最終話(脚本)
〇黒
シバ「申し上げます」
シバ「流されし神、ヒルコが戻って参りました」
シバ「呪われし神、ヒルコが顕現致しました」
シバ「奴は未だ自らの力を制御できぬ様子にて」
シバ「いずれ再び必ずや、 この地に災いをもたらすでしょう」
シバ「日出るこの国に」
シバ「これよりはヒルコ、 いやエビスの傍に侍り操ってみせます」
シバ「あやつを大いなる黒に染めてみせます」
シバ「その時こそ、 アシハラは日落つる国となるでしょう」
シバ「2千年もあれば十分かと。 とくとお待ちあれ。 偉大なる宇内の中心、天帝様」
シバ「・・・え?」
シバ「『お前ヒルコとカグツチ間違えとったネ』 ですって?」
シバ「『何カッコつけてるアルネ』ですって?」
シバ「『てか2千年とか時間かかりすぎネ』 ですって?」
シバ「・・・さ、サーセン」
シバ「ソッコー次の計画にとりかかります」
シバ「はい。はい。失礼します」
シバ「チッ・・・うっせーな」
シバ「そんなにこの島国が目障りなら、 てめーで滅ぼせやゴルア」
シバ「こちとら見たいネト〇リも やりたいゲームも山詰みなんじゃ」
シバ「給料も上げない交通費も出さない。 いい加減アホ臭くてやってられるか。 破壊神なんざいつでも辞めたんぞボケが」
シバ「はいはい!すぐ出向いたしまーす!」
〇暗い洞窟
「おーい」
シバ「おーい。エビスくーん」
シバ「どこだー?えべっちゃーん!」
エビス「誰がえべっちゃんじゃ!馴れ馴れしい!」
シバ「おー!生きとったんかワレ!」
エビス「貴様、どのツラ下げて現れた。 アシハラをメチャクチャにしおって」
シバ「はあ?」
シバ「君、こんな目に合っても まだ人間の肩もつの?」
シバ「え?バカなの?死ぬの?」
エビス「全部お前が撒いた種ではないか」
エビス「タケルを狂わせたのも ミコの命を奪ったのも 何もかも貴様の悪知恵だ!」
エビス「違うか?天帝の手先、大暗黒天シバ!」
シバ「おーおー知ってたか。 そしてやっと気づいたか」
シバ「さすが引き籠り。 実体験のない情報収集は シコシコやってたみたいね」
シバ「ひくわー」
エビス「ええい!やかましい!」
エビス「己を宇内の中心とうそぶく傲慢な神、 天帝インドラ。 まさかこんな小さな島までも 潰しにかかっていたとはな」
シバ「相当目障りみたいだよ。 ここの神々も人間達も。 ネチネチチマチマしてて、 生理的嫌悪感が耐えられないんだって」
シバ「東夷の分際で、そのうち 自らの地上代行者たる皇帝に 調子ぶっこいてくるんじゃないかって」
シバ「だからちょい〆てこいアルネ!的な?」
シバ「でもまあそちらさんとしては、 大いなる光の神ヒルコのお陰で 万事解決結果オーライ! 終わりよければすべてヨッシャー!」
シバ「・・・って、なってないみたいだね」
エビス「・・・」
シバ「言ったじゃん。 この島に神なんて根付かない」
シバ「奴らがひれ伏すのは宇内」
シバ「いやそんな大層なものじゃない。 もっと矮小な何か・・・」
シバ「そうね。世の間とでも名付けようか」
シバ「世の間のみを信じ、 世の間のみを恐れ、 世の間のみを信奉する。 まさに『世間様』 それこそが奴らの『平らかな和』だ」
エビス「世間・・・様」
シバ「現在、連中が畏れ敬う世間様の御意思は 『自由』から『安心安全』へと傾いた」
シバ「お前はその『安心安全』を害する悪だ」
シバ「故にこうして追手を逃れ洞窟に隠れている」
エビス「如何にも」
エビス「この島どころか、 洞穴からも出られなくなった」
シバ「哀れよな。礫もて祓われるだけの神よ」
『どこだー!エビスはどこだー!』
『決着つけようぜー!』
『勝った方が一番自由だー!』
シバ「あのサル。最早、自由の意味を 見失ってるんじゃねーか?」
エビス「ち、近づいてくるぞ!隠れろ!」
シバ「ふん。 破壊(や)っちゃうよバカヤロ~♪」
エビス「いいから隠れろ!余計なことはするな!」
「ば~いばいばいば~いば~いば~い♪」
「歌うなっ!」
『エビス様・・・』
『エビス様・・・いらっしゃいますか?』
エビス「・・・ミコか?」
エビス「・・・!」
エビス「そなた・・・その姿は?」
ミコ「よくご無事で」
ドキ「アシハラの民が無体な真似をした。 申し訳ない」
エビス「己を見失い暴れ回ったは我の方だ」
エビス「いや、そもそもこのシバが・・・」
エビス「・・・おのれ。また消えおった」
ミコ「話は後です。こちらへ」
エビス「・・・」
エビス「ミコになら・・・謀られてもよいか」
