第8話 君を楽しませたい(脚本)
〇田舎の駅舎
荒木 煌一(あらき こういち)「宇治! 久々やわぁー!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そうなんだ・・・」
電車に揺られること20分、僕らは宇治駅にたどり着いていた。
京都市内に比べると人通りは少なく、なんだか空気もゆったりしている気がする。
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア、どしたん?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「え、いや」
英田 乃亜(あいだ のあ)「いつもと雰囲気違うから」
荒木 煌一(あらき こういち)「えー、変?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そんなことないけど」
英田 乃亜(あいだ のあ)「とにかく、いつもと違う・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「なんやそれ」
かっこいいね。
なんて、正直に言えるはずがない。
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ! 一応、下調べしてきたよ」
荒木 煌一(あらき こういち)「ちょ、ふせんの数!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「平等院と、宇治上神社と、源氏物語ミュージアムと・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア、旅行はしっかり計画タイプやねんな・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「昼ごはんはね、ここかここ、どう?」
荒木 煌一(あらき こういち)「茶そば! 宇治名物やん」
英田 乃亜(あいだ のあ)「奢るからさ」
荒木 煌一(あらき こういち)「ん、なんで?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「だって、僕が誘ったし」
あくまでも「観光案内の勉強のため」というテイで誘ったのだ。
英田 乃亜(あいだ のあ)「お礼くらい、しないと」
荒木 煌一(あらき こういち)「そんなんええのに!」
荒木 煌一(あらき こういち)「ごほうびしかないやん」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へ?」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・ちなみに、おやつタイムは?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「おやつ!? 小学生なの!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「や、特に予定ないならオッケー」
英田 乃亜(あいだ のあ)「お店は色々あるみたいだけど・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「茶だんごとか、抹茶ソフトクリームとか」
荒木 煌一(あらき こういち)「ふっ、お茶づくし」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そっちがおやつって言うから!」
荒木 煌一(あらき こういち)「はは。くまさんかわええし」
英田 乃亜(あいだ のあ)「バカにしてない?」
荒木 煌一(あらき こういち)「京都人は人のことバカにせーへん」
英田 乃亜(あいだ のあ)「待って! そっちじゃなくてこっち!」
〇和風
鳥居のそばでキスをして
第8話 君を楽しませたい
〇河川敷
荒木 煌一(あらき こういち)「絵付け体験て、小学校以来やったわ」
神社仏閣をめぐり、茶そばを食べ、湯呑みの絵付け体験もして。
僕らは宇治川の河川敷をぶらぶら歩いていた。
英田 乃亜(あいだ のあ)「コウイチのこれ、何?」
荒木 煌一(あらき こういち)「くまやん、くま! ほら、そこにおる」
煌一は、僕のセーターに編み込まれたクマを指さす。
英田 乃亜(あいだ のあ)「え、どこが・・・?」
荒木 煌一(あらき こういち)「辛辣」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノアのは、うさぎ?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「これ、茶だんごだよ」
荒木 煌一(あらき こういち)「へ!?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕たち、あんまり絵が上手くないね」
たわいのない話をしながら、じゃりじゃりと小石を踏んで歩く。
今日、思い切って誘ってよかったな。
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・、こんなところにカフェが!!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ・・・」
〇平屋の一戸建て
英田 乃亜(あいだ のあ)「ここ・・・」
一見するとただの古い民家だが、メニュー書きのボードが立っている。
そこには、抹茶と名のつくスイーツの名前がたくさん並んでいた。
英田 乃亜(あいだ のあ)「ガイドブックには載ってなかったな」
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア、そろそろ小腹減らん?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あぁ、おやつタイム?」
店員「予約のお客様ですか?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「いえ──」
荒木 煌一(あらき こういち)「15時からで、荒木です」
店員「どうぞ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「!?」
〇古民家カフェ
カップルだらけ・・・
荒木 煌一(あらき こういち)「ノア、好きなもん選び」
英田 乃亜(あいだ のあ)「えーと・・・」
一番大きな写真付きで載っているのは、
バニラアイスの上から、とろりと抹茶のチョコレートがかかっている──
英田 乃亜(あいだ のあ)「僕、これにする。「伊澤又右衛門特製・抹茶チョコレートパフェ」」
荒木 煌一(あらき こういち)「お、予想通り」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そう?」
