異世界バックパッカー

月暈シボ

エピソード8(脚本)

異世界バックパッカー

月暈シボ

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〇テントの中
成崎ユキオ「ん・・・んん・・・」
  誰かの足音に導かれるようにユキオの意識は覚醒を始める。
  寝袋による独特の寝心地と裏地の質感から、彼は自分がキャンプに来たことを思い出す。
  やがて、テント内に微かに残る匂いに気付くと、身体をくの字に折り曲げて上半身を起こした。
  その正体はルシアの匂いだったからだ。
ルシア「起きたか・・・荷物を片付けたら出発するぞ!」
  半分ほど開けておいたテントの入口から、当のルシア本人がその整った顔を覗かせると、そのままユキオに告げる。
成崎ユキオ「わ、わかりました!」
  金髪美女のモーニングコールによって、昨日の出来事は夢ではなく、
  間違いのない現実だとユキオの意識に知らしめる。
  身体は更なる睡眠を要求しているが、異世界での唯一の協力者である彼女の機嫌を損ねるのは利口とは言えない。
  ユキオは寝袋から飛び起きると、森の天蓋から零れる朝日の中、行動を開始した。

〇けもの道
成崎ユキオ「良かったら、朝食も一緒に食べますか?」
ルシア「いや、大丈夫だ。私は先に済ませておいた」
成崎ユキオ「そうですか・・・こっちも急ぎます!」
  朝食を誘ったユキオだが、ルシアの返事に慌てて答える。彼女は既に自前で終わらせているらしい。
  どうやら悠長に朝食を作っている場合ではないようだ。
  これまで、ユキオの朝はパターン化していた。
  まずは下着を替え、朝食の準備、具体的にはお湯を沸かしている間に、テント内に出来た結露を拭く、
  そしてコーヒーと朝食を食べ終わったら、寝ている間に汗を吸った寝袋を乾燥させる等である。
  だが、今回に限っては幾つかの手順を省く。
  下着はそのままで、目覚めのコーヒーも断念し、朝食もブロック状の非常食と水で素早く済ませる。
  テントの処置だけはカビの発生と劣化に繋がるので、大急ぎで内部をタオルで拭き、
  入口を全開にして風通しを良くしたまま、次に外の焚火台の片付けに入った。

〇けもの道
ルシア「凄いな、ここまで小さくなるのだな・・・手際も良い!」
  着々と撤収作業を続けるユキオにルシアは感心したとばかりに告げる。
  彼からすればキャンプの撤収はもう何十回も繰り返した作業だったが、
  彼女からすれば、あれだけの体積を備えていたテントが、
  片手で持てるくらいまでコンパクトになるのが不思議に見えるのだろう。
成崎ユキオ「そうですね、このテントは凄いです。それに慣れれば、それほど難しくないんですよ」
  美人に褒められて悪い気はしないが、凄いのはテントを作った会社である。ユキオは素直に告げる。
ルシア「なるほど・・・」
  ユキオからすれば事実を口にしただけなのだが、ルシアは謙遜と受け取ったようで満足気に納得する。

〇けもの道
成崎ユキオ「・・・終わりました!」
ルシア「うむ。では出発しよう!」
ルシア「ああ・・・そうだ! 一応、説明しておくが、」
ルシア「まずは近くの村に立ち寄って、この首を証拠として渡した後にゴルドア街道に出て、」
ルシア「更には街道を軟化してローゼルの街を目指す。天候次第だが、およそ五日の旅程になるだろう」
  最後にテントをバックパックに収納したユキオは準備完了の報告を行ない。
  ルシアはこれまで具体的な行き先を告げていなかったことに気付き、説明を施す。
  ユキオとしても土地勘など全くない異世界の地理なので、
  詳しい説明にそれほど意味があると思えなかったが、
  これで大体の流れは把握することが出来た。
  人が徒歩で無理なく一日に移動出来る距離は、およそ二十~三十㎞である。
  ローゼルがどの程度の規模の街のかは不明だが、異世界人であるユキオを保護出来る街あるいは都市は、
  ここから最低でも百㎞は離れているということだった。
成崎ユキオ「五日ですか・・・」
  具体的な旅程を聞かされたユキオは思わず反芻する。
  歩く距離はそこまで気にならなかったが、彼は今回のキャンプを一泊二日と想定していた。
  当然ながら、持参した食料が足りるはずがない。
  これから本格的な冒険が自分を待ち構えているのだと自覚したのである。
ルシア「ああ。道中は私が案内するが・・・」
ルシア「その都度、この世界に疎い君に何かしら指示することもある。その時は素直に協力してくれ!」
成崎ユキオ「もちろんです。むしろこちらこそ、お願いします!」
  ルシアがやや申し訳なさそうに告げるが、ユキオは快諾する。
  彼女に出会っていなければ、運が良くても行き倒れ、
  悪ければ彼女が手にしている袋の中身に食い殺されていたかもしれないのである。
  それにルシアがユキオを助ける義務や義理はない。
  この時点で感謝すべきであり、理由もなく反抗するのは愚かな行為と言えた。
ルシア「うむ。理解が早くて助かる。では、出発しよう!」
  改めてユキオの合意を得たことで、ルシアは笑顔を浮かべると、
  早速ばかりに朝日を浴びる森の中へと足を踏み出した。
  ユキオはバックパックの腰ベルトを固めに締めると、異世界の女戦士の後に続く。
  二人の旅が開始されたのだった。

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