龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第伍拾七話 絶対守護宣言(脚本)

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〇センター街
橘一哉「そら!!」
  黒龍の気を纏った右手が魔族に叩き付けられ、
  魔族は黒い霧に飲み込まれると無数の光の粒子になって消滅した。
橘一哉「・・・ふう」
  敵の消滅を見届け、一哉は一息ついた。
黒龍「無手にもだいぶ慣れてきたな、カズ」
  一哉の左腕から黒い龍が顔を出した。
橘一哉「意外と、イケるもんだね」
  先程魔族に叩き付けた右手を握ったり開いたりしながら一哉は黒龍に言葉をかけた。
黒龍「言っただろう、無手も武器も身体を思い切り振り回す事に違いはない」
  一哉は何度も首を縦に振る。
黒龍「意念の使い方、気脈の流し方、もうコツは掴んでいるだろう?」
  玄武使い・如月玄伍との戦いで刀を折られてから数日。
  一哉は無手で魔族と戦っていた。
  破壊された愛刀と同等の武器を作り出すことができなかったからである。
  形状、拵、強度、威力。
  刀を構成する様々な要素。
  形だけは寸分違わぬ刀を作り出すことはできた。
  しかし、肝心の強度と威力が一哉の技量に追いつかず、あっという間に壊れてしまうのだ。
  これでは、黒龍自身も力の無駄遣いとなってしまう。
  そこで一つの発想が生まれた。
  武器を操るのではなく、直接龍の力を叩き付ける方法ならば今の一哉でも充分な戦闘能力を発揮できるはず。
  体捌きはできており、間合の取り方は既に習熟している。
  ならば、龍の力を直接当てるという戦い方でも良いのではないか。
  そう黒龍に言われ、急遽無手での戦い方を模索することになった。
  慣れた剣術から未経験の無手へ、間合の異なる闘法に変わることになったが、然程苦労はなかった。
  武器を持とうと持つまいと、心身の使い方に差異など無いと早々に分かったからである。
黒龍「何事も、基礎基本が第一だ」
黒龍「それができていれば、何も怖いものなどない」
  腹を据え、適度に力を抜き、体幹をしっかり保持して動く。
  そこに、無手も武器持ちも差はない。
橘一哉「ああ、そうだな」
  正中線を通り天地を貫く力が隅々まで行き渡る感触を、一哉は感じていた。

〇高い屋上
  玄伍と戦った翌日。
橘一哉「ほれ、こんなにボロボロ」
飯尾佳明「うぉ」
古橋哲也「これは・・・」
  佳明と哲也は言葉を失った。
  一哉が見せたのは彼の愛刀。
  黒龍の力を練り上げた名刀である。
  鍔も柄も鞘も、余すことなく大小の罅がビッシリと入っている。
  形を保っているのが不思議なくらいだ。
橘一哉「んで、中身はこう」
  やはり少しでも手元が狂うと壊れてしまうのだろう、一哉はゆっくりと、慎重に、刀を抜いたのだが、
飯尾佳明「マジか」
古橋哲也「刀身が、」
  無かった。
  そこにあるべき三尺の刀身は、鍔元一寸ほどを残して失われていた。
  僅かに残る刃と鎺にも無数の罅が入っている。
  どれだけ頑丈な相手にも、どれだけ鋭い攻撃にも、龍の力を具現化した武器が破損することは無かった。
  しかも、龍の力を注ぎ込めば即座に再生できるはずなのに、再生していない。
  玄武、即ち四神の力が如何に規格外であるかをまざまざと見せつけられたような気がした。
飯尾佳明「それで、お前自身は大丈夫なのか?」
  不破と信じて疑わなかった龍の武器。
  それが破損するほどの攻撃の余波も大きかったのではないか。
橘一哉「無事だと思う?」
古橋哲也「それってつまり、」
  一哉の表情を見て哲也はすぐに察した。
橘一哉「その通り」
  一哉は頷き、
橘一哉「まだ体の中に揺れが残ってる」
  そう言って大きく深呼吸した。
橘一哉「玄伍さんに密着されたと思ったら、とんでもない重さの揺れが叩き込まれた」
  まるで山が揺れたようだ、と一哉は語った。
飯尾佳明「玄武の属性は、」
  神獣には須らく属性というものがある。
  自然の力の化身である神獣は、その属性によって操ることのできる自然現象に違いがあるのだ。
古橋哲也「僕の黄龍と同じ、多分、」
  『土』だ。
  佳明と哲也も感じた、巨大なものと接しているかのような感覚。
  そして、無類の安定感。
  それは、玄武が象徴する地形である『山』そのものだ。
  山の基盤は土である。
  だから、玄武の属性は『土』だ。
古橋哲也「僕らは、同じ属性同士で呼びあったのかもしれない」
飯尾佳明「・・・だな」
  哲也と佳明が玄伍と邂逅し、関わることになったのは、類が友を呼んだということなのだろう。

