Ⅲ(脚本)
〇皇后の御殿
関白邸
関白 藤原実通
関白実通「忙しいところすまぬの。左大臣」
左府「想定内です。関白様」
関白実通「橘三位の件であるが」
左府「度重なる朝議の欠席に上奏の遅れ。 謹慎十日が妥当かと。 では私は忙しいので」
寵「ま、まだ話は終わっておらぬぞよ!」
左府「・・・」
左府「これは右大臣殿ではないか!」
寵「はなから目の前にいたであろう!」
左府「失礼した。なにせ不要不急の役職ゆえ、 全然目に入らなかった」
寵「誰が不要不急じゃ!」
関白実通「そういう所だぞ頼長」
関白実通「世の中には口に出していい事実と 口に出すべきでない事実がある」
左府「畏まりました。 先ほどの事実は、 今後心中に止め置きます」
「あいすまぬ。不要・・・もとい右大臣殿」
寵(クソきょうだいめ・・・)
寵「そもそも左大臣殿は、 我ら貴族に厳しすぎる」
寵「公卿諸大夫うち揃い 雅なる王道楽土を築かんとする 平安宮において、 おのれが一人厳めしく殺気立っておる」
寵「お~お~ カッコよろしいの~」
寵「幼き帝も心を痛めておいでであるぞえ」
左府「さもありなん」
左府「いかな王家といえども、 妾の母子に我が大望が理解できようか」
寵「い、今の帝を妾の子とは。 なんたる不敬・・・」
関白実通「口を慎め!頼長!」
左府「議論に遠慮は不要なり!」
左府「今は疫病が蔓延し天災が降り注ぐ 動乱の世! これ全て、宮中の不徳!」
左府「我らは民の範として 己を律し不惜身命で勤めねばならぬ! 最早、遊興も享楽も仇と思われよ!」
寵「ふふっ・・・でゅふふふっ・・・」
寵「( *´艸`)」
左府「何だ気色悪い。 言いたきことあらば申せ」
寵「ならばそなたが飼うておる 『アレ』らは何じゃ?」
寵「遊興の権化、ハレの惡左府が偉そうに」
左府「・・・」
〇古びた神社
鬼丸「おりゃああああああ!」
マシラ「いや~子鬼のくせに、 手慣れた獣捌きだな」
ムジナ「道の奥は鬼の本場って言うからね」
ミズチ「ああ。見事な鬼っぷりだ」
鬼丸「アンタらに鬼鬼言われたかねえよ」
鬼丸「いい加減その仮装脱いだらどうだ」
ムジナ「俺達にとっちゃ、 こっちの姿の方が落ち着くんだよね」
ミズチ「ようは慣れだな、慣れ」
マシラ「お前も着るか? 一着余ってるぞ」
鬼丸「絶対やだ」
武者丸「鬼丸、参れ」
鬼丸(全く、素直に本当の名前名乗っときゃよかったよ)
「早く来い、鬼めが」
鬼丸「はいはい!」
〇祈祷場
鬼丸「うわ!この仮装って・・・」
武者丸「頭が高い。我らの神だ」
鬼丸(何が神だよ。ただの衣装じゃねーか)
武者丸「これらを磨け」
武者丸「我らハレの者の命綱だ。 しっかり手入れをせよ」
鬼丸「楽器が命綱?」
武者丸「いずれ身に沁みて分かるだろう」
鬼丸「へいへい」
武者丸「触るな!」
鬼丸「は、はあ? 何だよ磨けっつったり触るなっつったり」
武者丸「左府様の笛は私が手入れをする」
鬼丸「仰せのままに。パイセン」
武者丸「都の事情はどれほど知っている?」
鬼丸「オイラは元々蝦夷の血を引く村の・・・」
武者丸「お前の身の上など聞いてない」
鬼丸「あっそう!」
武者丸「問われたことにだけ答えろ」
鬼丸「この国は『ジジイとガキ』が支配してる って話なら聞いたことがあるよ。 意味わかんねーけど」
武者丸「そうだ」
武者丸「それは『院の政(いんのまつりごと)』 という意味だ」
鬼丸「へーそうだったんですかー すごいですねー べんきょうになりますー ありがとうございましたー」
武者丸「話、早く終われと思ってるだろう」
鬼丸「よく分かったな」
武者丸「そうはいかん。 我が君の立場を理解する上でも、 お前には今の平安京を知っておく 必要がある」
武者丸「退屈な話はまだまだ続くぞ。 覚悟いたせ」
鬼丸(あー、面倒くさいわー)
鬼丸(こりゃ読者離れるぞ・・・)
作者(冬の装い)「・・・!」
CONTINUED