Ⅰ(脚本)
〇後宮の庭
「治天の君も~今むかし~♪」
喉には自慢のある召使い「平らか治める~平安京~♪」
白面武者(王家の近衛)平清盛
清盛「・・・」
寵「~♪」
右大臣 藤原寵(めぐむ)
喉には自慢のある召使い「二人の御子の大いくさ~♪」
喉には自慢のある召使い「白面もののふ清盛公~♪ 古今無双ぞ比類なし~♪」
寵「言われておるぞえ。清盛」
清盛「ふん、妙な汗が出てきますな」
寵「そう言うな。 お前は都に平穏をもたらした勇者じゃ」
寵「先の戦を以て時は変わった。 摂関も院も今は昔。 これよりは我ら公達の世ぞ」
寵「そうであろう?みなもの」
寵「それでじゃ清盛。 ものは相談だか・・・」
寵「白面武者団を我に譲れ」
清盛「・・・」
清盛「右大臣様ともあろうお方が、 穢れ武者団を欲されるとは」
寵「代わりに我が位を譲ってやろうぞ」
清盛「右府の座、ですか?」
寵「どうじゃ?」
清盛「はて? 今、ご自身で申されたはず。 これよりは新しい時代」
清盛「名ばかりの官位なぞ、 何ほどの力がありましょう?」
清盛「比類なき我が武者団と引き換えるなど」
清盛「笑止」
寵「なるほどなるほど~♪」
寵「王家の犬が麿に物申すとは。 まこと新たなる御世よな~」
寵「『ケの者』が!図に乗るでないわ!」
清盛「・・・」
喉には自慢のある召使い「・・・」
喉には自慢のある召使い「祇園精舎の鐘の声~♪」
寵「ええい!陰気じゃ!下がれ!」
寵「『ハレの者』どもを呼べい! もっと新たなる御世を寿ぐのじゃ!」
踊り女「治天の君も今むかし~♪」
踊り女「平らか治める平安京~♪」
踊り女「二人の御子の大戦(おおいくさ)~♪」
踊り女「兄弟骨肉合い食みて~♪」
踊り女「華の都に焔(ほむら)舞う~♪」
〇後宮前の広場
『ハレの帝は天照らし~♪』
『あはれ崇徳はケに沈む~♪』
〇後宮の庭
寵「よいか!ここは言霊の国じゃ!」
寵「喜びを歌えば幸が訪れる! 災いを口にすれば禍が降り注ぐ!」
寵「故に王と貴族は歌い踊る! 民の為、国の為に遊ぶ!」
寵「政(まつりごと)はお祭りごとである!」
寵「見よ!」
寵「穢れた太刀も、 この右府が持てば神器となる」
寵「都の守護は我に任せよ!清盛!」
寵「アチョ―ーーーー!」
踊り女「二人の御子の大戦~♪」
踊り女「ハレの帝は天照らし~♪ あはれ崇徳はケに沈む~♪」
???「されど崇徳は甦る」
踊り女「ひととせを経て舞い戻る」
踊り女「ひととせを経て舞い戻る」
寵「・・・はあ?」
寵「なんじゃと?」
清盛「・・・?」
???「我は日本(やまと)の大魔王」
???「民をば上げて王となし 王をば下げて民となす」
???「我は日本の大魔王」
???「この世のハレを呪う者」
寵「な、何を申しておるのじゃ?」
『我らは日本の大魔王』
鬼面「この世のハレを呪う者」
鬼面「御首頂戴、藤原寵」
鬼面「そして・・・平清盛」
「御首、頂戴!」
寵「ひ、ひいーーーーっ!」
寵「な、何者じゃ! うぬらは麿の呼んだ道化ではないな!」
寵「物の怪!物の怪じゃ!」
鬼面「昼日中から酒に酔い宴に現を抜かすとは。 白面もののふも堕ちたものよ」
清盛「その鬼面・・・てめえ、まさか!」
鬼面「我らは日本の大魔王!」
鬼面「全てのハレを呪う者なり!」
清盛「・・・!」
〇白
THE STRONG MINISTER
is
HARE
〇黒
a year ago
「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・!」
