龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第四拾九話 青龍を探せ(脚本)

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〇学校の廊下
竹村茂昭(青龍、か)
  茂昭は白虎。
  玄武の如月玄伍。
  朱雀の雀松司。
  四神の内三柱が邂逅した。
  残る四神は青龍のみ。
  一体どこにいるのだろうか。
竹村茂昭「!!」
  思い当たる節があった。
竹村茂昭(そういえば、カズは・・・)
  白虎曰く、龍の一類である黒龍。
  同じ龍なら、何か知っているかもしれない。
  が、
竹村茂昭「うーん、」
  どうやって切り出したら良いのだろう。
  話の切っ掛けをどうやって作ればよいか、それが分からない。
竹村茂昭「なんて言えばいいんだよ・・・」
「シゲちゃん?」
竹村茂昭「うわあ!!」
  思わず声を上げて飛び退くと、
竹村茂昭「・・・って、カズか」
  一哉がいた。
橘一哉「悩んでるなんて珍しいじゃん」
竹村茂昭「俺が単細胞みたいな言い方だな、オイ」
橘一哉「あれ、違った?」
竹村茂昭「・・・・・・」
橘一哉「・・・・・・」
  微妙な間が流れる。
竹村茂昭「そういうお前はどうなんだよ?」
橘一哉「俺は時の勢いとその場のノリを大事にしてるから」
竹村茂昭「・・・」
  こいつ、そういう奴だったのか。
  あらためて顔を見てみると、悩みとは無縁そうな目をしている。
  脳天気というか、何も考えていないというか、そんな目をしている。
橘一哉「そんなに見つめるなよ、恥ずかしい」
  一哉が頬を赤らめると、
梶間頼子「おや、そっちの展開ですかな?」
「ふおぁ!?」
  一人の少女がひょっこりと顔を出した。
橘一哉「びっくりしたなァもう」
梶間頼子「いやあ、少年二人が意味深に見つめ合ってたから、つい」
  どうやら一哉の知り合いらしいが、
竹村茂昭「俺には同性愛の趣味はないからな」
  一応断っておく。
竹村茂昭「で、君は?」
  茂昭が問うと、
梶間頼子「あたしは梶間頼子、よろしくね」
  梶間頼子と名乗った少女は、ニッと笑ってVサインをした。
竹村茂昭(何となくカズと似てるな)
  どことなく一哉に似た印象を受ける少女だ。
竹村茂昭「俺は竹村茂昭」
梶間頼子「知ってるよ、カズと試合したんでしょ?」
竹村茂昭「ああ」
梶間頼子「あたしも見てたからね」
竹村茂昭「そりゃ光栄だな」
  結果は茂昭の敗北だったが、様々な催しが行われている中で武道場に足を運んでくれていたのは嬉しい。
  先程のちょっとしたやり取りも見ると、一哉と親しい仲なのだろうが、
梶間頼子「それで?何か悩み事?」
  頼子まで同じ事を聞いてきた。
竹村茂昭「俺、そんなに悩んでいる風に見えたのか?」
梶間頼子「うん」
  間髪入れずに頼子は頷く。
竹村茂昭「そんなに分かりやすいかな、俺」
橘一哉「初対面の相手に気取られる程度には」
竹村茂昭「それって滅茶苦茶分かりやすいって事じゃないか」
梶間頼子「そうだね」
橘一哉「いいじゃん、素直ってコトで」
竹村茂昭「うーん・・・」
  無表情よりはマシかも知れないが、感情が出過ぎるのもそれはそれで問題のような気がする。
梶間頼子「じゃ、あたしはコレで」
  じゃね、と頼子は去っていった。
橘一哉「で?悩みがあるなら聞くよ?」
竹村茂昭「いや、今はまだ大丈夫だ」
橘一哉「そっか」

〇まっすぐの廊下
橘一哉(シゲちゃんの悩みかぁ・・・)
  一哉の印象では、竹村茂昭という少年は爽やかなスポーツマンである。
  悩みや葛藤とは無縁の熱血武道人。
  裏表がなく、付き合いやすいタイプだと思っている。
  それはそれとして、
橘一哉(どこの虎だろう)
  文化祭の時に垣間見えた、虎の神気。
  彼が神獣の宿主であるのは確かだが、分かるのはそこまでだ。
  すぐに思いつくものとしては、
橘一哉(・・・白虎?)
  虎の中でも最も有名なのは、四神の一柱。
  西に配される白虎だ。
橘一哉(しかし、あそこまであからさまに)
  簡単に白虎の力を解放しているとは迂闊にもほどがある。
  あれでは容易く察知されて狙われてしまう。
橘一哉(それも作戦の内なのか・・・?)
  人を表面だけで判断してはいけない。
  学生としての茂昭は爽やか武道人でも、神獣の宿主としての茂昭は違うかもしれないのだ。
橘一哉(ま、いいか)
  行き合う時は行き合うし、互いに神獣の宿主として邂逅する時もいずれやって来るだろう。
橘一哉(今日の放課後は一狩りやることになるかなぁ・・・)
  最近増えてきた『匂い』。
  また今日も帰り道で一戦交えることになるのだろうかと考えながら、一哉は廊下を歩いていった。