〇高い屋上
辰宮玲奈「それで、これからどうするの?」
  玲奈が口を開いた。
橘一哉「どうする、って?」
  一哉が問い返す。
辰宮玲奈「武器、無くなっちゃったんでしょ?」
橘一哉「あー、」
  言われてみればその通りだ。
黒龍「あれは私の最高傑作の一つだったからな」
  黒龍が顔を出した。
黒龍「あれ一本あれば、私が力を貸さずとも充分戦えるような代物だった」
姫野晃大「・・・え?」
  黒龍の言葉に、晃大が何か気づいたらしい。
橘一哉「どうしたん?」
姫野晃大「今の黒龍の言い方だとさ、」
光龍「黒龍、貴様は宿主が戦う時に力を貸していないような物言いだな」
  光龍も顔を出して黒龍に問いかけた。
姫野晃大「そう、それ」
  晃大も光龍の言葉に相槌を打つ。
黒龍「余計な力を使いたくないのでな、カズの使う道具はしっかりしたものを用意してやっただけだよ」
  そういう黒龍の顔が得意げな風に見えるのは、今まで一哉が使っていた刀が余程の自信作だったのだろう。
白龍「黒龍は過保護ですねえ」
  白龍も玲奈の腕から顔を出し、
白龍「その肝心の得物が壊れたのですよ?」
白龍「しかも、再生は容易ではないときている」
白龍「今後はどうするのです?」
辰宮玲奈「そうだよ、カズに素手で戦えとでも言うの?」
橘一哉「え、マジで?」
  強すぎる龍の力を生身の肉体のみで扱うのは負担が大きく危険だ。
  だからこそ、武器を通して龍の力を使っているのだ。
橘一哉「どうするかな・・・」
  一哉は呟いてボロボロになった愛刀を眺める。
  今にも崩れ落ちそうで崩れ落ちない、崩壊寸前の刀は、武器を失い困り果てている一哉そのもののようにも見える。
辰宮玲奈「・・・」
  そんな一哉を玲奈はしばらく黙って見つめていたが、

〇高い屋上
辰宮玲奈「カズはあたしが護るから、安心して!!」
橘一哉「うえ!?」
  思わず柄を取り落としそうになる一哉。
  急に発せられた玲奈の一言に、思わず一哉も変な声が出てしまう。
辰宮玲奈「カズが戦えないなら、あたしが守るから!」
橘一哉「はい!?」
辰宮玲奈「この弓で、カズを狙う奴らは全部仕留めてみせるから!」
  弓を出して弦を引く玲奈。
  弦鳴りの音が力強く響き渡る。
梶間頼子(なんだか楽しそうな気がするのは気のせいかな)
  気の所為だと思いたい頼子だったが、
辰宮玲奈「甲羅を無くした亀なんて瞬殺だよ、瞬殺!」
梶間頼子(だよね〜・・・)
  気の所為ではなかった。
  一哉の愛刀を破壊した元凶。
  玄武使いの如月玄伍。
  一哉に害をもたらす者には一切の容赦をしないという玲奈の決意が伺える物騒な発言が飛び出した。
橘一哉「あのね、玲奈さん、」
  あの後、割とすぐに当事者同士で和解は成立している。
  これ以上事を荒立てると、本当に取り返しがつかなくなる。
  相手は四神の一人である。
  龍使いと同じく魔族を敵とし、人類を守るという共通の目的がある。
  味方なのだ。
  血気に逸る玲奈を宥めながら、一哉は丁寧に顛末を話した。
辰宮玲奈「えぇ〜・・・」
  口をへの字に曲げる玲奈。
辰宮玲奈「カズの仇討ちができると思ったのに・・・」
梶間頼子「・・・」
  まだ一哉は生きてるよ、とツッコミを入れたい頼子だったが、今回はやめることにした。
橘一哉「いつも玲奈には助けてもらってるし、ありがたいと思ってるよ」
辰宮玲奈「ホント!?」
橘一哉「ああ、本当だよ」
  実際、先陣切って突っ込む一哉が無事でいられるのは玲奈の援護射撃による所も大きい。
辰宮玲奈「じゃあ、もっと頑張るね!!」
橘一哉「しばらくは、フォロー宜しく」
辰宮玲奈「任せて!」

〇街中の道路
  夕方。
  一哉の隣にピタリと寄り添い歩調を合わせ、離れることなく歩く玲奈の姿があった。
  傍から見れば絵面だけは微笑ましい高校生カップルに見えるのだが、
橘一哉「・・・・・・」
辰宮玲奈「・・・・・・」
  放つ雰囲気は恋愛のそれではない。
  困惑する一哉の顔。
  笑顔とは裏腹な玲奈の醸し出す雰囲気。
  獲物を奪われまいとして全方位を警戒する獣が、そこにいた。

〇街中の道路
梶間頼子(やばい・・・やばいっすよ、コレは・・・)
  そんな二人を少し離れたところから見守る頼子。
  いつものように三人連れ立って帰ろうとしたのだが、

〇学校の下駄箱
辰宮玲奈「頼ちゃんは少し離れて見張ってて欲しいの」
梶間頼子「・・・」

〇街中の道路
  口調こそ『お願い』する形だが、無言の圧力が滲み出ていた。
  結果、頼子は三歩下がって幼馴染カップルの影を踏むことなく、付かず離れずの距離を保っているのである。

