九つの鍵 Version2.0

Chirclatia

第52回『後ろは決して見ないで』(脚本)

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〇貴族の部屋
  ──第52回『後ろは決して見ないで』
  珍しくフリートウェイより先に起きたチルクラシアは、部屋の窓を開けて身を少し乗り出していた。
チルクラシアドール「・・・何しようかな」
  隣で寝るフリートウェイを起こさない方法で時間を潰す方法が浮かばない。
  孤独が苦痛では無い彼女は、特に寂しく思わなかった。
チルクラシアドール「今日の予定でも決めよう」
チルクラシアドール(『生きること』、『寝ること』、『声を出さないこと』)
チルクラシアドール(『歩くこと』、『投げ出さないこと』、『(何でもいいから)食べること』)
  一枚の紙に書いた内容は、1つを除けばどれも異質で闇を感じさせるものだ。
  皆が当たり前にやっていることを平仮名で描いているチルクラシアの姿は、かなり異質で不気味だろう。
チルクラシアドール(欲しいものがあったような)
チルクラシアドール「・・・何だっけ?」
  無理に思い出す必要は無い。
  自分は、フリートウェイと一緒なら、多分大丈夫なのだ。
チルクラシアドール「まぁ、いいか」
  いつか、思い出すことは出来るだろう。
  楽観的に考えることで、心が少し楽になったような気がした。
チルクラシアドール「ここよりも平和な場所に行きたい」
チルクラシアドール「本当は、夜に動かない方がいいんだろうけど・・・」

〇貴族の部屋
  目を覚ましたフリートウェイは、チルクラシアの発言をこう解釈した。
フリートウェイ「・・・外に行きたいってことか?」
チルクラシアドール「自然の音が聞きたくなったの」
フリートウェイ(ある意味、一番此処が安全なんだけどなぁ・・・)
  レクトロの『友人』城にいる以上、危害を加えられることも、不足を感じることも、無い。
  なのに、チルクラシアはそれを望んでいないようだ。
フリートウェイ(”そういう気分”なんだな。 明日になったら変わってるかもしれない)
フリートウェイ(この時、オレがするべき事は・・・)
  チルクラシアが自ら動こうとする、次来るかどうか分からないチャンスである。
  ここで、間違ってはならない。
フリートウェイ「また海に行くか?」
チルクラシアドール「海は前行ったから、次は山かなぁ」
チルクラシアドール「その前に買い物をするのもいいかも」
チルクラシアドール「今日は動けそうだ」
  チルクラシアは、完全に山に行く気になっているようで今日の予定を決めようと案を出し始めた。
フリートウェイ「支度をしようか。 予定は行ってから考えても良いぞ」
チルクラシアドール「ヽ(*´∀`*)ノ」

〇男の子の一人部屋
  ──姫野晃大の部屋
姫野晃大「・・・・・・・・・・・・」
  大きなため息をついた姫野晃大には、妹にすら言えぬ悩みがあった。
姫野晃大「今日は騒がしいなぁ・・・」
  何処からか、人の声が聞こえるのだ。
  所謂『幻聴』というものだろう。
  日によって聞こえる声やその声量は完全にランダムであり、
  昨日は子供の甲高い泣き声がしたが
  今日は女性の笑い声がしている。
姫野晃大「これはいつになったら治るんだろ」
  困惑はしているが慣れている。
  その理由は、8歳の誕生日を迎えた日からこんな現象が続いているからである。
姫野晃大「この声が聞こえる理由は、必ずあるはずなんだ」
姫野晃大「気になることが増えてきたし、成績も安定してきた今が、動くチャンスかな?」

