第2話 お狐様の正体!?(脚本)
〇綺麗なリビング
満弦「むぅ。これほど早く時間切れになるとは」
満弦「思ったよりも・・・しかし・・・」
遠山陽奈子(なんかブツブツ言ってるけど)
遠山陽奈子「あなた・・・やっぱり私を騙そうとしたんでしょ?」
満弦「む?」
遠山陽奈子「なぁにが“神である”よ!」
遠山陽奈子「正体は、子狐の妖怪なんじゃない! 危うく信じかけるところだったわ」
満弦「お主、この期に及んでわしを信じられぬと申すか」
満弦「山中で小妖怪どもの策に嵌り、困り果てていたところに道を拓いてやったのも、このわしだと言うに」
遠山陽奈子「っていうか、それもあなたの仕業だったんじゃないの?」
満弦「なんじゃと!?」
遠山陽奈子「山で迷わせて、あんなボロッボロの稲荷神社まで用意して」
遠山陽奈子「何が目的!?」
満弦「っ・・・黙って聞いておれば」
満弦「我が妻となる娘と言えど、これ以上の愚弄は許さぬぞ!」
遠山陽奈子「許さないのは、こっちのセリフ! 」
遠山陽奈子「神様のフリまでして騙そうとするなんて性質悪いにもほどがあるでしょ!」
満弦「だからフリなどではない! わしは正真正銘──」
遠山陽奈子「そういうこと言って人間を陥れるヤツに、今までどれだけ振り回されてきたと思ってるのよ!」
遠山陽奈子「海に行けば幽霊においでおいでされるし、川では河童につきまとわれるし、学校では空き教室に閉じ込められるし!」
遠山陽奈子「おかげでねぇ・・・周りから不気味がられて、小中高と彼氏はおろか友達だってロクに作れなかったんだから!」
遠山陽奈子「これ以上はもう・・・うんっっざりっっなのっっっ!!」
一気にまくし立てた私の前で、お狐様・・・もとい可愛らしい子狐妖怪が、金の瞳を丸くして尻尾をボフンと逆立てた。
遠山陽奈子(う・・・ちょ、ちょっと言いすぎた? )
遠山陽奈子(過去のことはこの子のせいじゃないし。 でも・・・)
遠山陽奈子「と、とにかく、そういうことだから! 」
遠山陽奈子「こんな悪戯はやめて、山に帰りなさいよ・・・ね?」
満弦「・・・・・・」
遠山陽奈子(俯いちゃった)
心なしか、フルフルと震えているようにも見える。
遠山陽奈子(まさか泣いてるわけじゃないよね!?)
いくら妖怪とはいえ、子供を泣かせるなんてさすがに申し訳ない気分になってしまう。
遠山陽奈子「あ、あのっ・・・ご、ごめんね? お姉さんちょっと怖かったよね?」
私は慌てて、耳がペタンと伏せられた小さな頭をなでなでした。
すると、ピクリと耳が動いて尻尾が揺れ出す。
遠山陽奈子(あれ、もしかして気持ちいい?)
そう思うと、何やら私の中に母性本能をくすぐられるような、ソワソワとした感覚が沸きあがってきた。
遠山陽奈子(これは、ちょっと・・・悪くない、かも。 ちょっと楽しい)
満弦「う・・・むぅっ」
遠山陽奈子(か、顔がトロンとしてる!? やだっ、動物みたいで可愛いんですけど!)
しかし、そんな満弦と目が合った瞬間。
満弦「いっ――いつまでそうしとるかあああ!」
遠山陽奈子「へ・・・?」
〇白
ドンッ――!
きゃああっ!?
子狐の叫びと共に、爆風のような衝撃に弾かれて目の前が真っ白になる。
〇綺麗なリビング
気づくと私は、壁際に磔にされているかのような格好で、身動きが取れなくなっていた。
遠山陽奈子「え・・・なに? どうなってるの!? 」
遠山陽奈子「なによこれえ!?」
満弦「ふふん。これは躾(しつけ)じゃ」
遠山陽奈子「し、躾ぇぇ!?」
満弦「神であるこのわしを小妖怪などと同列に語り、あまつさえ・・・」
満弦「あ、頭を・・・な、なでるなど・・・。 屈辱であるぞっ」
遠山陽奈子「とか言いながら顔が真っ赤なんですけど」
遠山陽奈子「頭なでられたの、そんなに気持ち良かった?」
満弦「ええいっ、まだ言うか! その口閉じさせてやる!」
遠山陽奈子「むぐっ!? んんっ・・・んんんー」
子狐がこちらを一瞥するなり、口の周りを粘着物質がおおったような感覚がして、言葉を奪われた。
遠山陽奈子(なんなのよ~~~!!)
