市長、イベントを開催する!(脚本)
〇カラオケボックス(マイク等無し)
とある日、愛香は石川と昼休みの合間にカラオケに来ていた。
石川「市長、僕の十八番どうでしたか?この歌、 鼻っから自身満々なんすよねぇ!!」
石川「市長さんにもずっと前から聴かせたかったんで・・・」
星野愛香「う、うん。まぁ上手かった・・・と思う」
石川「でっしょ〜★」
星野愛香(石川くんって意外と、ド音痴なんだ・・・)
星野愛香(素人以下レベルなんですけど・・・)
石川「そうだ!!ついでにもう一曲歌っていいですか?今思い付いたんで」
石川「市長もちゃんと耳かっぽじって聴いてくださいよ?今しか聴けないんですからね?僕の美声」
(てか、耳塞ぎたくなるんだけど・・・)
石川は、愛香の反応も気に留めず、堂々と唄い始める。
石川「市長、どうでした? 僕の歌声。 やっぱ、サイコーでしょ?」
星野愛香「うん。ごめんだけど、全然上手くなかった。声がひっくり返ってたし」
石川「何も、そんなひどいこと言わなくたっていいじゃないですかぁ~。 一生懸命歌ったのにぃ~」
星野愛香「ごめんなさい。 言い過ぎたわね。 さっ、そろそろ役所に戻りましょ」
〇車内
車中でも、石川は落ち込んでいた。
星野愛香「いっ、石川くん。 まだ私が言ったこと、引きずってる?」
石川「そっ、そんなこと、なっ、ないっすよ~」
星野愛香「その割りには、声裏返ってるじゃない」
石川「そっ、そうですか~?」
星野愛香「けっ、けど個性があってよかったわよ?」
石川「市長、それ何のフォローにもなってないですよ」
星野愛香「ごめんなさい」
石川「せめて、市長だけは嘘でも褒めてくれるって信じてたのに・・・」
星野愛香「・・・一応、自覚はしてるのね・・・」
石川「えっ・・・!?」
星野愛香「いや、何でも無いわよっ」
しばらくクルマを走らせていると、一人の少年がギターを弾いていた。
石川「あっ、市長ちょっとクルマ止めますっ!」
星野愛香「石川くん?どこ行くの?」
石川はクルマを降り、少年の方へと歩いていく。
〇公園のベンチ
石川「こんにちは!」
石川がギター少年に声を掛けた。
りゅうせい「こっ、こんにちは・・・」
りゅうせいは、石川を警戒している。
星野愛香「石川くん、こんなとこにいたのね。 探したのよ?」
石川「君、中々いいギター持ってるねぇ。それ、『テレマスター』だろ?」
りゅうせい「・・・」
石川「ん?どした?」
りゅうせい「『テレキャスター』です」
星野愛香「・・・」
石川「そうそう。 それだっ。 いやぁ、テレマスターだけに間違えマスターってね。僕、間違えて照れましたー」
〇公園のベンチ
星野愛香「それはそうと、石川くん。 ギター詳しいの?」
石川「はい。 ちょっとかじってたんです。 あっ、ほんとにかじったわけじゃないですよ?」
星野愛香「そんなこと分かってるわよ! ほんとにギターかじるバカどこにいんのっ」
りゅうせい「あははっ! 二人とも面白いですね。 お笑いとかしてるんですか?」
星野愛香「私、市長をしてます。 星野です」
石川「僕は秘書の石川です」
りゅうせい「市長と秘書?」
星野愛香「はい」
りゅうせい「へぇ、僕市長さんに会うの初めてだ」
りゅうせい「しかも、めちゃくちゃ美人」
星野愛香「聞いた?石川くん、私美人だって」
石川「市長、そんなのお世辞に決まってるじゃないですかぁ~。 ねっ?少年」
りゅうせい「いやいや、ほんとに。 うちの母親に比べたら美人ですよ」
石川「君、名前聞いてなかったよね? 名前は?」
りゅうせい「『星崎りゅうせい』です」
星野愛香「星崎くんは、中学生かしら? ここで、何してたの?」
りゅうせい「はい。 中学3年です」
石川「中3? 今時の学生は、大人っぽいなぁ~」
りゅうせい「実は僕、ここでたまにギター弾いてるんです。家だと近所迷惑になるから・・・」
星野愛香「そうだったの・・・」
