#3 夢を探る(脚本)
〇ファストフード店
〇ファミリーレストランの店内
八神直志「腹減ったー」
百瀬涼平「・・・・・・」
八神直志「どうした、変な顔して」
百瀬涼平「いや、放課後こういうとこに誰かと寄り道すんの、初めてだなって思ってさ」
八神直志「マジで? 一回もないの?」
百瀬涼平「ああ、今まで親しい友だちっていなかったし」
八神直志「確かに百瀬って孤高って感じだもんな~」
八神直志「・・・にしても、百瀬スゲーな、正夢!」
百瀬涼平「信じてくれるのか?」
八神直志「聞いてた通りだったしな。 正夢って自由に見られるのか?」
百瀬涼平「いや・・・最近見始めたばっかりで」
八神直志「こういうの、詳しい人とかいるといいんだけどな・・・」
そう言われて、ある人物の顔が頭に浮かんだ。
百瀬涼平「生方(うぶかた)さん」
八神直志「え? だれ?」
百瀬涼平「オレの兄貴が探偵事務所やってるんだけど、一緒にやってる人が、占いとかオカルトに詳しいんだ」
百瀬涼平「・・・今から行ってみるか」
〇事務所
百瀬哲平「涼!」
事務所に着くと、兄がハグしてくる。
いつものようにそれを押しのける。
百瀬涼平「やめろって・・・友達連れてるって言っただろうが」
哲平はニコニコと八神を迎えた。
百瀬哲平「涼に友達とか・・・!!」
百瀬哲平「家にも連れてきたことないのに、事務所に連れて来てくれるなんて、兄ちゃんは嬉しいぞ」
八神直志「お邪魔します。はじめまして」
コミュ力に長けた八神は兄のブラコンぶりにも驚かず、ソツなく挨拶している。
7歳上の兄も、俺とは性格が真反対で明るく社交的だった。
〇応接室
俺は事務所の奥のソファに横たわり、タブレットを見ている生方さんに声をかけた。
百瀬涼平「こんにちは」
生方千尋「リョウ。俺に話があるんだって?」
起き上がった生方さんは、八神とはまた系統の違う美形だった。
母親がロシア人らしく、透明感のある白い肌に、彫刻のような陰影。
学生時代はモデルのバイトもしていたと聞く。
ソファに座ると、八神と兄も席についた。
俺は正夢について二人に説明した。
〇応接室
生方千尋「なるほど、正夢ね・・・」
百瀬哲平「そういや、お前ちっちゃい頃もよく正夢見てたよな」
百瀬涼平「えっ!?」
百瀬哲平「覚えてないか? それでよく泣いたぞ」
百瀬哲平「おじいちゃんが亡くなった時も数日前に『じいじが死んじゃう』って」
百瀬涼平「・・・全然覚えてない」
百瀬哲平「地震とか災害とか、翌日のテレビの特集を夢で見たなんてこともあったな・・・」
百瀬涼平「・・・・・・」
百瀬哲平「母さんなんかは、お前に予知能力があるんじゃないかって怖がってた」
百瀬涼平「マジか・・・」
言われてもまったく思い出せなかった。
百瀬涼平「その正夢を見る能力が、今になってまた発動したんでしょうか?」
生方千尋「何かきっかけがあったのかもしれないね。 最初の正夢はどんな夢か覚えてるかい?」
俺は授業中にうたたねをして見た夢について話した。
生方千尋「リョウ、ノートのコピーを取らせてくれる? ちょっと調べてみるよ」
百瀬涼平「はい、よろしくお願いします」
〇住宅地の坂道
百瀬涼平「つき合ってもらって、悪かったな」
八神直志「いや、面白かったよ。 哲平さんも生方さんもいい人だったし」
百瀬涼平「ならいいけど・・・」
八神直志「・・・なあ、百瀬って、やっぱ花ノ木さんのこと好きなの?」
百瀬涼平「えっ!?」
唐突な質問に、本音が隠しきれなかったらしい。
八神直志「やっぱ好きなんだ~」
百瀬涼平「・・・ひょっとして、八神・・・」
八神は俺が言いたいことをすぐに察したらしい。
八神直志「いやいやいや、めっちゃ可愛いとは思うけど、花ノ木さんに特別な感情はないよ」
