市長、地域猫を救う!(脚本)
〇オフィスの廊下
翌朝、市役所に着くと周りの職員達が愛香をジロジロ見ながら、何やらヒソヒソと囁いている。
星野愛香(何?何でみんなこっち見てるの? ひょっとして、私の顔に何か付いてたりする?)
愛香は周囲からの視線に耐えきらないでいた。
星野愛香(もうっ!一体何なのよ。 早く市長室に行こう)
〇個別オフィス
市長室に入ると、すでに石川が淹れたての紅茶をデスクに置こうとしていた。
石川「あっ、おはようございます。 市長、早速紅茶淹れておきましたよ? 冷めないうちにどうぞ」
星野愛香「あっ、ありがとう。 ところで石川くん、私の顔に何か付いてる?」
石川「えっ?顔ですか? う~ん、特に何も付いてないですけどねぇ」
石川は、愛香の顔をしばらく凝視する。
「そっ、そんな近距離で見なくても大丈夫だけど・・・」
石川「市長、睫毛なら顔に付いてましたよ。 今取ってあげますね」
星野愛香「もうっ!朝から私を怒らせないでっ!」
石川「市長、そんなに怒ってどうしたんですか?」
星野愛香「朝から皆が私を見て、コソコソ何か話してんのよ!」
石川「あ~、それでしたか。 それ、昨夜のことですよ」
星野愛香「昨夜の・・・こと?」
石川「はい、私が職場の人に話したんです。 市長がひったくりに遭いそうだったって」
石川「おそらくその話しが、拡散されたんでしょう。 あれほど言いふらすなって言ったんですけどねぇ。 あいつには・・・」
星野愛香「つまり、石川くんが発端だったってことね」
石川「まぁ、そうなっちゃいますね・・・」
星野愛香「ねぇ、石川くんって意外とおしゃべりだったりする?」
石川「う~ん、自分ではそういう自覚はないんですけど・・・」
石川「もしかしたらそうなのかもしれませんね」
星野愛香「・・・全く」
星野愛香「石川くん、これからは業務に不必要な話しは一切周りには話さないこと! 分かった?」
石川「かしこまりました。 市長、ムダ話しはこれくらいにしてさっさと仕事しましょ!仕事」
星野愛香「もうっ!どっちがムダ話ししてるのよ」
〇個別オフィス
その後、愛香は黙々と業務をこなしていく。
そこに再び石川が現れた。
石川「市長、この間の市民のアンケートの調査結果、集計まとめておきました」
星野愛香「えっ、もう終わったの?」
石川「はい。 僕、めんどくさい仕事はさっさと終わらせたいタイプなんです。 ほら、集計って何かと時間かかるじゃないですか」
星野愛香「確かにそうかもね。 ありがとう」
石川「しっかし、多くの市民の方達がこの市に対して不満持ってる方がほとんどでしたよ。何だか集計してて、余計悲しくなってきました」
星野愛香「不満か・・・ 無理もないわ。私もこの市に生まれてからずっといるけど、満足に感じたことは一度もない」
石川「えっ、市長も同じ考えなんですか?」
星野愛香「もちろんよ」
星野愛香「だから私は、自分が住んでるこのT市を自分自身が変えていくしかないと思って、この市長選に立候補したの」
石川「そうでしたか・・・ 市長はこの町が大好きなんですね」
星野愛香「それもあるけど、この町は今重大な問題を抱えてる町でもあるの」
石川「問題・・・ですか?」
星野愛香「石川くん、消滅可能性自治体って言葉聞いたことある?」
石川「いえ、知りません」
星野愛香「消滅可能性自治体はね、2050年までに20~39歳までの若年女性の人口が半分にまで減少することを意味するの」
石川「半分にまで減少・・・」
星野愛香「つまり、減少したらどうなるかしら?」
石川「減少したら、何か困ることがあるんですか?しかも、女性だけなんですよね?」
