龍使い〜無間流退魔録外伝〜

枕流

第四拾陸話 仮初の顕現(脚本)

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〇学校のプール
草薙由希「さあ、残りはアンタね」
  油断はしない。
  水蛇の身体は回復している。
  由希の見立てが正しければ、プールの中にいる限り水蛇は無限の回復能力を持つ。
  由希が鱗人と戦っている間は身を引いて手出ししてこなかったのは、回復に努めるためだろう。
  言い方を変えれば、水蛇は鱗人を囮、或いは捨て駒にして自身の回復を選んだ。
  それだけの知恵があるのかは分からない。
  しかし、鱗人の方は表情の変化がわかりやすかったから知性や感情があったのであろうことは察しがつく。
  何れにせよ、どちらも難敵であることに変わりはない。
  抑々が初めての状況なのだ。
  人語を解し、人と同じ姿をしている魔族とは全くの別物なのだから。
草薙由希(・・・?)
  そこまで考え、ふと由希は気付いた。
草薙由希(人と同じ・・・?)
  なぜ、魔族は人と同じ姿で、人語を解するのか?
  なぜ、そのような存在が人を滅ぼそうとするのか?
  だが、それについて考える時間は与えられなかった。
水蛇「syaa!!!!」
  咆哮を上げて水蛇が襲い掛かる。
  構える由希に、
  身をのたうたせ、水蛇は飛沫を巻き上げた。
草薙由希「そんなもの、」
  由希は薙刀に水をまとわせ、
草薙由希「でえぇい!」
  横一線に大きく薙ぐ。
  幅広の水の帯が広がって壁となり、水飛沫とぶつかった。
  そして水と水がぶつかり合って消えた時、
草薙由希「!!」
  いない。
  水蛇がいない。
  由希の眼前、プールの上から消えていた。

〇学校のプール
草薙由希「一体どこに・・・!?」
  左右を見渡すが、影も形もない。
  と、その時、
青龍「後ろだ!!!!」
  青龍の怒号が響く。
  いつになく大きい声に顔をしかめながら振り向くと、
水蛇「gaahh!!!!」
草薙由希「うそ!?」
  後ろに、いた。
  プールの外、フェンスの向こう。
  プールに沿って走る排水溝から、水蛇が飛び出してきた。
  昇龍ならぬ昇り蛇。
  そして自らフェンスに当たり、
草薙由希「そんな!?」
  上善は水の如し。
  万物を利して逆らわず、而も方円の器に依る。
  フェンスにぶつかった水蛇は、その無数の目を通り抜けて多頭蛇へと姿を変え、上下左右から由希へと襲い掛かった。
草薙由希「ええい!」
  縦横無尽に薙刀を振るいながら後退する由希。
  しかし対応が間に合わない。
  小型化した蛇頭を紙一重で何とか躱しながら捌いていくが、
草薙由希「あっ!!!!」
  プールサイドであることを、つい失念していた。
  プールに落ちてしまったのである。
草薙由希「くっ、・・・」
  だが、それは多頭蛇の襲撃を避け切るという僥倖となった。
  とはいえ、ただそれだけでしかない。
  眼の前から一時的に獲物が消えた水蛇は動きを一旦止めたが、すぐに水中の由希に気がついた。
草薙由希(どうする・・・?)
  水蛇は未だに多頭蛇のまま。
  対する由希は水の中。
  人間は水中で活動できるようにはできていない。
  水の抵抗は間違いなく不利に働く。
青龍「臆するな、由希」
  青龍が語りかける。
青龍「我は青龍、水を司るもの」
青龍「少しばかり塩素臭いが、これだけの水があれば充分だ」
草薙由希「どういうこと?」
青龍「もう一度、あの呪言を唱えてみろ」
草薙由希「でも、」
  発即力のあの呪言は、由希自身の消耗も大きい。
  二度も三度も放つのは危険だ。
青龍「大丈夫だ、問題ない」
  青龍の声は、いつになく穏やかで力強い。
  信用するには充分だ。
草薙由希「・・・わかったわ」
  冷えてきた身体、此方を睨みつける多頭の水蛇。
  それらに気を付けながら息を整え、由希は今一度、その呪言を発した。
草薙由希「────────!!!!」
草薙由希「!!」
  プールが揺れた。
  否、プールごと、プールの水が揺れている。
水蛇「!!」
  流石に水蛇も気付いたらしい。
水蛇「shaaa!!!!」
  やられる前にやってしまえ、と言わんばかりに水蛇は唸りを上げ、全ての牙を剥いて由希目掛けて飛びかかる。
  しかし。
  プールの水が一斉に跳ね上がった。
水蛇「kiiii!!!!」
  悲鳴を上げて水蛇が弾き飛ばされる。
  そして、
青龍「ふう、今回はこのような姿か」
草薙由希「え、え、え!?」
  青い鱗の龍が、姿を現した。
青龍「さて、片付けるか」
草薙由希「あの、ちょっと待って」
青龍「何だ、由希?」
草薙由希「あんた、まさか、青龍?」
青龍「いかにも、その通りだが?」
  それがどうかしたか?といいたげな顔で青い龍は由希を見下ろす。
草薙由希「実体があったの!?」
  今まで由希が見たことがある青龍は、ホログラムのような、うっすらと光る青い龍。
  目の前の龍のような何かとは似ても似つかないものだ。
  しかし、今まで見たことがある青龍も、目の前の龍のような何かも、声は同じ、喋り方も同じ。
  人格は口調に出る。
  声音も口調も同じとなると、青龍と考えるしかないのだが、
青龍「プールの水を利用した、一時的な、仮初の姿だがな」
  青い龍は微笑む。
草薙由希「・・・・・・」
  ふと思い立った由希は、自身の右腕を見た。
草薙由希「うわ」

