龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第陸拾壱話 会盟(脚本)

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〇実家の居間
  如月古物店。
  通称『如月堂』。
  如月玄伍の営む古物店である。
  店舗と言っても自宅の一角をリフォームしたもので、表から見ると昔ながらの民家にしか見えない。
  出入り口にかかる暖簾と看板のおかげで、漸く店舗だとわかる程度の店である。
  普段は閑古鳥が鳴く開店休業状態の店に、その日は珍しく大勢の客が来ていた。
  が、客の目的は古物の物色ではない。
如月玄伍「そうか、君たちが、『龍使い』なのか」
姫野晃大「あ、ハイ」
  周りを忙しなく見回していた晃大が、慌てて頷く。
如月玄伍「こういう古い造りの家屋は珍しいかね?」
姫野晃大「はい」
  玄伍の重ねての問いにも、晃大は素直に頷いた。
姫野晃大「こんな古い家が残ってるなんて驚きました」
  如月家は平坂市郊外の新興住宅地域にある。
  住宅地としての開発が進んだのは最近だが、如月家はそれ以前からこの地域に暮らしてきた。
  名家というほどではないが、先祖代々この地で歴史を重ねてきた。
  家屋自体も百年を超す古民家である。
  毎日の整備を欠かさず、細かな修繕を重ね、こうして今も残っている。
  そんな隠れた歴史遺産に、
雀松司「やはり狭いですね・・・」
如月玄伍「それはまあ、そうだな」
飯尾佳明「テツ、もう少し縮まれ」
古橋哲也「無理言わないでよ、これでも頑張って縮こまってるんだから」
穂村瑠美「コウだって体格いいんだから遠慮しなさいよ」
姫野晃大「オレはテツほど太くないから幅は取ってないぞ」
梶間頼子「縦にも縮んでくれないと後ろのあたし達が隠れるんですけど」
姫野晃大「じゃあ前に来なよ」
梶間頼子「それはイヤ」
辰宮玲奈「何だか皆んな楽しそうだね」
橘一哉「こんだけ密集するの初めてだしね」
草薙由希「玄伍さん、湯呑が足りないから紙コップ使いますね」
如月玄伍「ああ、そうしてくれ」
竹村茂昭(なんだこのカオス)
  龍使いと四神の使い手が一堂に会していた。

〇実家の居間
如月玄伍「しかし、昔ながらの造りで本当に助かった」
  日本家屋の特徴の一つに、隣り合う部屋を壁ではなく障子で仕切るというものがある。
  障子を取り払えば、一続きの広間として利用できる。
  だが、そこは古物店の如月堂。
  店に出ていない品物で部屋が占領されており、隣の部屋を空けようにも空けられず。
  しかし、居間の調度を隣の部屋に押し込んで空間を作り、一部屋に都合11人を入れるようにした。
如月玄伍「しかし、どうして揃って押しかけてきたのだね?」
橘一哉「ああ、それはですね」
草薙由希「お茶が入りましたよ」
  そこに由希が入ってきた。
如月玄伍「すまないね、客の君にこんな事をさせてしまって」
草薙由希「いいんですよ、これくらい」
  にこやかに笑みを返す由希。
橘一哉「で、今回の訪問なんですけど」
  改めて一哉が口を開く。
橘一哉「まず、俺個人の用事がありまして」
如月玄伍「個人的な?」
橘一哉「ええ、」
  一哉は首を縦に振り、縁側、そして庭を見やる。
橘一哉「壊れた刀の欠片を探しておりまして」
  そう言って一振りの刀を出現させた。
如月玄伍「ほう、これは・・・」
  その拵えに、玄伍は確かに見覚えがあった。
  鞘も金具も無数の亀裂が入り、柄糸も擦り切れてボロボロになった、全長四尺弱の打刀の拵。
  玄伍の金剛鉄甲と真っ向から打ち合い砕けた、一哉の刀。
如月玄伍「なぜ、鞘までボロボロに?」
  刀身と繋がっていた柄や鍔がボロボロなのは理解できる。
  しかし、鞘までダメージを受けていることが理解できない。
橘一哉「こいつは特別製で、全ての拵が『繋がって』いるんです」
  一哉は説明した。
  この刀、鞘は刀身を納めるだけのものではない。
  刀身だけでなく鞘も含めた拵の全てに黒龍の力が込められている。
  拵え全てが黒龍の力で繋がっており、互いに力を増幅し合うようになっている。
  一方、受けたダメージが大きいと、直接攻撃を受けた部位だけでなく他の部位にもダメージが及ぶ。
橘一哉「つまり、玄武の奥義は凄まじい威力だった、ってことです」
  直接ぶつかり合った刀身は砕け散り、玄武の力が波及した拵えは柄巻の糸がボロボロになり、鞘には無数の亀裂。
  四神の力、恐るべし。
橘一哉「で、刀身の欠片がまだ落ちてないかなぁ、と思いまして」
如月玄伍「それならば、」
  玄伍は立ち上がり、
如月玄伍「ほれ、ここに」
  棚の中から箱を取り出して机の上に置いた。
如月玄伍「捨てるのもどうかと思ってな、保管していたよ」
  蓋を開けると、そこには、
  一同は目を見張った。
橘一哉「うわ、すげえ」
  一哉も思わず身を乗り出してしまう。
如月玄伍「自宅の庭は、綺麗にしておきたかったからね」
  余程丹念に探し、拾い集めたのだろう。
  ジグソーパズルのように、綺麗に並べられた破片が刀身の形を成していた。
如月玄伍「君の言う通りだ」
如月玄伍「敷地内で妙な力を感じた辺りをよく探してみると、必ず破片が見つかってね」
  それよりも何よりも驚くべきは、
雀松司「霧散せずに残っていたというのですか!?」
  司の言葉に玄伍は黙って頷く。
  いくら龍の所産と言えど、玄武の力を受けて破壊されたもの。
  そのまま消滅してもおかしくないのに、破片の状態とはいえ形を留めているのは奇跡と言って良い。
如月玄伍「元々君と黒龍のものだ、持っていきなさい」
橘一哉「ありがとうございます」
  喜色満面の顔で机に額が着きそうなほど深々と頭を下げる一哉だったが、
如月玄伍「セロハンテープで巻いてあるだけだから、慎重にな」
橘一哉「え?」
  玄伍の言葉に固まった。
雀松司「せ、セロハンテープ・・・?」
  司の顔も引きつる。
如月玄伍「うむ、接着が無理だったのでね、取り敢えずテープで巻いただけだ」
「ええ・・・」

