鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

山本律磨

夢幻残響(脚本)

鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

山本律磨

今すぐ読む

鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇太子妃の御殿
  『咎人、平スエクニ!』
ヘイザ「鎌倉殿の御前である!面を上げい!」
スエクニ「はっ!」

〇黒背景
  坂東武者棟梁 源頼朝

〇太子妃の御殿
ヘイザ「鎌倉殿は簾の奥にて、その方の申し開きを聞いて下さる」
ヘイザ「敵将なれば有無を言わさず首を刎ねる所であるぞ。寛大なるご慈悲に感謝し、謹んで言上仕れ」
スエクニ「ははっ!」
スエクニ(琵琶の音?)
スエクニ(そうか、見ておるのだな。タミよ)
スエクニ「平スエクニにございます」
スエクニ「此簾越しながら鎌倉様に拝謁できること、恐悦至極に存じ上げ奉ります」
ヘイザ(愚かな。この後に及んでまだおもねるか)
ヘイザ(どう転んでも死は免れぬというに)
スエクニ「このスエクニ、此度の戦は鎌倉様の才配の見事さに敗れたのだと、ただただ恐れ入るばかりにございます」
スエクニ「まこと鎌倉様は我らではなく、亡き父相国清盛公と戦っておられたのでありましょう」

〇黒背景
ヨリトモ「・・・」

〇太子妃の御殿
スエクニ「我が父はかつて都に禿髪(かむろ)なる童子を放ち、自らに対する不穏な噂を集め、反逆の根をことごとく刈り取りました」
スエクニ「恐れながら鎌倉様は此度それと逆を行われたのであろうと。それ故に我らは滅びたのであろうと推察いたしまする」
ヘイザ「戯言を申すな!」
ヘイザ「清盛が如き卑劣な策謀を、鎌倉殿が真似るわけなかろう!」
スエクニ「世に平家への怨嗟と源氏への応援が火の様に広がったは何故か?」
スエクニ「世の人が雅をさげすみ猛々しき武人の生き様のみを持て囃すようになったは何故か?」
ヘイザ「やかましい!琵琶法師なぞ下がらせよ!」
ヘイザ「・・・ふん」
ヘイザ「身から出た錆じゃ」
ヘイザ「もののふほどの者が遊び呆けるだけの公家の真似事をするその汚らわしさ。世の者が気付いただけであろう」
スエクニ「気付いたのではない」
スエクニ「民は『公家の真似事が汚らわしい』と植え付けられたのだ」
スエクニ「東夷がこの国を奪い取るために」
ヘイザ「天下簒奪は平家の方であろうが!」
スエクニ「だが我らはお前たち程・・・」
ヘイザ「ええい見苦しい!坂東武者を愚弄するか!」
スエクニ「我等はお前たち程、強く生きられなかった」
ヘイザ「・・・チッ」
ヘイザ「分かっておるではないか」
スエクニ「分かっていたさ」
スエクニ「西海に沈んだ全ての公達、皆分かっていた」
ヘイザ「・・・」
スエクニ「国を獲る気概があったのは父、平清盛だけだった」
スエクニ「我らは全知全能を使って生きようとせず、住む所も食うものもあって当たり前だと、歌い遊んで生きてきた」
スエクニ「滅んで当然・・・」
スエクニ「なりふり構わぬお前達こそ、まさに武者の鑑だ」
スエクニ「鎌倉様・・・いや」
スエクニ「右兵衛佐殿」
スエクニ「我を見よ・・・」
スエクニ「御簾を上げ、しかと我を見よ!」

〇黒背景
ヨリトモ「・・・」

〇太子妃の御殿
スエクニ「我が傲慢が、源平争乱の火種を作ったのであろう!」
スエクニ「我は生き恥を晒す卑怯未練な白粉武者!」
スエクニ「されど我は清盛の血を引かぬ傘売りの子。平家と縁なきものなれば殺すに及ぶまい!」
スエクニ「さあ、我を解き放て!」
スエクニ「貴様が作り出した流言飛語ならば、虚言を貫き我を生きながらえさせるが筋ぞ!」
スエクニ「滅びゆく平家をなおも貶める人でなしめ!」
スエクニ「頼朝よ!その汚らわしき嘘で、この汚らわしきスエクニを見逃すがよい!」
ヘイザ「図に乗るなスエクニ!」
ヘイザ「下賤の者が平家棟梁を騙り、大臣となった事が万死に値するのだ!」
ヘイザ「その上、あろうことか、偉大なる鎌倉殿を人非人と愚弄するなど恥を知れい!」
スエクニ「人非人よ!源氏も平家も、武者などただの汚らわしい人殺しではないか!」
ヘイザ「世に正しきは坂東武者!我ら源氏はうぬら平家とは違う!」
ヘイザ「虚栄!虚飾!脆弱!貧弱!左様な平家と、同じにするでない!」
スエクニ「同じだ!」
スエクニ「もののふなどとどのつまりは人殺し!今の世の人々を騙せたとて、百年先千年先の世の人々は必ずそう思うであろう!」
スエクニ「頼朝!貴様に正義などなかったのだと!」
ヘイザ「下郎めが!比類なき坂東武者を貶める罵詈雑言、最早許せぬ!」
ヘイザ「梶原景時自ら斬って捨ててくれるわ!」
ヘイザ「坂東の聖断を以て、潔く散れ!」
スエクニ「されど、クロウ殿だけは違う!」
  『待て、景時』
ヘイザ「・・・よ、頼朝様」

