幹線道路のヒマワリ事件(脚本)
〇オフィスのフロア
樺島 一心(かばしま いっしん)「はい、ゾンビ課」
樺島 一心(かばしま いっしん)「国道にヒマワリが積まれて通れない?」
平 光和(たいら みつかず)「それは交通課の管轄だろう」
樺島 一心(かばしま いっしん)「いや、それが──」
〇開けた高速道路
樺島 ここね(かばしま ここね)「通報、交通課からだったんだ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ああ、彼らには手が出せないらしい」
樺島 ここね(かばしま ここね)「どうして? お花の山なのに?」
???「あっ、ゾンビ課の方ですか?」
警察官「お待ちしてました!」
警察官「えっ。あの・・・」
樺島 一心(かばしま いっしん)「すみません。妹はちょっと人見知りで」
樺島 一心(かばしま いっしん)「それで・・・あれですか」
警察官「ええ、そうなんです」
樺島 ここね(かばしま ここね)「わぁ・・・すっごいヒマワリの山!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「あれ? でもなんか・・・クンクン」
樺島 一心(かばしま いっしん)「確かにこれは──ゾンビ臭だね」
警察官「中から出てきて襲われるかと思うと怖くて」
樺島 一心(かばしま いっしん)「わかりました。ゾンビ課にお任せ下さい」
警察官「助かります。我々は迂回ルートの誘導に」
樺島 一心(かばしま いっしん)「よろしくお願いします」
樺島 一心(かばしま いっしん)「言えなかった・・・僕だって怖いのに」
樺島 ここね(かばしま ここね)「大丈夫、ゾンビは基本平和主義だから」
樺島 ここね(かばしま ここね)「がんばって! お兄ちゃん!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「え? 僕、一人でやるの?」
〇警察署の入口
〇オフィスのフロア
平 光和(たいら みつかず)「お疲れ様。ヒマワリ掃除、大変だったね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「今晩、夢に見ちゃいそうです」
平 光和(たいら みつかず)「しかも、ゾンビもいなかったんだって?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「いたずらだったのでしょうか?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「でも、どの花からもゾンビの臭いがしたよ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ゾンビの仕業なのは間違いないと思う」
平 光和(たいら みつかず)「置いてある道路にも意味がありそうだね」
平 光和(たいら みつかず)「ちょっと調べておくよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「元々あの場所で花屋をやってたゾンビとか」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ヒマワリだけじゃお花屋さん出来ないよ」
平 光和(たいら みつかず)「いずれにせよ、迷惑行為なのは明らかだ」
平 光和(たいら みつかず)「何とかして犯人を確保したいところだな」
樺島 一心(かばしま いっしん)「でも、現場にいないゾンビをどうやって?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「簡単だよ! ゾンビの特異行動は──」
樺島 ここね(かばしま ここね)「目的を達するまで終わらないんだから」
樺島 一心(かばしま いっしん)「そうか、じゃあヒマワリが無くなってたら」
樺島 一心(かばしま いっしん)「もう一度やってくる可能性がある、か」
〇警察署の入口
樺島 一心(かばしま いっしん)「はい、こちらゾンビ課・・・えっ!?」
〇警察署の廊下
樺島 ここね(かばしま ここね)「どうしたの!? お兄ちゃん!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「昨日の国道でゾンビが暴れてる」
樺島 一心(かばしま いっしん)「多分、ヒマワリを集めてたゾンビだと思う」
樺島 ここね(かばしま ここね)「暴れてる!? どうして?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「わからない。でも交通課は相当焦っててさ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「──SATを呼んじゃったんだよ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「・・・嘘!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「このままだと”処分”されるかもしれない」
〇車内
樺島 一心(かばしま いっしん)「くそっ・・・手、震えてる」
樺島 一心(かばしま いっしん)(暴れるゾンビがなんだ。落ち着け)
樺島 ここね(かばしま ここね)「あ、開いてる! 良かったー」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね!?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ここねも行く」
樺島 一心(かばしま いっしん)「駄目だ、現場のゾンビは暴れてるんだぞ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ゾンビは意味もなく暴れたりしないもん!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お話すれば、絶対わかってくれる」
樺島 一心(かばしま いっしん)「・・・危ないと思ったらすぐ退くんだぞ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「わかってるって」
〇開けた高速道路
警察官「樺島さん! こちらです!」
ゾンビ「あーーーうーーー!」
男性「助けてくれ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「嘘だろ・・・ゾンビが人を?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お兄ちゃん、違う! あれを見て!」
ゾンビ「うがーーーー!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「車に攻撃してるのか! ・・・でも何故」
レックス「タイヤ! タイヤ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「あーっ! タイヤがヒマワリ踏んでる!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾンビが怒るわけだ」
警察官「樺島さん、あと5分でSATが到着します!」
警察官「離れたほうがいいですよ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「このままじゃあの人、殺されちゃう!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここね! 待つんだ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「大丈夫、お話するだけだから!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うーーあーーうーー (車はどいてもらうから、落ち着こう?)」
ゾンビ「うあーーーー!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ちょっと待って、話を──」
