エピソード9(脚本)
〇本棚のある部屋
ゴミ箱の中に、血のついたティッシュがあった。
・・・それから、かなこの物と思しきバッグ。
〇本棚のある部屋
中には、かなこが毎日つけていたらしい、スケジュールノートがあった。
〇本棚のある部屋
・・・あいつ、この部屋にいたのか。
この部屋は、亡き父が使っていた部屋だ。
奏は、かなこのスケジュールノートを開いた。
・・・ぱっと開くと、4月のページに桜の押し花を施したしおりが現れた。
〇本棚のある部屋
・・・春。
しおりには、和歌が書いてあった。
新たしき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事
・・・ん?これはたしか。
万葉集の一番最後に出てくる歌だと聞いたことがある。誰の歌だったかは忘れたが。
かなこは、理科が専門なのに、こういう文学趣味があるのだ。
今の季節にふさわしかった。
・・・ぱらぱらとめくった。
そこには、びっしりと、日記のようなものが書き込まれていた。
・・・11月〇日 夕方、せっかく早く帰れたのに、お義母さんがやってきて、料理にダメ出しされた。
こんな料理じゃ、奏の口に合わない。
そう言って、大量の塩を入れた。
・・・めちゃくちゃだ。また作り直さなきゃいけない。
11月△日 合鍵で入ったお義母さんが、引き出しにあるお金を盗んだ。
あそこには、確か2万円入っていた。
・・・ごっそり無くなっていた。
問い詰めたら、人を泥棒呼ばわりするのかといって、平手打ちをされた。
・・・今月の食費にと思って、分けておいたお金だった。
もういい、それぐらいまた稼いでやる。
11月◎日 学校で使う書類が、どこにもない。
義母を問い詰めたら、知らないという。
・・・トイレを覗いたら、書類が流れ切らずに浮いていた。
もうムリ。
「・・・何だ!これ?!」
母が本当に、こんなことをしたってのか?!
日記は、4月はじまりのスケジュールノートに、びっしりと書き込まれていた。
tukiとかいう男との甘い記録なんかなかった。
・・・仕事の予定と、たびたびやってくる義母の横暴。
それから、時々あらわれる奏の暴力。
それだけが記録された手帳だった。
・・・あいつは、春が来るのを待ち望んでいた。
いつやって来るか、わからない春。
真冬の試練に耐えて、待っていたのに。
・・・なのに。俺は。
・・・奏は、だまってそれをポケットにしまった。
・・・その時、ドアを開けるような音がした。
玄関だ。
〇飾りの多い玄関
・・・母だ。
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