている。
  その只中を、木々の隙間から漏れる僅かな光と黒龍の指示を頼りに進んでいく。
  さすがの一哉も色々な意味で不安を拭いきれない。
  身体的な危険、倫理的な問題。
  安全で問題ないとは言えない。
黒龍「大丈夫だ、私を信じろ」
橘一哉「信じるけどさぁ・・・」
  何事かを知っているであろう黒龍である。
  一抹の不安を抱えつつ進んでいく一哉だったが、
橘一哉(?)
  ある違和感に気付いた。
橘一哉(道がある?)
  獣道すら無いような原生林だと思っていた。
  だが、違う。
  それなりに歩き続けているが、木の根や石、起伏などに足を全く取られていない。
  その上、草木の枝葉にも全くと言っていいほど引っかからない。
  明らかに整備された道だ。
  なのに、なぜか、
橘一哉(見えていない・・・?)
  一哉の目には、それが見えていない。
  確認できない。
  この暗さを差し引いても、黒龍に示されて歩く道が、一哉の目には全く分からない。
橘一哉(結界でも張られてるのか?)
  縁あって又従姉が管理人を務めることになった、歴史ある神社。
  ただの古い神社ではなさそうだ。

〇和室
佐伯美鈴「あら、あらあら」
  美鈴は寝室で目を覚まし、声を上げた。
佐伯美鈴「こんな時間に人が来るなんて」
  そう呟いて顔を向けたのは、自身が管理人を務める八十矛神社の方角。
佐伯美鈴「しかも、あの子だわ」
  笑みを浮かべる美鈴。
佐伯美鈴「あの方が導いて下さるから、多分大丈夫よね」
佐伯美鈴「ゆっくり寝るとしましょうか」
  再び布団に潜り込み、目を閉じた美鈴が寝息を立て始めるまでに然程時間はかからなかった。

〇湖畔
  神域の鎮守の森を進んだ一哉が辿り着いたのは、
橘一哉「なんだ、ここ」
  泉のほとり。
  森が急に開け、大きな泉が現れた。
  その岸辺には、磐座と呼んで差し支えない巨岩と、そこに根を張り泉にまで先端を伸ばす巨樹。
橘一哉「こんな場所があったのかよ・・・」
黒龍「うむ、ここで間違いない」
  黒龍が顔を出して辺りを見渡す。
橘一哉「こんなのがあるなんて知らなかったぞ、黒龍」
  思わず黒龍に声を掛ける一哉。
黒龍「普段は十重二十重の結界で厳重に隠されているからな、無理もない」
  やはり結界が張られて隠されているらしい。
黒龍「ここに立ち入ることができるのは、資格があり立ち入りを許された者のみ」
橘一哉「俺にはその資格があると?」
黒龍「ああ」
  黒龍は頷く。
黒龍(最も、お前は単なる資格持ちではないがな)
橘一哉「それで、どうすれば良いんだ?」
  黒龍の言葉から、刀供養の場所がここであることは分かった。
  ここで何をすれば良いのだろうか。
黒龍「そうだな、」
  黒龍は再び周りを見渡し、
黒龍「・・・あ」
  動きが止まった。
橘一哉「黒龍、どうした?」
  一哉もつられて黒龍の視線の先に目をやると、

〇湖畔
「うげ」
  そこにいた人物と同時に声を上げた。
月添咲与「お前は、橘一哉!?」
  そこにいたのは、迦楼羅使いの少女、月添咲与。
橘一哉「なんでお前がここに!?」
月添咲与「それはこっちのセリフだ!」
  咲与は敵意を剥き出しにして一哉を睨みつける。
月添咲与「これじゃ秘術の会得がパーじゃないか!」
橘一哉「秘術?」
月添咲与「貴様には関係ない話だ」
  羞恥と悔恨の入り混じった怒気は一瞬にして殺気に変わり、
月添咲与「見られたからには死ね!」
橘一哉「おわあ!」

〇湖畔
橘一哉「待て待て待て!」
月添咲与「待つものか!」
  一哉の制止など聞き入れる様子もなく、咲与は一哉に攻撃を繰り出す。
橘一哉(こいつ、目がいいな!)
  月と星の光が泉に反射してはいるが、その周囲は鬱蒼と茂る森。
  そんな僅かな光の中で、咲与は的確に一哉を狙ってくる。
黒龍「カズ、走れ!」
  既に一哉の左前腕に引っ込んだ黒龍が、一哉の脳裏に直接語りかける。
橘一哉「どこまで!?」
「あの岩の下、木の洞まで行け!」
橘一哉「了解!」
  一哉は大きく飛び退いて咲与から離れると、回れ右をして走り出した。
月添咲与「貴様、逃げるか!」
橘一哉「逃げる!」
  振り向く暇はないが、口答えする余裕はあった。
  むしろ言葉の遣り取りをすることで咲与の気を逸らし、攻め手を緩める。
  泉の岸、水際ギリギリを全力で駆け抜け、最短距離で目的地を目指す。
月添咲与「待て!」
橘一哉「待たない!」
  一哉の足は意外と速かった。
  咲与は中々追い付けない。
  そして泉はかなり大きかった。
  磐座と大樹に比べれば小さく見えたが、それは磐座と大樹が規格外の巨大さを誇っていたからだった。
橘一哉「うお、でっか」
  近付くにつれて、その威容が一哉を圧倒する。
月添咲与「ッ・・・!」
  一哉にのみ狙いを定めていた咲与ですらも、存在感を感じざるを得なかった。
  自然と足を緩めてしまう。

〇木の上
橘一哉「よっしゃ着いた!!」
  ようやく辿り着いた磐座と巨樹の麓。
橘一哉「すげえなコレ」
  磐座自体も巨大だが、それに根を張る大樹は更に巨大だった。
  見上げれば先端が全く見えず、枝葉は広々と生い茂り、磐座と幹で視界が覆い尽くされてしまう。
  そして地上に目を移せば、枝分かれした太い根が磐座を包んでいる。
黒龍「磐座の隙間に刀を納めろ」
橘一哉「お、おう」
  桐箱から刀を取り出し、磐座と根が絡み合う隙間に刀を納める。
橘一哉「・・・入った」
  全長120センチ余りの刀がスッポリと納まりきって尚余裕があるほど、隙間は広く大きかった。
黒龍「これでよし」
橘一哉「これだけ?」
黒龍「これだけだ」
  迷いなく答える黒龍。
  何かしらの儀式的な手順があるのかと思っていただけに拍子抜けしてしまった。
黒龍「あの大樹は世界樹、磐座は世界のへそ、この泉は大元より湧き出る霊泉」
黒龍「私から分かれた力を大元に還すのに、これほど適した場所はない」
橘一哉「そんな大層な場所なのか、ここ」
黒龍「何よりも、この社の名を思い出してみろ」
  八十矛神社。
  すなわち、
橘一哉「武具の聖地、ってことか」
黒龍「その通りだ」
  力強く首肯する黒龍の声。
黒龍「さあ、残る問題を片付けるぞ」
橘一哉「ああ」

成分キーワード

ページTOPへ