龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第伍拾弐話 突撃!近所のお宮さん(脚本)

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〇古びた神社
飯尾佳明「なあ、どうするよ・・・」
古橋哲也「僕に言われても困るよ・・・」

〇実家の居間
  数日前。
如月玄伍「二人とも、大丈夫かね?」
飯尾佳明「あ、あぁ・・・」
古橋哲也「なんとか・・・」
黄龍「玄武の、いささかやり過ぎではないか?」
緑龍「まさか奥義をぶつけてくるとは」
黄龍・緑龍「我らが防護せねば二人は死んでおったぞ!!」
如月玄伍「すまん、本当にすまん・・・」
  哲也と佳明の二人が目覚めた時、関係は逆転していた。
  二人の右腕からギリギリ一杯まで体を出し、緑龍と黄龍が玄伍に詰め寄っていたのだ。
  二体の龍に挟まれた玄伍は、身を縮こまらせて文字通り恐縮している。
如月玄伍「今回は私のやり過ぎだ、本当にすまない」
  深々と頭を下げる玄伍。
  自分達の祖父に近い年齢の人間に頭を下げられると、何となくこちらまで申し訳なく思えてきてしまう。
黄龍「哲也、彼が四神の一柱である玄武の宿主であるのは紛れもない事実」
緑龍「彼は我らの敵ではない」
  佳明と哲也が気を失っている間に、龍たちが玄伍と話をつけたらしい。
如月玄伍「それで、改めてなのだが、」
  八十矛神社について調べてくれまいか。
  玄伍の依頼はそれだった。
如月玄伍「特に、あの佐伯美鈴という巫女神主」
如月玄伍「彼女からはただならぬものを感じる」
「・・・」
  佳明と哲也は顔を見合わせた。

〇古びた神社
飯尾佳明「一体どうしろってんだよ・・・」
  取り敢えず和解した玄武の宿主の頼み。
  無下に断るわけにもいかず、承諾してしまった。
  が、こちらは一介の学生である。
  どこから当たれば良いのか見当がつかない。
  取り敢えず現地に来てはみたが。
飯尾佳明「いつも通り、何も変わりゃしねえよな」
古橋哲也「そうだね」
  鬱蒼と茂る鎮守の杜を背後にして、年経た古びた社が二人の前に立っている。
佐伯美鈴「あら、いらっしゃい」
飯尾佳明「こんちは」
古橋哲也「こんにちは」
  美鈴が姿を現した。
  人が来ると、間を置かずに出迎える管理人。
  これもいつも通りだ。
  何も変わらない。
佐伯美鈴「今日は何か御用?」
飯尾佳明「いえ、近くまで来たんで寄っただけっす」
  まさか社を調べてくれと言われた、などとは答えられない。
佐伯美鈴「そう、ゆっくりしていってね」
  ニコリと笑い、美鈴は社務所の方へと去っていった。
飯尾佳明「・・・変わんねえな」
古橋哲也「変わらないね」
  何も変わるところはない。
  あの老人の思い過ごしではなかろうか。

