腰越非情(脚本)
〇洞窟の入口(看板無し)
クロウ「・・・」
クロウ「スエクニ・・・」
クロウ「いや、宗盛卿」
スエクニ「クロウ殿。この雨の中どうなされました」
クロウ「・・・」
スエクニ「風邪をひきますぞ。ささ、こちらへ」
スエクニ「・・・とは言えぬような所にいるのが因果なものですな~」
クロウ「・・・」
スエクニ「す、すみません。戯れ言です」
クロウ「心無い者の讒言により、そなたを鎌倉まで連れてゆく事が叶わなくなった」
スエクニ「ま、まさか。私はここで斬首・・・」
クロウ「安心しろ。鎌倉に入れぬのは俺の方だ」
スエクニ「え?」
クロウ「俺は兄上に嫌われてしまった」
スエクニ「何があったと言うのです?」
クロウ「戦さがあった」
クロウ「仇敵清盛の残した平家一門を滅亡させた」
クロウ「坂東武者の世を作るための礎となった」
クロウ「父義朝の無念を晴らした」
クロウ「この俺が!」
クロウ「全て俺にしか成しえなかった宿願だ!」
スエクニ「いかにも・・・」
スエクニ「貴方でなければ私達は倒せなかった」
クロウ「それが兄上には疎ましいらしい」
スエクニ「・・・」
クロウ「何が英雄だ・・・」
クロウ「何が天狗と修行だ・・・」
〇荒廃した街
『俺はただ一人・・・一人ぼっちで野良犬同然に育ち』
〇武術の訓練場
『生き別れた兄が挙兵すると伝え聞いた折は全てを投げ出し馳せ参じ』
〇岩山の崖
『兄のため・・・』
〇海
『ただ兄上の為だけに遮二無二戦ってきただけなんだ』
〇洞窟の入口(看板無し)
クロウ「一目でいい」
クロウ「兄上に会いたい」
クロウ「会えば必ず分かってくれる」
クロウ「必ず喜んでくれる」
クロウ「『弟よ、よくやった』」
クロウ「そう褒めてくれる」
クロウ「兄弟とはそういうものではいのか?」
クロウ「違うか?宗盛殿・・・」
スエクニ「・・・」
クロウ「・・・」
クロウ「無様な姿を晒した」
スエクニ「私ほどではありませんよ」
クロウ「それは分かっている」
スエクニ「言うてくれますな」
クロウ「宗盛卿」
スエクニ「スエクニです。お間違えなきよう」
クロウ「兄に会ったら伝えてくれないか?」
クロウ「義経は鎌倉の為、一所懸命勤めたと」
クロウ「一所懸命戦ったと!」
スエクニ「・・・」
スエクニ「お断り申す」
クロウ「何だと?」
スエクニ「私は私のことで手一杯です」
スエクニ「そも、鎌倉に見捨てられた者の機嫌を取る必要などありませんし」
クロウ「貴様・・・」
スエクニ「伝えたいことあらば直接伝えられませ」
スエクニ「生きて・・・生きて・・・生ききって」
スエクニ「自分の生き様で伝えられよ!」
クロウ「自分の生き様・・・」
スエクニ「人に頼るなどクロウ殿らしくありませんよ」
クロウ「・・・」
クロウ「確かにそうだ」
クロウ「どうかしてたよ。豚如きに説教されるとは」
スエクニ「犬にも言葉が通じましたかな?」
クロウ「言ってくれる」
スエクニ「ではこれより先も鷹のように雄々しく飛ばれませ」
クロウ「そなたも孔雀のように舞ってみせろ」
クロウ「さらばだ。内大臣平宗盛殿」
スエクニ「ご武運を。検非違使判官源義経殿」
続く