龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第伍拾伍話 玄き盾と黒き剣(脚本)

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〇センター街
雀松司「何だか不穏な風だな・・・」
  郊外の住宅街を見やり、雀松司は不安気に呟いた。
雀松司「如月翁は大丈夫だろうか・・・」
  その方角には、如月玄伍の店舗兼住居があったはずである。
雀松司「・・・一応、行ってみるか」
  司は足早に歩き出した。

〇アパートの中庭
如月玄伍「なんだ、この感覚は!?」
  玄伍は困惑していた。
橘一哉「せあっ!」
  一哉の攻撃は相変わらず『斬』ではなく『打』。
  それも、鋭い風切り音を伴っていることから刃筋が立っていることが分かる。
  刃筋が立っているという点だけでも一哉の技量が伺い知れるが、
如月玄伍(妙だ・・・)
  圧倒的な違和感を玄伍は感じていた。
  一哉の剣撃に対し、
  接触した瞬間に弾き流そうとするのだが、
如月玄伍「!?」
  当たった瞬間の手応えがおかしいのである。
如月玄伍(手応えが、無い)
  衝撃や重みが、殆ど伝わってこない。
  刀と篭手の触れた瞬間に音はするのだが、直後に衝撃も重みも消えてしまう。
  流そうとしても、流すべき重みや勢いが存在しない。
如月玄伍(何なのだ、一体)
  このままでは埒が明かない。
  そんな玄伍の窮状を悟ったのか、
橘一哉「ちぇすとお!!」
  猿叫一声、一哉が袈裟懸けに斬り込んできた。
如月玄伍(流すことが無理ならば、)
  砕く。
  玄伍は両腕を一哉の太刀の前に出し、
如月玄伍「奮!!」
  地鳴り。
  渾身の力を一哉の太刀に合わせぶつけたが、
如月玄伍「!?」
  驚愕に目を見開いた。
如月玄伍(手応えが・・・)
  無い。
  玄伍の腕は押し込まれず、一哉の太刀は弾かれて跳ねる事も無く。
  二人は何れか片方か、或いは双方共に体勢が崩れることも無く。
  太刀と鉄甲がぶつかった時の衝撃も、衝突音も、無い。
如月玄伍(なんだ、これは)
橘一哉「これが、黒龍の力だよ」
  驚愕と困惑が余程顔に出ていたのだろう、一哉が口を開いた。
橘一哉「黒竜の力は『遮断』」
  太刀を引き間合いを離しながら、一哉は言った。
橘一哉「存在にかかっている力を無くすことができる」
如月玄伍「なるほど」
橘一哉「さあ、これでこっちのタネも割れた」
  玄武の力、玄伍の実力は既に分かっている。
  黒龍の属性と特性を玄伍に教えた今、互いの手の内は知られ、条件は五分と五分。
  ここからが本当の勝負だ。

〇住宅地の坂道
雀松司「いや、これは本当にまずいかもしれないぞ・・・」
  司の顔に浮かぶ焦燥の色が濃くなっていく。
  滑るように素早く歩を進めて歩く司の姿は、まるで低空を飛んでいるかのようだ。
  その彼が進む先にあるのは、
雀松司「この嫌な気配、如月堂に近付くほど強くなっている・・・」
  玄伍の店である如月古物店。
  店内所狭しと並ぶ様々な物の配置が何となく祠堂を思い起こさせるため、司は店の事を『如月堂』と呼んでいる。
  嫌な気配に近づけば近付くほど、如月堂にも接近しているのだ。
  そして、
雀松司「ああ・・・」
  嘆息する司。
  嫌な予感が的中してしまったのだ。
雀松司「まさか、翁の自宅で・・・」
  如月古物店と、その奥にある如月家。
  その敷地全体を包むようにして、こちら側の世界と『向う側』の世界の狭間が現出していた。