〇実家の居間
如月玄伍「それでは本題に入ろうか」
  玄伍は改めて龍使いを見渡す。
如月玄伍「一個人の私用のために、揃って押しかけてきたわけではないのだろう?」
如月玄伍「しかも、他の四神も呼べとは」
草薙由希「ええ、その通りです」
  玄伍の問いに口を開いたのは由希。
草薙由希「カズの用事は物のついで」
光龍「本題は、もっと重要な話だ」
  晃大の右手から光り輝く龍が出現する。
光龍「四神と龍、協力して事にあたるべきではないかと思ってな」

〇アパートの中庭
橘一哉「・・・」
  少し微妙な扱いを受けた愛刀の残骸。
  何となく気が萎えてしまった一哉が縁側に座って仮復元された愛刀を眺めていると、
雀松司「橘くん」
橘一哉「なんです、雀松さん」
  司も話を抜け出したのか、一哉に声をかけてきた。
雀松司「司、で良いよ」
橘一哉「ええ、司さん」
雀松司「刀が砕けた後、君はどうやって戦っていたんだ?」
  率直な質問だった。
  龍の力は強大である。
  武器という媒体を通すことで、宿主の負担を軽減しつつ力を扱いやすくしている。
  まだ十代の若者である一哉が、媒体たる武器も無しに如何様にして魔族と戦っているのか。
  それが司には気になった。
橘一哉「?素手ですが?」
雀松司「!?」
橘一哉「ほら、こうやって、」
  一哉が息を整え手刀を作ると、
  黒い霧が一哉の前腕を覆う籠手となった。
雀松司「金剛鉄甲と同じか・・・!!」
橘一哉「そういえば、そうですね」
  原理は同じ。
  神獣の力を具現化させ、身に纏うだけ。
橘一哉「あ、でも、」
  違う事が一つだけある。
橘一哉「俺、素手の武芸を習ったことないです」
雀松司「我流だと!?」
  司は再び驚いた。
橘一哉「刀を振るつもりで、全力で手足を振り回してるだけですね、俺」
  剣術の要領を応用するだけで、実際に戦えるレベルに至っているというのか。
雀松司「君には武芸の才能がありそうだな」
  大抵の場合、何かを習い覚えても、それを他の物事に応用する事は中々思い浮かばない。
  それができるのは柔軟な発想の持ち主である証拠だ。
  柔軟な発想力と、一定以上のレベルで可能たらしめる実力。
  つまり、天賦の才がある。
橘一哉「そこで一つ頼みがあるんですけど、」
雀松司「?何だ?」
橘一哉「俺に、素手の戦い方を教えてくれませんか?」

〇湖畔
  太古、人類は自然の中で暮らしていた。
  それは即ち、幽霊や妖怪、魔物など、人外のものと隣り合わせで生きてきたことを意味する。
  人が文化を生み、文明を発展させてきたのは、『生きる』ためである。
  より多くの同胞を生かすため、人に害為す人外の影響を防ぐ様々な方法も生み出された。
  呪術、魔術、宗教、信仰、祭祀。
  そんな中に、『四神相応』がある。
  東の青龍。
  西の白虎。
  南の朱雀。
  北の玄武。
  四方にそれぞれ神獣を配し、その象徴する地形を利用して繁栄を得ようとするものである。
  それは人を中心とする世界を形成する『結界』の一種でもある。
  その結界の中では人外の悪影響は抑制され、人類が生きやすい環境が形作られている。

〇実家の居間
如月玄伍「そうして現在の『人間界』は作られている」
如月玄伍「だが、人為的なものゆえに自然に作られたものよりも綻びが生じやすい」
如月玄伍「人間界の霊的綻びは、時と場所を選ばず生まれ続けている」
如月玄伍「そうした綻びの隙間から人間界を侵食してくる、人ならざる人外に相対するのが我ら四神の役割」
如月玄伍「だが、ここ数年は綻びの質が明らかに変わってきた」
如月玄伍「それは、君たち『龍使い』の覚醒と時期を同じくしている」
飯尾佳明「・・・魔族か」
如月玄伍「如何にも」
  佳明の言葉に玄伍は頷く。

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コメント

  • 平和な終わり方だ…!
    姫野くんは頑張ってくださいね

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