満弦「ふふふ・・・これで少しは静かに語らえるというもの」
遠山陽奈子「んんー!」
満弦「どうもお主は神を前に気が動転しているようだからの」
満弦「ちと面倒じゃが、わしが改めて丁寧に説明してやるゆえ、しかと聞くが良い」
遠山陽奈子(これが丁寧に説明してあげようって相手へのやり方!?)
満弦「まず、お主はわしの正体をこの幼き子狐だと言うたが・・・逆じゃ」
遠山陽奈子(逆?)
満弦「つまり、先だって見せた麗しき姿こそがわしの真の姿」
満弦「すなわち神が顕現した姿であるぞ」
遠山陽奈子(ウソ! あっちが本当の姿!?)
遠山陽奈子(でも、じゃあなんで急に子供の姿になんて・・・?)
満弦「まだ理解できぬという顔じゃな」
満弦「祈りが足らねば、わしの力は弱まる」
満弦「力が弱まれば・・・わしは元の姿を保つのが難しくなる」
要するに、今の子狐の姿は省エネモードということらしい。
遠山陽奈子(ってことは、急に小さくなったのは、力の限界がきたから? )
遠山陽奈子(そんな、3分しか戦えないヒーローじゃあるまいし)
だけど、あながち嘘でもないだろうことは十分すぎるくらいにわかっていた。
最初に顔を合わせた時──今まで関わってきた妖怪とは異質のもの。
畏怖すべき力のようなものを肌で感じたからだ。
あの時はまさか神様だとは思わなかったけれど、今なら納得できる。
満弦「ふふんっ。今度こそ、ようやく事態が飲みこめたらしいの」
満足そうに言って、彼が空を切るように腕を払うと同時に、私の口と体を覆っていた何かが消えた。
遠山陽奈子「わっ・・・!」
急に体の抵抗がなくなったはずみで、尻餅をつく私。
そこへ、子狐・・・お狐様が、チョコンと乗っかってきた。
遠山陽奈子「わっ! な、なに?」
満弦「もちろん、婚姻の儀の続きをするつもりだ」
遠山陽奈子(って、この子狐と!?)
遠山陽奈子「ムリムリムリ!」
満弦「何故じゃ」
満弦「わしが神であることに、いささかの疑いもないことは理解したはず」
満弦「だというのに、まだ拒むなど・・・解せぬ」
遠山陽奈子「だって、こんなのダメでしょ!」
満弦「だから何故かと聞いておる」
遠山陽奈子「だからそれはっ」
遠山陽奈子(子供相手にこんなこと!)
とは思うものの、小首をかしげるお狐様を前に、私は言葉に詰まってしまう。
遠山陽奈子(こんな時だけ子供みたいな顔するのズルイ)
満弦「答えぬならばこのまま続きをするまでだ」
満弦「余計なことは考えず、わしの与える温もりに集中せよ」
と、彼がポフッと顔をうずめたのは、私の胸のあたりで。
遠山陽奈子「わー! こ、こら! どこに顔うずめてんの! 」
遠山陽奈子「ってか、くすぐったい!」
満弦「・・・何と色気のない娘か」
満弦「しかし存外、お主はよい香りがする」
スンスンと、鼻を鳴らすお狐様。
遠山陽奈子「やっ、やだ! 匂いかがないで!!」
ジタバタと暴れるものの、お狐様の小さな手がペタペタと触れる箇所がくすぐったくて、力が入らない。
おまけに、お狐様の尻尾がいかにも上機嫌に左右に揺れる光景が、なんだか動物そのままで、私はたまらず吹き出してしまった。
遠山陽奈子「ぷっ・・・あはっ・・・あはははは! も、もー! ホント無理! 」
遠山陽奈子「無理だから、やめて! お、お腹痛い・・・!」
満弦「むぅ・・・これ!」
満弦「夫となる者が誠心誠意、愛を捧げようというに、笑い出すとは何事じゃ」
遠山陽奈子「そ、そんなこと言われたって・・・ぶふっ」
一度ツボに入ってしまったものはどうしようもないのである。
満弦「ええい・・・本当に調子の狂う・・・。 ともかく、口づけだけはさせてもらうぞ」
遠山陽奈子「ぜ、絶対ダメ!」
満弦「まだ拒むか!?」
遠山陽奈子「当たり前じゃない!」
満弦「さしずめ初めてゆえ緊張しておるといったところだろうが、これは重要なことぞ」
遠山陽奈子(は、初めてってバレてる! って、それよりも・・・!)
遠山陽奈子「重要ってどういう意味よ?」
満弦「急ぎ口づけをせねば、お主も困ることになる」
ますますわけがわからない。
遠山陽奈子「だから、それって──」
バン──ッ!
突如、窓ガラスを思いっきり叩くような大きな音が部屋に響いた。
遠山陽奈子「なに、今の・・・?」
満弦「現れよったか」
そう言ったお狐様の背後に、大きな鎌のような腕をした何かが見えた。
???「キシャーーッ!」
遠山陽奈子(こ、今度はなに!?)