〇おしゃれなリビングダイニング
姫野晃大「・・・というわけで、ちょっとだけこの国の歴史と后神様について調べてみようと思うんだ」
姫野果世「何バカなこと言ってるのよ! 教えに逆らうつもりなの!?」
  ──妹は激しく反対した。
  最も大きな理由は、幼少期から厳しく教えられたことを破ることになるからだが、他にもあった。
姫野果世「知ってしまえば、みんな消されるわ! 私を1人にする気なの!?」
  ──姫野家は、晃大と果世しかいない。
  故に、片方がいなくなれば、残された方は天涯孤独になってしまう。
  まだ学生である妹にとって、兄のいない生活はとてもではないが考えられないのだ。
姫野果世「とにかく考え直してよ」
姫野果世「私は絶対に着いていかないから!」
  機嫌を損ねたまま、妹はいつも通り学校へ向かった。
姫野晃大(はっきりと拒絶されてしまった・・・ 母さんの行方を知る手がかりがありそうなのに)
姫野晃大(后神様が行方不明になって、もう3日も過ぎてる。 死んではないだろうけど心配だよ)
姫野晃大「・・・まぁ、1人でも大丈夫か」
  色々な意味で思考の切り替えが早い晃大は、弁当箱をカバンに入れる。
姫野晃大(今日も早く帰れるといいな・・・)

〇おしゃれなリビングダイニング
  晃大が出ていった直後、床に不自然な波紋が出来た。
シャーヴ「・・・今の話、貴方もよく聞こえましたよね?」
シリン・スィ「もちろんよ。 私が聞き逃すことなんか無いじゃない」
  家の住所を知っているシリンと面白半分で着いてきたシャーヴは、話を盗み聞きしていた。
シリン・スィ「レクトロ様の見込み通り、あの人間とその妹は危険な存在だわ」
シリン・スィ(・・・希望を見せつける目は、潰さなければ)
  シリンはフリートウェイよりはまだマシとはいえ、光やそれを連想させる言葉が嫌いだ。
シャーヴ「大人しく、一人の人間として生きていればいいものを・・・」
シャーヴ「どうして、自ら苦しい方向へ行ってしまうんでしょうね」
シャーヴ「・・・そんな事をしても、意味など無い。 どうせ最期は消えて無くなってしまうのに」
  仮面では笑顔のシャーヴだが、その過去(という名のトラウマ)故に、人間に憎悪の感情を抱いている。
  ──本当に悲しい事だれど、似たもの同士の彼らは、こういう時だけ息が合うのだ。
シャーヴ「まずは、『レクトロがこの家にいた』という事実を消しましょうか」
シャーヴ「──貴女の方が、得意のはずです。 お願いします」
  シャーヴは、自分の不向きを何となく理解していた。
シリン・スィ「私に任せなさい。 やってやるわ」

〇丘の上
フリートウェイ「写真が欲しかったんだな」
  この山に来る前、チルクラシアは、インスタントカメラを購入していた。
チルクラシアドール「そうかも? あまり考えてなかったよ」
チルクラシアドール「ただ『歩きたい』とは思った。 後、誰もいない所でご飯を食べたかった」
  数枚のフィルムを見ながら、チルクラシアは返答した。
チルクラシアドール「此処は人が来ないから気楽になれるなぁ」
  城の部屋にいるよりも、自然の中にいる方が、チルクラシアの精神には良いらしく、
フリートウェイ(顔色が良くなってるのは、気のせいではないはずだ)
  少しだけでも、健康体に近づけたような気がした。
チルクラシアドール「・・・あ、雉がいる」
チルクラシアドール「あれも撮っておこう」
フリートウェイ「あまり遠くに行くなよ・・・」
フリートウェイ(離れると何が起きるか分からないんだから・・・)