〇校長室
理事長「やれやれ、大変だったな」
矢口朱童「我々の預かり知らぬ所で、随分派手にやられましたな」
理事長「火消しにも一苦労だったよ」
  深々とため息をつく理事長。
理事長「プールの水が消えるだけで済んだのは勿怪の幸いだな」
  プールの施設や周辺に、被害や悪影響は残っていない。
  残滓の規模からすると、かなりの一大事が起きていたはず。
  にも関わらず、消えたのは水だけ。
  奇跡としか言いようがない。
理事長「事を荒立てるには、まだ時期尚早だ」
理事長「ましてや我々の縄張り」
  人目を引くような派手な事件が起きるのは好ましくない。
矢口朱童「警備を強化しておきましょう」
理事長「ああ、頼む」

〇教室
草薙由希(それにしても、良かった)
  あれだけの大立ち回りをしたが、プール自体は無事に使用を再開している。
  設備に被害が出ていなかったことは奇跡的だ。
  再開後のプールの授業で体調不良を訴える生徒も出ていないことから、水怪の瘴気の影響も殆ど無いようだ。
草薙由希(一安心ね)
  一安心ではあるのだが、
草薙由希(でも、不思議ね・・・)
  龍の力を使うこと自体は珍しくはない。
  得物の薙刀に纏わせ、自身の身体能力を強化して戦っているのだ。
  しかし、
草薙由希(実体化するなんてね)
  仮初ではあるが、青龍が実体化したのは今回が初めてだ。
  姿を見せても、立体映像のような実体のないエネルギー体で右前腕から僅かに首から先を覗かせる程度。
  しっかりとした肉体を持って顕現したのは初めてなのだ。
草薙由希(どういうことかしらね・・・)
  少しずつ、今までとは違う、変化が訪れているような気がする。
  はっきりとは分からないが、何かが動き始めている。

〇高い屋上
  昼休み。
  玲奈は一人で屋上に来ていた。
  頼子とつるんでいるか、一哉の傍にいる事が多い彼女としては珍しい事だった。
  生来人懐こい傾向があるとはいえ、玲奈も年頃の少女。
  偶には一人で動きたくなる時もある。
辰宮玲奈「風が・・・」
  玲奈は呟いた。
  人知れず由希が水怪を退治し、プールの水が消失した事件から既に数日が経っている。
  それでも、まだ微かに痕跡は残っていた。
  校内に流れ漂う尋常ならざる神気と瘴気。
  人をはじめとする動植物や物質に影響を与えるほどではない。
  だが、それは未だに残っている。
  加えて、
辰宮玲奈「流れが、変わってる・・・」
  玲奈は弓を出し、弦に指を掛けた。
  矢は番えない。
  弓を斜め上に向け、弦を大きく引き絞り、
  弦鳴りの音が響き渡る。
  続けて、二度、三度と弦を鳴らす。
辰宮玲奈「・・・」
  最後に矢を一筋取り出し、
  天高く矢を放った。
  矢は高く高く飛んでいき、蒼天に吸い込まれて消えた。
辰宮玲奈「これで、少しは静まるかなぁ・・・」
  風の中の綻び。
  それを縫い留めることはできたのだろうか。

〇道場
竹村茂昭「カズ、」
橘一哉「ん?」
竹村茂昭「俺と、全力で寸止め勝負だ」
橘一哉「ごめんちょっと何言ってるか分からない」
竹村茂昭「だから、俺と、」
橘一哉「全力で寸止めとはこれ如何に?」
竹村茂昭「・・・」
  返答に詰まる茂昭。
草薙由希「もしかして、御前試合的なやつ?」
竹村茂昭「そう、それです!」
  思わぬ助け舟に茂昭の声が高ぶる。
草薙由希「だそうだけど、どうする?」
橘一哉「んー・・・」
  一哉はしばし考えていたが、
橘一哉「・・・一回だけなら」
竹村茂昭「よし、やろう!」
草薙由希「じゃあ、私が審判やるわね」