石川「じゃあ、星崎くんは将来ミュージシャン志望なのかな?」
りゅうせい「ミュージシャンというより、シンガーソングライターになるのが夢なんです」
星野愛香「シンガーソングライター?」
石川「作詞、作曲を全て自分がし、自分の楽曲を中心に歌うこと・・・だよね? 星崎くん・・・」
りゅうせい「そうです」
星野愛香「そうなんだぁ。 素敵な夢ね・・・」
石川「じゃあ、自分の曲も作ってるの?」
りゅうせい「いえ、まだそこまでは・・・ 今は好きなアーティストの曲をスマホで見て、コードを弾いてるだけです」
石川「へぇ、すごいなぁ~」
星野愛香「石川くんは、何でギター辞めちゃったの? 何か弾ける曲とかあった?」
石川「いやぁ、弾く前に辞めちゃったんですよ・・・ 色々あって・・・」
りゅうせい「もしかして、腱鞘炎とかですか?」
石川「いやぁ、難しいコードがあって挫折しただけです」
星野愛香「石川くん、次ギターのこと聞かれたら むやみにギターかじってたって言わない方がいいかもね・・・」
りゅうせい「僕もそう思います・・・」
石川「あはは、やっぱり?」
りゅうせい「けど、さすがに公園で弾くのも無理があって・・・ ギター弾きながら歌うのは、公園を利用してる人の迷惑にもなるし・・・」
石川「カラオケで歌うのは?」
りゅうせい「カラオケで歌ったこともあります。 けど、そんな頻繁には行けないんです。 お小遣いもなくなっちゃうし・・・」
星野愛香「確かにそうよね・・・」
りゅうせい「せめて、公園以外でおもいっきり弾けて歌える場所があればいいのに・・・」
〇車内
石川「市長、星崎くんの話し聞いてどう思いました?」
星野愛香「そうね、どうにしかして星崎くんの願いを叶えてあげたいわ・・・」
石川「彼の夢は、シンガーソングライターになることですよ? 叶えてあげましょうよ」
星野愛香「そうは言ってもねぇ・・・ 回りに迷惑をかけずに歌える場所か」
〇稽古場
週末、愛香はスタジオに来てダンスの練習や歌の練習をしていた。
月島虹花「ねぇ、うちらってさぁ、いつまで練習しないといけないんだろ・・・」
立花花音「確かに。 一か月近くは練習してるよね。 まだ、披露するには早すぎるってことなのかなぁ」
月島虹花「てかさ、Polarisの衣装とかどんなのだろ」
立花花音「かわいいのがいいよね。 ピンキーみたいに」
月島虹花「愛香、どしたの? 元気なくない?」
星野愛香「ごめん。 ちょっと考えごとしてて・・・」
立花花音「大変だよね。市長の仕事も忙しいでしょ? こないだの商店街のハロウィンイベント、ニュースで観たよ」
月島虹花「私も観た。 愛香のアイデアで、古びた商店街に賑わいを取り戻したって。 私も参加したかったなぁ」
立花花音「次はどんなイベントするの?」
星野愛香「まだ考え中かな・・・」
〇稽古場
事務所関係者「皆さん、練習お疲れ様です。 順調ですか?」
月島虹花「あっ、社長と夏目さん。 お疲れ様です」
事務所関係者「お疲れ様。 どう?少しは良くなってるかしら? 津田さんから聞いた話しだと、前に比べたら良くなってるって聞いたけど」
立花花音「まだあまり自信はありませんが、何とか頑張ってます」
事務所関係者「てか、頑張るのは当たり前でしょ?あなた達はアイドルなのよ?」
月島虹花「ですが、まだ披露される場もないですし。 正直、不安でたまりません」
事務所関係者「そんなあなた方に朗報ですよ。 年末のカウントダウンライブで、Polarisを出演させようと考えてます」
星野愛香「ほっ、本当ですか!?」
事務所関係者「嘘言ってどうすんのよ・・・ そこで今日は、あなた達にPolarisの衣装を用意しました。 今からこれに着替えて下さい」
夏目は三人に、衣装を渡す。
月島虹花「あっ、ありがとうございます。 皆、着替えてこよう」
〇稽古場
月島虹花「あの、どうでしょうか?・・・」
