プロフェティック・ドリーム

坂道月兎

#2 夢の導き(脚本)

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〇曲がり角
  いつの間にか、俺は歩きなれた通学路に立っていた。
  授業中に見た夢と似ている。
  現実より景色がセピアに染まって見えた。
百瀬涼平(ひょっとしたら ・・・これは夢かもしれない)
  確信はなかったが、なぜかこれは例の正夢だ、と思った。
  助けてっ!!
百瀬涼平「!?」
  女性の叫び声だ。
  俺はとっさに声が聞こえた方向に向かって走った。

〇曲がり角
女性「助けてください!!」
  用水路のすぐそばで、女性がパニックになりながら助けを求めている。
百瀬涼平「どうしたんですか!?」
女性「子供が ・・・」
  用水路をのぞくと、5歳ぐらいの男の子が用水路に落ちて泣きじゃくっていた。
  母親も降りようとするものの、足が滑ってうまくいかないらしい。
  俺は戸惑いつつ、思い切って用水路に飛び込んだ。
百瀬涼平「いま助けるからな。しっかりつかまって」
  大した傾斜ではないが、子供を背負いながら登るのはなかなかキツイ。
百瀬涼平「あと、少し ・・・!」
  歯を食いしばり、登りつめようとしたとき、上から手が差し伸べられた。
  夢中でその手をつかむと、ぐっと力をこめて引き上げてくれた。
百瀬涼平「・・・はあ、はあ ・・・助かった」
男の子「ママー!!」
女性「柚希くん!!」
  母親は男の子に寄り添い、俺に向かって頭を下げた。
女性「本当に ・・・ありがとうございます」
百瀬涼平「いえ、無事でよかったです」
  母親の視線は、俺を引き上げてくれた人物にうつる。
  俺もその顔を見て驚いた。

〇曲がり角
百瀬涼平「・・・八神直志(やがみなおし)?」
八神直志「おう、百瀬って足はやいなー。 全然追いつけなかった」
八神直志「カッコよかったぜ、お前」

〇男の子の一人部屋
百瀬涼平「・・・!?」
  気がつくと、見慣れた部屋の天井が見えた。
百瀬涼平「やっぱり、あれは夢だったのか」
  念のためベッドサイドに置いていたノートを取り出し、忘れないうちに内容を書きつけておく。
百瀬涼平(にしても、八神直志・・・)
  八神直志は同じクラスで、校内でもかなり目立つ存在だ。
  常に女子に囲まれ、容姿も行動も派手。
  地味に学校生活を送る俺とは、正反対の人物だった。
百瀬涼平(今までほとんどしゃべったこともないよな・・・なんでアイツが?)

〇住宅地の坂道
  正夢のことが気になり、俺は早めの時間に家を出た。
  結衣がいなければ、いつも一人きりの慣れた通学路だ。
  夢に見たあの場所に向かう。
百瀬涼平「このあたり、か ・・・?」
  夢で見た場所付近で立ち止まった。
  助けてっ!!
百瀬涼平「!」
  俺は用水路の方に向かって走り出した。

〇曲がり角
  用水路のすぐそばでは案の定、女性がパニックになりながら助けを求めている。
  俺はすぐに用水路に飛び込んだ。
  男の子を背負って登り始めると・・・夢の通り手が差し出された。
  俺は迷わずにそれをつかんで這い上がる。
  男の子を母親に引き渡し、引き上げてくれた男を見る。
百瀬涼平「・・・八神」
八神直志「おう、百瀬って足はやいなー。 全然追いつけなかった」
八神直志「カッコよかったぜ、お前」
八神直志「しっかし泥だらけだな・・・ちょっと待ってろ」
  そう言うと八神は近くのコンビニに向かって走って行った。
八神直志「ほら」
  八神がレジ袋を差し出してくる。
  受け取ると中身はタオルと下着だった。
八神直志「ジャージあるだろ? 学校で着替えろよ」
百瀬涼平「・・・ああ、助かる。ありがとう」
百瀬涼平(チャラそうなヤツだと思ってたけど・・・)
  女子にモテるのはその外見のせいだけではないらしい。
  男である俺にさえこんなに自然に気配りできるのだ。
  恵まれた容姿に加えてこの性格なら、モテて当然だろう。
百瀬涼平(実はすげーいいヤツなのかも)

〇学校の昇降口
  学校に着くと、数学教師が俺を見て鬼の形相で近づいてきた。
数学教師「おい、百瀬。なんだその恰好は!?」
百瀬涼平「え? いや、あの ・・・」
八神直志「先生! 百瀬すごいんですよ! 」
八神直志「自分が汚れるのも気にせず、用水路に落ちちゃった子どもを助けたんです」
数学教師「・・・そ、そうなのか?」
八神直志「今日は百瀬、ジャージでもいいですよね?」
数学教師「そりゃ ・・・まあ ・・・、いや、でも ・・・」
八神直志「いいってさ。さすが先生。 行こうぜ、百瀬」
  しつこい教師をさらりとかわすと、八神は笑って俺を促した。

〇まっすぐの廊下
百瀬涼平「ありがとう、八神。 お前、先生相手にスゲーな」
八神直志「ああいうのは適当にあしらっておくのが一番なんだって」
百瀬涼平「あっ、さっきのコンビニの金・・・」
八神直志「いいって。 代わりに昼めし奢ってよ、焼きそばパンな」
百瀬涼平「わかった」

