僕と半分ゾンビな妹は対話でゾンビを理解する。

薊未ヨクト(あざみよくと)

ゾンビ彼女本心捜索事件(脚本)

僕と半分ゾンビな妹は対話でゾンビを理解する。

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〇モールの休憩所
樺島 ここね(かばしま ここね)「わー、甘酸っぱくて美味しい!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お兄ちゃん、早くあっちのアイス屋さんにも連れてって」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね、非番の日なんだから、もっとのんびりと・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「何のんきなこと言ってるの!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「数量限定のフレーバーだってあるんだから!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね、引っ張るなって!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「あ、すいませ──」
樺島 一心(かばしま いっしん)「うわああああ!!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「すいません、すいません、すいません!」
ゾンビ?「あの・・・お尋ねしたいことが」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾ、ゾンビがしゃべった!?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お兄ちゃん、よく見て!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「その人、人間だよ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「へ」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「この女性に似たゾンビを──」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「見たことはありませんか?」

〇モールの休憩所
樺島 一心(かばしま いっしん)「──写真の女性が行方不明になったのは、パンデミックの時なんですね」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「はい。その日、僕たちは付き合って5年目の記念日でした」

〇ホテルのレストラン
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「ふー、食べた食べた」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「去年は家でちょっと高いワインを開けただけだったのに、」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「こんな素敵なお店に誘うなんて、どういう風の吹き回し?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「それは・・・僕たちも付き合って5年だし」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「そろそろどうかな・・・と思って」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「どうとは?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「つまり、その・・・け、結・・・」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「結こ──」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「結構、長いこと付き合ったよね! あはは!」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「──そうね」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「優樹の心が読めるぐらいにはなったかな」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「急に指輪を外して、どうしたの?」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「あれれー? 指輪がないぞ??」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「は? 机の上にあるけど・・・?」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「すごく大切な指輪だったのに・・・ どうしよう・・・」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「それなら、新しい指輪を買いに行かないといけないな」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「うん、今度はおそろいのヤツね」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「麗奈さん」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「はい」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「僕と結こ──」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「何だろう・・・大きな虫でも出たのかな?」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「いや違う! 見て!!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「ゾ、ゾンビ!? 早く、ここから逃げないとっ!!」

〇入り組んだ路地裏
小川 優樹(おがわ ゆうき)「はぁ、はぁ・・・」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「これだけ離れたら、大丈夫だよな」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「あれ、麗奈?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「嘘だろ・・・どこにいるんだよ!」

〇空
小川 優樹(おがわ ゆうき)「返事をしてくれえええ!!」

〇モールの休憩所
小川 優樹(おがわ ゆうき)「急いで探しに戻りましたが、彼女も襲ってきたゾンビも見当たりませんでした」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「残されていたのは、この──」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「指輪だけです」
樺島 一心(かばしま いっしん)「・・・それから、ずっと捜しているんですか?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「はい。仕事も辞め、貯金も底をついてしまって」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「恥ずかしながら、こんな姿に・・・」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「たとえ彼女がゾンビになっていても、もう一度会いたい」
樺島 一心(かばしま いっしん)「・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ごめん、ここね。 アイス屋巡りは延期してもいいかな?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「──しょうがないな」
樺島 ここね(かばしま ここね)「次は、全フレーバー制覇に付き合ってもらうからね」

〇警察署の入口
樺島 一心(かばしま いっしん)「──お待たせしました」
樺島 一心(かばしま いっしん)「写真を照合しましたが、管理されているゾンビの中に、麗奈さんはいませんでした」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「そうですか・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「気を落とさないでください」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾンビは人間だった頃の強い想いに従って、行動することがあります」
樺島 一心(かばしま いっしん)「二人の想い出深い場所を案内して頂けますか?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「何か、手がかりが見つかるかもしれません」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「嬉しい申し出ですが、これ以上手伝って頂くわけには・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ご迷惑でしたか?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「そんなことはありません!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「どうして、出会ったばかりの僕にそこまでしてくれるのかと思って・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「大した理由じゃありませんよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「愛する人に会えない辛さが分かる・・・ ただ、それだけです」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「もしかして、あなたも──」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「いえ・・・どうかよろしくお願いします」

〇廃墟と化した学校
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここは?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「僕と麗奈が初めて出会った場所です」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「あれは、大学2回生の時──」

〇講義室
小川 優樹(おがわ ゆうき)「もう講義が始まってる時間なのに・・・」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「どうして、僕とあの子しかいないんだ?」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「あーっ!!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「わっ、ビックリした!」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「ごめんごめん」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「それより、前回の講義で教室が変わるって言ってなかった?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「そ、そうだった!!」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「早く、外へ遊びに行きましょ!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「はい! 早く本当の教室に──」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「は?」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「今から行っても怒られるだけよ。 それなら、サボった方がよくない?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「いや、そういうわけには・・・」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「ほら、私について来なさい」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「ちょっ、引っ張らないでください!」

