〇外国の田舎町
　　深夜の山道の運転はさすがに恐い。
　　昼間なら風景が綺麗なんだろうけど、
　　夜中じゃ何も見えない。
　　今日は山梨の友達の家に遊びに行った帰りだ。
　　高速代をケチって一般道で帰ってきた。
　　ろくに地図も見ないでカンだけで
　　運転してきたのではっきりと解らないけど
　　ここらは奥多摩の山中だろう。
　　とても東京都とは思えないなぁ・・・
　　こうなると　ちょっと心細くなって
　　渋滞してた方が良いなぁ・・・
　　なんて思ってしまう。
　　まったく　人間なんて勝手な物だ。
　　眠気をとろうと思い窓を開けた。
　　視線の先に、若い女性が歩いていた。
　　こんな時間、こんな山道を歩いているなんて尋常じゃない。
　　俺は車を止めて、声をかけた。
田中 真紀(まさのり)「どうしたんですか？」
田中 真紀(まさのり)「こんな所を女の子がうろうろしてると 危ないですよ」
田中 真紀(まさのり)「何があったか知らないけど 車に乗ってください。 家まで送りますよ」
　　女は不審そうに俺を見た。
　　まぁ確かに知らない男から
　　こんな夜中に声掛けられて
　　車に乗れって言われたら
　　疑う方が普通だよな。
　　俺は信用してもらおうと思い
　　車から降りた。
田中 真紀(まさのり)「信用してくれって方が無理かも 知れないけど、信用してくれません？」
田中 真紀(まさのり)「俺の名前は田中　真紀（まさのり） って言います。 あなたの名前は？」
？？？「わからないんです・・・」
田中 真紀(まさのり)「わからない？　 自分の名前ですよ・・・」
？？？「全然覚えてないんです。 気がついたらここを歩いていたんです」
　　記憶喪失って言う言葉が頭に浮かんだ。
　　えらいのに声掛けちゃったなぁ・・・
　　だからと言って知らん顔も出来ない。
田中 真紀(まさのり)「とにかく車に乗って下さい。 町まで行きましょう」
田中 真紀(まさのり)「警察に行けば何か解るかも知れませんよ」
　　女はまだ動こうとしなかった。
田中 真紀(まさのり)「信用出来ませんか？」
？？？「そんな事は・・・」
田中 真紀(まさのり)「それじゃ車に乗ってくれますね？」
　　女は頷いた。
田中 真紀(まさのり)「それじゃ行きましょう。 こんな所で夜明かししたくないですからね」
　　女が助手席のドアーに手を掛けた瞬間、
　　背筋がゾッとした。
　　なぜなら女の手は車のドアーを通り抜けていた。
　　この女　幽霊か・・・？
？？？「何なのこれ?!」
　　しかし女の方も驚いていた。
田中 真紀(まさのり)「幽霊さんですか・・・？」
　　俺は、バカな質問をした。
？？？「幽霊？　私が・・・？」
　　女は自分が幽霊だと自覚してないようだ。
　　突然死んだりした場合
　　自分が幽霊だと自覚しない
　　浮遊霊がいるそうだ。
　　たぶんその類だろう。
？？？「私　幽霊なんかじゃないわ！」
　　女は自分が幽霊だと認めなかった。
田中 真紀(まさのり)「たぶん、あなたは死んでるんですよ。 ほら！」
　　俺は女の胸のあたりに手を伸ばした。
　　俺の手は女の体を通り抜けた。
？？？「そんな・・・」
　　女はかなりショックだったようだ。
田中 真紀(まさのり)「何か覚えてないの？　 何でもいいから・・・」
？？？「全然　わからない！ それに私・・死んでるなんて・・」
　　女はその場にしゃがみこんで泣き始めた。
　　俺はちょっとこの幽霊がかわいそうになった
田中 真紀(まさのり)「あのさ・・・ よかったら　俺の所に来ないか？」
田中 真紀(まさのり)「幽霊だから変な事も出来ないだろうから 安心だろ？」
田中 真紀(まさのり)「記憶が戻るまで、俺が面倒を見てやるよ！」
　　俺は調子に乗って凄い事を言ってしまった。
　　とり殺されたりはしないだろうな・・・
？？？「いいの？」
田中 真紀(まさのり)「まぁ・・仕方無いだろう・・・ 今日は厄日だと思ってあきらめるわ」
？？？「厄日とは何よ！ こんな美人の幽霊に巡り会えて・・・」
田中 真紀(まさのり)「げっ！よく言うわ。 そうと決まったら早く車に乗ってくれよ！ そうじゃないと俺も寒くて死んじゃうよ！」
？？？「それもいいわね・・ 二人で幽霊漫才でもやる？」
田中 真紀(まさのり)「冗談じゃない！ いいから早く車に乗れ！」
　　俺達は車に乗った。