星野愛香「減少したら、少子高齢化になってこの町には高齢の方しか残らなくなり、様々な問題が起きてしまうの」
星野愛香「財政悪化でいろんなサービスが受けれなくなったり、お店が撤退したり、いざというときに若い人の手助けが必要出来なくなる」
星野愛香「最悪の場合、隣町との合併も考えなくてはならない・・・」
石川「だから、消滅可能性自治体なんですね・・・」
星野愛香「そういうこと。 その消滅可能性自治体に、この市はリストアップされてる」
星野愛香「だから、何としてでも人口減少に歯止めをかけなくてはならない。 それが私の重要課題だと言ってもいいわ」
石川「これはまさに、絶滅危惧種ならぬ・・・」
石川「絶滅危惧市ですね!」
石川「って、今の例え良くなかったですか?」
星野愛香「石川くん! 私は真面目にこの問題と向き合ってるのよ!?ちゃんと真剣に考えてよね?」
石川「すっ、すみません。 つい調子にのりました」
石川が初めて落ち込みを見せる。
星野愛香(やばい、少し言い過ぎたかしら。 このままだと、彼のモチベーションが下がってしまう)
星野愛香「少し言い過ぎたわね・・・ ごめんなさい、石川くん。 さっきの例え、悪くなかったわよ。 この市は、正に絶滅危惧市だわ」
星野愛香「だから、私に力を貸してほしい・・・ これは、私一人じゃどうすることも出来ないから・・・」
石川「はい、分かりました。 僕も市長のお役に立てる様頑張ります」
星野愛香「ありがとう。 じゃあ、早速クルマ出してくれる? これから視察に行くわよ」
石川「はい」
〇車内
石川「いやぁ~しっかし、今日はいい天気ですね 視察日和ですよ」
星野愛香「確かにそうね」
星野愛香「ところで石川くんって、お休みの日は何してるの?」
石川「僕は、映画鑑賞とかジムに行ったり 後たまにスポーツ観戦とかですね」
石川「市長さんこそ、休日は何されてるんですか?」
星野愛香「私・・・?」
星野愛香(ヤバい、そこは素直にアイドルの動画見てるって言ったらいいのかな。それとも、市長らしいプライベートを言った方がベスト?)
星野愛香(・・・ってか、市長らしい休日の過ごし方って何なの?もう、何答えたらいいのか分かんない)
石川「あっ。当てましょうか?」
石川「市長は紅茶が好きだから、茶葉買いに行ったりアフタヌーンティーとか食べに行ったりしてるんじゃないですか?」
「まっ、まあ・・・そんなとこね」
石川「いやぁ、若者はいいですね~オシャレで」
「石川くん、車止めて!!」
石川「えっ、いきなりどうしたんですか?」
「いいから。急いで降りるわよ」
〇田舎の公園
視察の途中、二人は公園へ向かった。
星野愛香「あの、どうかされましたか!?」
公園では、一人の女性が何かを急いで片付けようとしている。
水野楓「猫ちゃんたちの寝床がめちゃくちゃにされてたんです。これから寒くなるから、寝床を作ってあげてたのに」
星野愛香「ひどい。一体誰がこんなこと・・・」
水野楓「こんなこと、日常茶飯事なのは分かってるんです。けど、毎回されると流石に私もメンタルが・・・」
星野愛香「失礼ですが、あなたは?」
水野楓「申し遅れました。 私、地域猫や保護猫のボランティアをしている水野と言います」
水野楓「あの、あなたは?」
星野愛香「私はこのT市で市長をしている星野と申します」
愛香は水野に名刺を渡す
水野楓「こんなお若い方が市長だなんて。 すごいですね」
星野愛香「いえ、市長になったのは最近なので、まだ活動らしいことは一つもしてないんです」
水野楓「そうなんですね」
水野楓「因みに、そちらの方は?・・・」
石川「私は市長の秘書をしております。 石川と言う者です。 市長のお仕事を全面的にサポートしてるんですよ」