〇街中の道路
  玲奈は弓矢、一哉は刀。
  玲奈は弓道部、一哉は剣道部。
  毎年クラスは同じになり、家も隣同士という強い縁で結ばれてはいるが、
辰宮玲奈「これからは、なるべくずっと一緒にいようね」
橘一哉「お、おう」
  肝心な所で離れてしまうのが玲奈にとっては悩みの種だった。
  だが、今。
  不測の事態により、護衛という形で彼の傍らを離れない理由ができた。
  これを逃さない手はない。
  少しでも近くにいて。
  少しでも役に立つのだ。
辰宮玲奈(カズは、あたしが、護る)

〇センター街
橘一哉「それにしても、すっかり逆転しちゃったな」
辰宮玲奈「そうだね」
  弓の弦を爪弾き、鳴弦で結界を浄化しながら玲奈が頷く。
  今までは、一哉が吶喊して玲奈が討ち漏らしを仕留めていた。
  それが今や、玲奈の五月雨撃ちで討ち漏らした相手を一哉が仕留めるという形になっている。
  主と補が完全に逆転してしまっている。
梶間頼子「今までと真逆なのに阿吽の呼吸が完璧なのは凄いと思うよ」
  それは二人の付き合いの長さがなせる技だろう。
辰宮玲奈「これで、戦術の幅も広がったよね」
  玲奈の言う通りだ。
  玲奈を主体とした戦い方が、少しずつ出来上がりつつある。
  一哉の武器が破壊されたことが、思わぬ所で功を奏していた。

〇ダイニング
雀松朱乃「お兄ちゃん、何か良いことあった?」
雀松司「え?」
  唐突に聞かれた司は、顔を上げて妹を見る。
雀松朱乃「最近、なんだか機嫌がいいよね」
雀松司「そうか?」
  別に何も変わることはないと思っていたが、
雀松朱乃「楽しそうだもん、ここ最近のお兄ちゃん」
雀松司「そんなにか?」
  思わず自分の頬を撫でてみる。
  ぐに、と頬に手が食い込んだ。
雀松司「朱乃はよく見てるなあ」
  妹の目ざとさに司は感心してしまった。
  確かに頬の強張りが緩くなっている。
雀松司(何かあったっけ?)
  表情にまで出るような、しかも気が緩むような変化が最近あっただろうか。
雀松朱乃「もしかして、私を助けてくれたお姉さんのこと?」
雀松司「!!」
  草薙由希といったか。
  青龍の宿主だが、朱乃はその事を知らない。
  四神の事も、魔族のことも、朱乃は一切知らない。
  それらを知られるわけにはいかない。
  妹には、あくまでも普通の人間として生きてほしいのだ。
雀松司「確かに、あの子は可愛いお嬢さんだったな」
  適当に話を濁そうとした司だったが、
雀松朱乃「気になるの?」
雀松司「っ!?」
  飲みかけた味噌汁を吹き出しそうになった。
雀松朱乃「顔に書いてあるよ、『草薙さんが気になる』って」
雀松司「お前なぁ・・・」
雀松朱乃「何年お兄ちゃんの妹やってると思ってるのさ?」
  ませた発言である。
  これでまだ小学校高学年だというのだから末恐ろしい。
  兄妹二人きりになって十年余り。
  朱乃も大人にならざるを得ない所があったのだろう。
  それは、兄で保護者である司の不徳の致す所だ。
  年相応の少女でありきれない環境に妹を置いてしまっている。
雀松朱乃「ちょっと年の差はあるけど、許容できない年齢差じゃないと思うよ」
雀松司「・・・」
  続けて出てきた言葉に、司は内心安堵した。
  まだ、朱乃は知らないままだ。
  その勘違いが、しばらくは話の種になるだろう。

〇実家の居間
如月玄伍「ここ数ヶ月の異変、全てに納得がいった」
如月玄伍「君たち、龍が元凶なのだな」
  玄伍は真っ直ぐ一哉を見据えて言った。
如月玄伍「人の世の境界の度重なる揺らぎ、魔族の活発化」
如月玄伍「それらは、龍を討ち果たさんとする魔族の活動によるものだな」
橘一哉「えーと・・・」
  一哉は頭をかく。
  完璧な正解ではないが、外れではない。
  その通りだ、と迂闊に肯定するわけにもいかない。
雀松司「落ち着いて下さい、如月翁」
  今にも身を乗り出そうとする玄伍を司が必死に宥める。
雀松司「彼も龍から全てを聞き知っている訳ではないでしょう」
雀松司「橘くん、我々は協力し合える関係だと思う」
雀松司「今までの事は兎も角、人類の世界を護るために力を貸してくれないか」
橘一哉「それは龍も目的は同じですから、承諾します」
雀松司「そう言ってもらえるとありがたい」
橘一哉「まずは、お互いの情報を全部出し合いましょうか」

〇ダイニング
雀松司「朱乃、おまえが朱雀の力を使う必要はないし、知る必要もない」
雀松司「代行者たる俺が、全ての決着をつける」

次のエピソード:第伍拾八話 迦楼羅再会

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