龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第伍拾壱話 玄武(脚本)

龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

今すぐ読む

龍使い〜無間流退魔録外伝〜
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇住宅地の坂道
  平坂市のやや北側、山に近い所にある閑静な住宅街。
  一昔前にタイムスリップしたような景色の中を、古橋哲也と飯尾佳明の二人は歩いていた。
古橋哲也「こんな所に、店なんてあるのかな?」
飯尾佳明「何言ってんだ、こんな所だからこそ、店で掘り出し物が見つかるんだよ」
古橋哲也「そんなもんかなぁ・・・」
飯尾佳明「そういうもんさ」
  二人がブラブラと歩いていると、
飯尾佳明「お、良さげな店があるじゃねえか」
  とある古めかしい構えの建物の前に辿り着いた。
  営業中のようだ。
  看板には『如月古物商店』とある。
飯尾佳明「こんちわ〜」
  二人は暖簾を潜って店内へと入った。

〇お土産屋
飯尾佳明「お、趣あるじゃん」
古橋哲也「古そうだね・・・」
  外の構えに違わぬ古い内装の店内には、様々な古物が並べられている。
飯尾佳明「こういう所に、掘り出し物があるんだよ」
  佳明は目を輝かせて陳列されているものをじっくりと見ていく。
古橋哲也「色々あるなぁ・・・」
  『骨董品店』ではなく『古物店』と称しているだけあって、並べられている品物は様々なものがある。
  時代や洋の東西を問わず、食器や装飾、調度品、書籍。
  多岐、多種、多様。
  悪く言えば節操がない。
  そんな中、佳明が特に目を引かれたのは、
飯尾佳明「おいおい、和綴じだぜ」
  書籍である。
  いかにも古そうな和綴じの本を手に取った。
???「おや、随分と若いお客さんだ」
  奥の方から一人の老人が出てきた。
如月玄伍「何か良さげなものはあったかね?」

〇実家の居間
  佳明と哲也は困惑していた。
  普段は行かない方角に出かけて、何か珍しいものがないか探す。
  そんな、ちょっとした冒険気分の外出に過ぎなかったはずだ。
  珍しい店を見つけたので入ってみた。
  そこまではいい。
  が、今のこの状況は何なのだろう。
  店主になぜか気に入られ、店の奥、というか私宅に通されている。
飯尾佳明「あの、」
如月玄伍「何だね?」
  店主の機嫌は良さそうだ。
  なるべく損ねないように、佳明は聞いてみた。
飯尾佳明「俺達、なんでここにいるんすか」
如月玄伍「それは君、」
  店主は若者二人を交互に見やり、
如月玄伍「君たちが、神獣使いだからだよ」
「!!」

〇実家の居間
如月玄伍「そう驚くことは無い、私も同類だ」
  店主の背後に巨大な蛇亀が浮かび上がる。
  店主の背後を埋め尽くすような大きさだが、実体化はしていないのだろう。
  家具や調度が圧迫されて動く様子はない。
飯尾佳明「げ、玄武・・・!?」
如月玄伍「ほう、知っているかね」
飯尾佳明「あんたの後ろのそれと特徴が一致するのは、玄武しかない」
如月玄伍「博識だな、素晴らしい」
  店主は手をたたき、
如月玄伍「私は如月玄伍」
如月玄伍「見ての通り、玄武の宿主だ」
古橋哲也「それで、僕たちに何の用ですか?」
  哲也はまだ警戒を解かない。
  此方の素性が知れているというのはハッタリかもしれないし、玄武の宿主というのも嘘かもしれない。
  端的に言って、眼の前の老人が魔族である可能性もある。
  佳明も哲也も、自分たちが龍使いであることは明かしていない。
  白を切り通して、この場を脱することもできる。
  が。
飯尾佳明(この爺さん、得体が知れない・・・)
  得体の知れぬ底の深さを、目の前の老人から感じる。
  何が出てくるか分からない不気味さを感じ、二人はその場から不用意に動けなかった。
  ただ、右腕への意識だけは途切れさせないようにして、臨戦態勢を整える。
如月玄伍「そうだな、経緯を話すとしよう」