水野楓「秘書の方だったんですね」
水野楓「私、てっきり市長の恋人かと思っちゃいました」
石川「市長、恋人と思われちゃいましたよ。 いやぁ、照れますね」
二人が笑い合ってると、一匹の猫が目の前に現れた。
星野愛香「うわぁ、かわいい。 しかも人に懐いてる」
水野楓「この子の名前はシナモン。 地域猫なんです。 この子以外にも、あと数匹の地域猫がここにはいるんですよ」
星野愛香「地域猫が?」
水野楓「はい。 ここにいる猫達は元々野良猫で、その後捕獲し避妊や去勢をさせ、元の場所に戻したんです」
星野愛香「確か、TNRって言うんですよね?」
水野楓「市長、お詳しいんですね」
星野愛香「実は私も実家で猫を飼ってるんです。 うちの猫も野良猫で、子猫のときに保護したんですよ」
水野楓「そうなんですね」
星野愛香「じゃあ、ここにいる地域猫のお世話を水野さんがされてるんですか?」
水野楓「はい。 餌やりから、トイレの始末まで全て私と数名のボランティアでしています」
星野愛香「そうなんですね。 正直、大変だったりしませんか?」
水野楓「大変ではあります。 雨の日も雪の日も餌やりは欠かさずしないといけないし、虐待されてないか不安になりながら毎日活動してます」
水野楓「この子達は、保護猫と違って居場所がないから・・・ せめて、この子達が安全に暮らせる場所があればいいんですけどね」
水野楓「シナモンもおんなじ気持ちなんだね。 ごめんね、快適な環境を作ってあげれなくて・・・」
星野愛香(猫にとって、安全で快適な場所かぁ)
星野愛香(そうだっ!)
星野愛香「水野さん、もしよかったら市の補助金を活用して、猫カフェを作ってみてはどうでしょう」
水野楓「猫カフェ・・・ですか?」
星野愛香「はい。 具体的なことはこれから考えていきますので、他のボランティアの方にもお伝えしてもらえませんか?」
水野楓「分かりました。 相談してみます」
水野楓「シナモン、もしかしたらここより安全に暮らせる場所が見つかるかもしれないよぉ?良かったね~」
〇車内
石川「市長、猫カフェとはいいアイデア考えましたね」
星野愛香「でしょ?私も昔行ってたの。 まだ実家に猫がいないとき、癒しを求めたくてね」
石川「市長も色々あったんですね・・・」
星野愛香「ストレス社会だもの・・・ 人は誰しも癒しを求めに行くんじゃないかしら」
星野愛香「石川くんだって、癒しを求めたりストレス発散することだってあるでしょ?」
石川「そうですね。 僕のストレス発散法は、サウナだったり一人カラオケですよ」
星野愛香「カラオケとか行くんだぁ。 意外だね」
石川「そうだ。 今度、僕の十八番聴かせてあげますね」
星野愛香「はいはい・・・」
〇原宿の通り(看板無し)
二人は、シャッターが降りた商店街を訪れる。
星野愛香「う~ん、流石にここじゃ人は集まらないかぁ」
石川「ここの商店街も古びてますからね」
星野愛香「私が小学生だったころは、まだ賑わいを見せてたのよ。 夏になると銀天夜市があったり、衣料品店やレストランもあったの」
石川「そうだったんですね・・・」
星野愛香「いずれにせよ、この商店街も何とかしなければならないわ。 石川くん、別の場所を探すわよ」
石川「市長、駅周辺はどうでしょう? あそこなら、まだ人が集まりそうじゃないです?」
星野愛香「駅周辺かぁ・・・」
星野愛香「ナイスアイデアだわ。 早速駅に向かいましょう」
〇田舎町の駅舎
星野愛香「ここなら人は集まりそうだけど、お店を開ける場所ってあるかしら」
石川「市長、それならご心配なく。 実は駅構内に、一つ空き店舗があります。 そこなんていかがですか?」