荒木 煌一(あらき こういち)「自己紹介で言ってたやん。「好きな食べ物はチョコレート」」
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ・・・」
僕は、耳がカッと熱くなるのを感じた。
そんなこと、覚えていてくれたのか。
客「予約取るん大変やったなー」
客「ほんまそれ」
やっぱり、この店・・・
英田 乃亜(あいだ のあ)「『予約1ヶ月待ち! 知る人ぞ知る隠れ家カフェ』」
英田 乃亜(あいだ のあ)「コウイチ! これ」
荒木 煌一(あらき こういち)「煌一さんの顔の広さ、ナメたらあかんで!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「あ、なんで1週間前で予約できたんかって!?」
荒木 煌一(あらき こういち)「コネで無理やりとかちゃうで、ここのオーナーとおゆきが知り合いで」
荒木 煌一(あらき こういち)「せっかくやし、珍しいとこ行けたらなーて・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「あ、先言っといた方がよかったか? 予定狂った?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ふふ」
いつも気遣ってくれて、
驚かせてくれて
そんな君が、僕は──
英田 乃亜(あいだ のあ)「ほんま、おおきに」
荒木 煌一(あらき こういち)「わお、発音ネイティブ並み!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「そんなことあらへん」
〇電車の座席
英田 乃亜(あいだ のあ)「パフェ、ごちそうさまでした」
荒木 煌一(あらき こういち)「茶そば、ごちそうさまでした」
荒木 煌一(あらき こういち)「めっちゃ写真撮ってるやん」
荒木 煌一(あらき こういち)「て、オレ写り込みすぎ!」
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・」
写り込んだわけじゃないよ。
たまたまじゃない。
僕の中で、隠しきれない気持ちが溢れそうになっていた──
〇広い和室
〇古民家カフェ
〇駅のホーム
〇電車の座席
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・知ってる? アプリで人だけ消せるんだよ」
荒木 煌一(あらき こういち)「オレ消されんの!?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ほら、こうやって──」
荒木 煌一(あらき こういち)「やめろー!」
消すわけがない。
今日、家に帰ったら、この写真をずっと眺めることになると思う。
君が写ってる写真を。
〇線路沿いの道
荒木 煌一(あらき こういち)「写真送ってや! オレも送るから」
英田 乃亜(あいだ のあ)「コウイチ抜きの風景写真ね」
荒木 煌一(あらき こういち)「だから消さんといて!?」
僕らは、家の近くまで戻ってきた。
夜は更け、人通りのない道で虫の声がよく聞こえる。
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・じゃあ、僕こっち」
名残惜しいけれど、もう帰らないと。
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・ノア!」
背を向けて歩きはじめた僕に、煌一が声をかけてきた。
英田 乃亜(あいだ のあ)「ん?」
僕は振り返った。暗くて、煌一の表情はよく見えない。
荒木 煌一(あらき こういち)「あんな・・・」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・」
英田 乃亜(あいだ のあ)「どうしたの?」
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・あのさぁ」
荒木 煌一(あらき こういち)「前の学校でさ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「ん?」
荒木 煌一(あらき こういち)「男同士で付き合ってる人とか、いた?」
英田 乃亜(あいだ のあ)「へ?」
僕は驚いて、心臓が掴まれたかと思った。
どういう意味だろう。
もしかして、僕の気持ちがバレて、
探りを入れられている?
荒木 煌一(あらき こういち)「オレさぁ──」
英田 乃亜(あいだ のあ)「いや、僕の周りにはいなかった。いないよ!」
僕は勢いよく答えた。
英田 乃亜(あいだ のあ)「あ・・・」
思ったより声が響いてしまって、恥ずかしくなる。
荒木 煌一(あらき こういち)「・・・やんな」
荒木 煌一(あらき こういち)「ほんなら、おやすみ」
英田 乃亜(あいだ のあ)「おやすみ・・・」
去っていく煌一の背中を見つめながら、
僕は自分の放った言葉にモヤモヤしていた。
”男同士で付き合ってる人”。
多くはなかった。でも、確かにいた。
英田 乃亜(あいだ のあ)「ハオランだって・・・」
僕だって、誰かと付き合ったことはないけど、でも。
英田 乃亜(あいだ のあ)「・・・っ!」
いてもたってもいられなくなって、僕は煌一を追いかけた。
〇住宅街の道
英田 乃亜(あいだ のあ)「コウイチ──」
何を伝えるつもりなのか、自分でもよくわからないまま名前を呼ぶ。
「煌ちゃん発見〜!」
その時、僕の呼びかけをかき消すように女性の声がして、
声の主と思われる人影が煌一の腕にしがみついた。
???「私が選んだ服着てんじゃん。カッコいー!」
女性は煌一のジャケットの襟だか袖だかをいじっている。
荒木 煌一(あらき こういち)「お前、標準語似合わんからやめって」
???「いっつもそれ言う」
???「ま、いいや。一緒に帰ろ!」
荒木 煌一(あらき こういち)「へいへい」
2人はもつれ合うようにして角を曲がって消えていった。
取り残された僕は、しばらくそのまま立ち尽くしていた──
きゃー!煌一のヘアスタイルカッコいいですね✨🥰そして!!二人の関係が!!もどかしい!!もどかしいですぅ!!ここら辺のヤキモキ感がめちゃくちゃ楽しいですよね…💕☺️あぁーこのカップル(まだだけど断言してしまう)見てるの楽しいですし癒されます✨🥰
ラストの女性はやはり…あの関係かな?🤔✨
また次回も楽しみにしてまーす!✨
第8話読了しました。
髪型を変えた煌一くんが新鮮味がありますね!
セーターを着た乃亜くんも中々イケてる!👍️
あらかじめ人気店の予約していた煌一くん、流石ですな。
しかし楽しいお出かけも束の間。終盤で煌一くんのコーデを考えたと思われる女性出現。
彼女は一体何者……!?