事務所関係者「うん。 悪くはないんじゃない? ですよね? 渋沢社長」
事務所関係者「皆さん、とても似合ってますよ」
事務所関係者「この衣装で、カウントダウンライブに出てもらいます。 曲はまだありませんので、ピンキーの曲をカバーしてもらいます」
星野愛香「ピンキーの曲・・・」
事務所関係者「三曲を予定してますので、津田さんと相談して決めて下さい。 練習時間もこれまで通りではいきません。 いいですね?」
月島虹花「わっ、分かりました・・・」
事務所関係者「では、私達はこれで。 社長、行きますよ?」
事務所関係者「皆さん、期待してますよ? 体調には、十分気を付けて下さいね」
〇稽古場
月島虹花「ついに、出演が決まったね」
立花花音「年末のカウントダウンライブか」
星野愛香「それまでに、完璧にしとかないと」
月島虹花「こうしちゃ、いらんない。 花音、愛香、頑張るよ?」
立花花音「うん」
星野愛香「頑張ろう」
〇個別オフィス
月曜日、愛香は疲労がたまっている中業務をこなす。
そこに、石川が現れた。
石川「市長、おはようございます。 紅茶、どうぞ」
星野愛香「ありがとう・・・ けど、今日は紅茶の気分じゃないのよね。 石川くん、栄養ドリンクみたいなのないかしら・・・」
石川「栄養ドリンクですか? 市長、大丈夫です? 何か顔が疲れてるみたいですが・・・」
星野愛香「やっぱり? ちょっと色々あってね・・・」
石川「もしかして、星崎くんのことですか?」
星野愛香「えっ?」
星野愛香「それもだけど、プライベートのことよ」
石川「もしかして、彼氏と喧嘩したとか? それは大変ですね」
星野愛香「だから違うって! いいから、栄養ドリンク買ってきて!」
星野愛香(って何言ってるんだろう。秘書だからって、石川くんは召使いじゃ無いのよ。私のバカ)
星野愛香「ゴメン。色々悩んでてイライラしてて・・・つい八つ当たりしちゃった」
星野愛香「いいわよ。それくらい自分で買ってくるから。いつもありがと」
石川「・・・え、あ、はい。市長こそ無理なさらずに」
〇商店街
その後、愛香は石川を置いて一人商店街を訪れた。
住人「おや?市長さんじゃないか。 どうした?」
星野愛香「あっ、魚沼さんこんにちは」
住人「珍しい。 今日はあんた一人か?」
星野愛香「はい。石川は別件で今日は来てません」
住人「そうか。 この間はありがとうな。 あの後も、アートトリックストリートを見に客が足を運んでくれとるよ」
星野愛香「そうですか。 それは嬉しい限りです」
住人「だがなぁ、一つ問題があるんじゃ」
星野愛香「問題・・・ですか?」
〇個別オフィス
石川「市長、どこに行ってたんですか? スマホも置きっぱなしだし、心配したんですよ?」
石川「ついでに、栄養ドリンクもたっくさん買ってきたんで、好きなだけ飲んで下さい」
星野愛香「ねぇ、石川くん。この市ってテーマソングとかないわよね?」
石川「あ~、地域のうたみたいなやつですか? この市にはありませんよ? どうしてですか?」
星野愛香「魚沼さんがね、この市にも地域ソングがあればいいのにって話されてたの」
星野愛香「隣町には、地域ソングがあるでしょ? だから、この市にも地域ソングがあれば賑やかになるんじゃないかって思ってるみたい」
石川「地域ソングか・・・」
石川「魚沼さんって、ほんとにいい人なんですね。 この市に、すごい愛着あるの分かる気がするなぁ~」
星野愛香「私より先に、ここに居る人だもの。 誰よりも真剣に、この市のことを一番に考えてるわ」
石川「市長、こうなったら星崎くんの夢と魚沼さんの夢、同時に叶えてあげましょう」
〇ホテルのエントランス
石川と愛香は、宿泊施設を訪れる。
ホテルの受付譲「あっ、市長さん。 いらっしゃいませ」
星野愛香「こんにちは。 あの、支配人にご相談したいことがありまして、今日はいらっしゃいますか?」
