鷹と孔雀、或いは犬と豚のはなし。

山本律磨

呉越同舟(脚本)

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山本律磨

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〇草原の道
  我が君、頼朝様に伝令仕る
  凱旋の行軍は平家残党の襲撃なども無く、つつがなく進んでおります
  捕虜のスエクニもまた、大人しすぎるほど大人しく
  一兵卒にまで愛想を振りまく様は同じ武人として哀れを通りこし、最早頭痛すら覚えまする
スエクニ「いやいや。今日も日本晴れでございまするなあ~♪」
  むしろ問題は外より内にあると存じます
  我が君の断りなく朝廷に接近し、検非違使判官の任を受けたクロウ殿の処遇もまた、早急にお考え頂きたく存じます
  平家追討の武功と無断任官の責、どちらを重きに置かれますかよくよくお考え下さりますよう
ヘイザ(全ては、源氏による新たな国造りのため)

〇戦線のテント
スエクニ「いやいや。判官殿お手ずからお酒をいただけるとは、恐悦の極みにございます」
クロウ「家臣どもに見つからぬようこそこそ隠れて飲まねばならんが。許されよ」
スエクニ「まさかこうしてまた酒に酔える日が来ようとは。判官殿の御慈悲は鎌倉殿と同様」
スエクニ「いや、それ以上にございまするな~」
クロウ「さあ、もう一献」
スエクニ「判官殿、ひとつお願いがございます」
クロウ「何だ」
スエクニ「比類なき源平。その子息同志の話にござる」
クロウ「・・・」
クロウ「聞こう」
スエクニ「先日の我が助命嘆願の件・・・」
クロウ「うむ」
スエクニ「あの情けなき命乞い!」
クロウ「お、おう!」
スエクニ「重ね重ね、何卒、お願い仕る!」
クロウ「・・・は?」
スエクニ「このスエクニ!もはや、何の野心もありませぬ!」
スエクニ「殿上の暮らしなど望むべくもありませぬ!」
スエクニ「生きて、ただ生きて生きて生きて生きて!」
スエクニ「どうか生かして鎌倉までお連れ下され!」
スエクニ「頼朝様にお目通りさせてくだされーッ!」
クロウ「ええいヒンヒン泣くな見苦しい!」
クロウ「いちいち頼まれずとも、俺の一存でお前の命を奪うことは出来ん!」
クロウ「仮に、したくてもな!」
スエクニ「命ばかりは~命ばかりは~」
クロウ「全く。そういう和歌でも詠んで兄上に送ったらどうだ」
スエクニ「・・・あ」
クロウ「『その手があったか』じゃない!」
クロウ「嫌味だ馬鹿者」
スエクニ「すみませぬ」
クロウ「・・・あい分かった」
クロウ「その件で俺にひとつ策がある」
スエクニ「策?」
スエクニ「何でしょう?何でも致します!」
クロウ「そなたに関する噂でこういうものがある」

〇和風
  『大臣殿宗盛卿は相国清盛の子ではない』
  『相国が傘売りの娘に産ませた子である』

〇戦線のテント
クロウ「故に才無く、勇無く、容貌すらも他の兄弟一門とは似ても似つかぬ貧相なもの」
クロウ「現にこうして今も一人、武人にあるまじき生き恥を晒しているではないか」
スエクニ「・・・」
スエクニ「噂は噂にすぎませぬ」
クロウ「まあこの際、事の虚実はどうでもいい」
クロウ「スエクニ。鎌倉の兄の前でこう言うのだ」
クロウ「『私は本当は平家とは縁もゆかりもない、拾われ子にござります』」
クロウ「『身分卑しき血の者がまかり間違って源平の争乱に加わっていただけなのです』」
クロウ「『どうかお許し下されお侍さま~』」
クロウ「・・・とな」
クロウ「はっはっはっはっ!」
スエクニ「・・・」
スエクニ「・・・それは」
クロウ「・・・」
スエクニ「何という名案!」
クロウ「・・・あ?」
スエクニ「なんという妙計!なんという奇計!」
スエクニ「これぞ天才軍略家源義経の真骨頂!」
スエクニ「まさに鵯越、屋島の急襲の如き驚天動地の策略!」
スエクニ「到底我が凡俗の才の及ぶ所ではない!このスエクニ、心底感服仕りました!」
クロウ「・・・お前は」
クロウ「まことの阿保なのか?」
スエクニ「ははーっ!軍才乏しく今、こうして・・・」
クロウ「そうではない!」
クロウ「うぬは仮にも平家一門の棟梁!稀代の傑物清盛入道の跡継ぎだろうが!」
クロウ「まことの子ではないなどと、そこは太刀を抜いてでも否定しろ!」
スエクニ「・・・太刀ですか?」
スエクニ「ええと、太刀、太刀・・・っと」
クロウ「探すな!怒れという意味の揶揄だ!」
スエクニ「な、なるほど。では次からは怒ります」
スエクニ「その方が鎌倉殿の心証も宜しいでしょうか」
クロウ「知るか!」
クロウ「くそ。カゲトキよりも疲れる男だ」
スエクニ「お酒、もう一杯頂いても?」
クロウ「死ぬまで飲め」
スエクニ「~♪」
クロウ「スエクニ・・・」
クロウ「いや、平宗盛よ」
スエクニ「はい?」
クロウ「俺は父の顔を知らん」
クロウ「お前の親父に殺されたからな」
スエクニ「・・・」
クロウ「そんな顔をせずともよい。戦の勝敗は武士の常だ」
クロウ「俺はその武者、源氏の棟梁義朝の九番目の子という誇りだけで今まで生きてきた」
クロウ「そして死をも厭わず戦い抜いてきたのだ」
スエクニ「ご苦労をなされました」
クロウ「同情などいらぬ」
クロウ「謝罪も必要ない」
クロウ「その代わり・・・」
クロウ「戦え!」
スエクニ「ひいっ!丸腰っ!身共は丸腰ですぞっ!」
クロウ「だから何だ!太刀がないなら相手から奪いとれ!出来んなら死ね!」
クロウ「それが武人というものだーーーーッ!」
スエクニ「ひいいいいい!お助けええええええええ!」
  続く

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