双つの顔のお狐様

北條桜子

第1話 真夜中の訪問者(脚本)

双つの顔のお狐様

北條桜子

今すぐ読む

双つの顔のお狐様
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇綺麗なリビング
  ピンポーン──!
遠山陽奈子(もう・・・また?)
  夜も12時を回ろうという頃に突然鳴り響くチャイム。
  私の経験上それは、 “人ならざるモノ”の悪戯の可能性が高い。
  けれど、今夜はどこかが違っていた。
遠山陽奈子(いつもの嫌な感じがしない。 むしろ、もっと清浄な感じ・・・?)
遠山陽奈子(あいつらじゃないの?)
  怪しさを覚えつつ、扉を開けてみる。
  すると、そこに立っていたのは──
???「待たせたな、花嫁よ」
遠山陽奈子「へ? は、花嫁・・・?」
???「ム。お主、花嫁が何なのか知らぬのか?」
???「ならば言い改めよう」
???「待たせたな、我が妻となる娘よ」
遠山陽奈子「そうじゃなくて!」
遠山陽奈子(この人・・・)
遠山陽奈子(何者──!?)
  どこか人間離れした端正な顔立ちに、切れ長の金色に輝く瞳。
  白銀のたっぷりとした長い髪。
  こちらを値踏みするように顎をさする指からは、鋭い爪が覗く。
  そして何より・・・。
遠山陽奈子(狐みたいな耳と、フサフサの尻尾って!)
遠山陽奈子「あなたもしかして、狐の妖怪?」
???「妖怪と見誤るとは無礼な。 どこからどう見ても、神であろうに」
遠山陽奈子「かみ・・・さま・・・?」
???「さよう。 そして今日からお主の夫となるのだ」
満弦「名は、満弦(みつる)と言う」
満弦「理解したならば、婚姻の儀に先駆けまずは口づけを──」
  考える間もなく、腰を引き寄せられた。
  かと思えば、次の瞬間、神を名乗るその男の顔が視界いっぱいに広がって──
遠山陽奈子「えっ? ちょっ――! ススッ、ストップ!!」
満弦「っ・・・お、お主~~~・・・!」
満弦「神であるこのわしの顔を押しのけるなどと・・・」
満弦「無礼が過ぎるぞ!」
遠山陽奈子「無礼はどっちよ!?」
遠山陽奈子「いきなりやって来て、わけわかんないこと言って、あげくキスしようとするなんて」
遠山陽奈子「私を化かそうったって、そうはいかないんだからね!」
満弦「化かすとは、重ね重ね無礼な。 お主が自ら望んだことだというに」
遠山陽奈子「はあ!? 私がいつそんなこと望んだのよ!?」
満弦「日中、わしが治める社・・・月ノ森神社に参ったであろう?」
満弦「その時、確かに言うたはずじゃ。 伴侶を望むとな」
遠山陽奈子「そんなの知らな――!」
  そこまで言いかけて、ハタと記憶が蘇る。
  それは、およそ半日前のことだ。

〇森の中
遠山陽奈子(さ、最悪。完全にやられた・・・!)
  史学科のフィールドワークで、大学の裏山を訪れていた私は、いつの間にかグループのメンバーとはぐれて迷子になっていた。
遠山陽奈子(それもこれも、全っっ部、変なものが視える体質のせいなんだから!!)
  おおーい、こっちだようー! 
  こっちにおいでってばー!
遠山陽奈子「うるさい、うるさい!  もう騙されないんだからね!」
  くすくす・・・くけけけ・・・
  こっちだようー! ゲラゲラゲラ・・・!
  どこからともなく聞こえる笑い声が無性に腹立たしい。
  幼い頃から、妖怪だの幽霊だのが視える──いわゆる霊感体質だった私は、しばしば、彼らの悪戯に困らされていた。
  視えるおかげで、本当に危険なモノを避けてこられたという面もあるにはあるが・・・とにかく、厄介な体質なわけで。
  この時も、グループメンバーの声をマネする妖怪にまんまと騙されたのである。
遠山陽奈子(とにかく早くみんなに連絡して、合流したいのに)
  さっきから、スマホの画面には圏外の文字が並んでいる。
遠山陽奈子「もう~~~なんで私ばっかりこんな目に合わなきゃいけないのよ~~~!」
  思わず叫んだ──次の瞬間だった。
  散々うるさく響いていた妖怪たちの笑い声がピタリと止まり、薄暗い森の奥に一筋の光が差し込んでいるのが目に入る。
遠山陽奈子(あそこ・・・何か、ある・・・?)
  何故か──そこへ向かって歩き出す自分がいた。
  引き寄せられると言った方がいいかもしれない。
  嫌な感じはしなかった。

