6限目 深いテーマの伝え方(脚本)
〇講義室
蕾太「小説が完成したぞ! 自信作だ!」
小雪「その作品のテーマはなんだ?」
蕾太「テーマ?」
蕾太「うーん。特にないけど・・・」
小雪「読む気がしないな」
蕾太「え」
小雪「すべての物語は、読者に何かを伝えるためにある」
小雪「何も伝えようとしてない物語はすぐに忘れられる」
小雪「人々の記憶に残るのは、やはり伝えたいテーマのある物語だ」
蕾太「伝えたいことか・・・」
小雪「テーマは冒頭あたりで提示しておくといい」
小雪「キャラクターがテーマに関連したセリフを主人公に投げかけたり、何気ない一言として語ったりする」
小雪「それらが大きな意味を持つことは、物語の終盤で明かされるのだ」
蕾太「あ! テーマを思いついたぞ!」
蕾太「さっそく書き直しだ!」
〇講義室
蕾太「テーマを明確にして書き直したぞ! この小説のテーマは、 『友情は素晴らしい』だ!」
小雪「ふむ。 冒頭で「友達って大事だよな!」」
小雪「それから主人公が困って、友達が助けてくれて、最後は「やっぱり友達って大事だよな!」か」
小雪「・・・・・・」
小雪「テーマの伝え方が浅い!」
蕾太「なんで!? これだけしっかりと伝えたのに!」
小雪「繰り返しただけで、深く掘り下げてはいないのだ」
小雪「いや、それ以前に、テーマが主張しすぎだな。初心者にありがちなミスだ」
蕾太「え。 『友情は素晴らしい』って主張したいから主張したんだけど」
小雪「残念だが、作中のセリフを使ってテーマを高らかに主張すると、ただの説教になってしまう」
小雪「テーマは目立たず、出しゃばらず、物語の中にさりげなく溶け込ませるくらいでちょうどいい」
小雪「テーマそのものを文章として読ませるのではなく、主人公の行動を通してテーマを感じさせるのだ」
蕾太「それでどうやって伝えるんだ?」
小雪「たとえば、テーマを断定ではなく問いかけにするという方法がある」
小雪「『友情は素晴らしい!』 ↓ 『友情は本当に素晴らしいのか?』」
蕾太「YES」
小雪「主人公なら、そう答えるだろうな。しかし、そう思わないキャラクターもいる」
小雪「それが、悪役だ」
小雪「君の小説では、主人公たちが『友達は大事!』と主張し、敵対するライバルまでが『友情は最高!』と唱えている」
小雪「作者がそれを伝えたいことはよくわかったが、主張を一方的に押しつけるのでは逆効果だ」
小雪「もっとテーマを効果的に伝える方法がある」
小雪「伝えたい真実を伝えるのと同じくらい強く、その反対の真実を提示するのだ」
蕾太「えっ。 それってテーマを否定することになるんじゃ」
小雪「否定ではない。議論を深めるのだ」
小雪「一方的な主張では浅い。 だが、作中で議論を深めれば、読者に伝わるテーマも深いものになる」
蕾太「議論か。誰がするんだろう?」
小雪「決まっている。主人公と、敵役だ」
小雪「テーマに関する明るい面は主人公を通して伝え、暗い面は敵役を通して伝えるのだ」
小雪「つまり、主人公と敵役が、ひとつのテーマを両側から照らし出す」
小雪「特に主人公と敵が対立する場面で、この見せ方が効果を発揮する」
小雪「主人公は正しく、敵役も正しい。 そのような状況でぶつかり合えば、対立はよりドラマチックなものになるだろう」
蕾太「たしかに、いいバトルが出来そうだ」
小雪「名作において、主人公と敵が根本の部分で似ていることはよくある」
小雪「主人公と敵は、ひとつの信条の表と裏。 鏡合わせのような存在なのだ」
蕾太「だから主人公と敵はよく対比で描かれるのか」
〇講義室
蕾太「ということは、主人公が友情を肯定しているなら、敵は友情を否定していなければならないのか」
蕾太「敵は、友達を信じて裏切られたことがあるのかも。だから友情を否定し、近くにいる人間を利用するようになったんだ」
小雪「うむ。『友情が永遠だ』というのは真実であるが、その一方で『壊れていく友情がある』というのもまた真実だな」
蕾太「じゃあ、冒頭のテーマ提示は、 『友情は素晴らしい』 と言い切るより」
蕾太「『その友情は永遠なのか?』 と問いかけた方がいいかもな」
小雪「うむ。その方が読みたいと思えるよ」
小雪「もし長編なら、多数の登場人物にそれぞれテーマの一部を背負わせるのもいいだろう」
小雪「テーマに向ける視点を増やせば、さらにテーマを深めることができる」
蕾太「よし! テーマの深堀り、やってみるぜ!」
楽しく読ませて頂きました✨
テーマ、確かに難しいですよね。私も主人公君同様にいつも浅くなってしまいます。
悪役をつかって引き立たせればいいんですね! なるほど。
次の作品集では意識して書いてみようと思いました。
とっても勉強になります!!
文章にすると頭でしっかり理解ができますね(*^^*)
テーマの伝え方に主人公と敵役が関わってるとは、読んで改めてはっ!とさせられました!!
テーマも大事ですよね。頭でわかっているつもりでも、僕は気を抜くと説教くさいものをつくってしまっています。対策として雰囲気が重くならないように軽めのネタを入れてみたりするんですが、そういうカモフラージュよりも対立や障害等で自然に問うやり方に挑戦してみようと思います……。
今回も勉強になりました。ありがとうございます。