〇古びた神社
如月玄伍「・・・」
  数日前。
  如月玄伍は八十矛神社を訪れていた。
如月玄伍「やはり、良い場所だな・・・」
  鎮守の杜が、これほどの規模で残っている神社は珍しい。
  全国の有名な寺社仏閣には及ばないが、神域の一部がほぼ手付かずでいるのは珍しい。
  動植物の自然の息吹が感じられ、風通しも良く、空気が澄み渡っている。

〇実家の居間
古橋哲也「その場所なら、僕たちも良く知ってます」
  哲也たち龍使いの集会場所として利用している馴染みの場所だ。
  何か特別な出来事が起きるような場所には思えない。
如月玄伍「そこで、出会ってしまったのだよ」
如月玄伍「人ならざるものに」

〇古びた神社
如月玄伍「よく手入れが行き届いているな」
  参道や社殿の周囲は掃き清められ、参拝に不便は無い。
  湧き水を利用しているのか、手水鉢には水が流れている。
  手水鉢も、中の水も、柄杓も、汚れがなく清潔を保っている。
  雰囲気を堪能しながらゆっくりと歩いていると、
如月玄伍「む・・・」
  人外の気配を感じた。
  周囲を警戒しながらも歩を進めていると、
佐伯美鈴「あら、八十矛神社にようこそ」
  横合いから巫女装束の女性が姿を現した。
佐伯美鈴「当神社の管理人をしております、佐伯美鈴と申します」
  佐伯美鈴と名乗った女性は一頻り挨拶をして一礼したが、
如月玄伍(・・・おかしい)
  違和感。
  足音もなければ、気配もなかった。
  この女性は、突如として出現したようにしか見えない。
如月玄伍「ここは、良い所ですな」
如月玄伍「森が茂り、風の通りも良い」
  実に過ごしやすい、風水的に良い場所だ。
佐伯美鈴「あら、そう言って頂けると嬉しいですわ」
  美鈴は笑顔を見せて喜んだ。
佐伯美鈴「では、ごゆっくり」
  一礼して美鈴は去っていったが、
如月玄伍(やはり、人外か)
  玄伍の視界から消えた瞬間に、美鈴の気配が掻き消えたのを見逃さなかった。

〇実家の居間
飯尾佳明「はあ!?」
古橋哲也「そんな、まさか」
  俄には信じ難い話だ。
  何せ、
飯尾佳明「その人、俺達の知り合いの親戚だぜ?」
古橋哲也「人間に決まってるじゃないですか」
  佐伯美鈴は、橘一哉の又従姉だ。
  一哉と美鈴の幼い頃のエピソードを二人から幾つも聞いている。
  どう考えても人間のはずだ。
如月玄伍「それは、本当に佐伯美鈴なのかね?」
飯尾佳明「どういう事だ?」
  佳明が問い返すと、
如月玄伍「だから、八十矛神社に出没する佐伯美鈴は、本物の佐伯美鈴なのかね?」
「!!」
  二人はハッとした。
古橋哲也「まさか、」
飯尾佳明「何者かが美鈴さんに化けてる、と?」
  玄伍は黙って頷く。
如月玄伍「八十矛神社は、平坂の地でも稀な霊地」
如月玄伍「人外が何かしでかしても不思議ではない」
如月玄伍「それ以前に、」
  玄伍は一旦深呼吸をし、
如月玄伍「あの八十矛神社という杜は、危険だ」
如月玄伍「深入りすべきではない」

〇古びた神社
佐伯美鈴「くしゅん!」
  日課の掃除をしていた美鈴は可愛いくしゃみをした。
佐伯美鈴「・・・誰かが噂でもしてるのかしら」
佐伯美鈴「カズくんだといいな〜♪」
  愛しの又従弟の名を口にした美鈴だったが、
佐伯美鈴「あのお爺さん、変な事考えてなければいいのだけれど・・・」
  数日前に訪れた老人を思い出し、警戒心を顕にした。