ホテルの受付譲「支配人ですね。 かしこまりました。 少々お待ち下さい」
受付譲は支配人を呼ぶため、裏に入っていった。
しばらくして、支配人が現れる。
支配人「市長。お待たせ致しました。 今日はどの様なご相談で?」
星野愛香「支配人、ホテルの横にあるホール。 現在、お使いになられてますか?」
支配人「ホールですか? あそこはたまにしか利用しないので、現在は使ってませんが・・・」
星野愛香「でしたら、しばらくの間ホールをお借りしたいのですが・・・」
支配人「一体、何に利用されるんです?」
愛香は支配人に、星崎のことを話した。
支配人「なるほど。 そういうことでしたか・・・」
星野愛香「無理を承知でお願いしております。 ですが、どうしても彼の夢を叶えてあげたくて。 利用料金なら、私がお支払致しますので」
支配人「構いませんよ。 料金は結構です。 私も市長に感謝しなければいけませんので」
星野愛香「どういうことですか?」
支配人「あのハロウィンイベントやアートトリックストリートのおかげで、ホテルを利用されるお客様が増えたんです」
支配人「前はコロナで客足が伸びず、経営も困難でしたから・・・」
支配人「市長には、ほんとに感謝しております。 ホールなら、好きなだけお使い下さい」
星野愛香「ありがとうございます」
〇車内
石川「市長、ホール無事に借りれて良かったですね。早く星崎くんに報告しないと」
石川「いやぁ、こんなに早く彼の夢が実現するなんて、俺たち運がいいっすねぇ~」
石川「あとは、魚沼さんの夢を実現するだけです」
石川「けど、地域ソングなんてどうやって作るんですかねぇ」
星野愛香「地域ソングなら、最適な人がいるじゃない」
石川「えっ、誰です?」
〇公園のベンチ
その日夕方、二人は彼のいる公園へと向かう。
星野愛香「こんにちは。 星崎くん」
りゅうせい「あっ、市長と石川さん。 どうしたんですか?」
石川「今日は君に朗報を届けたくて来たんだ」
りゅうせい「朗報ですか?」
星野愛香「星崎くん、誰にも迷惑かけず思いっきり弾けて歌える場所見つかったわよ」
りゅうせい「ほっ、本当ですか?」
星野愛香「えぇ。 今からその場所に案内するから、一緒に来てもらえないかしら?」
〇大広間
りゅうせい「あの、ここは何ですか?」
星野愛香「ここはホテルの横の大ホール。 今は使ってないそうだから、支配人にお願いしたの」
石川「そしたら、使っていいって言って下さったんだ。星崎くん、ここで思う存分歌うといいよ」
りゅうせい「いいんですか? こんな僕の為に・・・」
星野愛香「私達はね、市民の皆さんの意見を尊重して日々活動を行ってるの。 この市は今、色んな問題を抱えてる」
星野愛香「だから、出来る限り市民の皆さんの意見や要望に耳を傾け、それを実現しないといけない。それが市長の役目だと考えてるの」
石川「だから、星崎くんの要望も貴重な意見なんだ」
りゅうせい「あ、ありがとうございます」
星野愛香「そこでね、星崎くんにお願いしたいことがあるんだけど・・・」
りゅうせい「何ですか?」
星野愛香「この市に、地域ソングを作ってほしいの。 星崎くんは、シンガーソングライターになるのが夢だったわよね?」
りゅうせい「そうですけど・・・ 僕に作れるかなぁ。 それに、地域ソングってずっと残るものですよね?僕なんかでいいんでしょうか・・・」
星野愛香「ずっと残るものだからこそ、星崎くんにお願いしたいの。 これから先、この市は若い人が担っていかないといけないから・・・」
石川「不安なら、僕も楽曲制作手伝うからさ。 まぁ、ギターは無理だけど・・・」
星野愛香(当然だわ・・・)
星野愛香「星崎くん、前向きに考えてもらえないかな?受験とかで大変かもしれないけど、一人のおじいさんがね、地域ソングを熱望してるの」
りゅうせい「僕なんかでよかったら、作ってみたいです」
星野愛香「ありがとう」