〇車内
田中 真紀(まさのり)「お前さぁ・・・ 本当に何にも覚えてないの？」
？？？「お前呼ばわりしないでよ！ 私あなたの彼女でも無いんだから・・・」
　　彼女に対して恐怖感がなくなったので、
　　ついなれなれしい口をきいてしまう。
田中 真紀(まさのり)「わりぃ！わりぃ！ でも・・何て呼んだら良い？」
？？？「そうねぇ・・・」
田中 真紀(まさのり)「幽霊だから霊子ってのはどう？」
？？？「安直ね・・・」
田中 真紀(まさのり)「そうか？ いい名前だろ？」
？？？「そうね・・ まぁそれで我慢しましょ」
田中 真紀(まさのり)「それじゃ、決定ね！」
田中 真紀(まさのり)「で、 霊子　何か覚えてないのかよ？」
霊子「呼びすてにしないでよ！」
田中 真紀(まさのり)「あはは」
　　それから霊子が覚えてる事を話させた。
　　しかし霊子の身元が解る事は何もなかった。
　　記憶喪失だけでも厄介なのに、
　　その子が幽霊だって言う
　　おまけ付きだなんて・・
　　と言う事は一生こいつにとり憑かれてるのか?!
　　俺はちょっと後悔した。
霊子「ねぇ・・あれ何かしら？」
　　不意に霊子が聞いてきた。
田中 真紀(まさのり)「なんだよ？」
霊子「あの空に飛んでるの？」
田中 真紀(まさのり)「飛行機じゃないのか？」
霊子「違うわ！ 飛行機はあんな飛び方しないもの！」
　　霊子があんまりうるさく言うので
　　俺は車を止めて、その飛行物体を
　　見る事にした。

〇UFOの飛ぶ空
　　その飛行物体は飛行機やヘリコプターでは
　　無い。
田中 真紀(まさのり)「ユーフォー・・・？」
霊子「そうよ！UFOよ!!」
　　二人でしばらくその謎の飛行物体を
　　見ていた。
　　と、急にその飛行物体は
　　こっちに向かってきた。
　　距離的には、かなり近づいてるはずなのに
　　光の塊にしか見えなかった。
　　その飛行物体は俺達の真上を通過して、
　　途中で光が二つに別れたようだ。
　　二つとも向こうの山の方に不時着したようだ
霊子「向こうの山に降りたみたいね」
田中 真紀(まさのり)「そうみたいだな」
　　あんまり現実離れした光景だったので、
　　気の抜けた返事しかできなかった。
霊子「ねぇ・・行ってみない？」
田中 真紀(まさのり)「そうだな・・見に行くか！」
　　俺達は車に乗り込んで飛行物体が
　　不時着したと思われる山の方に向かった。

〇森の中
　　目的の飛行物体はすぐに見つけられた。
　　なぜならその飛行物体の不時着した辺りは
　　昼間の様に明るかったからだ。
　　その物体は割と小さかった。
　　３ｍ位の光の球だった。
　　中に人影が見えた。
霊子「やっぱり宇宙人かしらね？」
　　突然、激しい閃光を発したあと
　　光が無くなった。

〇森の中
　　光が有った辺りに人が倒れていた。
　　俺達はおそるおそる近づいた。
　　倒れていたのは若い女のように見えた。
　　姿はまったく地球人と変わらなかった。
　　ＳＦ映画に出てくるような銀色の
　　宇宙服のような物を着ていた。
霊子「何しに来たのかしらね？」
　　いちいち俺に聞くな。
　　俺だって解らないんだから・・・
　　俺は宇宙人に近づいてみた。
霊子「大丈夫？ 襲ってこない？」
　　霊子が心配そうに言った。
　　呼吸はしているようだ。
　　怪我はしてないようだな。
　　どうやらこの宇宙人、気を失ってるだけのようだ。
　　このままにしてはおけないな・・
　　俺は宇宙人を抱き抱えて車に乗せる事にした
霊子「ねぇ連れてくの？ この宇宙人・・」
田中 真紀(まさのり)「仕方ねぇだろう。 このまま置き去りには出来ないよ！」
霊子「だけど・・・危険じゃないの？」
田中 真紀(まさのり)「わかんねぇよ　そんな事・・・」
霊子「だったら・・・」
田中 真紀(まさのり)「うるさい！ 幽霊の面倒を見るって言ったんだ、 宇宙人の面倒を見たっていいだろう!?」
　　霊子はそれ以上何も言わなかった。
　　ちょっと言い過ぎたかな？・・・
　　と、気を使った俺がバカだった。
　　霊子は車に戻ってから
霊子「ねぇ・・ もしこの宇宙人が記憶喪失だったら、 宙子って名前にするの？ それとも宇子かな？」
　　なんて事を言いやがった。
　　それにしても今日は、なんて日だ。
　　今だかつて幽霊と宇宙人を拾ったなんて
　　俺くらいだろうな・・・
　　本当に今日は厄日だったのかな・・・・？