百瀬涼平「そうなのか?」
八神がもし結衣を好きだったら・・・正直、こいつに敵う気はしなかった。
八神直志「オレ、今は誰かとつき合ったりするつもりもないしなあ」
百瀬涼平「え? そうなのか?」
八神直志「・・・中学の時、ちょっとつき合った子がいたんだけど、その子ずーっとオレのファンって女にいじめられてたらしくて」
八神直志「そのせいで病んじゃって、引っ越してそのまま音信不通」
八神直志「それ以来、特定のカノジョ作るのトラウマなんだ・・・」
百瀬涼平「そうだったのか」
モテ男にはモテ男なりの苦悩があるようだ。
八神直志「それにさ、友だちの好きな子を横取るようなことは絶対しないし、信用しろよ」
百瀬涼平「八神・・・」
八神直志「一途な気持ちっていいよな。 やっぱお前、カッコいいよ」
結衣のことももちろんだが、八神が自然に友だちだと言ってくれたことが嬉しかった。
〇ダイニング(食事なし)
花ノ木結衣「りょうくん、おかえり」
百瀬涼平「来てたのか」
花ノ木結衣「八神くんと仲良くなったの?」
花ノ木結衣「りょうくんっていつも一人だから、心配してたんだよ~」
花ノ木結衣「お友達できて、よかったねえ」
今まで結衣にそんなことを言われたことがなかったので、少し驚いた。
花ノ木結衣「八神君ってさ、すっごくカッコいいよね~」
百瀬涼平「・・・お前もああいうのが好みなのか?」
花ノ木結衣「あはは、まさか」
花ノ木結衣「カッコいいとは思うけど、私はちょっと不器用な人の方が好きだな~」
百瀬涼平「不器用って・・・自分のことかよ」
そう返すと、結衣がぷうっと頬を膨らませた。
花ノ木結衣「手先が不器用って意味じゃなくって!」
花ノ木結衣「おしゃべりとかあんまり上手じゃないけど、でも心の中ではちゃんと色々考えてる人ってことだよー」
百瀬涼平「なるほどね・・・」
誰かそういうやつがいるのか?
と言いそうになり、ぐっと口を閉ざした。
知らない誰かの名前が出たりしたら、立ち直れそうにない。
花ノ木結衣「・・・・・・」
百瀬涼平「なんかいつもより元気ないな。どうした?」
結衣は少し迷いながらも口を開いた。
花ノ木結衣「あのね・・・今日クラスの子から告白、されたんだけど・・・」
ドキッとしたが、気づかれないよう平静を装う。
百瀬涼平「・・・告白なら、しょっちゅうされてるだろ」
花ノ木結衣「しょっちゅうってことないよ。 でも、今回はちょっと違って」
百瀬涼平「・・・つき合うのか?」
花ノ木結衣「えっ!? 違うよ。ちゃんと断ったの!」
花ノ木結衣「でもわかってくれなくって・・・」
百瀬涼平「なんだそれ」
花ノ木結衣「ちゃんとはっきり断ったんだけど、通じてないっていうか」
百瀬涼平「同じクラスのヤツ? 誰だ?」
花ノ木結衣「それは・・・」
そこへ、買い物袋を下げた母親が戻ってきた。
百瀬美恵「ただいまー、あら、どうしたの、ふたりとも深刻な顔して?」
花ノ木結衣「おかえりなさい!」
百瀬美恵「結衣ちゃんご飯食べてくでしょ?」
花ノ木結衣「うん!」
キッチンに向かう母を追いかけようとする結衣の腕をつかんだ。
百瀬涼平「・・・何かあったら言えよ。 いつでもメールしろ」
花ノ木結衣「うん。ありがと、りょうくん」
百瀬涼平(結衣は天然なところがあるからな)
結衣が告白されるのはいつものことだったが、これまでそれほど危機感はなかった。
以前、結衣ははっきりと『今は誰ともつき合う気はない』と言っていたからだ。
百瀬涼平(もし、強引なヤツのペースに乗せられたりしたら・・・)
百瀬涼平(同じクラスだって? 誰なんだ、ソイツ・・・)
きゃっきゃとはしゃぎながら料理をする母と結衣を見ながら、俺は今までにない焦りと胸騒ぎを感じていた。