〇古びた神社
遠山陽奈子「これって、お稲荷様・・・?」
  かつて鮮やかな朱塗りであったであろう鳥居は所々黒ずんで、その先の小さなお社はボロボロの状態だ。
  どれほど長い期間放置されればこんな風になるのかと、少し胸が痛かった。
  だから・・・というわけでもないけど、私は荷物から未開封のミネラルウォーターを取り出してお社の前にお供えした。
遠山陽奈子「お金より、お水のほうがいい、よね・・・?」
遠山陽奈子(・・・こういう時って、お願いもしたほうがいいのかな・・・)
遠山陽奈子(早くみんなのところに戻れますように)
  パンパンッ!
  手を叩いて踵を返す。
  と、同時に、小脇に挟んでいたスマホがブルッと震えた。
  グループメンバー:
  遠山さん、どこ行っちゃったのー?
遠山陽奈子(メール! 今の今まで圏外だったのに。 もしかして早速ご利益あったとか?)
遠山陽奈子(なーんてね)
遠山陽奈子(そんなすごいご利益ある神社なら、さびれてるわけないもんね)
遠山陽奈子(でも・・・)
遠山陽奈子「もし本当にお願いを聞いてくれるなら・・・霊感体質のせいで、恋愛とまるっきり縁がない私を可哀想って思ってくれるなら」
遠山陽奈子「この体質をなんとかして、ステキな恋をして結婚できるように助けて欲しい・・・!」

〇綺麗なリビング
遠山陽奈子「あ、ああ、あの時の稲荷神社の!?」
満弦「ふふん。ようやく思い出したようだの」
遠山陽奈子「ってことは、本当に神様なの!?」
満弦「だから、先ほどからそう言うておろうに」
遠山陽奈子「だ、だって・・・そんな・・・」
満弦「ともかく、お主は人々から忘れ去られておったわしの社を見つけ、わしに清き水を捧げ、願った」
満弦「その願い──良き伴侶を迎えたいという望みを叶えるべく、わし自ら出向いてやったのだ」
満弦「感謝するがよい」
遠山陽奈子「か、感謝って言われても・・・」
遠山陽奈子(まさか神様が婿に名乗り出るとか、思わないし! )
遠山陽奈子(か、神様の恩返し的なヤツってこと!?  だったら・・・!)
遠山陽奈子「結婚より、まずはこの体質を何とかしてください!」
満弦「その必要はあるまい」
満弦「このわしが側におれば、あやかし共も、お主に手だしなど出来ぬようになる」
満弦「だから、お主は黙ってわしを受け入れればよい」
  そう言って、お狐様はズズイと身を乗り出すなり、私の手をぎゅっと握ってきた。
  私の手をすっぽりと包みこむ大きな手の感触に、一瞬ドキッとした。
  男の人に手を握られたのなんて初めてだ。
  さらに、突然指先を甘噛みするように口に含むお狐様。
  これまで味わったことのない感触に、思わずビクッと跳ね上がった。
遠山陽奈子「ひええっ!」
遠山陽奈子(いいい、今、ペロって! ペロってぇぇ・・・!!)
満弦「ほほう。この程度で頬を赤らめるとは、攻めがいのある・・・」
満弦「これは、今から初夜が楽しみというものよの」
遠山陽奈子「しょっ・・・!? ななな、なに言ってんの!?」
満弦「当然であろう? 夫婦となるということは、男女の契りを交わすということ」
満弦「つまりお主は今宵、わしのものになるのだ」
  さっきよりも強い力で抱き寄せられる。覆いかぶさるように顔を近づけられて逃げ場を失った私は、たまらず目をつぶった。

〇黒
  今度こそキスされる──!
  しかし。

〇綺麗なリビング
遠山陽奈子「あ、あれ・・・?」
遠山陽奈子「いなく・・・なった・・・?」
  もう少しだというのに、こうも早く時間切れになるとは
遠山陽奈子「え?」
  どこを見ておる? わしはここじゃ!
  声のするほうへ、ソロソロと視線を下ろして、今度は目を丸くすることになった。
遠山陽奈子「え。え・・・? 」
遠山陽奈子「ええーーっ!?」
満弦「これ、指をさすでない。指を」
遠山陽奈子(お、お狐様が・・・小さくなってるーーっ!?)

次のエピソード:第2話 お狐様の正体!?

成分キーワード

ページTOPへ