〇アパートの中庭
如月玄伍「厄介な能力だな、黒龍の力は」
橘一哉「ああ、味方にすると心強い」
  ニッと笑う一哉。
  この少年は、修羅場にあっても屈託の無い笑みをする。
  友人と他愛のない会話をしているかのようだ。
  敢えて戯けているのか、はたまた頭のネジが緩むか飛んだりしているのか。
如月玄伍「敵に回したくはないものだ」
  使い方次第では、強度に優れた玄武の鉄甲以上に強固な盾となり得る力だ。
  流石は龍というべきか、相対するのは今回限りにしておきたいと思わせる。
橘一哉「さあ、身体も温まってきたから、奥の手を出させてもらうよ」
如月玄伍「ならば、此方もそうさせて貰おう」
  二人はそれぞれに構えを取った。
  一哉は右の脇構え。
  玄伍は両手を正中線の前に出し、右手を上に、左手を下にした中段の構え。
  睨み合う二人だが、その顔つきは対照的だった。
  玄伍は眉根に皺を寄せて眼光は鋭く、険しく厳しい表情。
  一方の一哉はというと、目を輝かせて口の端を僅かに上げ、どことなく楽しそうに見える。
  ジリ、ジリ、と互いに摺り足で僅かに動き、仕掛けやすい位置取りを狙う。
  位置取りを狙いながら、いつでも仕掛けられる態勢を整えていく。
  その手始めに、
橘一哉(おいおいおい・・・)
  神獣の力が玄伍の全身に満ち、覆い、発散していくのが見える。
橘一哉(ガチじゃねえか)
  本気を出す。
  それは玄伍自身も口にしたが、聞くと見るとでは大違い。
橘一哉(負けてらんねぇ)
  楽しくなってきた。
  口の端を上げるどころか歯まで見せてしまいそうになるのを堪えながら、一哉も意識を集中する。
  神    気    発    勝
如月玄伍(・・・ほぉ)
  左腕から龍の力が一哉の身体全体に広がっていく。
  だが、
如月玄伍(やはり力は得物に集まるのか)
  佳明と哲也が力を見せた時と同じ。
  龍の力は、得物の刀に集まっていく。
  黒い龍が、刀に絡みついて刀身を覆い尽くしていく。
橘一哉「倶利伽羅!!」
  一際激しく息を吐き、一哉は刀を繰り出した。
  薙ぐように突き出した一閃から黒い龍が伸びていく。
  大きく口を開けた黒龍の顎に、
如月玄伍「ぬん!」
  両手を組んで玄伍は腕を突き出した。
  突き出した両の腕に黒龍は喰らいつき、
如月玄伍「破!!」
  大喝一声、黒龍はバラバラに弾け飛び霧消した。
  だが、一哉の顔色は変わらない。
  たとえ伸びでた倶利伽羅龍が潰されても、その奥に控えるのは、
橘一哉「ちぇすとお!!」
  猿叫とともに迫り来るのは渾身の一刀。
  伸び出た龍は力の余剰、その大元には必殺の一太刀。
  黒い帯を引いて迫る一哉の左八相からの袈裟懸けの一太刀を、
如月玄伍「応!!」
  組んだ手を解き前腕を交差させて受けの態勢を取る玄伍。
  太刀と鉄甲が正に激突せんとするその瞬間、
「破!!」
  奇しくも同時、偶然か必然か似たような発声。
  互いの声が重なり響く。
  そして。
  激しい音を立てて太刀と鉄甲がぶつかり合った。
橘一哉「えああぁっ!!!!!!!!」
  一哉は必殺の意気と黒龍の力で鉄甲を構成する原子の結合エネルギーの遮断を試み、
如月玄伍「ハアアァ!!!!」
  玄伍は合気の極意と玄武の奥義を以て一哉の剛剣を弾こうと試みる。
  結果は、
  相殺。
  一哉の太刀は砕け散り、玄伍の鉄甲も塵と消えた。
  が、それで終わりではない。
  一哉は柄だけとなった刀を玄伍に突き当てようとしたが、
如月玄伍「ここは私の間合だ!!」
  スルリと流されて玄伍は体をピタリと一哉に密着させ、
如月玄伍「秘奥義!!」
  玄   武   震   山   靠
橘一哉「!?」
  ズウン、と一際大きな地鳴りが響き渡る。
  のみならず、空気までもが震える。
  あまりにも激しい衝撃に、柄を取り落とす一哉。
  ただの体当たりではない。
  視界が高速回転を始め、酷い頭痛と激しい耳鳴りが一哉を襲う。
  激しく小刻みに揺さぶられて全身の感覚が麻痺し、意識が遠のきそうになる。
  刹那。
  一哉の心臓が一際大きく脈打った。
  意識が鮮明になり全身の感覚が鋭敏になる。
  気血の巡る速度と量、そして質までもが跳ね上がるのを感じ、一旦閉じかけた双眸をカッと見開いて歯を食いしばり、
橘一哉「オオオオオアッッ!!!!!!!!!!」
  咆哮。
  足はしっかと大地を掴み、地脈の力を吸い上げる。
  龍脈の流れる勢いを落とすこと無く全身の気脈へと流し巡らせて、身体を動かし、
  倶   利   伽   羅   掌
  左手を玄伍の腹に叩き付けた。
如月玄伍「!?!?」
  丹田直撃。
  声にならない叫びを上げる玄伍。
  武道に志して以来、玄武の依代となってからは更に精進して練り上げてきた丹田。
  意識の中心、動きの中心、そして巡る気血の中心。
  その丹田の気が、散らされていく。
  しかし下がらない。
  倒れない。
如月玄伍「ぬううっ・・・!!」
  足を踏ん張り、もう一度秘奥義を放とうとするが、全身の協調が取れない。
  足腰が、据わらない。
橘一哉「ハア、ハア・・・ッ!!」
  対する一哉も、息が荒く追加の攻撃を放つ余力は残っていないようだ。
???「如月翁!!」
  そこへ、玄伍の名を呼ぶ声がした。

〇祈祷場
佐伯美鈴「!!」
  美鈴は不意に顔を上げた。
  その顔は驚愕一色になっている。
佐伯美鈴「今のは・・・」
  強い力の衝突。
  共に美鈴の知る力だ。
  片方は、最近侵入した曲者。
  もう片方は、美鈴が昔からよく知る力。
  前者には何の思い入れも無いが、後者は事情が異なる。
  ずっとずっと見守り続けてきたものだ。
佐伯美鈴「直接対決、したのね・・・」
  本来ならば、衝突するはずのない力同士のはずだ。
  なぜぶつかり合う羽目になったのかは分からない。
  しかし、これほど巨大に膨れ上がったのは気になる。
  気になるが、見に行くわけにもいかない。
  美鈴には、この地を守る責務がある。
  その責務を放棄するわけにはいかない。
  今の美鈴には、愛しい愛しい力の主の無事を祈るしかなかった。

〇道場
「・・・・・・」
  同時だった。
  茂昭と由希は、顔を上げて道場の外を見る。
「!!」
  そして、目が合った。
草薙由希「竹村くん、どうしたの?」
  由希が問いかけると、
竹村茂昭「部長こそ、どうしたんすか?」
  茂昭も問い返す。
草薙由希「・・・何でもないわ」
  しばしの沈黙の後、由希は答えた。
竹村茂昭「俺も、何となくです」
  茂昭も言葉を返し、顔を反らした。
(今の力は・・・)
草薙由希(カズだわ)
竹村茂昭(玄伍さんだな・・・)
(何があったんだろう・・・)

次のエピソード:第伍拾陸話 乱入者

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