〇祈祷場
  八十矛神社本殿。
  神社において、本殿というのは祭神の坐す所。
  いわば、祭神の個室である。
  人の住宅の個室がそうであるように、みだりに入って良い場所ではない。
  その本殿で、美鈴は考え込んでいた。
佐伯美鈴「あの子達、ちょっとアヤシイなぁ・・・」
  この社と境内が、時折彼らの溜まり場になっているのは把握している。
  だが、ここに一哉なしで屯した事は一度も無い。
  なぜなら、あの八人の中でここに一番縁深いのが一哉だからだ。
  なのに、今回は一哉がいない。
  哲也と佳明の二人だけ。
  何者かの意図を感じざるを得ないのだが、
佐伯美鈴「あの老人の『匂い』がする」
  先日八十矛神社にやってきた、見慣れぬ老人。
  常人とは異なる雰囲気をまとった、一風変わった老翁。
  単なる奇人変人の類ではない。
  その人物の影を感じる。
佐伯美鈴「人外の、香りがしたわね・・・」
  その老人は、人ならざる力を持つもの特有の雰囲気を備えていた。
佐伯美鈴(入りこまれた?)
  こちらの秘密を嗅ぎ付けられたのだろうか。
佐伯美鈴(いえ、有り得ない)
  隠蔽の術は十重二十重に、厳重に布いている。
  現状、八十矛神社は何の変哲もない神社であり、美鈴はその管理人でしかない。
  そのように振る舞っているし、目立つような行動も起こしていない。
佐伯美鈴(探りを入れに来た、といった所でしょうね)
  二人から感じる、強い人外の気配。
  あの二人と老人が接触したのは確かだ。
  そして、どういうわけか二人の少年は一哉を伴わずに此処に来た。
  この二点から推測し得るのは、
佐伯美鈴「あの老人の差し金でしょうね・・・」
  一哉たちは、この社で駄弁っているだけ。
  何事かをなそうという気配は無い。
  あの老人から何らかの意を受けて、何かをしに来たのだろう。
佐伯美鈴「どうやって誤魔化そうかしらね」
  口振りの割には、美鈴は楽しそうな笑みを浮かべていた。

〇山の中
飯尾佳明「結構広いんだな、この神社」
  境内を散策する二人。
  山の麓に建つ八十矛神社の境内は広かった。
  どこまでが神社の私有地なのか、その境界が中々見えない。
  どこまでも森が広がっている。
古橋哲也「どうする?一旦引き返す?」
飯尾佳明「いや、まだだ」
  哲也の言葉に首を横に振り、佳明は更に奥へと進んでいく。
古橋哲也「迷子になるのはゴメンだよ?」
飯尾佳明「分かってるって」
  佳明は好奇心が強い。
  一度気になると、どんどんのめり込んでいく節がある。
古橋哲也(刺激されちゃったか・・・)
  普段は表の拝殿周辺で屯することが多い、この神社。
  裏の山に繋がる深い鎮守の杜は、社にまつわる噂と相俟って禁足地扱いだった。
  何度か足を運んでいながらも、哲也たちは表の姿しか知らない。
  そこを調べろと言うあの老人は、一体何を考えているのか。
???「あなた達、そこから先は危ないわよ」

〇山の中
佐伯美鈴「そこから先は全く手入れしていない、正真正銘の原生林」
佐伯美鈴「人が入れる場所じゃないわ」
古橋哲也「美鈴さん・・・」
  いつの間に追いついたのか、振り返ると美鈴がいた。
佐伯美鈴「ごらんなさい」
  美鈴は森の奥を指さす。

〇霧の立ち込める森
飯尾佳明「霧・・・?」
古橋哲也「前が、見えない・・・」
  うっすらとではあるが、霧が出ている。
  奥まで見通しがきかない。
佐伯美鈴「そう、霧」
佐伯美鈴「この先はね、一切手付かずの森なの」
佐伯美鈴「道らしい道もないし、標識もない」
佐伯美鈴「水脈もそのまま残っているから、余剰の水分がこうやって霧になって出ているの」
佐伯美鈴「進めば迷うだけよ」
  美鈴の言葉を聞き、佳明と哲也はもう一度森の奥へと目を向ける。
飯尾佳明「・・・」
  足元には道らしいものはなく、土は殆ど見えない。
  植物が生い茂るか、落ち葉で埋め尽くされている。
  生い茂る植物の隙間が道のようにも見えるが、良くて獣道だろう。
古橋哲也「これは、無理そうだね」
  草いきれも強く、森自体が人の侵入を拒んでいるようにも感じられる。
飯尾佳明「・・・しょうがねえ、戻るか」
古橋哲也「そうだね」