星野愛香「ほんとに空き店舗があるの?」
石川「はい。 ずいぶん前から空いてまして、前市長も何かに利用できないか頭を抱えてたんですよ」
星野愛香「石川くん、空き店舗まで案内してくれる?」
〇古民家カフェ
星野愛香「石川くん、ここは昔何だったの?」
石川「ここは、カフェだったんです。 けど、駅周辺にコンビニや新しいカフェが出来たりして、客足が遠退き撤退したんです」
星野愛香(ここだったら、猫カフェ出来るかもしれない。広さも丁度いいし)
石川「市長、どうしますか?」
星野愛香「決めた・・・ ここに猫カフェを作るわ。 石川くん、役所に戻って企画案を作るわよ」
〇田舎の線路
〇古民家カフェ
数日後、二人は水野を連れて空き店舗のカフェを訪れる。
星野愛香「水野さん、ここを猫カフェにしようと考えてるんですが、いかがでしょう」
星野愛香「半分を猫ちゃんたちと触れ合えるスペースにし、残りの半分はカフェにしようと考えてます。 カフェ経営者も募集しますし」
水野楓「駅の中に、こんな素敵なカフェがあったんですね」
水野楓「広さも悪くないですし、駅の中だから気軽に立ち寄ってくれそう」
石川「ドアを二重にすれば、猫ちゃんたちの脱走も防げますしね」
水野楓「市長さん、石川さん。 あの子達の為に、安全で快適な場所を作って頂きありがとうございます」
星野愛香「理想を形にするのはこれからですよ? 要望があれば、何でも言って下さい」
水野楓「分かりました」
〇白
〇カウンター席
それから半年後、ついに猫カフェ『猫市猫座』がオープンした。
土日限定で当初オープンしてたのが、今では連日大盛況だ。
星野愛香「水野さん、こんにちは」
水野楓「あっ、市長さん。 こんにちは」
星野愛香「ずいぶんと賑わってますね。 これ、差し入れです。 それと猫ちゃんたちのご飯とおやつ」
水野楓「ありがとうございます」
水野楓「あれ?今日は石川さんと一緒じゃないんですか?」
星野愛香「流石に休日までは一緒じゃありませんよ」
水野楓「そうなんですね。 どうぞゆっくりしてって下さい」
星野愛香「はい」
中に入ると、一匹の猫が愛香にすり寄ってきた。
星野愛香「この猫ちゃんもかわいい。 やっぱ、癒されるなぁ~」
愛香はその猫を優しく撫でた。
水野楓「その子、新入りの猫ちゃんでまだ名前付いてないんです。市長さん、良かったら名付け親になってくれませんか?」
星野愛香「えっ、私が付けていいんですか?」
水野楓「もちろんです」
星野愛香「そうだなぁ~ 名前付けるのって、意外とセンス問われるから難しいなぁ」
石川「市長、なら僕が代わりに付けましょうか?」
星野愛香「石川くん、何でここに?」
石川「ちょっと、店のことが気になりまして・・・ もしかして、市長もですか?」
星野愛香「それもあるけど、癒されに来たのもあるかな」
水野楓「あっ、石川さんいらしてたんですか!?」
石川「お疲れ様です。 水野さん、カフェ繁盛してますね」
水野楓「そうなんです。 もう、猫の手も借りたいくらいで・・・」
石川「水野さん、上手いこと言いますねぇ。 猫の手も借りたいって、もう借りてるじゃないですかぁ」
水野楓「あはは、ほんとですね・・・」
星野愛香「それで? 石川くん、この猫ちゃんの名前考えてくれたの?」
石川「はい。 『ウバ』って名前どうでしょう? 市長紅茶好きなんで、ウバ茶の『ウバ』」
星野愛香「石川くん、流石にそれはセンス無さすぎだわ・・・」
石川のネーミングセンスの無さで笑ってしまいました。😂
地域猫を救う為に猫カフェを作った星野。にゃんだふるですね。
彼女の市長としてどう動くのか注目したいところ。