樺島 ここね(かばしま ここね)「キャアアアッ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここねー!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「妹には指一本触れさせない!」
ゾンビ「あうっ! あうあーー!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「くっ・・・凄い力だ。だけどっ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「やあっ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「打つと思ったよね? フェイントだ!」
ゾンビ「うがっ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「確保ーーっ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「さっすが、お兄ちゃん!」
レックス「ヨクヤッタ!」
〇警察署の入口
〇取調室
樺島 ここね(かばしま ここね)「なるほど、そういうことだったのね」
平 光和(たいら みつかず)「お疲れ様、どうだい? 事情聴取は?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「だいぶ落ち着いたみたいで、なんとか」
樺島 ここね(かばしま ここね)「この人、お墓参りしたかったみたいなの」
平 光和(たいら みつかず)「ヒマワリは墓花だったって訳だね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ゾンビは何故、勘違いしたのでしょうか?」
平 光和(たいら みつかず)「それが、案外勘違いじゃあないみたいだよ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「なあに? これ」
平 光和(たいら みつかず)「役所から借りてきた土地の履歴だよ」
平 光和(たいら みつかず)「6年前、あの道路は墓地だったんだ」
〇農村
もちろん、遺骨は移動していて今は──
〇墓石
樺島 ここね(かばしま ここね)「50kmも遠くに移動されちゃったんだ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「そりゃ、わかるわけないよね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ここねー」
樺島 一心(かばしま いっしん)「もう手錠外していいか?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「兄ちゃん、メンタル限界だ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うん、ここなら暴れないんじゃない?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うーああーー、うーあ (ここが、あなたの探していた墓場だよ)」
ゾンビ「あうっ!」
樺島 一心(かばしま いっしん)「あ、おい!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「大丈夫。もう見つけたみたいだから」
ゾンビ「あーーうーー! おーーおーー!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「『お母さん、お父さん』だって」
ゾンビ「あう、あうあうーーー」
樺島 一心(かばしま いっしん)「良かったね、見つかって」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うん・・・」
〇警察署の入口
〇オフィスのフロア
樺島 一心(かばしま いっしん)「いや、おかしいよ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「どうしたの? 突然立ち上がって」
レックス「トイレカ、イッシン」
樺島 一心(かばしま いっしん)「違う! あのゾンビだよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「墓石の文字が読めてたような・・・」
樺島 ここね(かばしま ここね)「えー? 文字を読むのは無理じゃない?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「何故両親の墓石を見つけたんだろう?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「確かに・・・うーん。なんでだろ?」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ゾンビだから骨の嗅ぎ分けが出来るとか?」
平 光和(たいら みつかず)「もしかすると他人の墓石だったかもね」
平 光和(たいら みつかず)「ご両親のと特徴が似てただけかもしれない」
樺島 一心(かばしま いっしん)「じゃあ、もし違うことがわかったら」
樺島 一心(かばしま いっしん)「またあのゾンビ、道路にヒマワリを──」
平 光和(たいら みつかず)「それはないと思うよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「どうしてそう言い切れるんです?」
平 光和(たいら みつかず)「彼は両親の墓だと思ったのだろう?」
平 光和(たいら みつかず)「ならそれで十分だということだよ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「知らない誰かのお墓かもしれないのに?」
平 光和(たいら みつかず)「墓石はね、故人の象徴にすぎない」
平 光和(たいら みつかず)「大事なのは彼に答えを与えられたことさ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「答え・・・ですか」
平 光和(たいら みつかず)「そう。両親を弔いたいという彼の心にね」
樺島 ここね(かばしま ここね)「うーん、わかったようなわからないような」
レックス「ココネハ トリアタマ ダカラナ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「ぬわんですってぇ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「トリアタマはそっちじゃない!」
レックス「モノノタトエダ トリアタマ」
樺島 ここね(かばしま ここね)「また言ったなぁ!」
平 光和(たいら みつかず)「心配ならパトロールに行ってくるといい」
〇墓石
結果を確認するのも仕事のうちだからね
樺島 ここね(かばしま ここね)「あの人、いないね」
住職「お参りですかな?」
樺島 一心(かばしま いっしん)「いえ。我々は──」
住職「警察の方でしたか。私はここの住職です」
住職「何かご用があれば、お伺いいたしますよ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「いえ、単なるパトロールで──」
レックス「ジュウショク カワッタコト ナイカ」
樺島 一心(かばしま いっしん)「ちょっ・・・レックス!」
住職「変わったことですか、ふむ──」
住職「珍しい参拝者があったことですかな」
樺島 一心(かばしま いっしん)「珍しい?」
住職「ええ、直接お会いしてはいないのですが」
住職「随分大きな花を供えしていらっしゃって」
樺島 ここね(かばしま ここね)「大きい花って珍しいの?」
住職「墓花は小さな花を供えるのが普通でして」
住職「まあ、ルールなんてあってないようなもの」
住職「大切なのは故人を想う気持ちですからな」
樺島 一心(かばしま いっしん)「故人を思う気持ち・・・か」
樺島 ここね(かばしま ここね)「お兄ちゃん! あれ!」
樺島 ここね(かばしま ここね)「良かったね」
樺島 一心(かばしま いっしん)「・・・ああ」
レックス「メデタシ、メデタシ」
道路に向日葵を置いていたのは弔いの為でしたか。😔
一心の木刀裁き。警察官は伊達ではありませんね。