〇和室
佐伯美鈴「あら、そういう事だったのね」
  八十矛神社の社務所。
  奥の杜から戻った三人は一服していた。
飯尾佳明「まあ、そんな感じっす」
佐伯美鈴「だったら早く言ってくれればよかったのに」
古橋哲也「そこはまぁアレです、現地調査、ってやつで」
佐伯美鈴「だったら、ちょうど良いものが沢山あるわよ」
  美鈴はレターボックスから何種類かのチラシやパンフレットを取り出した。
佐伯美鈴「はい、宣伝資料」
  テーブルの上に並べられたのは、八十矛神社の由来や縁起を記した資料だった。
佐伯美鈴「これに一通り載ってるはずよ」
古橋哲也「ありがとうございます」
  礼を述べる哲也だったが、
(これは所詮表向きだろうな・・・)
  あの老人の言葉が本当ならば、ここに並べられたもの以外の情報が必ずあるはずだ。
  隠されたか、あるいは忘れ去られたか。
佐伯美鈴「私も父から色々話を聞いてるから、教えてあげる」
  かくして哲也と佳明は、美鈴の話を夕方の日暮れ時までたっぷりと聞かされたのだった。

〇街中の道路
古橋哲也「長かったね・・・」
飯尾佳明「長かったな・・・」
  夕暮れの街を歩く哲也と佳明。
古橋哲也「正直、油断してたよ・・・」
飯尾佳明「俺もだ・・・」
  二人の顔はげっそりとして疲労困憊といった様子。
  背中は丸くなり足取りも重く、精根尽き果てた、といった風情だ。
古橋哲也「美鈴さん、あんなに博覧強記だったんだね・・・」
飯尾佳明「俺の知らねえ話がポンポン飛び出てくるとは思わなかった・・・」
  佳明は博覧強記を自負している。
  が、美鈴は、佳明のそれを軽々と上回ってみせた。
古橋哲也「肝心の八十矛神社関連の話、どれくらいだったのかな・・・」
飯尾佳明「知らねえよ・・・」
  八十矛神社に纏わる話だけならまだ良かった。
  八十矛神社の辿ってきた歴史。
  八十矛神社の出来事の時代背景。
  移り変わってきた風俗。
  おまけに、一哉と八十矛神社の不思議な縁と、美鈴との馴れ初め。
  あまりにも情報量が多すぎた。
  筆記用具を持参しなかったことが、これほど悔やまれた事はない。
飯尾佳明「とりあえず、覚えてる事だけ書き出して、あの爺さんに渡すか・・・」
古橋哲也「そうだね・・・」
  トボトボと夕暮れの中を歩く少年二人の背中が、やけに煤けて見えた。

〇おしゃれなリビングダイニング
佐伯美鈴「・・・ていう事があってね、」
橘一哉「へ、へえ・・・」
  向かいの席に座る又従兄弟に、美鈴は笑顔で語り続ける。
  美鈴の話は長い。
  だが、その柔らかな雰囲気や声音、そして笑顔が、長話を苦痛たらしめない。
  それでも、話の内容に一哉は少し引いた。
佐伯美鈴「取り敢えず一通り話してあげたんだけど、あの子達、メモも取らずに聞いてたのよ」
橘一哉(書き留める暇すら無かったんじゃなかろうか)
  実際の所は筆記用具を用意していなかったというのが真相である。
  だが、用意した所で書き留めることが出来たかどうかは些か怪しいと言わざるを得ない。
  美鈴の語り口は立て板に水、緩急自在。
  聞く者に場面を即座に想起させ、魅了し引き込む力がある。
  神職にならずとも話芸で身を立てることが出来るのではないか、と思える。
  そんな美鈴に捕まってしまった友人二人の顛末を思い浮かべ、一哉は心中で合掌した。

〇大きな箪笥のある和室
佐伯美鈴「は〜、今日はたくさん喋ったわ〜」
  自室で夜空を眺めつつ、美鈴は笑みを浮かべる。
佐伯美鈴「あんなに喋ったの、教育実習の時以来かも」
  二人が高校生だったというのも、あれだけ口が回った理由かもしれない。
佐伯美鈴「ともあれ、今日の所は一安心ね」
  もしかしたら、また来るかもしれない。
  佳明と哲也か、はたまたあの老人が来るかもしれない。
  その時はその時だ、また対策を打てば良い。
佐伯美鈴「・・・まだ、知られるわけにはいかないのよ」
佐伯美鈴「あの杜の、真の姿を」

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