『逃すなーッ!追えーっ!』
『捕らえよ!清めよ!討ち祓え!』
『鬼は外!鬼は外!』
〇中華風の通り
非人の童「どけ!」
非人の童「すまねえ!どいてくれ!」
非人の童「どけ!」
検非違使「ここまでだ!」
検非違使「逃がさぬぞ!」
『踊りを止めい!』
〇中華風の通り
義朝「ここは天下の往来である」
義朝「図に乗るな非人共め! 馬鹿騒ぎは控えよ!」
踊り女「も、申し訳ございませぬ・・・」
義朝「正に百鬼夜行か。忌々しい」
検非違使別当(都の守護)源義朝
義朝「して、子鬼よ」
義朝「うぬもまた、野を捨て都に紛れれば 人になれるとでも思ったか?」
非人の童「・・・鬼じゃねえ」
非人の童「オイラは人だ!」
義朝「子鬼よ」
義朝「人外の化生が蔓延。 都の守護としてこれ以上看過できぬ」
義朝「我が天網に捉えられたがお前の運命。 せめて源氏の宝刀、 鬼切にて清めらるるを幸いと思え」
非人の童「・・・ひいっ!」
義朝「南無三宝!」
『おい。何をしておるか?』
『ああいや。其方らではない』
『踊り女ども。馬鹿騒ぎを続けよ』
義朝「その鬼面。その仮装」
義朝「左府殿か?」
鬼面「『清める』などと大層な。 穢れ武者らしく『殺す』と申せ」
義朝「非人は六道輪廻より外れし外道の者。 人ではない!」
鬼面「いかにも人に非ず」
鬼面「人を超えた者」
非人の童「・・・え?」
鬼面「ゆえに都の番犬ごときが 一存で手にかけてよい存在ではない」
義朝「いかに左府殿であろうと、 検非違使の職務を妨げるとあらば・・・」
鬼面「過ぎたる職務ぞ。源義朝」
鬼面「その者が非人か、ただの獣かは私が定める」
鬼面「都の光も闇も司る、この私がな」
義朝(クッ・・・内裏に巣食う物の怪めが)
義朝「退くぞ!」
鬼面「ここは華の都、平安京」
鬼面「さあ、踊れ!」
非人の童「・・・」
非人の童「よっしゃ!今のうちに!」
武者丸「どこへ行く?」
非人の童「ひゃあっ!」
武者丸「人に非ず。 人を超える。 されど獣は獣」
武者丸「お前は我が君に拾われたのだ」
非人の童「我が君・・・?」
鬼面「名は?」
非人の童「・・・」
非人の童「鬼」
武者丸「貴様!」
鬼面「ふむ・・・ならば鬼丸と名付ける」
鬼面「武者丸よ。鬼丸を預ける。 使いどころは後々考える」
武者丸「畏まりました。左府様」
鬼丸「サフ・・・様?」
左府「ふむ、鬼丸。 まずは踊ってみせよ」
鬼丸「はあ?」
左府「ここは華の都の平安京だ」
武者丸「聞こえなかったのか?踊れ」
武者丸「踊らねば『ただの獣』として、 疾く殺す」
鬼丸「分かったよ。踊りゃいいんだろ踊りゃ」
〇中華風の通り
公春「左府様。こちらに・・・」
左府「よい月だ。歩いて帰ろう」
公春「月を愛でるなど頼長様らしゅうもない」
左府「いかにも、今は『ケの頼長』にあらず」
左府「ハレの惡左府よ」
左大臣(左府)藤原頼長
鬼丸「ラッセラ!ラッセラ!来世ら!来世ら!」
鬼丸「ラッセラ!ラッセラ!来世ら!来世ら!」
武者丸「その踊り・・・道の奥の者か?」
鬼丸「土蜘蛛だの鬼だの色々呼ばれた一族も 今はオイラ一人・・・」
鬼丸「でも、やっとたどり着いたんだ。 平安の都に」
鬼丸「来世どころかこの現世で 幸せになってやらあ!」
鬼丸「ゲンセラ!ゲンセラ!現世ら!現世ら!」
武者丸「そうだ。ここは平安京」
武者丸「神仏習合、人魔和合。 まさに永久(とこしえ)の平安だ」
CONTINUED