日本(やまと)の大魔王(脚本)
〇城の回廊
治天の君も今むかし
平らか治むる平安京
〇後宮前の広場
二人の御子の大いくさ
ハレの帝は天照らし
あはれ崇徳はケに沈む
〇後宮の庭
『危ねえっ!』
鬼丸「ふうっ・・・間一髪」
清盛「お前は・・・」
清盛「ふむ、一瞥以来だな、小鬼。 ひととせぶりかい?」
清盛「飛び道具をはじき返すたあ、 出来るようになったじゃねえか」
鬼丸「軽口は後にしてくれ」
清盛「大人になったねえ。何があったんだ?」
清盛「あの鬼面の物の怪どもと・・・」
鬼丸「・・・」
???「・・・」
鬼面「鬼丸、生きていたか」
鬼丸「ああ、アンタもな」
〇謁見の間
武者丸「左府様!大事ございませぬか!」
鬼丸「左府さん!どこだ!」
左府「狼狽えるな、ここだ」
武者丸「左府様・・・」
武者丸「よくご無事で」
鬼丸「ハハッ・・・泣くほどのことかよ」
鬼丸「歴史書が死んだって書いても、実は どっこい生きてるぜって人じゃねえか」
左府「阿呆みたいな褒め方をするな」
左府「武者丸よ。脱出の用意は」
武者丸「は、はい。鎮西八郎殿が敗れ、 今は平家同士の乱戦が起こっております」
鬼丸「すったもんだに乗じる機会は今しかねえぞ」
左府「参りますぞ殿下。 いや・・・崇徳帝でしたな」
顕仁皇子「どちらでもよい」
顕仁皇子「もう、どうでもよい。捨てていけ」
左府「ええい、この後に及んで怠惰も極まれり」
左府「ならば御印頂戴して内裏に戻ろうか!」
鬼丸「まあまあ落ち着いて」
鬼丸「そんなことしたって、 もう相手方が受け入れてくれるわけ・・・」
左府「左様なこと分かっておる!戯れ言だ!」
鬼丸「あっそう!」
顕仁皇子「痴話喧嘩は他所でしてくれ」
「誰が痴話喧嘩だ!この陰気皇子が!」
顕仁皇子「悪口まで意気投合するでない」
「ふん!」
白面武者「見つけたぞ!偽帝崇徳!」
白面武者「そして惡左府頼長!」
白面武者「天下を我が物とせん邪望もここまでだ!」
鬼丸「うるせえや、都の飼い犬ども」
白面武者「何っ!?」
白面武者「ぐふっ!」
白面武者「ひいっ・・・化け物!」
武者丸「お前・・・その太刀筋」
武者丸「戦えたのか」
鬼丸「まあな。 村が滅んでから ずっと流浪の身だったからよ」
左府「何故黙っていた」
鬼丸「引くだろ。こんなカワイ子ちゃんが、 バッタバッタと人殺しまくったら」
左府「ふむ、成程。うぬはまことの鬼であったか」
鬼丸「次の追手が来る前に逃げるぜ。 これ以上増えたら殺しきれねえ」
武者丸「おぞましや・・・」
左府「ははっ・・・はははは!」
左府「はははははははは!」
武者丸「左府・・・様?」
左府「そうだ鬼丸」
左府「私に力をくれ」
鬼丸「え?」
左府「鬼の力だ」
左府「その、まつろわぬ物の怪の力だ」
左府「穢れに穢れたケダモノの子よ。 お前は・・・」
左府「ずっと、この私のものだ」
鬼丸「ああ、分かったよ」
鬼丸「こうなりゃ どこまでもついて行ってやらあ」
左府「見ておれ。 この鬼の力で私を欺いた者どもを・・・」
武者丸「我が君、お急ぎ下さい!」
左府「武者丸。これよりは修羅の道ぞ」
武者丸「心得ております!」
左府「ゆえに・・・」
武者丸「・・・え?」
左府「お前は気ままに致せ」
武者丸「お、仰ってる意味が分かりませぬ」
左府「これまでの役目、大儀であった」
鬼丸「おい、どうしたってんだ?武者丸も一緒に」
左府「修羅の道になると言ったはず。 お前がいれば十分だ」
左府「刻が惜しい。往くぞ鬼丸」
左府「さらばだ、武者丸」
鬼丸「お、おう!」
武者丸「お待ちください・・・」
武者丸「我が君・・・」
武者丸「待って・・・」
武者丸「待って・・・」
武者丸「待って・・・頼長様・・・」
「くくく・・・捨てられたようだな」
顕仁皇子「捨てられたのだ。お前も我も」
武者丸「黙れ・・・」
顕仁皇子「役立たずとなれば躊躇なく切り捨てる。 まさに即断即決の惡左府よ」
武者丸「黙れ!」
顕仁皇子「腹いせに殺すか?」
顕仁皇子「非人に殺されるとは、 今の我にふさわしい末路だ」
顕仁皇子「平安のハレに拒まれ続けた。 闇の皇子にはな」
顕仁皇子「ふふふ・・・」
顕仁皇子「ははははは・・・」
武者丸「ハレに拒まれた・・・」
武者丸「闇の者・・・」
武者丸「闇・・・闇・・・闇・・・」
武者丸「もう、どこもかしこも、闇・・・」
武者丸「どうして・・・」
武者丸「何故こうなった・・・」
武者丸「これが平安・・・」
武者丸「こんな平安を私は愛していたのか・・・」
〇黒
〇謁見の間
武者丸「ならば・・・」
武者丸「民をば上げて王となし」
武者丸「王をば下げて民となす」
武者丸「我は日本の大魔王」
武者丸「この世のハレを呪う者」
顕仁皇子「日本の大魔王・・・」
顕仁皇子「ハレを・・・呪う者」
武者丸「崇徳様」
武者丸「共に地獄へ堕ちてさしあげます」
顕仁皇子「地獄へ・・・」
武者丸「さあ・・・」
地獄へ・・・
〇後宮の庭
崇徳院「控えおれ、内裏に巣食う俗物ども」
讃岐廃帝 崇徳院
武者丸「人ならざる餓鬼畜生はお前達だ」
踊り女「王家よ。貴族よ。武者よ。僧侶よ」
踊り女「お前達が作り出した平安を滅ぼしてやる」
武者丸「この大魔王がな」
CONTINUED