〇海辺
エビス「こ、これは・・・!」
ドキ「タケル一派の目を盗み 斯様な粗末なものしか作れませなんだ。 これで勘弁して下され」
エビス「タケル『一派』?」
ドキ「ワシらはタケル大王と袂を分かった」
アシハラの民「俺達は自由に縛られてたんだ」
アシハラの民「村を焼き女子供を危険に晒したのは、 アンタじゃない。 タカマガハラの神々でもない」
アシハラの民「強さと自由に取り憑かれた儂らじゃ」
ドキ「左様。大切なものは人それぞれ。 故に人は苦しみ、争い、認め合う」
ドキ「その複雑な苦悩から目を背け、 簡単な答えに興奮と快感を覚えた」
ドキ「それこそが自由という呪いじゃ」
アシハラの民「私にとって本当に大切なのは、 この子が無事に大きくなること」
アシハラの民「明るく優しい大人になること」
アシハラの民「これ以上自由の犠牲になんてさせません」
アシハラの童「・・・」
アシハラの童「イジメてゴメンね。ワタツミさん」
アシハラの童「はい!」
アシハラの童「おひたしにして、食べてね」
エビス「ありがたく頂戴する」
ミコ「こんな格好をしていますが、 私達は刃を使わずに 新しい時代を築こうと思ってます」
ミコ「『和を以て尊し』」
ミコ「それこそがこの小さな島国で、 寄り添って生きてゆく私達の あるべき姿」
ミコ「王などいりません」
ミコ「私はみんなが笑って暮らせれば充分です」
エビス「で、あるか」
ミコ「あの牢獄の中で、 私は笑うことの大切さを知りました」
ミコ「エビス様にそれを教わりました」
エビス「はて?言い争いをした記憶しかないが」
ミコ「私、心の中では笑ってたんですよ」
ミコ「ぼっちゃん」
エビス「ぼっちゃんではない」
エビス「えべっちゃんだ」
ミコ「・・・」
ミコ「えべっちゃん」
ミコ「どうか永久に、私達を見守り下さい」
ミコ「私もまた、永久に祈り続けます」
ミコ「日子(ヒルコ)の巫女(ミコ)」
ミコ「ヒミコとして」
エビス「ヒミコ・・・」
ミコ「・・・きっしょ」
エビス「ま、まだ笑いなれておらんのだ」
エビス「そのうちきっと爽やか笑顔に・・・」
ドキ「お、お急ぎ下さいエビス様! タケルの追手に気付かれます!」
エビス「・・・世話になった」
エビス「来てよかった。 日出る、この島国に」
エビス「また祈ってくれ。また会いたい」
ミコ「はい。 また祈ります。また会いましょう」
ミコ「えべっちゃん!」
〇沖合
「えっほ!えっほ!えっほ!えっほ!」
エビス「えっほ!えっほ!よーそろー!」
エビス「・・・」
エビス「おい、貴様も少しは手伝え」
シバ「え~? ボク、小槌より重いモノ持ったこと ないんですケド~」
シバ「てか紫外線超強いんですケド~」
エビス「だったら降りろ! 大体、何故ここにいる! 業命でアシハラぶっ潰すんじゃないのか?」
シバ「それはおいおいこなすとして」
シバ「今、君の傍にいるのは まあ、慈善活動の一環かな」
エビス「慈善活動?」
シバ「孤独というものは個人を犯罪に走らせます」
シバ「ゆえにこうして見張っているのです。 君が再び暴れん坊少年にならぬように」
シバ「ボクもちょっとばかし、 悪ふざけが過ぎたかなって思ってんだよ」
エビス「・・・ふん。いらん世話じゃ」
シバ「まあまあそう言わずに。 何だったら苦手な笑顔の練習から、 ご教授いたしましょうか?」
シバ「スマイルには自信あるんだよね~」
エビス「今となっては怖いわ」
『お助け下さい』
『HELP・・・HELPME・・・』
エビス「誰じゃ?」
エビス「誰かが我に祈っておる!」
シバ「え~?まだ懲りてないの~? 今度はどこの誰に付きまとう気~?」
シバ「よく考えたら結局こないだの土壇場も、 アンタしか神が残ってなかったから 祈られただけじゃん」
シバ「日出る民もミコって女も、 都合よくアンタを利用しただけだよ。 そういうのいい加減気づけば? ヘルプ君さ~」
エビス「誰がヘルプ君じゃい!」
エビス「我は信じるぞ!我を信じる人を信じる!」
エビス「それこそが神であ~る!」
シバ「きっしょいわ~!ゲロきっしょいわ~!」
エビス「黙れ!っていうかもう降りろ!消えろ! この大黒めが!」
シバ「はあ~大黒~?」
シバ「ひっど~い! ネーミングの省略って 世界的には蔑称なんですケド~!」
シバ「呼ぶならDKね!」
エビス「ふん!お前など大黒さんで十分じゃ!」
シバ「いいだろう! 今ここで決着つけるか蛭野郎!」
ヒルコ「オウ!カカッテコイヤ!コラァー!」
おわり