〇学校のプール
  由希は言葉を失った。
  右腕から出ている、ホログラムのような、うっすらと光る青い帯が、眼の前の青い龍へと伸びて繋がっている。
  うっすら光る青帯は、途中から水の縄へと変わり、更に青い龍の尾へと変わり、その先には、この青い龍。
草薙由希「・・・」
  間違い無い。
  眼の前の龍は、青龍自身だ。
青龍「理解したか?」
  青龍の言葉に、
草薙由希「受け入れるしか、ないわね」
  理屈は分からない。
  だが、そうなっているのだから、そうなのだろう。
草薙由希「で、どうするの?」
  水蛇に目を向けると、
水蛇「・・・・・・」
  目を見開いて固まっている。
青龍「獣なれば、彼我の力の差は分かっているようだな」
青龍「それで、どうする?我らによく似た姿のモノよ」
水蛇「・・・・・・」
  青龍の言葉に水蛇は答えない。
  萎縮してしまったのだろうか。
青龍「答えぬならば、我らの理に従うまで」
  青龍は由希に目を向ける。
  その意図する所を、由希は察した。
草薙由希「ここは学校、みんなのプール」
草薙由希「この場を縄張りとして穢すのならば、私は貴方を討つ」
  脇構えに薙刀を構える由希。
  やるなら一思いに。
  力を持ち振るう者としての、せめてもの作法であり情けだ。
  これに対して水蛇が採った行動は、
水蛇「syaaa!!!!」
  意を決したか、破れかぶれの捨て身の特攻か。
  無数の蛇頭が牙を向き、由希と青龍に襲い掛かる。
青龍「由希、唱えろ!!」
  青龍の言葉に、
草薙由希「──────!!」
  由希は呪言を唱えた。
青龍「カア!!」
  大喝一声、青龍は姿を変じて巨大な水の嵐と化し、
「gyaaaa!!!!!」
  多頭水蛇を粉微塵に千切り散らした。
  目にも見えぬ無数の破片となった水蛇は無数の光の粒子となって消え去り、
草薙由希「え、あの、ちょっと!?」
  ついでにプールの水も一滴残らず消えていた。

〇ハイテクな学校
  翌朝、平坂学園は大騒ぎだった。
  プールの水が、一滴残らず消えていたのだから無理もない。
  おかげで、当日を含めて数日間体育のプールの授業は中止。
  代替授業となり、暑熱増すこの時節、一部の生徒は地獄を見ることになる。

〇教室
草薙由希「まさか、こうなるとは思わなかったわ・・・」
  幸いな事に、由希のクラスはプール中止の影響は受けなかった。
  だが、神獣顕現の代償の大きさを改めて思い知った。
青龍「あのプールの水量では、奴を消し飛ばすだけの力を出すのが精一杯でな⋯」
  いささかバツが悪そうに弁解する青龍ではあったが、
草薙由希「それで、水全部使い切っちゃうなんて聞いてないわよ⋯」
青龍「そこはアレだ、等価交換ということで納得してくれ」
  神獣。
  その絶大な力を直に使うことのリスクは、想像以上に大きいようだ。

〇ハイテクな学校
雀松司「ん・・・?」
  雀松司。
  とある会社の営業部に勤務する青年である。
  だが、人には言えぬ秘密を抱えている身でもある。
  今日も普段のルート営業の途中だったのだが、
雀松司「これは・・・」
  平坂高校に差し掛かった司は足を止め、
雀松司「なんという・・・」
  驚きのあまり言葉を失った。
  司の目に入ったのは、水を入れる真っ最中のプール。
  なのだが、
雀松司「これほど強烈な神獣の痕跡が・・・」
  その場に残された強烈で濃密な『力』に、彼は只々驚くしかなかった。
  司が感じたのは、人ならざる強大な力。
  神と呼んで差し支えないような清々しい力と、魔物特有の禍々しい力。
  その両方が、残っている。
雀松司「やはり、何かが動き始めているな・・・」
  青年の表情が険しくなる。
雀松司「俺の戦いも、いよいよ本番ということか⋯」
  司の背中から火の粉が左右に舞い散る。
  翼のようなそれは、しかし、道行く誰の目にも見えてはいなかった。

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