石川「シンガーソングライターの夢に向けて、一歩前進だなっ。 よしっ、一緒に頑張ろう!」
星野愛香「まぁ頼りないけど、石川くんもお願いね・・・」
石川「頼りないって、何ですかぁ~。 いくらなんでもひどいですよぉ。 市長~」
〇個別オフィス
愛香は、Polarisとしてライブの練習に励み、市長として活動に取り組む日々を送っていた。
そんな中・・・
「しっ、市長大変です。 星崎くんがっ!・・・」
星野愛香「石川くん、星崎くんがどうしたの!?」
石川「地域ソング、出来たって・・・」
星野愛香「もぉ、紛らわしい言い方しないでっ! 彼に何かあったと思うじゃない!」
石川「すみません。 ちょっと市長を驚かせたくなっちゃって・・・」
星野愛香「・・・全く。いい加減にしなさいよね!! 毎回毎回・・・」
星野愛香「けど、さすが星崎くんね。 こんなに早く取り組んでくれるなんて」
星野愛香「石川くんはもう聴いたの?」
石川「はい。 彼、知り合いにシンガーソングライターがいるみたいなんです。それでその人に色々アドバイス貰って作ってたみたいですよ」
石川「いやぁ、実にいい曲でした。 市長も早く聴いた方がいいですよ?」
石川「その前に、魚沼さんが先かなぁ」
星野愛香「いずれにせよ、聴く必要がありそうね」
〇大広間
金曜日の夜、愛香はホールを訪れた。
星野愛香「星崎くん、こんばんは。 どう?ホールの使い心地は」
りゅうせい「はい。 すっごく快適で、機材とかも自由に使わせてもらって助かってます」
星野愛香「なら良かったわ。 地域ソング、完成したみたいね」
りゅうせい「はい。 僕も市長さんとそのおじいさんの為に、いち早く作ってあげたくて、つい頑張っちゃいました。勉強そっちのけで・・・」
星野愛香「そうだったの・・・ ありがとう」
星野愛香「星崎くん、知り合いにシンガーソングライターの方がいるんだって? もしかして、シンガーソングライターのきっかけはその人?」
りゅうせい「はい。僕が初めて会ったのは小学生の頃で、その時はギターにも音楽にも全く興味がなかったんです」
りゅうせい「けど、その人にはたくさんのファンの人がいて、誰もがその人の曲や歌声に魅了されてました」
りゅうせい「それから僕はその人のライブに行き、直接話しを何度もして顔も名前も覚えてもらえるようになったんです」
りゅうせい「その時は嬉しくて、僕もいつかこの人みたいなりたいって気持ちが強くなって、それでギターを独学で学んだんです」
星野愛香「なるほど。 じゃあその方と会わなかったら、今の星崎くんはここにはいなかったのよね」
りゅうせい「はい。僕にとってその人は、尊敬で憧れの存在です」
石川「その彼、すごいんですよぉ。 この県を代表するシンガーソングライターなんです。CMソングも手掛けてるんですって」
星野愛香「そんな方と知り合いだなんて、星崎くんすごいじゃない」
りゅうせい「はい。 僕の自慢の一つです」
星野愛香「じゃあ、早速その方にアドバイスを貰った地域ソング是非聴いてみたいわ。 星崎くん、歌ってくれる?」
りゅうせい「はい」
〇大広間
静かなホールに、彼の歌声とギターが響き渡る。
愛香は目を閉じ聴いていた。
りゅうせい「あの、どっどうでしょうか・・・」
星野愛香「すっごく素敵。 メッセージ性もあっていい。 やっぱ、歌はメッセージ性がないとダメよね」
石川「はぁ~。市長、こだわりますねぇ。 歌にはメッセージ性だなんて・・・」
星野愛香「えっ? そうかな?曲とかって、メッセージ性で決めたりしないかしら? ねぇ?星崎くん」
りゅうせい「はい。 僕もメッセージ性は大事だと思いますよ。 石川さんって、普段どんな曲聴くんですか?」
石川「僕はアニソンかな。 推しが歌う曲なら、何でもいい。 あっ、何なら今から歌おうか? 星崎くんにも僕の美声聞かせたいし・・・」