〇大きな木のある校舎
  それがきっかけで、彼女とよく話すようになりました
  元来、引っ込み思案だった僕を、彼女は色んな所に連れ回しました

〇お弁当屋のレジ
  バイト先に突然現れて邪魔しようとしたり──

〇水族館前(看板無し)
  たまに僕が行く先を選ぶと──
  『好みじゃない』なんてダメ出しされたりもしましたね。

〇荒廃した遊園地
小川 優樹(おがわ ゆうき)「ここへも僕が誘ったんですが、それはもうひどい言われようで・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「もしかして、大喧嘩になったとか?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「いえ、僕より楽しそうに、はしゃいでました」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「本当、あきれちゃいますよね」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「あれから、街も人も変わってしまった」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「想い出がつまったこの場所も、こんなに寂れてしまうなんて・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「たしかに、随分変わったと思います」
樺島 一心(かばしま いっしん)「けど、小川さんのお話を聞いていると、かつての光景が──」

〇遊園地の広場
  昨日のことのように、心に浮かびます

〇広い公園
樺島 一心(かばしま いっしん)「──静かな公園ですね」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「ここで、彼女に告白したんです」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「恥ずかしいことに、告白するまで3時間もかかりました」
樺島 一心(かばしま いっしん)「それは、長期戦でしたね」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「返事は秒でOK」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「悩んだ自分が馬鹿みたいでした」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「それから二人でデートした帰り、よくここに寄るようになりました」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「あのベンチに座って、色んな話をしたな」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お兄ちゃん、あれ・・・!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「まさか・・・!」

〇公園のベンチ
小川 優樹(おがわ ゆうき)「れ、麗奈っ!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「よかった! 生きてたんだね!!」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「あー?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「僕だ! 優樹だよ!!」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「うー、あー?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「麗奈、どこに行くんだ!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「もしかして、僕のことが分からないのか?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「いや・・・そんなはずはない」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「レストランの時みたいに、嘘をついてるんだろ?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね・・・彼女は何て?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「えっと・・・『邪魔しないで』って」
樺島 ここね(かばしま ここね)「その人のこと、気にも留めてないみたい・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「──小川さん、落ち着いて聞いてください」
樺島 一心(かばしま いっしん)「麗奈さんはあなたのことを・・・もう覚えていないようです」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「そんな・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「だ、大丈夫ですか!?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「きっと・・・僕に愛想をつかしたんですね」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「いつも、僕は彼女に引っ張ってもらっていました」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「麗奈がいなくなった日もそうだ」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「彼女の後押しがなければ、たった2文字の言葉さえ言えない」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「勇気のない自分が情けない・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「小川さん・・・」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「でも、樺島さんたちのおかげでまた彼女と会えた」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「それだけで、僕は十分です」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「これからは、彼女が平穏に暮らせるように遠くから祈って──」
樺島 ここね(かばしま ここね)「待って!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「静かに・・・!」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「うーうあー! あーうー!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お兄ちゃん、あの人・・・何かを探しているみたい」
樺島 一心(かばしま いっしん)「小川さん──何か心当たりはありませんか?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「探しものですか・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「例えば、肌身離さず身に着けていたものとか」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「もしかして──」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「この指輪、出かける時は必ずはめていました」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「ちょうど、今ぐらいの季節だったかな・・・」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「ここで、彼女にプレゼントしたんです」
樺島 一心(かばしま いっしん)「麗奈さんは・・・その指輪を探しに来たのではないでしょうか」
樺島 一心(かばしま いっしん)「あなたのように、想い出を辿りながら」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「・・・!」

〇公園のベンチ
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「私たち、今日で付き合ってちょうど一年だね」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「覚えてた?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「いやー・・・どうだったかな」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「ちょっと! もう私に興味なくなっちゃったわけ!?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「ち、違うよ!!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「・・・麗奈、これ」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「これって・・・!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「この前、通りかかったお店でジーッと見てたよね?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「余程気に入ったのかなと思って」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「優樹・・・私が見てたのは、これの隣にあったヤツ」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「ええっ!?」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「まったく、よく見てるんだか、見ていないんだか」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「ごめん! すぐ交換してもらいに──」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「それはダメ!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「何でだよ!?」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「な・ん・で・も!」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「それより、早く私の指にはめて」

〇公園のベンチ
小川 優樹(おがわ ゆうき)「麗奈さん」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「うー?」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「あの時、伝えられなかった言葉を聞いてほしいんだ」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「君と出会った日から、僕はたくさんの幸せをもらった」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「勇気がなくて、情けなくて・・・いつも待たせてばかりだけど、」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「今度は、僕が君を幸せにする」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「だから、僕と──」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「結婚してください」
  彼から聞いた『想い出』と『今』の二人が重なっていく──

〇公園のベンチ
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「へへ・・・」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「何笑ってるの?」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「ありがとう。これはもう──」

〇白
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「一生忘れられない、宝物だね」

〇公園のベンチ
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「うー!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「麗奈っ!」
姉崎 麗奈(あねざき れいな)「あーうー!!」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「うん・・・うん」
小川 優樹(おがわ ゆうき)「僕も、話したいことがいっぱいあるんだ」
「・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「──ここね、僕たちは帰ろうか」
樺島 ここね(かばしま ここね)「いいの?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「だって、あの二人にはもう──」

〇空
樺島 一心(かばしま いっしん)「通訳は必要ないようだから」

次のエピソード:プロローグ

コメント

  • 「通訳は必要ないから」

    その後の流れ星が、彼らの結婚を祝福している様ですね。🥰

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