ホラーコーディネーター

赤井景

エピソード1 白いワンピースの女(脚本)

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赤井景

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〇黒
  ねえ知ってる?
  ここらでウワサの、怖ぁい、
  コワァイ、あの話
  髪が長くてさ、手足もすらっとした、
  白いワンピースの女のヒト
  夜な夜な、その子が現れるの
  カーンカーンカーン
  って音と一緒に
  気を付けて。
  もし、その子を目にしたら・・・
  あの世に連れていかれちゃうんだって!

〇川に架かる橋
八代壬継「はぁ・・・ツイてないなぁ・・・」
  客とトラブルになって、安居酒屋のバイトをクビになった。
  酔っ払い客に女の子が絡まれていたからキツめに注意をしたのだが、それで酔っ払いが逆ギレ。
  結局ケンカ沙汰になってしまったのだ。
  かくしてこの俺、八代壬継(やしろ みつぐ)は──
  明日から職なし学なし貯金なしという、わりと人生ピンチな状況に置かれることになってしまった。
  貧乏役者仲間のなかには女の子に養ってもらってるヤツもいるけど、あれもどうかと思うしなぁ・・・。
八代壬継「ん?」

〇川に架かる橋
  ふと、街灯が明滅した。
  電球でも切れかかってるのか?
  ほんのわずかな時間ではあっても、周囲が闇に包まれるというのは気味が悪い。
八代壬継「!?」
  首筋が、ぞわっとした。
  思わず振り返る。
八代壬継「今、なにか気配がしたような・・・」
八代壬継「き、気のせいか・・・」
  不安に思ってしまうのは、普段と違う道で帰っているからかもしれない。
  どうもこの辺りでは、広い範囲で道路工事が行われているようだ。
  さっきから回り道ばかりさせられている。
  見慣れない道。一人歩き。突然の暗闇。
  心細くなってしまうのも当然か。

〇線路沿いの道
  線路沿いの、道に出た。
  駅が近いのだろう。
  遠く、踏切の音が聞こえてくる。
八代壬継「まてよ。踏切の音だって?」
  おかしい。
  そんなものが聞こえてくるはずがない。
  だって、終電はとうの昔に終わっているはずなのだ。
八代壬継「幻聴? ははっ、疲れてるのかな」
  カーンカーンカーンカーン
  いや、幻聴なんかじゃない。
  確かに聞こえてくる。
八代壬継「きっと、回送電車とかだよな。 車庫まで移動させてるんだ」
  そう言い聞かせようとするのだが・・・。
  どうしても思い出してしまうのは、バイト中に耳にした、あの噂話のことだった。

〇大衆居酒屋
  ねえ知ってる?
  ここらでウワサの、怖ぁい、コワァイ、あの話
  このへんの駅、最近ホームドアの設置工事してるじゃない?
  あれ、飛び込み自殺をした人がいるからなんだって
  髪が長くてさ、手足もすらっとした、白いワンピースの女のヒト
  そのワンピースは、お腹から下が、べっっっっっとりと赤く濡れててるの
  だって、そういう死に方をしたから
  ホームに落ちて、電車が来て、でも止まらなくて、そのまま車輪に・・・
  それからというもの、夜な夜な、その子が現れるの
  カーンカーンカーンって音と一緒に
  気を付けて。
  もし、その子を目にしたら・・・
  あの世に連れていかれちゃうんだって!

〇線路沿いの道
八代壬継「は・・・ははっ」
八代壬継「あんなのタダの作り話だろ。 ありえないって」
  ヒタ・・・ヒタ・・・
八代壬継「!?」
  足音! 間違いない、聞こえた。
  誰かが近づいてくる、気配も感じた。
  意を決し、振り向く。
八代壬継「いない・・・誰も、いない・・・」
  じゃあなんだっていうんだ。
  さっき、確かに聞いた足音は。
  確かに感じた気配は。
  ねぇ
  耳元に、ねばつくような女の声。
  すぐ後ろ。振り向けば、絶対そいつがいる。
八代壬継「くそっ、なんなんだよ!」
  振り向く。
  ・・・誰もいない。
八代壬継「はっ、はははっ。俺ビビりすぎ」
  そうだとも。
  あんな他愛もない噂話を真に受けるだなんて、どうかしてる。
  そもそもおかしいじゃないか。
  電車にひかれた女を見ただけで「あの世に連れていかれる」のであれば、その女のことを誰が他の人間に話せるっていうんだ?
  そんな話が伝わっているってこと自体、あの噂が作り話だって証明じゃないか。
八代壬継「ばかばかしい。さっさと帰ろう」

〇黒
  街灯がちらいたのち、消える。真っ暗に。
八代壬継「やれやれ。ついに消えたか」

〇線路沿いの道
  え・・・
  道の先。白い服の女が立っている。

〇黒
  また街灯が消える。

〇線路沿いの道
  しばらくして明かりが戻ると、女はいない。
八代壬継「気のせい・・・だよな」
  けど、もうあの女が立っていた道を通る気にはなれなかった。
  遠回りになりそうだが、いったん戻って別の道で帰ろう。
  うわ、うわあああああああああっ!

〇黒
  あれ? あーっ、違う!
  みんな! 中止中止!
  いったんストップ!

〇線路沿いの道
綺麗な人「いやー、ゴメンねキミ。 驚かせちゃったよねぇ」
八代壬継「え? え?」
  目の前に、あの噂通りの幽霊が立っていた。
  いや違う。
  ただの・・・女のヒトだ。
  ちゃんと、生きてる。生身の美人。
八代壬継「な、なんなんですか、あなたは!」
綺麗な人「私? 私は、そうねぇ・・・」
  『ホラーコーディネーター』ってヤツかな

次のエピソード:エピソード2 幽々舎

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