星野愛香「それはまた今度でいいんじゃない? それより、早く魚沼さんにも聴かせないと・・・」
三人がホールで話していると、ホテルの支配人が現れた。
支配人「いやぁ、素敵な歌声ですねぇ。 曲も素晴らしい」
星野愛香「支配人、聴いてたんですか?」
支配人「はい。 実は私もギターを昔弾いてましてね。 当時を思い出しましたよ。 星崎くん、素敵な歌声をありがとう」
りゅうせい「とっ、とんでもないです・・・」
支配人「市長私から一つ提案なのですが、星崎くんを今度開催される当ホテルのイベントに参加させて頂けないでしょうか?」
星野愛香「えっ、星崎くんをですか?」
支配人「はい。実は当ホテルは今年で五周年を迎えます。そのイベントして彼をステージイベントへ参加させたい。どうでしょうか?」
星野愛香「私は構いませんが、星崎くんが何と仰るか・・・」
支配人「星崎くん、どうかな?君の夢の手伝いを私にもさせてもらえないだろうか・・・」
りゅうせい「僕が、ステージイベントに? いいんですか?」
支配人「君の夢は、私の夢でもある。 実は私も、君くらいの頃ミュージシャンになりたいという夢があってね」
星野愛香「支配人にもそんな夢があったんですね」
支配人「まっ、夢は夢で終わってしまいましたがね。星崎くん、頼みましたよ?」
りゅうせい「ありがとう・・・ございます」
支配人「では、早速イベントのチラシを作ります。 ステージイベントは午前と正午の二回公演になりますがよろしいですか?」
りゅうせい「よろしくお願いします」
支配人「では、私はこれで失礼します」
〇白
〇大広間
イベント当日。
ホテルは、宿泊客やチラシを見た客で溢れ返り、その中には魚沼の姿もあった。
石川「市長、大盛況ですね。 今頃星崎くん、緊張してんだろうなぁ」
星野愛香「そうね。後で顔見せに行ってみようかしら」
石川「そうですね」
水野楓「市長、石川さん。 こんにちは」
星野愛香「水野さん、どうしてここに?」
水野楓「実は今日のイベントに参加してるんです。 別の場所で猫の譲渡会もしてるので、良かったら見に来てください」
星野愛香「そうなんだ。 後から寄るね」
水野楓「はい。 当店メニューの商品も販売してるので是非」
石川「もしかして、僕が名付けたダジャレ商品?」
水野楓「はい。新商品のにゃんこ三兄弟もありますよぉ」
星野愛香「にゃんこ三兄弟? 何それ?」
水野楓「俗に言う三色団子です」
星野愛香(何か、だいぶ前に似たような曲あった気がするんだけど・・・)
水野楓「石川さんのおかげで、飛ぶようにどの商品も売れて困ってます。また、新商品の名前考えて下さいね」
石川「はい。 もちろん」
水野楓「では、私はこれで。 イベント楽しんでいって下さい」
星野愛香(あの水野さんが裏で石川くんと意気投合してたなんて、ちょっとショックだわ・・・)
〇劇場の楽屋
一方、控え室では星崎が一人でギターのチューニングを合わせていた。
星野愛香「星崎くん、こんにちは」
りゅうせい「市長さんと石川さん、こんにちは。 どうしたんですか?」
石川「緊張してるんじゃないかと思って、様子を見に来たんだ」
りゅうせい「そうなんですね。 正直、ちょっと不安です。 人前で歌うのあの時以来ですから」
星野愛香「大丈夫。星崎くんならきっと最後までやり遂げられるわ」
石川「よしっ、今から僕のお得意ダジャレ100連発でも披露するかっ」
星野愛香「そんな時間ないから!」
りゅうせい「あははっ、やっぱり面白いなぁ。 市長さんと石川さんの掛け合い」
りゅうせい「少しだけど、緊張がほぐれました」
星野愛香「あ・・・あら、そう?」
すると、館内のアナウンスが流れた。
只今より、ステージイベントを大ホールにて行います。
ご来場の皆様、是非大ホールまでお越し下さいませ。
星野愛香「星崎くん、そろそろ出番ね。 いつも通りで大丈夫」
石川「失敗したって平気さ。 その時は、笑って誤魔化しちゃえ。 僕みたいに・・・」