〇道場
  向かい合う茂昭と一哉。
竹村茂昭「いいか、寸止めでも全力だからな」
橘一哉「あいよ」
  部活開始前の僅かな時間である。
  互いに面と小手は着けない状態での勝負。
  試合というよりは余興に近い。
  だが、気迫は真剣勝負そのもの。
竹村茂昭(全力だ、と条件をつけた)
  茂昭の思惑通り、一哉は自身の奥に眠る力を出してくれるだろうか。
  それは偏に茂昭次第である。
  果たして、茂昭は一哉の力を引き出す事が出来るのか。
竹村茂昭「・・・」
橘一哉「・・・」
  睨み合いが続く。
  互いに中段に構えたまま、その場から動かない。
  僅かな動きが隙となり、撃ち込まれるのだ。
  実際に当てるわけではない。
  しかし、紙一重に到達した時点で勝敗が決する。
  互いの気を読み、機を窺い、隙を見せずに隙を狙う。
  どこに勝ちの筋があるか。
  相手はどのように来るのか。
  相手の攻め手を読み、隙を探す。
  一度は相対した相手である。
  ある程度は動きの予想がつく。
橘一哉「・・・」
  このひりつくような緊張感が、たまらない。
  一哉にとっては、これが楽しい。
  生死の狭間に垣間見える輝きが、一哉を昂らせる。
竹村茂昭「・・・!!」
  茂昭は思わず目を丸くした。
  一哉が笑ったのだ。
  ニィ、と、まるで獣が牙を剥き出すかのように。
  その双眸は鋭さを増し、刃の如く。
竹村茂昭(これが、カズの、)
  奥底に眠る本性だというのか。
  武道家?
竹村茂昭(いや、違う)
  この顔は、獣だ。
  薙刀を持つ手が震える。
  驚き、未知への恐怖、あるいは武者震いか。
竹村茂昭(だが!)
  一哉が本性を見せたのだ。
  此方も見せねば失礼にあたる。

〇道場
草薙由希(これは!)
  茂昭の身体から発する『力』。
  見覚えがある。
  神気発勝だ。
草薙由希(竹村くんも神獣使いだというの・・・!?)

〇道場
竹村茂昭(いくぞ、カズ!!)
竹村茂昭「っ!!」
  一瞬だった。
  一哉の竹刀の柄頭が、茂昭の喉に付けられている。
  竹刀の中程に一哉の左手が添えられている。
竹村茂昭「俺の負けか・・・」
橘一哉「いや、俺の負けだ」
竹村茂昭「?」
橘一哉「添え手技は剣道には無い」
橘一哉「剣道で相手しきれなかった俺の負けだよ、シゲちゃん」
竹村茂昭「・・・」
橘一哉「さ、稽古に行こうぜ」
  そう言って一哉は剣道部の方へと歩いていった。
草薙由希「引き分け、といったところかしらね」
竹村茂昭「部長・・・」
  呆然としている茂昭に由希が声を掛けた。
草薙由希「あの子、古流もやってるから」
  一哉を眺める由希。
竹村茂昭「古流を・・・?」
草薙由希「そう、古流」
  頷く由希の顔は、どことなく誇らしげだ。
草薙由希「居合もやってるし、年の割には剣の扱いは上手いわよ」
竹村茂昭「そうなんすか・・・」
草薙由希「さあ、練習始めるわよ」
竹村茂昭「はい・・・」

〇市街地の交差点
竹村茂昭「・・・」
  帰り道、あの一瞬を茂昭は、何度も思い出していた。
竹村茂昭「カズ・・・」
竹村茂昭「いや、橘一哉」
竹村茂昭「あいつは、」
  確かに、龍だ。

〇道場

〇市街地の交差点
  改めて理解し、納得した。
  添え手で茂昭の薙刀を流しつつ、柄頭を喉元に付けた一連の動き。
  そこに、龍の姿を見た。
  橘一哉は龍使いだ。
  だが、
竹村茂昭「それしか分からなかったなぁ・・・」
  当てが外れてしまった。
  勝敗に託つけて、龍について話を聞いてみるつもりだった。
  だが、茂昭は負けた。
  なのに、一哉は『剣道にない技を使った』事を理由に自身の負けを宣言。
  茂昭の方も拍子抜けしてしまった。
  その後、当初想定していた龍に関わる質問もできないままに部活は終わり、肝心の青龍については何も掴めないまま。
竹村茂昭「はあ、空振りか・・・」
  重い足を踏み出したその時、

〇市街地の交差点
竹村茂昭「!!」
  一切の光が無い、漆黒の暗闇。
竹村茂昭「こんな時でも魔族かよ・・・」
  身構える茂昭だったが、
竹村茂昭「!!!?」
  姿を表したものを見て、思わず息を呑んだ。

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