〇実家の居間
如月玄伍「どうだろう、協力してくれないかね?」
  玄伍の申し出に、
飯尾佳明「断る」
古橋哲也「お断りします」
  即答。
  無理もない。
飯尾佳明「あんたを信用する理由がない」
飯尾佳明「俺達は、たまたまこの店に来た、それだけだ」
飯尾佳明「色々見せられたし話を聞いたが、何も見てないし聞いてないことにする」
古橋哲也「そういう訳なので、失礼します」
  二人が立ち上がろうとすると、
「!?」
  地震が起きた。
  いや、地震ではない。
  揺れたのは、この如月家のみ。
  庭の草木や外の建物は一切揺れていない。
如月玄伍「君たちも神獣の力を宿す者ならば、もう少し自覚したまえ」
  小刻みに揺れる家の中、玄伍はスッと立ち上がる。
  一方で、哲也と佳明の二人は思わずバランスを崩して片膝を着いた。
飯尾佳明「何のつもりだジジイ!」
如月玄伍「口が悪いな、君は」
  玄伍は佳明の肩に手を置いた。
飯尾佳明「うるせえよ!」
  手を払い除け立ち上がろうとする佳明だったが、
飯尾佳明「!?」
  手を払い除けられない。
  まるで肩にピタリと吸い付いたかのように離れない。
  その上、
飯尾佳明「っ・・・!!」
  体が動かない。
  まるで固まってしまったかのように動かず、ズシリと重い。
飯尾佳明「なにを、しやがった・・・!!」
  辛うじて動く首を動かし顔を上げて玄伍を睨みつける佳明。
如月玄伍「合気落とし、とでも言おうかな」
  柔術の類か、と佳明は理解した。
飯尾佳明(この爺さん、できる・・・!!)
  できる、などというレベルではない。
  間違いなく達人だ。
如月玄伍「黒い龍の少年には通用しなかったがね」
古橋哲也「カズを知ってるんですか!?」
如月玄伍「ああ、知っているとも」
  玄伍は頷き、
如月玄伍「君は、緑の龍・・・金属、か?」
飯尾佳明「!!」
  佳明の目が驚愕に見開かれる。
飯尾佳明(読まれた!)
  触れただけだというのに、佳明に宿る龍の存在を読まれた。
古橋哲也「飯尾くんから離れろ!」
  佳明に対する制圧行為。
  これを以て、哲也は眼前の老翁を敵と認定した。
  未だ揺れが続く中で立ち上がると小振りな手斧を出現させ、玄伍に打ち掛かる。
如月玄伍「おっと」
古橋哲也「!!」
飯尾佳明「うわっ!」
  玄伍は佳明から手を離すと、無造作に哲也へと手を伸ばす。
  突然押さえを外された佳明は転倒し、
古橋哲也「な!?」
  哲也は手斧を奪われて膝を着いた。
如月玄伍「君は、」
  哲也を見た玄伍の目が驚きに見開かれる。
如月玄伍「君が、黄龍・・・!!」
如月玄伍「我ら四神の要か・・・!!」
如月玄伍「この一連の邂逅、やはり何かが起きているのは間違いない・・・!!」
  玄伍は何かを確信して眉根に皺を寄せる。
飯尾佳明「ってぇ・・・」
古橋哲也「っ・・・」
如月玄伍「しかし、血気に逸り過ぎだな」
  若者二人を交互に見る玄伍に対し、
飯尾佳明「うるせぇ!」
  佳明が立ち上がり鞭剣を叩きつける。
  玄伍は空いている片腕を伸ばし、
如月玄伍「奮!!」
「!!!!!!」
  佳明の鞭剣に触れると同時に瞬間的に息を吐き出した。
  大きく激しい振動が哲也と佳明の全身を駆け巡る。
飯尾佳明「う・・・」
古橋哲也「あ・・・」
  哲也と佳明は、力なくその場に倒れ伏した。
如月玄伍「玄武の奥義、用いることになるとはな・・・」
如月玄伍「ままならぬものだ・・・」

次のエピソード:第伍拾弐話 突撃!近所のお宮さん

成分キーワード

ページTOPへ