〇ホール
ホールには、アナウンスを聞いた客が次々と訪れ、席はあっという間に満席になった。
ステージでは、演者が各々のパフォーマンスをし、会場を賑わせる。
そしてついに、星崎の出番がやって来た。
星崎はカバー曲を何曲か披露し、最後に地域ソングを歌おうとする。
支配人「皆様、楽しんで頂けてますでしょうか? 星崎くんの歌声、とても素晴らしかったですね」
会場からたくさんの拍手が湧きあがる。
支配人「では、会場を湧かせてくれた星崎りゅうせいさんに、ご挨拶をして頂きましょう」
りゅうせい「皆さん、今日はご来場頂きましてありがとうございます」
りゅうせい「僕がこの様な場所で歌うことが出来たのは、全て支配人さんと市長、そして石川さんのおかげです」
りゅうせい「僕の夢はシンガーソングライターになることです。そんな僕の夢を市長、石川さん、支配人さんは後押ししてくれました」
りゅうせい「最後になりますが、今から歌う曲はこの市の地域ソングです。これは、市長とあるおじいさんの発案によって生まれた曲です」
りゅうせい「それでは聴いて下さい。 『無数の星が集う町』」
〇ホテルのエントランス
こうしてホテルのイベントは、大盛況で終わりを迎えた。
星野愛香「星崎くん、今日は素敵なライブをありがとう。魚沼さんもすごく喜んでたわ」
石川「曲のタイトルも良かったよ。 『無数の星が集う町』」
石川「けど、僕が考えたのも良かったと思うけどなぁ」
星野愛香「えっ?石川くんも曲のタイトル考えてくれてたの?」
りゅうせい「あれは、ちょっと・・・」
星野愛香「気になるじゃない。 星崎くん、教えてよ」
三人が話していると、一人の女の子が現れた。
桜庭ななみ「星崎くん、今日の演奏素敵だった。 ギター出来るんだね。 かっこいい」
りゅうせい「桜庭さん、来てたの?」
桜庭ななみ「うん。昨日からここに泊まりに来てるの。 そしたら星崎くんがいて、びっくりしちゃった。動画撮ったから、後で送るね」
りゅうせい「うっ、うん」
桜庭ななみ「じゃあ、私は他の所見て回るね」
りゅうせい「来てくれてありがとう」
〇ホテルのエントランス
りゅうせい「市長、石川さん。 ほんとに今日はありがとうございました」
星野愛香「ううん、こちらこそ無理言って地域ソングを作ってくれてありがとう。 どうだった?大勢の人の前で歌った感想は・・・」
りゅうせい「すっごく気持ち良かったです。僕、人前で歌う自信が付きました。またどっかのイベントで歌いたいなぁ」
〇個別オフィス
次の日
石川「市長、おはようございます。今朝の新聞見ました?」
星野愛香「新聞がどうしたの?」
石川「昨日のことが載ってるんですよ。 星崎くんのことも」
石川は愛香に新聞を見せる。
星野愛香「ほんとだ・・・ 星崎くん、いつの間にインタビュー受けてたのかしら・・・」
石川「こうして見ると、ほんとにシンガーソングライターに見えてきちゃいますね」
石川「そうだ、市長」
石川「今度開催する祭りに、星崎くんをゲストに呼びませんか?彼、また歌いたいって言ってたじゃないですか」
星野愛香「そうね。 また彼に歌ってもらいましょう」
〇お祭り会場
一か月後、市の最大イベント『盛り上がりん祭』が行われ、星崎はステージイベントのゲストとして呼ばれた。
星崎は新たに曲目を増やし、観客を楽しませる。
祭りのスタッフ「あの少年、中々いい歌声じゃなぁ」
祭りのスタッフ「ほんとですねぇ」
出店の人「少年~ もう一曲歌ってぇ」
観客からアンコールの声が飛ぶ。
星崎は戸惑い、愛香と石川に助けを求めた。
石川「よしっ、こうなったら私が一肌脱ぐしかありませんね・・・」
〇黒
星野愛香「何か、ものすごぉくイヤな予感が・・・」
〇お祭り会場
「この私、『石川勇』が一曲歌いまぁす★」
「石川くん、ステージから降りて!!歌っちゃだめぇ~!!!!」


