プロフェティック・ドリーム

坂道月兎

#1 君といる夢(脚本)

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〇黒
  ガチャリとドアを開けると、鉄のような錆のような独特のにおいがした。

〇シックな玄関
百瀬涼平(なんだ、この匂い・・・?)
百瀬涼平「結衣、いるのか!?」
  部屋の中にいるはずの幼なじみを呼ぶが、返事はない。
  足元に、真っ赤なマフラーが落ちていた。
  拾い上げると、マフラーからポタポタと赤いしずくが落ちていく。
百瀬涼平「これは・・・血、か!?」
  目線を上げると、血だまりの中に幼なじみが倒れているのが見えた。
百瀬涼平「結衣! 結衣!! どうして!? 何があったんだ!?」
  抱きしめた結衣の身体に生気はなく、その感触はひどく重く、固い。
百瀬涼平「救急車・・・!!」
  ポケットの携帯を取り出そうとするが、手が滑ってうまくいかない。
百瀬涼平「はやく、はやく、はやく、はやくっ・・・だれか!!」
  ・・・りょうくん
  ちいさなその声は、結衣?
  生きていたのか、よかった・・・。

〇黒
  りょうくん、りょうくんってば!

〇男の子の一人部屋
  目が覚めると、目の前に結衣の顔があった。
  うるんだ大きな瞳の中に俺が映っている。
百瀬涼平「おまっ、な、なんで!?」
花ノ木結衣「おはよ、りょうくん。 涼ママもう仕事行ったよー」
花ノ木結衣「りょうくん起こしといてって頼まれたから」
百瀬涼平「だからって・・・」
花ノ木結衣「朝ご飯できてるからねー」
  パタン、とドアが閉まると、俺は深くため息をつく。
百瀬涼平「心臓に悪い・・・高校生にもなって、平気で男の部屋に入ってくるか、普通・・・」
  結衣は昔から無邪気と言うか、警戒心が薄いと言うか・・・。
  俺自身は中学に入ったころから結衣を女の子として意識し始め、ついぶっきらぼうに接してしまうことが多くなった。
  けれども、結衣は昔とまったく変わらない。
百瀬涼平(要するに・・・男として意識されてないってことだよな・・・)
  肩を落としつつ、俺は身支度を整えてダイニングへと向かった。

〇ダイニング
  俺の母親と結衣の母親は同じマンションということもあり昔から仲が良く、幼いころから結衣はよく家に出入りしていた。
  今でも結衣の母親の仕事が忙しいときは、こうして俺の家で過ごしている。
花ノ木結衣「はい、オムレツだよ~」
  そう言って差し出されたものは、オムレツというよりは具がいっぱい入ったスクランブルエッグだった。
百瀬涼平「これがオムレツ・・・?」
花ノ木結衣「オムレツでしょー!?」
百瀬涼平「・・・・・・」
  料理でも何でも、結衣は一生懸命取り組むものの、昔から不器用でなかなかうまくいかない。
  それでも努力のおかげか、見た目はともかく味はうまかった。
花ノ木結衣「おいしい?」
百瀬涼平「・・・ふつう」
花ノ木結衣「ふつうに美味しいってこと? ふふ、良かったあ」
  俺のひねくれた返事も、結衣は前向きにとらえてくれる。
  もくもくと食べていると、伸びてきた手が前髪に触れた。
百瀬涼平「!?」
花ノ木結衣「・・・前髪、流した方が似合うよ~。 ほら・・・うん、素敵」
  ありがとう、そう返すはずだったのに、口から出たのはまったく違う言葉だった。
百瀬涼平「気安く触んな」
花ノ木結衣「えー、なんでよ」
百瀬涼平(何言ってるんだ、俺は・・・)
  後悔にさいなまれつつ、一気に牛乳を飲み干した。

〇住宅地の坂道
  家を出ると、当然のように結衣がくっ付いてくる。
  いつの間にか俺の肩ほどになっていた結衣の小さな体、その横顔を俺はチラリとのぞき見た。
百瀬涼平(そういや、今朝結衣の夢を見たような・・・どんな夢だったっけ)
  思い出せそうで思い出せない。
百瀬涼平(ま、しょせん夢だしな・・・)
  学校が近づいてくると、周囲はざわざわと騒がしくなってくる。
百瀬涼平「おい・・・あんま近寄んなよ」
花ノ木結衣「どうして?」
百瀬涼平「噂になったらどうすんだ」
花ノ木結衣「え~」
百瀬涼平「お前、人気あんだから、自覚しろよ。 俺が色々言われんだよ」
花ノ木結衣「もー、なに、嫉妬?」
花ノ木結衣「大丈夫、りょうくんだってもうちょっと愛想よくすればすぐ人気者になれるって」
百瀬涼平(そういうことじゃないし・・・)
  結衣は笑いながら、駆け出して行った。

〇商店街
  ──そして、気づくと俺は、結衣と並んで見慣れた商店街を歩いていた。
百瀬涼平(あれ? 俺、いつの間にこんなところに?)
花ノ木結衣「こういうの、久しぶりだよねー」
百瀬涼平「・・・そうだな。 小学校の頃は毎日一緒に出掛けてたっけ」
花ノ木結衣「虫取り行ったり、公園行ったりねー」
  ふと、結衣が足を止め、雑貨屋のショーウィンドウをのぞきこんだ。
花ノ木結衣「こんなに暑いのにもう冬物出てるよー。 あ、見て、可愛いマフラー!」
百瀬涼平「・・・店入ってみるか?」
花ノ木結衣「・・・ううん、いいよ~、ちょっと気になっただけだし」
  そう言いながらも、視線はマフラーに注がれたままだった。
百瀬涼平「・・・俺が買ってやる」
花ノ木結衣「え?」
百瀬涼平「こないだ兄貴の仕事手伝って臨時収入が入ったからさ」