〇丘の上
チルクラシアドール「良い写真が撮れたよ!」
フリートウェイ「見せてくれよ」
  ご機嫌に戻ってきたチルクラシアの手には、一枚の写真があった。
  ──だが、フリートウェイの表情はすぐに『困惑』一色に変わることになる。
フリートウェイ「???」
  彼は、まずは自分の目を疑った。
  ゆっくり瞬きをしても、目を擦っても、チルクラシアが見せてきた『写真』に雉の姿は無かった。
フリートウェイ「・・・何も写ってないぞ?」
チルクラシアドール「あれ?見えないの?」
フリートウェイ「オレには真っ白に見えるんだ」
チルクラシアドール「・・・そうなの?」
  表情があまり変わらないチルクラシアはともかく、フリートウェイは自分に困惑するしかなかった。
チルクラシアドール「・・・・・・・・・・・・」
チルクラシアドール「後で見直したら、雉の姿が見えるはずだよ」
フリートウェイ「そうであって欲しいけどな・・・」
  チルクラシアには見えているのに、自分には見えない。
  きっとそれなりの理由があるのだろうが、そこまでしか考えられない。
  ──彼女と同じ物が見れないことは苦痛では無かったが、得体の知れない違和感だけが残ってしまった。
フリートウェイ(見えなかった理由は何だ?)
フリートウェイ(雉とオレに何の関係がある・・・?)
  頭に引っかかったまま、フリートウェイは、写真を見つめるチルクラシアの隣で考え込むのだった。

〇貴族の応接間
  家族旅行から帰ってきた王女は、応接間にいた。
フラム・ローア「そろそろ来ますか?」
レクトロ「おかえり、お嬢ちゃん。 旅行は楽しかったかい?」
  后神という二つ名を持つレクトロは、自らを呼び出したものが王ではないことに内心安堵している。
  ──いつも通りの笑みを浮かべ、声色をなるべく変えずに努めていた。
フラム・ローア「はい。 とっても楽しかったですし、お土産もいっぱい買いましたよ!」
レクトロ「そうかい」
  正直に言うと、レクトロは土産話だけが欲しかった。
  食べ物や無機物は月に一度、捧げられているからだ。
フラム・ローア「后神様へのお土産はこれです」
  高価そうな銀色の時計を見たレクトロは、思い出した。
レクトロ(器はシャーヴの手にあるんだっけ)
レクトロ(さっさと回収しなきゃ)
  こちらの事情は、人間に悟られるわけにはいかないため、器について考えることを中断した。
レクトロ「上等な時計をありがとう。 大事に使わせてもらうよ」
フラム・ローア「気に入ってくれたようで何よりです!」
  『王女様?そろそろ勉強の時間ですよ』
  教育係に呼ばれた王女は、分かりやすく落ち込んだ。
  レクトロと話すという貴重な時間を、中途半端な状態で中断されたことが悲しいのだ。
レクトロ「そんな悲しい顔をしないで。 呼んでくれれば、話し相手になるよ」
レクトロ「僕は君を応援してる。 頑張って」
レクトロ「そして、君が次の王になるんだよ」

〇貴族の応接間
  ──王女が去っても、レクトロはそこに居た。
レクトロ「・・・あの子に他意が無いといいんだけど」
レクトロ「あのヒト怪しいからなぁ・・・」
  レクトロは、王が何か勘付いているような気がしてならなかった。
レクトロ「怪しかったら、また呼べばいいか」
レクトロ「忠告はしたし、後は彼次第だ。 僕が悩む必要はない」
レクトロ「帰って、ちょっと寝ようかな・・・」
  紅茶を飲んで立ち上がったレクトロに、いつもの笑顔は無かった。
  最近は熟睡出来た記憶が無い。
  脳の処理落ちで、パフォーマンスが低下しているのかもしれない。
レクトロ「・・・・・・・・・」

〇一軒家の玄関扉
シャーヴ「・・・・・・・・・・・・」
  ──昨日は止まっていた器が、再起動していた。
  時計の針は2時30分を指している。
シャーヴ(・・・何事?)
  見逃せない異変でも起きたのか、良いことが起きたのか。
  ──今のシャーヴには、判断が出来なかった。
シリン・スィ「何で棒立ちしてんのよ」
シリン・スィ「人間にバレたら面倒だから、さっさと帰るわよ」
  シリンは、器について詳しくない。
  彼女にこのことを話してもスルーされるだろう。
  だから、こう言うしか無かった。
シャーヴ「・・・私の事は気にしないでください。 ちょっと考え事をしてました」

次のエピソード:Another Act1『一時のしあわせ』

コメント

  • 面白いことになってきましたねえ。
    次回が楽しみです。

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