#15 夢と絶望(脚本)
〇事務所
結衣は父親に会ったことで本当にすっきりしたようで、以前より落ち着いているように見えた。
百瀬涼平(よかったな、結衣)
ただ、まだまだ問題は山積みだった。
結衣も八神も・・・誰も死なない未来のために、俺は正夢を見続け、現実を調整し続けなければならない。
生方千尋「ナオが死んでいた正夢だけど・・・これはナオが一人で余計な行動をしなければ防げることだと思う」
八神直志「・・・そうですね、気をつけます」
俺も大きく頷いた。
生方千尋「なあ、リョウ。いつも、事件よりも前に行動しようとしていたけど、今回は発想を転換してみないか?」
百瀬涼平「どういうことですか?」
生方千尋「事件前じゃなく、事件後に焦点を当てるんだ」
笹島アリス「それって・・・」
百瀬涼平「結衣が死ぬのを見過ごす・・・ってことですか?」
生方千尋「そういうことになるね」
生方千尋「でも、ユイちゃんが死ぬのはまだあくまでも夢の中での話だよ」
百瀬涼平「たしかにそうですけど・・・」
夢とは言え、結衣が死ぬのを何度も見たくはない。
生方千尋「リョウの気持ちはわかるよ。 でも、今大切なのは犯人をつきとめることだ」
生方千尋「ユイちゃんが死ぬ夢を確実に回避するためには、犯人を突き止めなくちゃならない」
百瀬哲平「生方の言う通りだ。犯人を確定するためには、事件前よりも事件後に動いた方がいい」
花ノ木結衣「私も・・・その方がいいんじゃないかって思う」
結衣が遠慮がちに言う。
百瀬涼平「結衣!?」
花ノ木結衣「現実でないなら、何度死んだって大丈夫だよ」
花ノ木結衣「それより、私の代わりに誰がが犠牲になったり、これ以上辛い思いをするのは嫌だ」
百瀬涼平「結衣・・・わかった」
目に涙を浮かべた結衣は、俺のことも気遣ってくれている。
俺はそっと結衣の頭を撫でた。
百瀬涼平「アリス・・・行こう」
笹島アリス「・・・わかった」
生方千尋「犯人を見つけても、深追いしたりしないこと」
生方千尋「この正夢の中で、リョウやアリスちゃんに何かあったらどうなるのか・・・まだわからないからね」
百瀬涼平「はい」
生方千尋「とにかく、今回は犯人が誰かを突き止めることだ。わかったね?」
〇一人部屋
濃い、血の匂いがする。
夢の中と分かった瞬間、俺は一度きつく目を閉じた。
アリスの声に目を開ける。
横たわる結衣に駆け寄ってしまいそうになる自分を必死で抑えた。
百瀬涼平(大丈夫、大丈夫)
笹島アリス「涼平!」
アリスの声に目を開ける。横たわる結衣に駆け寄ってしまいそうになる自分を必死で抑えた。
百瀬涼平(今は一刻も早く犯人を追おう)
笹島アリス「これだけの血・・・犯人もかなり返り血を浴びているはず」
百瀬涼平「今なら見つけられる!」
俺とアリスは顔を見合わせると、外に飛び出した。
〇低層ビルの屋上
アリスの言う通り、廊下には少しだが血痕が残っていた。
その跡をたどるようにして、マンションの屋上にたどり着いた。
そこにいたのは・・・血まみれの早乙女だった。
百瀬涼平「早乙女、やっぱりお前だったのか、お前が結衣を・・・」
早乙女雄星「こうするしかなかった・・・なかったんだよ」
早乙女は自棄になったようにつぶやき、肩を震わせた。
思わず殴りそうになる俺を、アリスが止めた。
笹島アリス「涼平! だめ」
百瀬涼平「・・・・・・」
早乙女雄星「僕と花ノ木さんは運命・・・絶対に離れちゃいけないんだ」
百瀬涼平「なんだと!?」
早乙女雄星「僕と一緒にいないと不幸になる」
そう言うと、目を見開き、さほど高くなかった柵を超える。
百瀬涼平「よせ、早乙女!」
笹島アリス「戻りなさい!!」
早乙女はこちらを振り向き、笑った。
早乙女雄星「これでもう、僕たちはずっと一緒だ・・・待っていてくれ、結衣・・・」
百瀬涼平「やめろーー!!」
柵に手を掛けた瞬間、早乙女がまるでプールにでも飛び込むような恰好で地面を蹴る。
一瞬でその姿は見えなくなった。
〇応接室
ハッと目を覚ます。
全身が汗でびっしょりと濡れていた。
花ノ木結衣「りょうくん・・・」
結衣が心配そうにのぞき込んでいた。
八神直志「大丈夫か? ・・・ひょっとしてまたオレ・・・?」
俺は首を振る。
百瀬涼平「大丈夫だ、死んだのは八神じゃない」
百瀬哲平「今度は誰だ!?」
百瀬涼平「早乙女だ・・・あいつが、結衣を殺した犯人だ」
生方千尋「自殺、したのか?」
俺はゆっくり頷いた。
結衣が持ってきてくれた水を一気に飲み干す。
生方千尋「彼は確かにユイちゃんに執着していたけど、殺すほどの狂気には見えなかった」
笹島アリス「そうね、確かに。この事務所に来た時の早乙女からは危険な気配はしなかった」
笹島アリス「でも・・・」
百瀬涼平「何か見えたのか、アリス!?」
笹島アリス「短い時間だったから、詳しくは分からなかったけど・・・」
笹島アリス「自分の意志というより、なにかの影響を強く受けている様子だった」
八神直志「影響って、映画とか本とかか・・・?」
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