〇雑貨売り場
  俺は店に入ると、結衣が見ていたマフラーを手に取り、勢いのままレジに持って行った。
  何も言わなかったが、俺たちの様子を見た店員がさっとプレゼント包装にしてくれた。
百瀬涼平「ほら」
花ノ木結衣「うれしいっ! ありがと、りょうくん」
  ここ数年のぎこちない雰囲気が一掃され、昔の感覚が戻ってきたようだった。
  俺たちは顔を見合わせて微笑んだ。

〇教室
数学教師「おい、百瀬!!」
百瀬涼平「・・・は?」
  目を開けると、険しい表情の数学教師が立っていた。
数学教師「・・・ニヤけ面しやがって・・・ずいぶんいい夢を見てたみたいだな」
百瀬涼平「・・・はは・・・すみません」
数学教師「特別課題だ。 今日の放課後までに提出するように」
  ぎっしり問題が書かれたプリントを受け取り、ため息をついた。
  昼休み返上になりそうだ。
百瀬涼平(夢か・・・まあ、そりゃそうだよな)
  でも、いつか結衣とあんな風に過ごせたら・・・。
  夢でガッカリはしたものの、どこか温かい幸せな心地だった。

〇学校の昇降口
百瀬涼平(あれは・・・結衣? 一人なのか?)
  帰ろうと靴を履き替えたところで、結衣の姿を見かけた。
  さっき見た夢の名残りのせいか、自然と声を掛けていた。
百瀬涼平「いま、帰りか?」
花ノ木結衣「うん。りょうくん、一緒に帰ろうよ」
百瀬涼平「え!?」
  つい、周囲を見渡してしまう。
  実際結衣は校内でも目立つ存在なので、一緒にいるとからかってくる輩も多いのだ。
  俺の戸惑いは意に介さず、結衣はスッと俺の隣に並んで笑った。
花ノ木結衣「一緒に帰るの、久しぶりだねっ」
  そう言って見上げられれば、断れるはずもない。
花ノ木結衣「ね、ちょっと寄り道してもいいかな?」

〇商店街
百瀬涼平(あれ・・・? この道って)
  不意にさっき見た夢が蘇ってきた。
花ノ木結衣「こういうの、久しぶりだよねー」
百瀬涼平「・・・そうだな。 小学校の頃は毎日一緒に出掛けてたっけ」
花ノ木結衣「虫取り行ったり、公園行ったりねー」
  交わす会話もまったく同じだ。
  結衣が足を止め、雑貨屋のショーウィンドウをのぞきこむ。
花ノ木結衣「こんなに暑いのにもう冬物出てるよー。 あ、見て可愛いマフラー!」
  このセリフも同じ。
  授業中に見たあの夢は・・・ひょっとして正夢なのか?

〇雑貨売り場
  俺はそのまま店に入ると、夢と同じマフラーを買って結衣に手渡した。
百瀬涼平「ほら」
花ノ木結衣「えっ!? いいの? うれしいっ! ありがと、りょうくん」
  夢と同じ、弾けるような笑顔がまぶしかった。

〇男の子の一人部屋
百瀬涼平「正夢・・・」
  帰宅すると、俺は携帯端末で正夢について調べてみた。
百瀬涼平「夢には正夢と雑夢があり、その差は感覚があるかどうか」
百瀬涼平「痛みや触覚、香りなどリアルに感覚がある場合は正夢である可能性が高い・・・か」
  たしかに、授業中に見たあの夢は、やけにリアルで・・・感覚もはっきりしていた。
  ただ、景色は現実よりややセピアがかった色に見えていたが・・・。
百瀬涼平(それにしても・・・夢でも現実でも結衣とあんな風に出かけられるなんて・・・)
百瀬涼平(今日はすげーいい日だったな)
  ついつい顔がゆるんでしまう。
  すると、携帯がブルっと震えた。
  結衣からメッセージが入ったのだ。
  結衣:今日はありがとねー!
  結衣:びっくりしたけど、すごくうれしかったよ
  涼平:使うのはまだ先になるだろうけどな
  結衣:寒くなるまで大事にしまっとくね
  結衣:白いマフラーだから、汚れないように気をつけなきゃ
  涼平:そうだな
  そのとき、不意に脳裏に、血のしたたる赤いマフラーが浮かんだ。
百瀬涼平「な、なんだ・・・!? 血・・・?」
百瀬涼平(同じものを、どこかで見たような・・・)
  結衣:じゃあ、おやすみ
  涼平:ああ、おやすみ
百瀬涼平(あのマフラー・・・どこかで見たことがあるような・・・でも、どこで?)
  思い出そうとすると、頭の奥がズンと重くなるような痛みを感じた。
  そのままベッドに横たわる。
百瀬涼平(赤い、マフラー・・・か)
  記憶をたどってみたものの思い出すことはできず、俺はそのまま眠りに落ちてしまっていた。

次のエピソード:#2 夢の導き

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