〇黒背景
ヨリトモ「クロウ?」

〇太子妃の御殿
ヨリトモ「続けろ。クロウが何とした?」
スエクニ「頼朝よ」
スエクニ「クロウ殿だけは、心の底からお前を信じている。お前を正義と信じて戦ったんだ」
スエクニ「そして、これからもお前を正義と信じ続けるだろう」
ヨリトモ「何故、うぬ如きにクロウの気持ちが分かる」
スエクニ「分かる」
スエクニ「分かるに決まっておろう!」
スエクニ「・・・」
スエクニ「私にも兄弟がいた」
ヨリトモ「・・・!」

〇和風
  『兄がいた。弟がいた』
  『妹がいた。家族がいた』
  『皆が、こんな臆病で不甲斐ない私を棟梁として支えてくれた』

〇太子妃の御殿
スエクニ「お前もだ、頼朝」
スエクニ「おのれ一人の力でそこに座っておるのではない。お前を信じた人々が、クロウ殿が、お前をそこに座らせてくれているだけだ」
ヘイザ「・・・」
ヨリトモ「・・・」

〇武術の訓練場

〇太子妃の御殿
ヨリトモ「・・・」
スエクニ「新たな時代を作る源氏の棟梁よ」
スエクニ「英雄ならば誰を謀ってもいい」
スエクニ「敵も、家臣も、民も、歴史も、己自身も、何もかもを騙して勝利を掴むがいい」
スエクニ「だがクロウ殿だけは騙すな」
スエクニ「弟だけは騙すな」
スエクニ「親兄弟の屍を踏み越えるは終いにせよ!」
ヨリトモ「・・・」
ヨリトモ「言い残すはそれだけか?」
スエクニ「・・・」
スエクニ「はい」
スエクニ「・・・まあ、左様な仕儀にて」
スエクニ「恨み事は全て吐き出しました」
ヨリトモ「そなたの言葉・・・」
ヨリトモ「しかと心に留め置く」
スエクニ「・・・」
ヨリトモ「留め置くだけだ」
スエクニ「鎌倉殿の、お心のままに」
  『咎人、平スエクニ』
  『・・・否』
  『西国の雄、平家が棟梁大臣殿平宗盛卿』
スエクニ「・・・!」
  『斬首を言い渡す』
スエクニ「謹んでお受け致しまする」
スエクニ「・・・」
  『もう終わったのか?宗盛』
  『先に宴をはじめておるぞ』
  『さあ、兄上も早く来られませ』
  『ようやった』
  『それでこそ、我が息子じゃ』
スエクニ「はっ」
スエクニ「今、参ります」

〇中華風の城下町
琵琶法師「白粉武者平スエクニは、鎌倉殿の命により首を刎ねられ京の都に晒された」
琵琶法師「平家棟梁としての誇りは微塵も無く、無様にも最後の最後まで命乞いを続けたという」
民「生き恥を晒し死に恥まで晒したって訳か!」
民「全く、最後まで情けねえ男だったぜ!」
琵琶法師「・・・」

〇朝日
琵琶法師「お釈迦様の寺の鐘の音は、不滅なものなどないと響いて聞こえるようだ」
琵琶法師「それが証拠に、そのお釈迦様が死んだ時、咲いていた傍らのツバキの花はみんな白く枯れてしまった」
琵琶法師「左様、猛き人も遂には滅びるもの」
琵琶法師「ひとえに風の前の、塵」

〇原っぱ
ベンケイ「御曹司!」
ベンケイ「これから何処に向かわれます?」
ベンケイ「何処なりともこの武蔵坊、命果てるまで」
ベンケイ「お、御曹司のおそばに・・・」
クロウ「フッ・・・そうだな」
クロウ「煩わしい噂も届かぬ道の奥へでも行くか」
ベンケイ「その後は?」
クロウ「田を耕すもよし」
クロウ「派手に兄弟喧嘩を始めるもよし」
クロウ「海を渡るもまたよしだ!」
  『御曹司~!お待ち下され~~~!』

〇沖合
WATASHI「・・・」
WATASHI「・・・」
WATASHI「夢見るぞっ!」
  完

成分キーワード

ページTOPへ