〇まっすぐの廊下
  八神は今朝の出来事を会う人ごとに話し、そのおかげでその日の俺は知らない生徒からもかなり声をかけられた。
花ノ木結衣「あ、りょうくん。聞いたよー。 今朝すごかったんだって?」
  廊下ですれ違った結衣にもそう言われ、照れくさくも少し誇らしかった。

〇学校の屋上
  昼休み、俺は八神とともに屋上へ向かった。
八神直志「百瀬って花ノ木さんと親しいの?」
百瀬涼平「親しいってか・・・幼馴染みだから」
八神直志「うわー、あんな可愛い幼馴染って・・・お前、つくづく主人公タイプだよなー」
百瀬涼平「はあ?」
八神直志「今日もいいとこ、さらっと持っていっちゃうしな~」
百瀬涼平「あれは別に・・・」
八神直志「わかってるって。とっさにやったことだろ」
八神直志「・・・オレ、ゲームとかアニメとか結構好きで見てるんだけど」
八神直志「ああいう風にカッコいいことをさらっとやるのに憧れてるんだよ」
八神直志「今日のお前、パーフェクト! めっちゃカッコよかったぜ」
百瀬涼平「はは・・・」
八神直志「それにしても百瀬って思ってた感じと全然違うのな」
百瀬涼平「そうか?」
八神直志「うん、割といつも『話しかけんな』ってオーラ出してるし、寡黙な奴だと思ってた」
  そんなつもりはなかったが、周囲からはそう見えていたのか。ちょっとショックだ。
百瀬涼平「お前もだろ八神。 俺はもっとチャラチャラしてるって思ってた」
八神直志「あははっ、よく言われる」
  話すと八神は何もかもを受け入れてくれそうな度量があった。
  俺は思い切って八神に打ち明けてみることにした。
百瀬涼平「なあ・・・正夢とかって信じるか?」
八神直志「正夢!?」
  八神の目が輝いた。
八神直志「なになに、正夢とか予知夢とかそういうの、オレすごい好き」
百瀬涼平「実は最近見る夢が、どうも正夢っぽくて」
  八神は聞き上手で、俺は気づけばすべてを打ち明けていた。
  八神は半信半疑な様子で首をひねりながらも最後まで聞いてくれた。
八神直志「・・・なあ、お前今ちょっと寝てみろよ」
百瀬涼平「は?」
八神直志「今寝てみたら、正夢見られるかもしれないだろ」
八神直志「授業までに起こしてやるからさ」
  たしかに、ここで昼寝をすれば、また正夢を見られるかもしれない。
  正夢を証明するにも、それが一番だと思えた。
百瀬涼平「そうだな・・・やってみるか」
  俺はその場に横になると、目を閉じる。
  満腹も手伝って、眠りはすぐに訪れた。

〇教室
百瀬涼平「午後の英語は自習か・・・」
  配られたプリントをぼんやり見ている時だった。
  おい、なんだって?
  うるさいと言ったんだ

〇教室
加納英明「随分と偉そうな口きくじゃねえか。 自分じゃ何もできねえボンボンのくせに」
早乙女雄星「なんだと!?」
  授業に出ているのが珍しいヤンチャ系の加納と、いつも取り巻きを連れている早乙女だ。
  近くに座っていた八神がすぐになだめにかかった。
八神直志「おいおい、2人ともやめとけって」
早乙女雄星「関係のない者は引っ込んでいろ」
加納英明「せっかく八神が助けてくれたんだから、頼っとけよ」
加納英明「人の後ろに隠れてるのがお似合いだせ、坊ちゃん」
  加納の挑発に、早乙女が立ち上がる。
  無言で持っていたタブレットを早乙女めがけて投げつけた。
加納英明「おっと」
  加納は素早く身をかわし、タブレットは窓ガラスを直撃した。
  ガシャンッ──
  窓のすぐそばにいた八神に、ガラス片が降りかかる。

〇教室
百瀬涼平「八神っ!!」
  八神の身体が血に染まっていくのが見えた。

〇学校の屋上
百瀬涼平「・・・!!」
八神直志「正夢、見られたか?」
  興味津々といった様子で顔をのぞき込んでくる八神に、俺は見た夢をありのまま説明した。
八神直志「・・・マジか」
百瀬涼平「・・・信じるか?」
八神直志「・・・わからん。 でも、もしそれが正夢なら、避けたい・・・」
  俺たちは回避方法について真剣に話し合った。

〇教室
  夢の通り自習になった教室で、俺は今までにない緊迫感を覚えていた。
  やがて、正夢通り加納と早乙女の言い争いが始まった。

〇教室
  加納の挑発を受けて、早乙女が立ち上がる。
  その瞬間、俺は早乙女からタブレットを取り上げた。
百瀬涼平「やめろ!」
早乙女雄星「何をする!!」
百瀬涼平「こんなもん投げたらあぶないだろ」
早乙女雄星「うるさいっ!」
  ドンッ──
  早乙女はなぜか、俺ではなく目の前にいた八神を突き飛ばし、八神が倒れ込む。
  女子の悲鳴が聞こえ、教室内が騒然となった。
  ガラリ、と教室のドアが勢いよく開いた。
数学教師「おい、お前たち何を騒いでいるんだ!!」
  早乙女と加納は、生活指導室に呼び出されていった。

〇教室
八神直志「いててて・・・」
百瀬涼平「足ひねったのか、八神」
八神直志「ああ、でも、ガラスが降りかかるよりはましだ」
八神直志「・・・正夢、か。 こんなこと、本当にあるんだな」
百瀬涼平「ああ」
  八神の目は好奇心と期待で輝いている。
  その目を見ながら、俺も気分が高揚してくるのを感じていた。

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